十二章 皓緋・一
真っ白い世界が俺を襲った。
世界を一つにするため夜の静欒に突入したが、予想外の苦戦で苛つきと焦燥で感情が爆発しかけていた中、突如春詠が現れた。
俺自身の手で成すことができなかったのは悔しいが、春詠の助力で術を発動し、二つの静欒は一つになったはず——ではないのか?
まさか失敗したのか?
だから今ここは、何もない真っ白な世界なのか?
それとも俺が死んでいるから、何も無い所にいるのか?
彩音
そうだ、彩音は?
彩音はどこにいる?
やっぱり俺だけ死んだから、彩音はここにいないのか?
「彩音!」
大声で呼んでみるが、返事はない。
「彩音!」
呼びながら辺りを歩き、探す。
だが、声は白い世界に吸い込まれて消える。
「彩音! どこだ、彩音!」
足は次第に速くなり、気づけば走りながら彩音を探していた。
だが彩音は見つからず、ただただ真っ白な世界があるだけだったが。
「お、起きた起きた」
突然上の方から声が聞こえ、次の瞬間には目の前に双子の術師、遊焔と燥焔がいた。
「お前達……」
「うんうん、訊きたいことは沢山あるだろうね。でもそれは俺達の話を聞いたあとね」
俺は言おうとした言葉をぐっと飲み込み、話を聞くことにした。こう言った以上、先に自分が質問しても双子が答えないのはわかっているからだ。
「じゃ、まずねー、あんたの術は成功してる。二つの世界はちゃんと一つになった。そんで、あんたはちゃんと生きてる。あんたの探してる子は俺達が保護してる。んであんたはこれから別の世界で暮らす、以上」
遊焔の話を聞き、俺はしばらく思考していた。
「彩音を見せろ。俺は自分で確認したい」
「んー、それは無理。今、その子は自分のいた世界に帰る準備中だから。でも姿だけなら見せてあげる。はい」
遊焔が目の前の何もない空間を撫でると、彩音の姿が映し出された。
「彩音!」
映像の彩音に近寄り、思わず手を出すが、手は何も掴めず、ただ彩音の映像を突き抜けるだけだった。
「ただ寝てるだけだ」
燥焔が言う。
「そうか……」
彩音の映像は消え、何も無い空間に戻った。
俺は頭を切り替え、双子に視線を向ける。
「何故、俺が別世界で暮らすんだ? 一つになった静欒で生きられないんだ? そもそも何故俺はここにいる?」
「あー、まあ、そうだよなぁ。そのために俺達と契約したんだもんなぁ」
遊焔ははっきりと理由は言わず、隣に立つ燥焔に視線を向ける。
「それは本人に説明させればいいだろう。ほら」
「えー、私に丸投げかい。酷いなあ」
ぱっ、と目の前に春詠が現れた。
全身で面倒という感情と態度を堂々と表していた。
突然目の前に現れた——現れるのが慣れてきたとはいえ、気まずい相手や不信感のある相手の場合は遠慮願いたい。今の俺にとって、春詠がまさにそれだ。
「春詠」
訊きたい事はあるが、何故か言葉が出せない。
名を呼ぶ事しかできなかったが、呼ぶ声も少し掠れてしまっていた。
(緊張……しているのか? 何故だ?)
俺自身もよくわからない状態になり、戸惑いが生まれた。
ただ、何となく違うのだ。
今までの春詠と、今目の前にいる春詠が。
外見は同じだが、肌で感じる雰囲気が少し……怖しい、気がする。
「お……ん、んんっ」
春詠に問い質そうとして声を出すが、まだ掠れて上手く出なかった。
「ふふ。どうしたの、皓緋。水でも飲むといいよ。ね?」
春詠は双子を交互に見ると、燥焔の掌に透明な器が現れ、次いで中には冷たそうな水が現れた。
燥焔は無言で皓緋に器を渡した。
俺は受け取ったがすぐには飲まず春詠の顔を見る。
「どうぞ。別に何も入ってないよ。ねぇ?」
「ただの水だ」
燥焔は気を悪くした風もなく、淡々と答えた。
そう言われると、水を飲んで落ち着きたい俺には断る理由もない。
とはいえ、今の状況で無警戒に春詠を信じる事はできない。
俺は一口飲んで様子を見るが、どうやら本当にただの水のようだ。
もし遅効性の何かだった場合は、信じた自分を愚かと諦めるだけだ。俺はぐいっと一気に水を飲み干す。
渇いた喉に冷えた水が染み渡り、どれだけ緊張していたのかがわかる。
単純に喉が渇いていたのかも知れないが、どちらにしても、気が落ち着いたのは確かだ。
礼を言い、俺は燥焔に器を返す。
燥焔が器を受け取ると、器は瞬時に消えた。
そして改めて俺は春詠に問う。
「お前は一体何をした、春詠」
春詠はにこりといつも見せる、見せかけだけの優しい微笑を浮かべた。




