155話 浅井姫 2
主人公は軽くテンパッています。そのため行動がおかしいですが気にしないでください。
熊野歴7月下旬
俺が広間に着くと見知った顔の中にややウエーブ掛かった髪を両サイドで結んだ日本人には珍しい目鼻立ちがはっきりとした少女がいた。歳は15才位だろうか? 多分これが浅井姫だと思われる。こう言う会談の場では相手を怖がらせて交渉を優位に立たせた方が良いんだよなぁ。さて、どうしたものか……
「この時代にツインテールをした子を見るのは珍しいな」
「ツインテールが何かはわからへんけど、浅井姫の髪を結ったのはウチやで」
「ふっ…… ふんっ、あなたがニニギヒコね、わたくしを煮るなり焼くなり好きにするといいわ」
言葉では強がってはいるが肩がふるえているじゃないか。浅井姫には気の毒だがもう少し怖い目にあってもらおう。朱里さんに目で合図してから返答しよう。
「へぇ、煮るなり焼くなりねえ。朱里さん今日の夕飯だけど煮物と焼き物とどっちが良い?」
「そうやなぁ。最近蒸し暑いからなんかサッパリとしたしたもんがええなぁ」
「それじゃあ冷しゃぶにしようかな。ポン酢とゴマダレなら簡単に作れるし。じゃあ浅井姫調理場に行こうか」
「なに、わらわを喰らうと言うのか? 離せ妾は龍……」
「なっ、なりませんニニギ様、その方を殺害すると大変な事になります!!」
あら、浅井姫じゃなく近衛さんが釣れたぞ。近衛さんは地方の伝承に詳しいから浅井姫の事を知っているのかもしれない。
「へえ、何が起こるの?」
「古来より長浜周辺の地名は浅井でございます。そこに住み着いた豪族も浅井姓を名乗りその地を治めてまいりました。もしその方を殺してしまえば歴史が大きく変わってしまう恐れがあります」
「ねぇ朱里さん。日本史において浅井長政って必要な人?」
「せやなぁ。長政はんの3人の娘が重要人物になりおるから必要なんじゃないか。まあ浅井姫がおらんでも長政はんの苗字が変わるだけに収まるかもしれへんけどなぁ」
たしか浅井長政の娘は秀吉の嫁と家康の息子の嫁だったか…… 歴史が大きく変わるような気がするなぁ。まだこの世界が俺達の居た世界と同じか分からないけど下手な事をしない方が良さそうだ。元々浅井姫を少し脅して交渉を優位にしたいだけだったから殺す気はなかったんだけどね。
「それじゃあ、浅井姫には長浜周辺に居て貰わないとだけど、どうしたものか……」
「たしか浅井姫には姉君が居たと思います。名前は確かヒサシ姫だったかと」
「きっ、貴様何故それを知っいる!!」
「ああ、やはり居たのですね。ふむふむ長浜に伝わる伝承は真実だったのですなぁ」
「近衛はん一人で納得しとらんとウチらにも分かる様に説明してんか」
「長浜を流れる姉川と呼ばれる川があります。その支流に妹川と言うのがございまして、これはヒサシ姫と浅井姫の姉妹になぞらえて名前を付けられたそうです。別の伝承では兄もいましたなぁ兄のタタミヒコと妹の浅井姫が背丈を比べた時に……」
「ぎゃぁぁぁ、おじさま。ごめんなさい、ごめんなさい、ごめんなさい、ごめんなさい、ごめんなさい、ごめんなさい、ごめんなさい、ごめんなさい」
おいおい、俺が食料として扱ったときより取り乱してるぞ。どんだけトラウマになってるんだよ。
◇◆◇◆
数分後、落ち着きを取り戻した浅井姫の話では近衛さんの読んだ本とは違い浅井姫には歳の近いおじさんとおばさんが居るらしい。分かりやすく説明するとカツオ・ワカメ・たらちゃんの中でたらちゃんのポジションが浅井姫だな。それで背を比べた時に浅井姫が勝った事に腹を立てたおじさんが竹生島に置き去りにしたそうだ。しかも首まで地面に埋めると言うおまけつきで、そりゃトラウマになるわな。
「よっ…… よく生還できたね」
「その時は人語を操る美しい龍に助けられたのです。あれは正しく妾達が先祖代々崇める龍神に違いないのですわ」
「ほお、蛇では無く龍なのですか。これは興味深い」
「何か知ってるの近衛さん」
「平安時代に藤原秀郷と言う御仁がおりまして。大蛇が変化した美女に怪物退治の謝礼として大鎧を貰ったそうです。この大鎧が摩訶不思議な物で普段は平な石なのですが叩くと鎧になるらしいのです」
「ああ、避来矢ね。素材が有れば作れますわよ?」
なんだってー! 石に鎧を収納できるだとぉぉ。それってファンタジー小説に良く有るアイテムボックスじゃないか。是非とも手に入れたい。だけとあまりにもがっつくと無茶な要求をされるかも知れない。ここは欲を抑えて返答した方がよさそうだ。
「へぇ、作れるんだ。ちょっと欲しいかも」
「でしたらわたくしのお願いを一つ聞いてくださらない?」
「出来ることならやるから言ってみなよ」
「長浜の北にある山本山の近くに大きなムカデが出て困ってますの。そのムカデを退治してくれたら避来矢を作るのを手伝いますわ」
「うえぇ、ムカデかよ。ソイツが生きていると何かマズいのか?」
「妾のおばさまは、越前と言う場所に嫁いでおりますの。そこへ最短で行く道が塞がれているだけですので気乗りしないのであればやらなくても結構ですわよ」
そのムカデが日本海側に出る最短の道を塞いでいるなら、面倒だけどいつかはやらないといけないなぁ。相手が生き物である以上成長する前に倒す必要があるし早めに行動した方が良さそうだ。
「分かった。その話を受けよう。朱里さん浅井姫の処遇はどうしようか?」
「近衛はんが浅井姫を殺せないとばらしてしもうたからなぁ。かと言って長浜に戻しても揉めるやろうし…… せや、浅井はんは何処かに頼れる親戚はおらんのか?」
「長浜の対岸に同胞が避難しているわ」
「それじゃあ、浅井姫にはそっち移住してもらって、その地域の自治を認めて交流する方向で調整した方がよさそうだね」
「そのへんが妥当やろなぁ」
いやあ~ 浅井姫は戦いのどさくさで死ななくて良かったな。救出した鏑木はグッチョブだよ。アイツは色々と問題が有る奴だけど見どころの有る奴だ。間違った方向に進まないように見守ってやらないとな。その話は置いておいて問題は世間の目が俺と朱里さんの関係を夫婦だと思っていることだ。問いただしてなんとかしないといけない。
市町村合併で無くなってしまいましたが、西浅井町(郡)と東浅井町(郡)が飛び地なのは上記の理由です。(実際には主人公の陣営ではなく戦った相手はタタミヒコと言われています)矢合神社には浅井姫が弓矢で応戦したと言う伝承が残っており、撤退戦をしていた可能性が高い。
民話では金糞岳と伊吹山が背を比べた結果、浅井姫の首が落とされて琵琶湖に落ちた浅井姫の首が竹生島になったと言う伝承があります。
青〇の高時川の愛称が妹川と言います。
補足説明
長浜に有る岡山神社は主祭神が鏑木が演じるスサノオで副神が浅井姫です。二人の関係はこうだっつたらいいな。
避来矢は江戸時代には浅草に置かれていたのですが火事で焼失しました。現在では残された金具を元にレプリカが作られ栃木県の唐沢山神社に奉納されています。
タタミヒコ・ヒサシ姫・浅井姫は兄弟説と親戚説があります。




