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十二章 皓緋・七

ようやく彩音に逢えるその日が来た。

彩音は俺の父親の再婚相手の姪だ。

父親から再婚相手の話を聞く限りでは、父親に似合いの相手だと思う。

むしろ俺の母親と結婚した方が何故だという思いだ。

ただ、両親の周りから聞く話ではとても似合いだったと言う。子育てに対する考えさえ違わなければ今でも一緒にいたんじゃない? と大体の人に言われた。まあ確かに子育て以外の生活に関しては、バランスが取れていたと思う。

母親も父親の再婚は喜んでいた。

母親は再婚する予定もないし、それ以前に恋人もいないと言っていたな。

出会いが無いわけではないが、今の所、誰とも友人以上恋人未満にしかならないらしい。

こういうことは俺が口を出す事でもないし、干渉する気もない。好きにすれば良い。


でだ、今日は再婚相手の家族、つまり彩音と彩音の母親に挨拶に行く事になっている。

彩音の父親は急な仕事でキャンセルとなりまた後日、という事になったらしいが、俺は彩音以外はどうでもいい。


俺達は車で彩音の家の最寄駅まで行き、コインパーキングに車を止めてバスで彩音の家に来た。

長かった。

ずっとずっと彩音を想い、見守って来た。

毎日毎日彩音を想い、パソコンモニター越しに彩音を見続けて来た。

姿が見れるだけで幸せだったが、同時に激しく辛かった。

俺が行動すれば、彩音には逢える、

逢って話して抱きしめて。

だがそれをすれば永遠に彩音との縁が切れてしまう。

何故そうなるのかは知らないが、それはこの世界の神——管理者との協約でそういう事になっているそうだ。

彩音との縁が切れてしまう事は絶対に嫌だし、赦せない。

だからじっと今日を待ち続けた。

もう目の前の家の中に彩音がいて、今から逢えると思うともうなんて言えばいいのかわからない。

再婚相手がインターホンを鳴らすと彩音がすぐに出て来た。


彩音!!


間近で彩音を見た瞬間、父親を押し除け、彩音を抱きしめに行きたかった。

だが、それはまだできない。

俺はグッと両手を握り込み、走り出したい衝動を堪えた。


彩音が近づいて来た。


「こんにちは、初めまして彩音ちゃん、でいいかな?」


父親が笑顔で挨拶する。

一番最初に彩音に話しかけるなんて、図々しいにも程があるが我慢だ。

俺はさらに両手に力を込めて、理性を保つ。

「あ、は、はいっ!」

「ふふっ、やだ彩ちゃん。緊張してるの?」

「あ、当たり前じゃない、頼子さん!」

「いらっしゃーい、頼子。あんた達、早く家に入っちゃいなさい。彩音もほら、お茶の用意して」

「わ、わかってるよ。あ、ど、どうぞ」

再婚相手はさっさと家に入る、その後を父親が続く。


可愛いな、彩音は——。


緊張しているのか、恥ずかしいのか、両方か。

顔を赤らめ、ぎこちない動きで俺達に家に入る様促した。


可愛い、可愛い、今すぐ抱きしめたい——!


だがまだだ。まだ堪えるんだ。

呪文の様に堪えろ耐えろと脳内で繰り返しながら「ありがとう」とだけ告げると、彩音は小さく頷いた。

その可愛らしく、初々しい動きがあまりにも可愛らしくて、本当に俺の理性は切れそうだったから彩音から直ぐに視線を外し、父親の後に続いて家に入った。


席に案内され、軽い雑談をした所で彩音の母親が切り出した。

「初めまして。私が頼子の姉の由加です。こっちは娘の彩音。高校二年よ。……ほら彩音」

「え、えと。彩音です。よろしくお願いします」

俺から少し視線を外しているのは、緊張か、照れか。いや、両方だろうな。恥ずかしいがる彩音もやっぱり可愛い。そんな彩音を見る度に、自然と笑みが溢れてしまう。

「こちらこそよろしくお願いします。私は静賀皓司さいがこうじ、隣が息子の皓緋こうひです」

「よろしくお願いします」

「皓緋君、て呼んでいいわよね。いきなりだけど皓緋君の髪の色って地毛? 染めてるの?」

「ちょっ、お母さん!」

父親と挨拶を終えたと同時に、彩音の母親が突っ込んで来た。彩音とは反対の性格か?

まあその話は挨拶とワンセットで訊かれることなのでいつもの事だ。

「ああ、構いませんよ」

俺より先に父親が答えた。

「皓緋の母親、つまり私の元妻に関係するのですが。皓緋は元妻、彼女の方の遺伝が強い様で外見は彼女寄りなんです。彼女の血筋がかなりグローバルで、彼女は日本人の父親とイギリス人の母親から産まれました。ただその母親も、皓緋からだと祖母ですね、も、イギリス人の父親とドイツ人の母親から産まれたそうで。で、ドイツ人の祖母の母親が、エジプト人の血も引いていて、そのまた両親もどこだったかな……。また別の国の人だって言ってたな」

「そうだね。あとギリシアとかイタリアとかも入ってるとか言ってたな。ああ、見てもらった方が早いな」

覚えるのも面倒なぐらい、多種多様な血だったな。だから俺が産まれる事ができたんだがな。俺の金茶色の髪や琥珀の瞳とかを再現するなら、これぐらいの遺伝子はないとダメだって事だ。

ああ、母親の写真を見せた方がいいか。

俺はスマホを操作して彩音達に見せた。

「これが母親の莉里夏りりか

「お母さん、とっても綺麗ね。……うん、確かに皓緋君はお母さん似ね」

「うん」

成程と納得した様子だったので、俺は一旦スマホを引っ込めた。

「ちなみに彼女とは性格の不一致で、皓緋が五歳の時に離婚しました。あ、と言っても仲が悪い中で離婚した訳ではなく、お互いの人生のために別れたので、今ではいい友人ですかね。都合が合えばたまに三人で食事をするぐらいはします。今彼女は海外にいるのでそう会う事も無いですが」

「海外?」

「ええ。彼女、商社で働いてて海外赴任とかがザラなんです。私は彼女にも皓緋が小さいうちはなるべく家にいてもらいたくて。でも彼女は家よりも仕事を優先したくて。私も彼女も互いのことは好きだし、尊敬もしていたから話し合って離婚という結論に至りました。親権は私ですが、彼女との面会は自由ですし。ただ片親だけになって皓緋に淋しい思いをさせるかと思ったんですが……」

父親はまだ罪悪感を持っているのか、俺に申し訳なさそうな顔をし苦笑した。

離婚させたのは俺なんだから気にしなくていいんだが。

「何百回も言ったけどね。淋しいとは全く思わなかったよ。夜にはちゃんと父さんは帰って来たし、時々じいちゃんも来たしね。それよりもちゃんと稼いで来てよとお願いしてたね、俺は」

「とまあ、こんな感じで淋しいのは私だけかなんて思う程でしたよ。うちの父も時折り来ては皓緋の面倒を見てくれてたので有難かったですね。彼女の両親は海外赴任中だったので」

「そうなんですね」

「私の母は私が大学卒業後、病死しまして。兄弟もいませんし、父も今回の再婚に関しては好きにしなさいと。自分が口出す様な事ではないからと。ただ、相手を大事にしなさいとだけ、ね」

父親は再婚相手に向かって幸せそうに微笑み、再婚相手も同じ様に父親に微笑み返した。

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