【四文字《ただいま》】
──空が黒く真っ黒な世界。
そこで、僕はカオスと世界を作るよ。
「がぶぅ──」
「痛い、痛いよ──ミリス」
僕は世界の調律の為にカオスの頭に齧り付く。
「ねぇ──ミリス、ボクたちはどうして世界を創らないといけないの?」
それは──終わりのない“戦い”だよ──
僕は記憶には無い誰かに話しかける。
「カオス──世界にはね、僕の大事な人が居るのさ」
「でも──ミリスはもう覚えていないんだろ?」
「にしし、僕はねカオス──それは、恐ろしい白竜なのさ、それは、それは、世界を創る大切な使命があるんだよ──それでも、そこに意味くらい欲しいのさ」
「──ミリスがよく言っていた“おかあさん”って人と“トウカ”って人のこと?」
「おかあさん──トウカ?ねぇ──カオス、僕はその二人のこともっと何か君に話していなかったかい?」
「──そんな、よく覚えてないよ」
「それじゃ、その頭に嚙みついて、記憶聞いてみるとするよ」
「やだよ、やめてよっ」
冗談か本気かわからない僕の言葉にカオスは驚くように僕に言うよ。
どうして、僕はあの人を守り人に選んだのか。
どうして、僕はあの人に去り際にバイバイと告げたのだろうか。
ずっと、ずっと僕は、その意味を探しているよ。
─────
「なぁ──トウカ、さっきの人は何を言っていたんだ?」
──ナギサと日本を出て半年。
──リエンの旅客機に母さんのバイクごと乗せ、世界をまわっている。
リエンの両親の研究の関係施設を巡っては──
俺たちに理解不能な話を聞かされる。
「──ほらっ」
「おっ、サンキュー、トウカ」
俺は──苦手な英語を片言に何とか買ってきた、ファーストフードをナギサに手渡す。
「見た目は、毒々しい濃厚な見た目だが──」
そう、ナギサは見た目を評価しながら自分の顔半分くらいあるバーガーをがぶりとかぶりつく。
「ん、“トウカ──旨いなッ”」
俺がそんなナギサを見つめる瞳に──白く長い髪が揺れて見える。
「どうした──トウカ?そんな泣くほど旨かったのか?」
いつの間にか涙が流れていた──
そんな俺を見て、ナギサが不思議そうにちょっと不安そうに見ている。
──なぜか、そんな単純な感想が、俺が探している記憶の大事な手がかりであるような気がした。
「悪い──ちょっと、目に砂埃が入った」
俺はそうごまかすように──涙をぬぐうように目をこする。
「んだよ、そこは──愛するナギサちゃんが可愛すぎて涙が出たとか言えないのかよ」
「なんで──ナギサの可愛さで俺が泣くんだよっ」
「んだよっ、そこは否定せず、可愛いって言えねーのかよっ」
「否定してねーだろっ、ナギサは可愛いだろっ!」
「んだよっ──私は──えっ???はっ???──トウカ、もっかい言おう?」
勢いでナギサは俺に相槌のように言葉を返しながら──
最後の俺の言葉の理解ができないように、目を点にしながらも、
上着の胸元のポケットからお得意のテープレコーダーを取り出す。
「──おまえ、まだ、それ持ってたのかよ」
「──私の宝もんだっ」
少しだけ少し気まずくもある沈黙が流れる。
「せっかくだし、もう少し、この街を見て回るか?」
俺は頬をかきながら、少しナギサから目線を反らす。
「おう──トウカ、手──」
「ん?──手?」
「──手、繋ぎたいんだよっ」
ナギサが下を向きごにょごにょと話す。
ここは──白竜に守られた世界の物語。
それは──俺とナギサとの新しい物語。
俺は白竜の守り人に選ばれて──
それは──決して、喜ぶべき物語ではなかったにしろ──
俺はそのおかげで──今のナギサとの関係、仲間たちとの出会いがあった。
そんなひとつの物語に終わりを迎え──白竜は俺に別れを告げた。
俺はそんな別れの言葉を探す旅に出る。
だから──別れの言葉の後に迎える言葉は決まっている。
─────
真っ暗な世界。
「──この間、人間界に降りた時にね、あの人、まだミリスのこと探していたよ?」
「ん──そうなのかい?」
「うん──会ってあげなくていいの?」
「がおー、僕は白竜だよ、僕は使命の為にここに居るんだよ」
「──お父様じゃないんだ、あの人たちは此処に辿り着けないよ?」
「そうだね──それでいいだよ、カオス、僕はずっと君と居るよと言ったはずだよ」
「うん──有難う」
少し申し訳なさそうに嬉しそうにカオスが言う。
僕が暮らした世界── 一つの物語は終わる。
僕が創る世界── 新しい物語が始まる。
「なぁ──トウカ、この旅はいつまで、続くんだ?」
「さぁ──な、でも俺はまだ諦めてない、負けてねぇよ」
「ん──まぁ、私としてはこのままずっと──トウカとこんな生活悪くねぇけどさ」
「──どうした、ホームシックか?」
「んな訳あるか、誰があのハゲ親父にホームシックになるか」
「もし、もし──白竜──見つかったらどうするんだ?」
「もし、もしも──彼が此処を見つけてミリスの所に来たらどうするの?」
二つの異なる世界で 一人の宝物を探す少年と──
そんな少年のために、記憶を喰らう白竜は言葉を重ねるように──
「「──まずは、“ただいま”── そう言わせるさ 」
そう言うよ。 」
───
俺は──そんな四文字を書き換えるために──
きっと──そのために、自分は白竜に選ばれた。
俺は守る最後まで──
だから、まっていろ──そして──そんな旅の終わりに俺はお前と──
「「そして──一緒に美味しいものを 食べに行くッ 」
行くよッ」
───────
トウカの暮らしていた街──
そこにある墓地──
墓石に手を合わせる、カイナとその義妹のキズナ。
墓石には『真解ユズル』の文字。
カイナの運転で──車での帰宅途中。
「お姉ちゃん──トウカくんが旅に出てからもう1年は立つ?」
「そう──だな」
「タバコ──量増えたんじゃない?」
煙草に火をつけるカイナを見てキズナが言う。
「ねぇ──寂しい?心配?」
「そりゃ──ね、一流の会社にでも努めて出て行ったってんなら話は別だったんだけどね」
「連絡来てる?」
「いーや」
カイナの自宅へと到着すると二人で車を降りる。
「今日は泊って行くか──」
「そうする──」
玄関に入り──二階へと昇る。
「悪いが──息子の部屋を使ってくれ」
「えっ──大丈夫?」
「問題ないだろ──」
「ねぇ──お姉ちゃん、“この部屋”は?」
「“その部屋”は──駄目だ」
カイナはそう言いながらも──しばらくぶりにその部屋のドアを開ける。
「ここは──このまま──残しておく」
「──誰のために?」
キズナが不思議そうに部屋を見渡しながら言う。
「あっ──このぬいぐるみ」
キズナがベッドの枕元に置いてあった青いぬいぐるみを抱きかかえる。
「あまりいじるな──このままにしておくと言ったばかりだろ」
「はーーい、ん?おねーちゃん、この“手紙”は?」
「──“手紙”?」
カイナは思わずキズナからその紙を奪い取る。
「──これは」
文字を知らない子供が──懸命に文字を調べながら一生懸命書いた手紙。
何とか読める程度のひらがなだけの言葉が並べられている。
おかあさんへ。
ぼくは、おかあさんがだいすきだよ。
おかあさんは、ぼくといっしょにあにめをね、みたよ。
そのあと、おかあさんといっしょにおひるねをするよ。
そんな、まいにちがね、ぼくはうれしかったよ。
とうかがね、つくってくれたおむらいすをたべるよ。
おかあさんがね、ぷりんをかってきてくれたよ。
どっちもすごくおいしかったけどね、ぼくはやっぱりとうかのおむらいすがすきだよ。
でもどちらもおいしくて、うれしかったよ。
おかあさんが、ぼくに“おへや”をくれたよ。
ぼくのおへやにはね、かわいいかーてんがあったよ。
あと、おおきなべっどもあったよ。
うれしかったよ。
おかあさんといっしょにゆうえんちにいったよ。
とうかとおともだちもいっしょにいったよ。
おかあさんといっしょにあいすをたべたよ。
つめたくておいしかったよ。
おかあさんが、またぼくといっしょにこようっていってくれたよ。
うれしかったよ。
おかあさん──おかあさん──
ぼくね、きちんと、おかあさんに “ばいばい”をいいたかったよ。
ぼくね、まもるよ。
おかあさん、ぼくね、ほんとうはね──
ううん、ぼくは、とうかとおかあさんがだいすきだよ。
だから ばいばい
そんな文字の最後の方は──恐らくその手紙を書いた少女の頬を伝って落ちた雫で滲んでいる。
「──お姉ちゃん?」
「うっ──あっ──ぐっ──」
妹であるキズナですらそんな姉、カイナが号泣する姿を見たのは初めてだったのかもしれない。
「ちょっと、お姉ちゃん、大丈夫?」
「──どうして、どうして──どうして、大事なはずなのに、大切に想っていたはずなのに──思い出せない、思い出せないんだよ、キズナッ!」
「どうして──私は何を失ってしまった──ねぇ、どこ──どこに居るの──会いたいッ」
ただ──思いのままにその感情を言葉として吐き出す。
一つの物語に終わりを迎えよう──
一つの記憶を創り出そう。
だから──その終わりを告げる“四文字”を書き換える。
その書き換えた“四文字”で新しく始めよう──
家のドアを開ける。
さぁ──“始めよう”
「ただいまっ!!」
────白竜に選ばれた俺は、負けない力で君を守る 完 ───




