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男たちの哀歌  作者: 富永真一
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ダメ親父から教わった

 妹のアヤができた時のあんたの反応が俺もオフクロも許せなかった。


釣り上がった目は一瞬にして充血し、俺はあんたに掴みかかったが、逆に押し倒されて殴られた。


「……くだらねぇ」あんたが出て行ったときに言った言葉だ。覚えてるか?


あんたはもっと早く出て行くべきだったんだ。

派遣で稼いだ少ない金は、酒か本に消える。たまに家にいるときは黙って本を読むだけ。本棚だけが、狭い家を埋め尽くし、本を保管しておくためにコンテナを借りるとまで言い始める。


たまに出かけずにいると思えば、誰と話すわけでもなく本だけ読んで寝ちまう。


村上春樹。

あんたが好きだった作家の名前。

そいつの名前は死んでも忘れねえ。

ハードカバーから、全集まできれいに揃えていやがった。しかも全て初版。


この前、そいつの新作が久しぶりに立ち寄った本屋で平積みになっていたから、それを全部買って帰った。


駅前の“有害図書投函箱”に入れた。社会貢献だろ。本で身を滅ぼすやつを減らせる。


あんたが好きだった本っていう代物なんて読んだことないさ。


本?そいつは毒だ。薬よりも恐ろしく人間の核を貪り、身も心も乗っ取っちまう。


「今度の旅行どこにする?」


そう聞いてきた彼女に


「どこでもいいけど」


そん時の彼女ときたら、あんたに「くだらねぇ」と言われたオフクロと同じ目をしてた。


そん時に決めた。俺は一生結婚もしねえし、もちろん子供なんか絶対につくらねえ。


俺にとっちゃ、一番の社会貢献だろ。

カエルの子はカエルさ。。。

子供を泣かせたくはねえ。


そんなあんたには一つだけ教わったことがある。

“昇竜拳”だ。

カメハメハを教えてくれないかって頼んだ俺に、一瞬困った顔をしたあんたは


「おめぇそりゃいくらなんでも無理だ。そのかわりに“昇竜拳”ならおしえてやる」と真顔でいった。


それは親父が若い頃売れたゲームの殺傷力の高い必殺技だったんだ。

あんたは、すぐに中古のゲーム機とそのソフトを買ってきて、TV画面の中で、俺を“昇竜拳”でコテンパンにした。


「どうだ、わかったか?」


「とうちゃん、ちゃんと教えてよ」


それから3日間、あんたの我流の昇竜拳を伝授された。

上に向かって思い切り伸び上がりながら、コブシを天高く打ち抜く。

学校から帰ってから暗くなるまで小さな庭で俺は天高くコブシを振りぬく練習を続けていた。

酔っ払って帰ってきたあんたに練習の成果をみせようと、あんたの下っ腹目掛けた俺の昇竜拳がクリティカルヒットし、

「うっ・・・・うう」と唸ってからあんたは言った。

「やるじゃねえかぁ」


その直後にあんたの昇竜拳が俺の腹をえぐった。

そん時、地面に倒れて、涙を流した俺にあんたは言った。

「男ならなくんじゃねぇ!」


ほんとに無茶苦茶だった。でも俺も決めた。

絶対、泣かないよ。泣いたら、とうちゃんに負ける―。


俺はあんたに教えられた昇竜拳を使うことはなかったが、その昇竜拳をコブシに潜めた俺の眼力に恐れをなして、誰も寄り付かなくなった。

誰もな。

本当に誰もだ。


                  つづく

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