十二章 彩音・三
昼食も終わり、皆の食後のお茶を用意し終わったので、自分のミルクティーを用意しようと冷蔵庫の牛乳を持ったとき。
「あれ?」
随分と軽かった。未開封のはずなのにと思ってよく見ると、しっかり開封済だった。
開け口が手前ではなく、奥側になって入ってたのでうっかり見逃したのだ。
うーん、今行くか、後にするか。
私は少し考え、今行くことにした。
ちょっと食べ過ぎたし、何よりやっぱり初対面の人とずっと一緒なのは緊張する。なので息抜きも兼ねて行ってこよう。どうせすぐそこだし。
「お母さん、私ちょっとスーパー行ってくるね」
「あら、どうかしたの?」
「うん、牛乳無かったからちょっと行ってくる」
私は買い物バッグに財布を入れて玄関に行こうとした。
「あらそう。気をつけていってらっしゃい」
「あ、それなら俺も一緒に行くよ」
「はっ!?」
予想外の声に思わず変な声を出して止まってしまった。
だって初対面のイケメンが私と一緒にスーパーに行くだなんていきなり言ったんだから。
「え、ええっと……?」
私はオロオロしながらイケメン達の方を向いた。
「荷物持ちするよ」
イケメン皓緋さんが席を立とうとするので、慌てて止める。
「いえっ! 大丈夫です! 牛乳だけだし近所なので大丈夫ですっ!」
「あら、荷物持ちしてもらえばいいじゃない」
お母さんが軽く言う。
「いいよ! 牛乳だけだし大丈夫!」
私は全力で拒否する。だって初対面のイケメンと二人きりなんて間が持つわけないなじゃない!
それでなくとも私は女子校なので、日頃同年代の男子と話すわけでもないんだから、距離感わかんない!
それに、こんなイケメン連れてたら目立って仕方ない!
「じゃあ牛乳以外にも買えばいいじゃない。他にも買いたい物、あるんでしょ?」
「ない! 昨日買ったからないっ!」
嘘だけど。本当はマヨネーズが特売だから、今日も買いたいけど。
「駄目かな? 邪魔はしないから」
皓緋さんがちょっとシュンとしながら訊いてくる。ゔっ……。
「いいじゃない。意地悪しないて連れてってあげなさいよ。これからいとこ同士になるんだし」
「い、意地悪って……」
意地悪はそっちでしょ! お母さんは私が人見知りで緊張するの知った上で言っているんだから最低。
でもこの雰囲気だとそう思われても仕方ない、のか……? いや、違う、違うわっ! 意地悪じゃない、人見知りよ!
「彩ちゃん、駄目かな?」
私が固まってると頼子さんが追討ちをかけて来た。ゔっ……! 頼子さんに言われては仕方ない。
「わかった……。でも本当に近所だし、何も無いですよ……?」
あらためて念押しする。
本当、徒歩五分程の距離にある、住宅地にあるそこそこ規模のスーパーだ。
「うん、いいよ。じゃあ行こう、彩音ちゃん」
「っ……!!」
そんなに嬉しそうに言われても困るっ!
私は先に玄関に行き、スニーカーを履いて外に出る。続いて皓緋さんが革靴を履いて出て来る。
「お待たせ」
にこりと笑って言われても目のやり場に困るんですけど!
「い、いえ」
これ以上は何も言えず、私は門を開けて皓緋さんに先に出てもらい、最後に出ると「こっちです」とだけ言い、スーパーへと向かった。
皓緋さんは半歩程、私の後を嬉しそうについて来た。顔は見てないけど、そんな雰囲気をすごく肌で感じた。
スーパーに着き、入口でカゴを取ろうとしたら先にひょいっと皓緋さんがカゴを取る。
「俺が持つから買う物中に入れて」
「え、ええっ!? いいですいいです、大丈夫です!」
こんなイケメンにカゴ持たさせるなんて、おそれおおくてできない。
すぐにカゴを取り返そうとしたけど、すっ、とかわされた。身長差もあって、取り返すのは無理と判断した私は新しいカゴを取ろうとしたが。
「ひゃっ!?」
皓緋さんに左手首を掴まれ、強制的に歩かされた。
「ほら、いつまでもいたら邪魔だからね。行こう」
「え、えっ? あ、あのっ……!」
皓緋さんは嬉しそうな顔で私の手を引っ張って進む。
ゔっ、至近距離のイケメンの笑顔、無理っ! そして、手を、手を離して下さいー!!
私は手を振り解こうとブンブン振ったが、絶妙な? 力加減で掴まれたまま振り解くことはできず、あの物悲しい子牛の歌が頭の中で再生された……。
無事? 買い物も終わり、私達はスーパー前にあるちょっとした広場にあるベンチに座ってカップアイスを食べている……。
「美味しいね」
「あ、そ、そうですね」
皓緋さんは足元にスーパーで買った品物——、牛乳だけでなく、マヨネーズや醤油とかの重めの調味料も買ってしまった……。
皓緋さんが他にはないのか? と何度も訊くので感じなくてもいい罪悪感を何故か覚えて、ストック少なめで重量のある物を買うことにした。
そしてスーパーを出ると、アイス屋さんが来ていたので皓緋さんが食べようと強く押してきたので、イケメンの圧に逆らう事などできない私が今ここにいる。
皓緋さんは本当に美味しそうにバニラアイスを食べている。
私は味なんて感じる暇もなく、緊張しているし、周りの視線がとても辛い。
土曜日の午後なので、普段より少し人も多い。
ここにはスーパーだけでなく、小さいけど薬局とクリーニング屋さんもある。
そしてイベントスペースもあって、そこにアイスの屋さんが移動販売で来ている。月によって違うけど、平日は野菜の移動販売が多いかな。休みの日なんかは、アイスやドーナツ、パン屋さんが来る事が多い。となるとそれ目当てに来る人がそれなりにいるので、かなりのイケメンである皓緋さんに視線が集中するのは当然で、普通の容姿で特技もない普通の高校生である自分としては、かなりの苦痛なわけで。
おまけに初対面なので、会話のネタも無いし。あってもこんなイケメンに話しかけるのは、私には無理。
周りは遠巻きにしてはいるけど、視線が本当、いたたまれない。私ではなく皓緋さんへのだとはわかっているけど辛い、早く家に帰りたい……。
美味しいはずなのに、味が感じられないアイスを食べ終えた時、すっと自然な流れでカラになったカップを皓緋さんが持って行く。
「あ、あのっ……」
「ちょっと待ってて。父さん達のも買って来るから」
そう言って皓緋さんはさっと立ち上がると、お店の側にあるゴミ箱にカップを捨て、店員さんに注文してアイスを買っていた。
店員のお姉さんは顔を赤くしながらも、きっちり対応していてすごいわ、と心の中で思いながら見ていたら、ぱっと振り向いてこっちに来たので、私はばっと正面を向いて全力で見てなかったふりをした。……無理だろうけど。
「お待たせ」
皓緋さんは私の正面に来て、足元にある買い物バッグを持った。
「帰ろうか」
「あ、はい」
にこっと笑って皓緋さんが言うと、斜め前からカッコいい、とかあの笑顔ヤバ! とか聞こえてきて、私は早く帰ろうさっさと帰るべきとなり、さっと立ち上がった。
帰り道、片手に買い物バッグ、片手にアイスの入ったビニール袋を持った皓緋さん。
自分の荷物を持たせるなんてとても気がひけるので「持ちますよ」と言ってみたけど「重いから。気にしないで」と断られた。すでに何度か持つと言ったけど断られたので、今もやっぱりな……と思いつつ、アイスの入ったビニール袋に視線が行く。
「アイスいっぱい……」
思わずぽろりと呟いてしまったことにはっとし、その言葉に反応した皓緋さんと視線があった。
私はあまりの迂闊さに、弁解する言葉も見つからず顔が熱くなった。
「ああ、美味しかったからな。それに十個買うと一個オマケとか言われると買いたくなるんだよな。オマケ分は彩音ちゃんにあげるよ」
「え、え、あっ、ありがとう、ございます」
皓緋さんは左手に持ってるビニール袋を少し持ち上げ、笑顔で言った。
ちなみにここのアイスはおまけ専用のアイスを用意していて、おまけアイス目当てに来る人も多い。今は蜂蜜アイスだ。使う蜂蜜によってアイスの味も違うのでかなり人気のアイス。私も好き。
そんな会話らしい会話がないまま、あっという間に家に着いたのだった。




