十二章 彩音・七
「ねぇ、彩音ちゃん。何で俺のメッセージ無視してるの?」
皓緋さんがにこやかに微笑しながら、私の行手を阻んでいる。
「する必要もないかなと思ったので」
「そう」
皓緋さんの微笑が少し深くなった様な気がする。
そしてなんとく、体感温度も気持ち下がった様な下がらない様な。
今日は頼子さん達との食事会だった。
うちの両親と母方の祖父母、静賀さん親子と静賀さんのお父さん。父方の祖父母とはそんなに頼子さんとは付き合いもないので招待はしてない。お祖父ちゃん達も写真だけ送ってくれればいい、程度なのであとで送っとく。
食事会は和やかに終わり、頼子さん達とお母さん、お祖父ちゃん達、静賀さんのお父さんは市内の旅館に泊まってくので、今はその旅館にいる。親子、夫婦水入らずというとこかな?
ちなみにそこは高級旅館というやつなので、お母さんはご機嫌だった。
そして私とお父さん、皓緋さんは旅館に泊まらずに、家に帰る勢なので、今は家にいる、が……。
皓緋さんも我が家に、いる。
お父さんが家で少し休んで行きなよとか声をかけたらしくて。そしたら皓緋さんが、じゃあお言葉に甘えてとか言って来ちゃったらしく。
私は皓緋さんから離れていたので、帰りの車の中でその事実を知った。
しかもお父さん、家について着替えたらホムセンに行ってくるとか言って出てっちゃたし。あれは一時間ぐらいは帰って来ない……。
私は自室に戻ろうとした所を階段脇で皓緋さんに阻まれている。
そりゃあこんな問い詰めるのに絶好なチャンス、見逃すはずないよね、この人が!
階段前にいる訳じゃないけど、突っ切る事はできない。すぐ捕まるよね、どう考えても。後に下がってもすぐ捕まるよね、やっぱり。
だから私は今一歩も動けない。
「彩音ちゃん。俺はね、彩音ちゃんの事が好きなんだ。好きな子に無視され続けられたらかなりへこむんだけど?」
「それ、おかしいですよ。なんで皓緋さんみたいな人が私なんかを好きになるんですか? どこにでもいる普通の子供ですよ。あなたの隣にはもっと似合う人が沢山いますよ」
そう。
あれからこの人、メッセージで私の事が好きだ、一目惚れしたんだ、とか言ってきて……。
しかも毎日送ってきて。
それを見て驚愕と同時にヤバい人だと認定した。
だって、こんなイケメンがどこにでもいる普通の女子高生を好きになるはずはない。もう一度言うけど、私は普通だから。もし相手がイケメンじゃなく、普通の容姿だったり私がすごい美人とかならまあちょっとは信じなくもないけど。
ただ、今の私と皓緋さんなら絶対に信じられない。
例えるなら、超高級店の極上スイーツとコンビニスイーツを並べる様なものだよ!? あ、勿論コンビニスイーツも美味しいけどね。とにかくそれぐらい格差がある容姿なのに。それを信じてくれなんて言われても無理。
「どうして信じてくれないんだ。俺が彩音ちゃんに嘘をつく理由なんてない」
「そんなのわからないですよ。人間、嘘なんて平気でつけますよ。そんな事より、私、構わないで下さいって言いましたよね。だからもうほっといて下さい。じゃあ」
私はもう本当にこんな不毛なやり取りはしたくない。だから正面突破することにした。
階段を上がろうとしたら、予想通り皓緋さんに腕を掴まれた。
「離してください」
私は掴まれた右手首を振る。
「嫌だ」
皓緋さんは離さない。
「なあ、どうしたら俺が本気だって信じてくれるんだ?」
「知らない」
私は突き放すべく、冷たい声で答えた。
「離して」
私は皓緋さんの手を振り解こうと、さっきよりつよく右手首を振る。
「嫌だ!」
「!?」
皓緋さんは私の手首を離し、両肩を掴んで自分に引き寄せた。そ、そ、れは、つまり……。
「嫌だ! 俺はお前が好きだ、愛してるんだ! どうしてわかってくれない? どうして信じてくれない? お前に拒絶されたら俺は生きていけない、ずっとずっと待ったんだ、もう無理なんだ、もう待てない、だから彩音……」
は!?
何、なになになになになに!?
この人なに言ってるの!?
ずっと!? ずっとってなに?
ていうか怖い! いくらイケメンだって駄目だ!
しかも顔を近づけて来るのやめて!
「は、はなして……」
私はなんとかそれだけ言った。
「嫌だ! 離したらお前は俺から離れるんだろ? 駄目だ、駄目だ駄目だ駄目だ! 彩音っ!」
「ゔっ」
痛い!
ぎゅっと強く抱きしめられて苦しいし痛い。
「はな……」
「馬鹿、やりすぎだ」
ぼこっ、という鈍い音と知らない人の声を最後に意識が落ちた。




