十二章 彩音・二
まず洗面所に案内してからリビングに三人を案内した。頼子さんは勝手知ったる我が家だけど。
三人がソファに座り、その対面のソファに私とお母さんが座る。ただ、うちは二人用のソファなので、一人だけは別に用意した椅子だ。息子さんが椅子に座っている。
お茶もお菓子も用意したけど、こう、何とも言えない空気が漂う中、頼子さんが何とか口を開いた。
「え、と。今日お義兄さんいないのよね?」
「そうなのよ。ちゃんと有休も取れてたんだけど、部下の方の奥さんの出産が二週間ぐらい早くなっちゃってね。しかもあまりよくないらしくてね……。だからその調整で急遽有休は取り消しで。また都合の良い日に、ってことで。ごめんね」
「ううん、お仕事優先して! うちはいつでもいいから。……その奥さん、無事に出産できるといいわね」
「そうね。旦那も皆心配してて。でもこればっかりは私達にはどうにもできないからね。……ていうことでうちは私達だけご挨拶させてもらうわ」
お母さんがちょっと重くなった空気を払うように明るく言った。
「初めまして。私が頼子の姉の由加です。こっちは娘の彩音。高校二年よ。……ほら彩音」
「わ、わかってるよ」
お母さんがさっさと挨拶しろと言うが、そんなのはわかっている!
だけど、あんなイケメンが目の前にいて自分を見ていたら下手に動けない……。
「え、えと。彩音です。よろしくお願いします」
静賀さん達の顔から視線をずらしていたけど、挨拶の時はしっかり顔を見た方がいい、ので、視線を目の前の息子さんに向けると、にっこりととても破壊力のある綺麗な笑みを浮かべていた。
「こちらこそよろしくお願いします。私は静賀皓司、隣が息子の皓緋です」
「よろしくお願いします」
静賀親子が挨拶をするとお母さんがすかさず質問する。
「皓緋君、て呼んでいいわよね。いきなりだけど皓緋君の髪の色って地毛? 染めてるの?」
「ちょっ、お母さん!」
私はお母さんの腕を引っ張った。
初対面の人に、しかもこれから親戚付き合いをする相手に無神経な事を訊くとは恥ずかしい! 訊くにしてももうちょっといい方とかタイミングをね!?
「ああ、構いませんよ」
静賀さん、皓司さんが苦笑しながら答えた。この反応からしてしょっちゅう訊かれてるんだろうなと察した。
「皓緋の母親、つまり私の元妻に関係するのですが。皓緋は元妻、彼女の方の遺伝が強い様で外見は彼女寄りなんです。彼女の血筋がかなりグローバルで、彼女は日本人の父親とイギリス人の母親から産まれました。ただその母親も、皓緋からだと祖母ですね、も、イギリス人の父親とドイツ人の母親から産まれたそうで。で、ドイツ人の祖母の母親が、エジプト人の血も引いていて、そのまた両親もどこだったかな……。また別の国の人だって言ってたな」
「そうだね。あとギリシアとかイタリアとかも入ってるとか言ってたな。ああ、見てもらった方が早いな」
言って、皓緋さんがスマホを操作して私達に見せた。
「わあ……」
そこには少し幼い皓緋さん、高校生ぐらいかな? と、少しくすんだ赤髪の顔立ちのはっきりした美人さんが笑顔で写っていた。少し歳の離れた姉でも通用するかもしれない、これ。
「これが母親の莉里夏」
「お母さん、とっても綺麗ね。……うん、確かに皓緋君はお母さん似ね」
「うん」
これは血縁以外ないと思う。
私達が納得したところで皓緋さんがスマホを引いた。
「ちなみに彼女とは性格の不一致で、皓緋が五歳の時に離婚しました。あ、と言っても仲が悪い中で離婚した訳ではなく、お互いの人生のために別れたので、今ではいい友人ですかね。都合が合えばたまに三人で食事をするぐらいはします。今彼女は海外にいるのでそう会う事も無いですが」
「海外?」
「ええ。彼女、商社で働いてて海外赴任とかがザラなんです。私は彼女にも皓緋が小さいうちはなるべく家にいてもらいたくて。でも彼女は家よりも仕事を優先したくて。私も彼女も互いのことは好きだし、尊敬もしていたから話し合って離婚という結論に至りました。親権は私ですが、彼女との面会は自由ですし。ただ片親だけになって皓緋に淋しい思いをさせるかと思ったんですが……」
皓司さんは苦笑し、皓緋さんが後を継ぐように話し出した。
「何百回も言ったけどね。淋しいとは全く思わなかったよ。夜にはちゃんと父さんは帰って来たし、時々じいちゃんも来たしね。それよりもちゃんと稼いで来てよとお願いしてたね、俺は」
「とまあ、こんな感じで淋しいのは私だけかなんて思う程でしたよ。うちの父も時折り来ては皓緋の面倒を見てくれてたので有難かったですね。彼女の両親は海外赴任中だったので」
「そうなんですね」
お母さんは物凄く食い気味で話を聞いている。娘としてはちょっと恥ずかしい……。
「私の母は私が大学卒業後、病死しまして。兄弟もいませんし、父も今回の再婚に関しては好きにしなさいと。自分が口出す様な事ではないからと。ただ、相手を大事にしなさいとだけ、ね」
そこで皓司さんは隣に座る頼子さんの方を向いて微笑んだ。
頼子さんも、ええ、と幸せそうに微笑んでいた。
「良かったわね、頼子。私も頼子が幸せなら特に言う事はないわ。再婚だから、そこら辺も慎重になってたと思うしね」
「ええ。お互いそこら辺はちゃんと見極めてというか、失敗したからの警戒というか慎重というか、ね」
頼子さんが苦笑しながら答えた。
「それならいいわ。ところで結婚式はするの?」
「しないわ。再婚だしそういうのはもういいわ。けど、身内だけでちょっとした食事会だけはしたいなと思って」
「いいんじゃない? うちの方は私達と両親かしら」
「うん。時期はまだ決めてないけど、婚姻届を出してからだから、年内にはと思ってる」
「はい。こちらは皓緋、私の父が出席します。場所はこぢんまりとしたレストランでと思ってます」
皓司さんが頼子さんを見ながら話す。頼子さんも微笑みながら頷く。いい雰囲気でこっちがちょっと照れる。
それからはお互い緊張も軽く解け、昼食を取りながら色々雑談が始まった。




