十二章 彩音・五
あれから——皓緋さん達が家に来てから三ヶ月後。
頼子さん達との食事会は秋にすることが決まった。市内のこぢんまりとしたレストラン、本当にこぢんまりとした所で、十五人程度がキャパのレストランを貸し切ってすることになったけど、そこは知る人ぞ知る的な穴場的なお店でいつも満席、なレストランだった。
しかもうちの市だったよ。知らなかった……。
まああんまり市内に遊びに行くとかなかったし。
行くならいつも……と……。
え? 誰と一緒、だっけ……?
美貴だっけ? あれでも、そんなにしょっちゅう行ってないし?
うーん……。ま、いいや。
それよりも、今。今だって!
そのレストランで今、うちと、頼子さん達とで食事会前の食事会。
頼子さん達から今日レストランに行くから帰りに寄りたい〜な話があって、それならそのレストランで皆でランチしない? みたいな話になって今に至る、だけど。
今日は普通のお客さんとしているから、他のお客さんもいるわけで。
だから当然、老若男女、皆、皓緋さんを見ずにはいられず、滅茶苦茶視線を感じるわけで……。特に私の正面に皓緋さんが座っているから私はまたしても、美味しいはずの料理の味を楽しめず、ストレスが食事のスパイスになった……。
ランチを終えて、私はもう帰るつもりでいたけどいつの間にか森林公園を散歩する事になっていた。
そう。レストランは市の外れにある森林公園近くにあって、レストランに行ったら森林公園を散歩しよう、みたいな流れになっているらしい。まあ美味しくご飯を食べたら少し歩こうか、みたいになるのはわかる。
それに森林公園は季節の花々を植えているので、一年中を通して楽しめるし、小動物もいるのでそっちと触れあえるのも楽しい、らしい。
私も小さい頃来た事があるらしいけど、あまりよく覚えてない。
今は初秋なのでコスモスや金木犀なんかが見頃なんだけど。
もうすれ違う人皆、皓緋さんを見ている。そりゃあそうだよね、イケメンだもん! 今、秋薔薇の庭園を歩いているけど、もう薔薇より皓緋さんの方が綺麗ってことでいいかなぁ!? 私はせいぜいその薔薇の葉っぱ程度かな。いや葉っぱも烏滸がましいかな。
「彩音ちゃん」
「え、は、はいっ!?」
二人だけという緊張を誤魔化すため、やさぐれながら薔薇を観ていたので、上擦った変な声が出てしまった。
恥ずかしい……。
皓緋さんの顔は見ずに、肩辺りに視線を向けて見る。どのみち皓緋さんの方が身長が高いから、普通に正面を見ると大体肩辺りになる。
当然表情なんかわからないけど笑っている様な雰囲気は感じる。
「緊張してる?」
直球で訊かれた。なら私もそうしよう。
「は、はい。して、ます……」
やっぱり顔は見れないけど。
「そっか。そんなに俺、怖いかな?」
「え、ち、違います! 怖くはないです!」
それは違う。怖くて緊張しているわけではないので、即座に顔を上げて否定した。そしたら皓緋さんがちょっとほっとした、みたいな笑顔をしたので、またすぐに顔を肩辺りに戻した。
だってイケメンの笑顔なんて直視してられない。
「じゃあ何で緊張しているのか教えてくれる? 何か悪いとことかあったら直すからさ」
「い、いえっ、無いです無いです!」
悪いどころか、こんな小娘相手にこんなに気づかいしてくれる良い人だと思います! でも、あるとするならイケメンすぎることです。私の隣には不釣り合いすぎなんです……!!
「じゃあどうして俺と顔を合わせて話してくれないの?」
はっ!?
私はあまりの驚きでまたつい顔を上げてしまった。そしてばっちり目が合う。
それも、少し悲しそうな淋しそうな感じのする目とだ。
無理、無理無理、直視無理。
私はまた顔を下げようとしたけどできなかった。
「!?」
「駄目。俺の顔を見て話して」
「!!!!」
何故なら皓緋さんがやんわりとだけど、私の顔、頬を皓緋さんの両手で挟まれてしまったから! しかも何、なんて言ったの!? 聞き間違いじゃなければ……。
「視線、逸らさないで」
「っ!!」
私の全身が、一気に熱くなった。
外は少し秋の気配を感じる気候なのに。
私だけ、また猛暑日が戻ったようにあつくなった。
もう身体は熱いし動けないしでどうしたらいいかわからない。わからなさすぎて涙が勝手に滲んできた。
「あっ、ごめん。……怖かった、のか……?」
皓緋さんの両手が離れ、私から少し離れて行く。
「あ、あのっ、先に出口に行ってますねっ!」
言い終えるとすぐに皓緋さんに背を向けて、出口に向かって走り去った。
私は庭園の出口に向かったけど、出口近くにあったトイレの看板が視界に入った。
そうだ、顔とか格好とかちょっと直さないと。
走って髪の毛とかボサボサになっているに違いない。
私はトイレに入り、洗面台の方に行って鏡を見ると、髪の毛は思ったほどボサボサにはなってなかったけど、ブラシで整えた。
顔も変に赤くはなってないけど、目尻にちょっとだけ乾いた涙が白くなって残っていたのでハンカチで拭った。
そしてまた鏡を見る。
よし、来た時と同じになった。
私はトイレから出て出口へ向かったけど、あれ、どうしよう。また皓緋さんと会うよね。何で別々に来たのとか言われるよね、お母さん達が先に居たら。でも、このままここにいてもどうしようもないし?
考え出したら歩きが遅くなる。
だけど出なきゃ帰れない。うう……。
私は結局当たって砕けるしかないと諦めて、足取り重く、出口へと向かった。




