【見えていない誰か】
放課後の教室。
残っているのは、俺とシュウ、ナギサ。そして魔女ミリス。
「君たちの能力に干渉し、一時的に闘争心を増幅させる存在がいる。すでに接触しているはずだ」
「操られてたってことかよ?」
「完全な支配じゃない。あくまで“衝動の後押し”程度だろうね」
「……でもさ」
シュウが頭を掻く。
「俺、ちゃんと自分で殴ろうと思ってたぞ?」
「そこが厄介なのさ」
ミリスは笑う。
「“自分の意思だと錯覚させる”のが本質だ」
──その時。
ガラリ、と後ろの扉が開いた。
「あなたたち、まだ残っていたのですか?」
振り返る。
長い黒髪。整った制服。
学級委員長──夢咲ユイ。
「げっ……委員長」
そんな役職だけでシュウが気嫌いするように現れた女性徒を見る。
「何を話していたのかしら──何なら私も混ぜてくれません?」
ゆっくりとこちらへと歩いてくる。
思わず全員が構える。
「つまらない話だ──それにもう解散して帰るところだった、用事もなく残ってて悪かったよ夢咲さん」
俺はそう彼女へ告げ、カバンにてをかける。
あれ……
俺の思考が一瞬止まる。
確かにカバンはまだ、机のフックのところにかけていたはず……
「どうか……しました?」
頭を少しだけ傾け夢咲が俺に聞く。
「シュウッ!ナギサッ!」
俺は二人に呼び掛けるが──
どうなっている?
「どうしました?──あなたは最初から一人でしたよ?」
認識を変えられている?
まさか──こいつがっ!?
「おまえがっ?」
「だから、最初から《《4人ではなく》》……《《1人だった》》のではないですか?」
夢咲は少しにやりとした顔で俺を見ている。
「能力者──あんたが認識や感情を支配する能力者か」
「何を言っているのかわかりませんが──私がそう《《見せている》》訳ではありません、あなたがそう《《見ている》》だけですよ?」
おかしくしたのは私ではない──おかしくなったのはおまえだと──
「くそ──」
女は殴りたくないが──それに、もし委員長がこの一連の犯人だと言うのなら殴っても正気にもどらないのでは無いか…そんな懸念が産まれる。
だが──それを証明するためにも、俺は腕に結界の魔力を取り込む。
翡翠色のオーラを宿った腕を振り上げる。
「あら──おとなしい方だと思っていたのに、意外と野蛮ですね、トウカくん」
「なっ!?」
教室の床から黒い霧が集まってできたような触手が伸びてくる。
その触手に俺の振り上げた腕は絡まれ──
「う──うわぁーーーっ」
別の黒い触手が俺の口の中に入り込むように伸びてくる。
「はぁ……はぁ……」
目を開ける──
「どうしました?《《悪い夢》》でも見ていましたか?」
「どう……なっている?」
普通の教室──黒い触手で拘束もされてなどいない。
ただ……ナギサもシュウもミリスもここには居ない。
「私もよく見るんです……怖い夢……」
「模範生として生きる……学級の委員長、そんなちっぽけな学園生活だけの一クラスでの役職だとしてもね、結構なプレッシャーなんですよ」
「なんだ……どうなっている?」
振り返ると窓からは真っ黒な闇が見える。
夜──あれだけどれだけの時間が?
いや──それは夜なんて空間じゃない。
その窓の外が存在していないかのように──
「どうしました?もしかして……まだ《《悪夢》》から抜け出せていませんか?」
夢咲は落ち着いた口調で俺に言う。
「ねぇ、トウカくん、あなたには解りますか?褒められるための結果が当然となる恐怖──」
そんな別の誰かを恨むような瞳を俺に向けている。
「褒められるような結果を残せた記憶は余りないからな……」
解らない──。
「ですよね──」
そう俺をどこか見下す様に。
「私だって小さい頃は褒められたくて……勉強を頑張ってテストでいい点数を取ったの──それこそ、最初は皆、褒めてくれた……でも、今は違う……そうしなければいけない、そう有り続けなければならない」
「やりたいことなんて、他にいっぱい、いっぱいあったのに……ねぇ、わかるっ?なんで……どうしてなのっ……わたしは、わたしは頑張ってるのにっどうして、あなたたではなく、私が悪夢を見続けないといけないのっ」
「だったら……やめちまえよ、やりたいことがあるなら……それを優先しろよ」
「随分と簡単に言うのですね……せかっく積み上げたものを捨てる事なんて簡単、でももう一度拾い直すのは、それ以上に難しいのです」
「だったら……それこそ、そう《《見ている》》のは自分の都合だろ?」
「随分と──偉そうに説教するのですね……だったら見せてあげます、あなたのその得意の能力に……」
「くっ」
俺は再び防御魔力を両手に巻き付け、迫って来た黒い触手を掴むと引きちぎる。
「ほら……もっと想像するのです」
覚めた光の無い瞳を俺に向ける。
「私が見てきた現実をあなたにその形で分けてあげる」
「この後……どうなれば、あなたは《《恐怖》》しますか?」
引きちぎったはずの触手が再生するように俺の身体に纏わりついてくる。
そう彼女が俺に見せているのではなく……
そう俺は彼女に見せられていると思い込む。




