【負けない力】
「何がどうなってるんだ──」
白く長い髪──
ピンク色の少し大きめの瞳──
八重歯は少し長めで──
そんな少女の手を引いて走っている。
学校からの帰り道──駅前のこの街の数少ないデパートの中の本屋で雑誌を立ち読みした帰り道の公園。
そんな少女が──黒い──小竜のような生物に襲われていた。
わからない──
何一つ理解ができていない。
とりあえず、見たこともない生物──
かかわってはいけないとは理解しているのだが──
警察に──母に連絡をするか?
「ねぇ──なにがどうなっているんだい?僕はどうして君に手を引かれて走っているんだい?」
彼女を助けるために走っている俺よりも冷静な白く長い髪の少女。
「それ、俺のセリフだろ──あんた、どうしてあんな生物に襲われているんだ──」
「それはだね──僕は彼と戦っていたんだけど、僕は本来の力のほとんどを失ってしまってるんだ」
公園にある大きな木の陰に体を隠し──
息を整える俺に彼女は落ち着いた口調で説明する──が──
「わからん──」
「──それで、君はどうして僕の手をつかんでいるんだい」
「わっ──あ、ごめん」
「今度はどうして──手を離して顔を赤くしているんだい?」
女性の手をつかんでいた事に急に恥ずかしくなった俺に、不思議そうに尋ねる。
「ミリス──僕のことはミリスちゃんと呼んでいいよ」
「──トウカ、結代トウカ」
「──トウカ?──トウカ」
なんだかうれしそうに俺の名を繰り返して呼ぶ。
「それで、繰り返し聞くけど──どうして──」
「よくわからないけど──“助けよう”とは思ったんだよ」
「“助ける”──?僕をかい?」
「ほかにだれがいるんだよ──」
「──」
その大きな瞳で周囲を見渡し──
俺を見て首を傾げる。ちょっと可愛い。
「僕を助けてくれるのかい?」
「──俺に何ができるかわからないけど──一緒に逃げるくらいなら」
「トウカ──僕が力を取り戻すまでの間でいいのさ──僕の代わりに戦ってくれるのかい?」
「あ──え──?戦うって何と?」
ミリスと名乗った少女はそのピンクの瞳を黒竜の方へと向ける。
「僕にもまだわからないことが多いのだけどね──」
「──手を貸して、トウカ」
俺の右のてのひらをミリスが両手でつかむ。
俺の右の手のひらが白く輝いている。
「ミリス──何が起きてるんだ?」
「──君の感情──その奥底にあるもの──トウカ、君は何を願う?」
「なに──言ってるんだ?」
「君こそ、何を言っているのさトウカ──守ってくれるのだろ僕のことを」
先ほどと同じ公園。
の──はずなのに──
黒竜──なにやら黒い瘴気のようなオーラをまとっている。
先ほどからだったのだろうか──
口からは時折、黒い炎を吐き散らかしている。
もちろん、黒い小竜はすでにこちらに気付いている。
「ほら、トウカ──僕はピンチだよ──僕の残っていた魔力は全部、君にあげたんだ──さぁ、答えを聞かせてくれるかいトウカ」
「僕の代わりにあれと戦ってくれるのかい?」
────
『──トウカ、勝たなくてもいい──ただ負けてはいけないよ』
そんな誰かの言葉に──
正義の味方になりたかった訳じゃない──
ただ──誰かが理不尽に傷つけられるのが嫌だったんだ。
もちろん、自分が傷つくことはもっと嫌いだ。
でも──目の前で傷ついている人が居るのなら──
もしも守れるというのなら──
いつもそんな誰か──
黒い短い髪──男勝りなそんな女性は──
傷つきながらも──いつも勝てなくても──
いつだってそんな理不尽に負けずに立ち向かって──
俺を守ってくれた。
だから──今度は俺が守るんだ。
────
黒い小竜がこちらにその大きな口を開く──
黒い炎が俺たちに向かい迫る。
ゴオォーーーッという激しい音。
熱気──幻なんかじゃない。
俺は──右手を咄嗟にその黒い炎へと向ける。
「勝たなくてもいい──ただ、守るんだ──」
だから“負けない力”が欲しい──
黒い炎が目の前で上下左右へ分散して軌道が反れる。
「トウカ──それが、君の守る力というわけだね」
透明な板──結界が俺の目の前で発生した。
ミリスの体が白く輝くと──
「がおーーーーっ」
俺の隣で白い小竜が可愛らしく吠えた。
黒い竜は、白い竜に狙いを定めると──
その黒い瘴気をまとった体でミリスを目掛け突進する。
メキッ──という音。
目の前の大きな木を簡単にへし折り──
ミリスの前に迫る。
透明な壁がその体を遮る。
透明な壁──その衝撃が俺自身に伝わるように──
それでも──俺の張ったその結界がその勢いを止める。
黒い小竜が少しだけ不快そうな表情をする。
「──トウカ、君は僕を守ることだけを考えてくれたまえ──せいぜい、一、二撃くらいだけど──僕が彼を退けてみせるよ」
──────
「どうにか──なったのか?」
「君のおかげだよ──僕はトウカに感謝をしているよ」
人の姿に戻りにっこり笑顔でミリスがいう。
いまさらだが──
「ミリス──何者なんだよ、おまえ──」
「そうだね──魔女──とでも名乗っておこうかな」
「──答えになってないだろ」
「それでは、帰ろうか──トウカ」
「あ──あぁ、どこにだよ?」
俺が質問しているのに──不思議そうにミリスが頭を横に傾ける。ちょっと可愛い。
「トウカ──君はどこに住んでいるんだい」
「そりゃ──俺にだって家はあるよ」
「そっか──よかった──人の家というものには興味があったのさ」
「あったのさって──おまえ──」
「トウカ──君は僕を助けてくれるのだろ?」
「──いや──ちょっと待て」
「君は僕に選ばれたのさ、言えば、運命、宿命というやつだよ」
「ただ、巻き込まれただけだろっ」
「さぁ──トウカ、僕を守りたまえ、それと僕は腹ペコだよ」
「知るかっ──」
面倒なことになった──
ただ、平凡に──
ただ、毎日を終えてきた、俺の日常──
助ける──
俺はミリスの顔を眺める。
不思議そうに俺を見つめ返す。
あんな化け物。
俺に勝つことはできない。
ただ──彼女が“負けないように”くらいは助けよう。
────
「──余計なことを──いや、面白いことになったのか」
そんな様子を見ていた一つの人影。
黒いフードを深く被り──目元には黒いレンズのゴーグルをしている。
「守るか──この世界にそんな価値はない──修正が必要なのさ──だからすべて破壊する──」
「さて──まずは何を利用してやろうか」
「いったぁ──なんだよ、これ──」
黒い短い外はねした髪の毛──地味な黒縁の丸メガネの少女。
何かの衝撃でしりもちをついていた体を起こし、スカートのお尻のあたりの土を手で払っている。
「大丈夫か──」
「え──なにものだよ──」
気まずそうにゴーグルの男を見る。
「──巻き込まれた──ということはおまえにもあるんだろ?」
「──なんの話?」
「──覚えておけ──“あれはおまえの敵”だ──」
「あれ?──だれだよ、ん──どっかで見たような──結代?」
それだけを告げ、ゴーグルの男は立ち去る。
「──雨?」
天を仰ぐように空を見上げる。
「こんなこともあろうかと──折り畳みの傘もってきてよかった」
履いていたハーフパンツのポケットから──
折り畳みの傘を取り出す。
「あり──?嘘だろ──?」
先ほど、何かに巻き込まれ転倒した影響か──
伸ばした折りたたみ傘。
ポッキリと中棒のあたりが折れていて、ボトリと大事な傘の部分が地面に落ちる。
「あぁ──不運だ」
黒縁メガネの少女は──目の前のクラスメイトの男子を眺め呟く。




