第二章 第六話
6
ルナがつかんだその光の玉もまた、強烈な光の輝度であったが、先ほどよりは収まった光で、何とか他のギャラリーでも目を開けることができる程度に輝いていた。
その光の玉をルナはマリアに渡し、マリアはその光の玉に浮かんでいる文字イメージを読み込み始めた。すると、ギャラリーがまた少しずつざわめき出した。
『それにしても強烈な光だったな~…………まともに目が開けられなかったぞ』
『そうね。突き刺すような光だったわね』
『ところで、ルナはどの《エリア》を引いたんだ』
『さあ……でも、少なくともあんなに《強烈な光》を出すんだ。そりゃあ、かなりの《大物エリア》を引き当てるんじゃないか?』
『うーむ、確かに。でもノアの《恩寵エリア》以上のものなんてあるのかよ?』
『う~ん………………』
そんなギャラリーが他人事のようにワクワクしながらルナのデスティニージャッジ(運命の審判)の結果を待っていたが、理事長のマリア・インフィールドは光の玉を読み込んだまましばらく動かなかった。
『お、おい、なんか長くねーか?』
『た、確かに』
『な、なんだ? 何かあったのか?』
最初、テンション高く盛り上がっていたギャラリーも、結果を伝えるのが遅い理事長のマリアを見て、次第に妙なザワツキに変わっていた。
「お、お母様……?」
そして、ギャラリーと同じようにルナも不安を抱きはじめたとき、理事長のマリアがルナのほうへ顔を向けた。
「では、ルナ・インフィールドのエリアを発表します。ルナ・インフィールドのエリアは…………」
ルナもノアもギャラリーも皆、固唾を飲み込んで、理事長の発言を集中して聞いていた。
「……『第』……『0番』……『エリア』」
「!?」
ルナは言葉を失い、固まった。
ノアは、両手を口に抑えて、呆然としていた。
同じように、周囲のギャラリーたちも一瞬、沈黙した。
一瞬の沈黙の後、そのルナの結果を聞いたギャラリーたちが『驚嘆』とともにざわつき始めた。
『お、おい聞いたか、今の《第0番エリア》って、それって……』
『ああ、この養成所が創立して以来、誰もこの《第0番エリア》からの卒業生は存在しないっていう、別名だ』
『よ、よりにもよって《第0番エリア(ロストエリア)》って、それってアレだろ? 例の惑星……』
『ああ、例のあの星だよ』
『ええええ~! マジかよ! そんなのいくらルナ様でも……』
『ああ、まず無理だろう……』
『しかし、これはノアとは対照的な結果になったな~』
『まあ、ある意味《恩寵エリア》以上の《大物エリア》を引き当てたということには間違いないけどな』
『でも、それは《第0番エリア(ロストエリア)》の課題を見事達成したら……の話だろ?』
『まあ……な。ということは、この卒業対決はノアの勝利ってことになるのか?』
『そうだな。まあ、まず間違いないだろう。それどころかルナにいたっては今期での卒業はほぼ絶望的だろうからな…………』
『いや、わからねーぞー。これ、一見すると確かにノアのほうがカンタンにはやく卒業ができるという構図だけど、でも、もし、ルナがこの《第0番エリア(ロストエリア)》をクリアしちゃったら《養成所創立以来の快挙》ってことになる……。そうなったらノアとは比べ物にならないほどの《大偉業》だぞ、これは!』
『ま、まさか~、いくらルナでも…………』
『いやいやわからんぞ~。ルナ・インフィールドなら、ひょっとしたらひょっとする可能性……あるぞ』
ルナは、そんなギャラリーの声にしっかりと『耳』を傾けていた。
そして、いくつかの言葉に反応した。
『養成所創立以来の快挙』
『大偉業』
その2つの言葉は、ルナの決断を促すには十分だった。
「ル、ルナ……。あ、あなた断りなさいよ。今のはノーカウントにして、もう一度、引けばいいじゃない。『第0番エリア(ロストエリア)』だけはやめたほうが……」
そう、ノアが心配そうな顔でルナに言葉をかけたが、しかし、そんなノアの心配を吹っ飛ばすほどの宣言がルナから発せられる。
「光栄です! 理事長!!」
「!…………ル……ルナ?」
マリアも、ノアと同様にルナがすっかり『第0番エリア(ロストエリア)』を引いて、肩を落としているとばかり思っていたので、その力強い声に意表をつかれた。
「『第0番エリア(ロストエリア)』……今まで誰もが課題遂行成し得なかったエリア…………私、ルナ・インフィールドが必ずや成しえてみせます!」
そうルナが右手を天へ突き上げ高らかに宣言すると、ギャラリーもそれを聞いて一気にヒートアップした。
『おおおお~~~~~~! ルナが挑戦するぞ~~~~!』
『《第0番エリア(ロストエリア)》への挑戦! すげえええぇぇええ!!!』
そこへマリアがルナへ寄り添い、心配そうに声をかけてきた。
「ル、ルナ…………本当にいいの? 一回だけならデスティニージャッジ(運命の審判)は変更がきくのよ」
しかし、ルナははっきりとこう告げる。
「大丈夫よ、お母様。アタシ絶対に課題をクリアして、歴史に名を刻むわ、まかせて! そうだ! アタシ、このことおじいちゃんに報告してくる~!」
「えっ?」
ルナは、マリアがポカーンと口を空けて聞いているその横から、マリアの父にあたり、ルナの祖父にあたる『天使長ソフィア』のいる上空……『神殿』へと文字通り、『飛んで』いった。
「こ、こら! ルナ、待ちなさい!」
一瞬遅れて、理事長のマリアもルナを追い『神殿』へと向かっていった。
「あのバカルナ!……『第0番エリア(ロストエリア)』がどこの惑星のことだかわかってるの? もう! ほんっとう、世話が焼けるんだから~!」
と、ノアは、説教口調で罵りつつも、ルナのことが心配になり、理事長のマリアの後からついて行った。
理事長のマリア、当事者のルナ、そしてノア、不在の中、とりあえずこの場は校長のジュピターが皆を静粛にさせ、今年度のデスティニージャッジ(運命の審判)はあわただしく幕を閉じたのであった。
ご拝読ありがとうございました。
更新は不定期ではありますが、一ヶ月に2~3回投稿できればと思ってます。
今後とも、よろしくお願いいたします。
m(__)m




