最終話 私は聖女の子の仕事を誇りに思っている
私が大神殿に呼ばれてから一週間が経った。
王都から派遣された騎士たちの活躍により、元スキール伯爵領で大増殖した魔獣たちはおおかた狩られたらしい。
気候も元通りになり、領民たちは再び平穏な日々を取り戻した。
今年だめになってしまった作物などに関しては、国がある程度保証してくれるらしい。
領主が変わった以外は、元通りなのだ。
——そう、リアムの両親は領地を剥奪された。
これからは領民からの税が集まることもない。
けれど、毎年国に税金を納めなければスキール伯爵たちは貴族籍を剥奪されてしまう。
彼らはこれから厳しい道のりを歩むことになった。
ここまで重い処分が下された背景には、違法と知りながら未成年の私を働かせていただけでなく、なんと給金も払わずに幼いころから働かせていたことが悪質だと国が判断したという経緯がある。
おまけに、元スキール伯爵領では老人の聖女が働いていることになっていたらしいが、彼女はとっくに天に召されていたという。
なんという偽装工作。
「えっ、聖女の仕事ってお給料出たんですか⁉」
私は聖ニクラスを前に、素っ頓狂な声をあげた。
彼は「ほっほ」と愉快そうに笑う。
「ああ、出るとも! がっぽりな!」
聖ニクラスは親指と人差し指で輪っかをつくり、聖人らしからぬポーズで豪快に笑った。
「それで、これからは国の承諾のもと、特例で学生の君に聖女として大神殿で働いてもらう訳だが……」
「そのお役目、謹んでお受けいたします」
私は、国の正式な承認を得て、再び聖女となった。
これから通うのは王都の大神殿。
今までのように片道2時間かけて通う必要もないし、聖ニクラスもまだ正式には引退せずに私のサポートをしてくれるという。
さらに、実家から勘当同然の私は、卒業後は大神殿の寮に住めるという。
こんなに有難いことはない。
「ところで、元スキール伯爵領の神殿はこれからどうなるのでしょう?」
「心配ない。こちらも国の承諾を得て、新しい聖女が就任した。君もよく知っている、エミ―リエ嬢だ」
「ええっ⁉ エミ―リエですか⁉」
「ああ、とても珍しいことだが、彼女は植物魔法の適性のほかに聖魔法の適性も持っていたのだ。2つの魔法に適性があるのは非常に珍しい」
私はエミ―リエには聖魔法の適性がないと決めつけていたが、それは間違いだったのだ。
「まあ、聖魔法の適性は弱いのだがな……。アルマ嬢が聖遺物に2時間ほど魔力を流せば1週間は結界が保たれるが、エミ―リエ嬢だと毎日何時間も魔力を流さないと結界を維持できぬだろうなぁ。まあ、修行次第ではいずれ週5日ほどのお勤めで済むかもしれぬ」
聖ニクラスは少し遠い目で言った。
「アルマ嬢はこのまま王立学院に在籍となるが、エミ―リエ嬢は特例で卒業したことになった。もう王都にはしばらく戻ってこれまい。長い呪文を覚えるのにヒーヒー言っていると報告を受けているが、大神殿にも国にも報告せずに勝手に聖女を名乗った罰としては軽いくらいだな」
「そういえば、リアム……スキール伯爵令息がどうなったかご存じですか?」
「ああ、あれはエミ―リエ嬢とともに見習い神官としてあそこの神殿にいるようだ。貴族としての品位に欠けるとして王立学院は退学処分になったというところまではアルマ嬢も聞いたのだろう?」
私は小さく頷く。
私の元婚約者リアム。
彼にまだ少し情はある。
けれど、自分がやったことで元スキール伯爵領の領民たちに多大な迷惑をかけたのだ。
その罪は今後の人生でしっかりと償ってほしい。
「そういえば、アルマ嬢のご両親が昨日大神殿に来ていたらしいが、本当に門前払いしてよかったのかな?」
「ええ、構いません。私が聖女に返り咲いた途端にすり寄ってくる両親など、必要ありません!」
私はきっぱりと言った。
両親にとって、私は鼻を高くするためのアイテムじゃない。
リアムとの婚約解消時に散々罵倒されたことは忘れない。
私は結構根に持つタイプだ。
もしかすると、また数年後に両親に会おうという気になるかもしれない。
けれど、当面は没交渉で構わない。
私には大神殿と、聖女としてのお役目がある。
これで充分すぎるくらいだ。
「それにしてもアルマ嬢。今後は大変になるぞぉ」
「ええ、誠心誠意、大神殿にお仕えいたします!」
「いや、そっちも頑張ってもらいたいが、それよりも君に求婚してくる男がどっと増えるぞ」
聖ニクラスは豪快にカカカと笑った。
「求婚ですか⁉」
「ああ。貴族も平民も、皆聖女の夫という名誉を欲しがる。いや男だけじゃない。女も、商人も、神官も、色んな人間が君にすり寄ろうとする。気に入られようとする。聖女の名というのは、それほどに人を狂わすのだ。だからこそ、君には人を見る眼をしっかりと養ってほしいと思う」
聖ニクラスは、まるで私の祖父のような優しい目で微笑んだ。
こんな温かな目をする大人が私を見守ってくれるなら、これからの人生もきっとうまくいく。
私はワクワクすると同時に、胸の底から温かい気持ちが湧き上がってくるのを感じた。
「聖女さま、お勤めのお時間です」
神官が私を呼びに来た。
「いま行きます」
私は今日も聖遺物に向かい合い、結界を張る。
結界には人を幸せにする力はない。
病気を治すこともない。
でも、人々が安心して暮らしていけるような下地を作るお手伝いができる。
私は聖女のこの仕事を誇りに思っている。
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