第22話 お披露目!
いよいよ、この日がやってきた。
『スカーレット♡ネメシス お披露目ライブ!』の当日だ。
魔界の城下町、中央広場には特設ステージが建てられ、その前にはたくさんの人だかりができている。
配ったチラシは百枚だったが、友達や家族を引き連れて倍以上の人数になっていた。
もともと娯楽の少ない魔界だ。物珍しさもあって、皆の興味を刺激したのだろう。
「スカーレット♡ネメシスのお披露目ライブへようこそー!」
「はい、押さないで押さないで! 順番に入場料を支払ってくださーい!」
野外ステージなので誰でもライブを見ることはできるが、ステージ前に並べたパイプ椅子の観覧席は“3千ギラン”を支払うことで座れる仕組みだ。
それを取り仕切っているのは、田中とシェーデル。
用意した百個のパイプ椅子は、あっという間に埋まってしまい、立ち見席まで用意することになった。
「参謀殿、やりましたね! ついに、アイドルで軍資金が稼げましたぞ!」
シェーデルはそう言って、客から徴収した入場料の入った箱を田中に見せた。中には大量のギランの札束が見える。
「おうシェーデル! こっちも、こんなに入ってるぞ!」
田中もまた、自分の持っている箱をシェーデルに見せ、これまでの頑張りがやっと実を結んだことを喜び合う。
「よし、ステージ裏に急ごう!」
「了解ですっ」
その特設ステージには、裏側に小さな楽屋も併設されており、メンバーたちはこの中で待機していた。
緞帳の隙間から見える大勢の客を見て、メンバーたちは声を震わせる。
「ちょ……ちょっと、ものすごい人数なんだけど!」
「うわわわ……き、緊張して、うまく歌えないかも……」
「私も……い、いつものように、お、踊れるかしら……」
そんな彼女たちの後ろで、プロデューサー田中が『パンッ!』と手を叩き、メンバーたちにこう告げた。
「ほらほら、なに弱気になってんの! 大丈夫だよ、うまくやろうなんて思わないで楽しんできな!」
それでもまだ不安そうな3人に対し、田中はさらにこう言った。
「じゃあ、円陣を組んで気合を入れるといいよ。それぞれ自分の名前を順番に言って、最後に全員でグループ名を叫ぶ……ってどお?」
3人は「なるほど」と頷き、さっそくやってみることにした。
3人が輪になって肩に手を回し、腰を少し落として、おでこがぶつかるくらいの距離まで顔を近づける。
「ミレイナ!」「エイラ!」「イザベラ」
順番を決めていたわけではないのに、自然とこの順で流れるように名乗る3人。
そして、最後にみんなで声を合わせて叫ぶ。
「「「スカーレットネメシスッ!!」」」
そして、3人は円陣を解いて同時に腰を上げた。
先ほどまでの緊張はどこへやら、皆の表情は気合に満ちていた。
それを見て、田中は3人を舞台へと送り出す。
「よし、行ってこい!」
緞帳がゆっくりと上がっていく。
ミレイナ、エイラ、イザベラの3人が、ついにステージに駆け出して行った。
「こんにちはーー! スカーレット♡ネメシスでーす!」
——ワアァァァァァァ!!
百人を超える来場者たちが、一斉に湧き上がった。
田中とシェーデルは、それを舞台袖から見守っている。
「えっとー、アタシたち魔王軍のアイドルグループなんだけど~」
「あっ、待ってミレイナ。みんなアイドルが何か知らないんじゃない?」
「どうかしら。アイドル知ってるよーって人、挙手」
息の合った3人の軽快なトークで、一気に場の空気が和やかになった。
まだ歌も踊りも披露していないが、すでにお客さんの心を掴んで、柔らかいムードに包まれている。
「えーっと、それじゃあ……」
一瞬の間が開き、なんとミレイナが、田中とシェーデルのいる舞台袖のほうを見た。それを受けてシェーデルが裏手に合図を送る。
すると、舞台袖から楽器を持った魔物たちが登場。
「こんにちはー!」「どうもー」「ちわ~」
そう言いながら現れたのは、あの奏者の3人だ。
ステージの奥に備え付けてあった、ピアノ、チェロ、ドラム。奏者たちはそれぞれの位置につく。
リハーサルなども一切なく、ぶっつけ本番で臨むお披露目ライブなので、奏者たちはその場で調律を合わせ始める。
そう、田中は今回あえて魔響盤の再生機は使わず、“生演奏”による“生歌&ダンス”を選んだ。
それは田中が、彼女たちの実力を認めているという証拠でもある。
どよめく会場に響き渡る、ピアノとチェロと打楽器の音……
数分後、チェロ奏者の男性スケルトンが、ミレイナに向けてOKの合図を出した。
ミレイナはそれを受け、エイラとイザベラの顔を見る。2人も少しこわばった顔つきに変わるが、力強く頷いて見せた。
正面に向き直し、ミレイナがマイクを両手で握り、客席へ向けて言った。
「……それでは、聞いてください。アタシたちのデビュー曲『ちゅっ!魔界のラブ♡カオス』」
——カッ カッ カッ
と、打楽器奏者がスティックを叩いて、演奏の開始を告げる。
いよいよ生演奏が始まった。
天真爛漫な彼女たちをイメージした、アップテンポで小気味のいいリズム。それは、魔界に存在しないはずの“アイドルソング”だ。
さらに曲に合わせ、メンバーたち3人も踊りだす。真っ赤な衣装をなびかせて、ステージ狭しとダンスを披露する。
会場に集まった2百名を超す魔物たちは、一斉に「ワァッ!!」と声を上げ、思い思いの“乗り方”でアイドルのライブを楽しみ始めた。
自然と体が動き出す。リズムに合わせて左右に揺れたり、両手を高く掲げて拍手したり、頭を前後に振りまくる者もいる。
「地面が、風が……揺れています! そして、なんという熱量……! これがアイドルのライブなんですねッ!」
感動して泣いているシェーデル。それを見て満足げにほほ笑む田中。
そして、歌い出しとなるエイラのパートが迫って来た。エイラはマイクを口元に当て、客席をまっすぐ見つめて歌い始める。
「混沌に満ちた愛♪ 魔界に降臨~♪」
これには客席の魔物たちも驚いた。「おおッ……!!」と、どよめく会場内。
彼らはてっきり、“音楽に合わせて踊るのがアイドル”だと思っていたのだ。そんな矢先に、まさか“歌”まであると分かり、会場内のボルテージがさらに上昇する。
続くミレイナのパートは、セクシーなポーズで妖艶に歌い上げる。
「ラブラブ♡ お願い♪ 気づいてよ~♪」
今度はイザベラが前へ。軽快なフォーメーションで立ち位置を入れ替えながら、順番に歌割りがやって来る仕掛けだ。
「愛の帳を下ろせば~♪ 心の闇が満たされる~♪」
洗練された歌とダンス。可愛いとカッコイイを兼ね備えたビジュ。それらが見事に融合した、まさに“アイドルならでは”のパフォーマンスが、この魔界の地で繰り広げられている。
そして、メンバー3人が横一列に並び、いよいよ来る……
この歌のサビだ!
「ちゅっしてよ! ちゅっしてよ! 魔界中に響け~ カオスなラブ~♪」
会場の盛り上がりはピークに達した。
魔界の城下町は熱狂の渦に包まれ、気が付けば町のほとんどの魔物が、この野外ステージの周りに集まっていた。
——そして、約1分後。
持ち歌はまだ1曲なので、トークを挟みながら同じ曲を何度も繰り返し、初ライブは大成功のうちに幕を閉じた。
今宵、魔界の音楽史に“アイドル”という新たな1ページが刻まれたのだった——




