十二章 皓緋・九
家に入り土産のアイスを皆で食べ一息つくと、五時近くになり、今日はお開きとなった。
彩音との別れ際、俺は電話番号の交換をした。
彩音はそんな事を言われると思わなかった様で驚いていたが、今後の付き合いもあるから必要だと思うと説明すると、納得した様で交換してくれた。
車は俺と父親との二台で来た。
父親とその婚約者と一緒に乗るのはちょっとな、と思うので別々で来た。
父親達もその方がいいだろうし。
俺は二人と別れて車に乗ると、彩音にメッセージを送った。
『今日は楽しかった。ありがとう。これからもよろしく』
さっきはろくに話せなかった分、メッセージを少しでも早く送っておきたかった。
とは言え、内容は当たり障りのないもの。
俺に慣れてないなら、慣れてもらうだけ。
それならばこういう小さな事から始めればいい。
スマホが振動し、彩音からの返事が来た。
『こちらこそありがとうございました。これからよろしくお願いします』
当たり障りのない言葉だけど、彩音からメッセージが返って来た事が凄く嬉しい。
『嬉しい。ありがとうな』
俺はすぐにまた返事を返した。
偽りない、俺の正直な気持ちだ。
俺はスマホを握ったまま、彩音からのメッセージをずっと眺め、心の中で文字を読んで繰り返す。
何度も何度も読んで、繰り返す。
繰り返す度に、心がじんわりと熱を持ち、高揚する。
今、俺は彩音と逢えた。
同じ時間軸にいて、話し、触れ合えたのだと。
この世界に産まれて、二十二年の時を過ごしてやっとモニター越しじゃない、生身の彩音に出逢う事ができたんだ。
嬉しい。本当に、本当に嬉しい。
今はその感情しか湧き上がってこない。
親に愛情を注がれていても俺の心は常に飢えていた。
親からもらった幾千もの愛情の籠った言葉よりも、たった一言俺に向けて言う彩音の言葉が、あの砂の世界——静欒の地よりもカラカラに渇き飢えていた俺の心を満たし潤した。
俺は今日交わした彩音の言葉や表情をもう一度、もう一度と思い出しては飢えた心を満たす。
まだまだ彩音を思い出していたいが、いつまでもここにいるわけにもいかないので俺はシートベルトをつけ、エンジンをかけ、コインパーキングを出発した。




