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第1話 異世界からの誘い

 ——秋葉原。


 大勢の人で賑わう駅前の電気街に、一人の青年が立っている。


「ふぅ……バイト終わりでそのままアキバ着。もう通いすぎて実質所在地なんだが」


 彼の名は田中。どこにでもいる普通のオタクだ。


 少々わがままなボディーをしているが、痩せたらきっとイケメンだ……と自分では思っている。


 先ほど彼の口から放たれた、音の壁を超えるほど早口な独り言は、秋葉原という街の喧騒によって、誰の耳にも届かずにかき消されていった。


「よしっ、現場に急ぐとするか」


 今日の田中は、普段よりも気合いが入っている。


 なぜなら、いつも応援しているアイドルグループ、“ハピ☆モス”の新曲リリースイベントがあるからだ。


 走ってイベント会場へと向かう田中。その姿に一切の迷いはない。


「間もなく開演でーす」


 スタッフさんがイベント会場の呼び込みをしている。


 田中は背負っていたリュックサックから、バンダナを取り出して頭に巻き、ペンライトの紐のところを手首に通した。


 スマホは一応、ズボンのポケットにねじ込み、残りの荷物はリュックサックごとコインロッカーに預けた。


 これで準備はオッケーだ。


 会場内はすでに満員御礼。まだ開演待ちの時間だが、男たちの熱い視線がステージに注がれている。


 すると、田中のオタ友が彼を見つけて話しかけてきた。


「田中さーん、おつー」


「お、鈴木さん。もう入ってたんか」


「見てこのチケ、最前管理でマジ優勝なんだが」


「え、ガチ? 鈴木さん引き強すぎん?」


 そんな会話をしばらく続けていると、舞台上に照明が灯り、会場の熱気がさらに高まった。


 いよいよ、ハピ☆モスの登場だ……!


「こんにちはーー! 来てくれてありがとーー」


 舞台袖から5人の女の子たちが、元気よく走ってステージの中央にやって来た。


 ハピ☆モス、キターーーーッッ!!


 ワアッと沸き上がる会場。ボルテージは一気にマックスへ。


「せーーのっ! みんなの心にいつでも寄り添う“コケ”のアイドル、ハピ☆モスでーーっす♪」


 説明しよう。彼女らは、(こけ)と自然をテーマにした環境に優しいアイドルだ。緑色のコスチュームなのでオタクたちの目にも優しい。メンバーカラーも全員グリーンというのは斬新だが、さすがにちょっと分かりづらくて困る。


 そして、軽いトークを挟んだ後、いよいよ新曲のお披露目タイムが始まった。


 小気味のいいリズムの前奏だ。自然と体が反応して動いてしまう。


 一応この曲、すでにMVは先行配信されており、オタクたちの合唱パート……いわゆる“コール”の部分も決まっている。


『オイッ! オイッ! オイッ!』


 息のあった合いの手と、手拍子。そして、オタ芸も打っていく。これはもはや、オタクたちの練習を披露する場でもあるのだ。


『オォ~~……ハイッ! オォ~~……ハイッ!』


 ほとばしる汗。振り絞るペンラ。一般人ならあまり使わないであろう筋肉を、目一杯に活用したオタ芸を打ち続ける。


 そして、田中が待っていたあの瞬間が近づいてきた。


 ——推しメンの歌割りだ。


 田中の推しは、みなみちゃん。メンバーの中で一番小柄で、一番ダンスが上手く、一番グリーンな美少女だ。


 推しのソロパートには、その子の愛称や、語呂のあう掛け声をかけるのがお決まりのパターンである。


「みーーなみッ! みーーなみッ!」


 田中は、大きな声で推しの名前を叫ぶ。


 それと同時に、跳んだ。


 天にも届くほど高く、跳ねる。これが熱狂的なファンによる愛情表現のひとつ、“推しジャン”である。


 しかし、田中が推しジャンを始めたその瞬間……


 ——カッ!!


 突然、田中の視界が真っ白な光に包まれた。


「みーーなッ!? えッ、なにこれ?!」


 この時、田中は思った。


 この眩しさはきっと、みなみちゃんがアイドルとして輝きすぎて、もはやアイドルの域を超越した、光そのものへと進化したのだ、と。


 いや、それにしても本当に、眩しすぎて、何も見えない。


 さすがに、これは、眩しすぎる。


 異常事態だ!


「うわぁぁぁッ!!」


 ——ドシンッ!


 田中は、あまりの眩しさに目を閉じていたせいもあり、着地に失敗して尻餅をついてしまった。


「あいッたーーッ!」


 慌てて尻だけ持ち上げ、ぶつけた箇所を手でさする。

 ……と、次第に光は落ち着いて、眩しさも感じなくなっていた。


「いや~ 失敗、失敗…… んっ?」


 曲の演奏がいつの間に止まっている……


 辺りを見渡すと、そこは真っ黒な石造りの壁に囲まれた薄暗い部屋だった。なんと言うか、中世ヨーロッパのお城みたいな雰囲気だ。


「え、ここどこ案件なんだが…… 鈴木さーん?」


 さっきまで横にいた鈴木の姿もなく、他の客もみんないなくなっていた。あのイベント会場の面影すら残っていない。


 すると、何者かの声が聞こえてきた。


「魔王様! 成功しました!」


「うむ、しかしあれは……正人(せいじん)か?」


 部屋の奥にある一段高くなった壇上。そこにいる二人の人物の声だった。


 一人は、王様が座るような玉座に腰掛けている。

 何やら黒っぽいドレスを着た女の子のようだが、フードを目深にかぶっていて表情がよく見えない。


 もう一人は、その玉座の隣に立っている。

 まるで魔導士のような紫色のローブを身にまとい、水晶玉を抱えている。遠目からでも分かるほど顔色が悪い。


「さあ、早くこちらへ」


 顔色の悪い魔導士の人が、手招きをして田中を呼ぶ。


 だが、田中はすぐには動かず、少し考えてみた。これは一体どういうことなのかと。そして、その答えはすぐに出た。


 答えはこうだ。


 先ほど田中は、イベントの途中で気絶した。そして、気絶している間にライブは終了し、次のイベントが始まってしまったのだ……と。


「なるほど、そういうことね」


 田中はそう言いながら立ち上がり、壇上へ向かって歩き出す。

 真っ赤な絨毯を踏みしめながら、ずんずん進む。


 顔色の悪い人の顔が、よく見える位置にまでやって来た時、田中はぎょっとした。


 ……ガイコツだ。


 この人は顔色が悪いのではなく、真っ白な頭蓋骨だった。水晶玉を持つ手もむき出しの骨。


 ガイコツの魔導士だ。


「いかがなさった? もっと近くへ——」


 骨が喋っている。カタカタとあごの骨を動かしながら……


 田中はてっきり、アニメか何かのコスプレをした店員さんによる、コンセプトカフェのイベントが始まったのだとばかり思っていたのだ。


 だが……コスプレにしてはリアルすぎる。


 思えば、この部屋の造りも、イベントにしては精巧にできすぎている。


 そこで田中は、ようやく気が付いた。


「まさか……これ、異世界転生してね?!」

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