表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
黒匣の世界式  作者: 喜怒 哀楽/Yu1
運命の歯車
13/80

10話:蘇る記憶

 これまで、どれだけの傷を負おうとジンの身体は賢者の石によって再生されてきていた。


「く、そ……ッ」


 だが、今回は違う。

 原点回帰リスタートによって、元々無かったものとされたのだ。

 ジンの右腕は再生されず、今も全身に激痛が駆け巡っている。


「ジンっ、……すま、ない……っ、自分が……自分のせいで……っ」


 床に崩れ落ち、ヘルメスは痛みに耐えるジンの姿に涙を流して表情を歪めていた。

 一瞬の心の乱れが招いた致命的なミス。

 式崩しを外してしまい、絶望に打ちひしがれていたヘルメスは。

 精神的に追い詰められ、自分に迫る原点回帰リスタートを避ける事ができなかった。

 その結果、ジンの右腕が失われてしまった。


「……ッ」


 ジンは激痛に耐えながら、自分が叩きつけたヘルメスの元に鬼の形相で近づいていく。

 青筋がいくつもジンの顔に走っており、ヘルメスへの怒りが見てとれる。

 そして。

 ヘルメスの胸ぐらを、残された左手で力強く掴み寄せ、牙を覗かせて叫びだす。


「お前ぇ……ふざけんなよッ!!! 何だその体たらくはッ!!!」


「ジ、ン……」


 その声はとても弱々しく。

 歳相応の、少女の情けない姿がジンの目に映り込んでくる。

 胸ぐらを掴まれ息苦しく、目を細めて苦しむ今のヘルメスの姿に。

 ジンの心を、更に激しい怒りが包み込んでくる。


「チッ!!」


 怒り顕に舌打ちを放ち、そのままヘルメスを掴む手の力を弱める。


「ぐっ」


 そのまま床にペタンと座るように落ちていくヘルメス。

 ジンの怒りを、真摯に感じているヘルメスはそこから先、言葉が出てこなかった。

 今もその表情は。

 原点回帰リスタートを破壊する唯一の手段である式崩しを失った事で絶望をおびている。

 その弱々しい姿に、ジンは不器用想いを叫ぶ。


「あの威勢はどうしたんだよッ!! あれも結局、口だけだったのかッ!? ……アンタ、ここに来るまでの間……ずっと言ってたじゃねぇか。チビも、オプリヌスも、俺すら……目の前のもんは全部救いてぇって……ッ!!!」


 ジンとヘルメスがこの研究施設に訪れるまでの間。

 ヘルメスは、その想いをジンに告げていた。


 自分は、これまで……大切な人を失ってきた。

 だから、目の前で救えるものは――――全て救いたいんだ。


 ヘルメスは、過去に自分のせいで家族を失った事をずっと後悔してきていた。

 その想いを聞かされたジンは、ヘルメスの甘い考えを決して否定しなかった。

 それが、如何に不可能な事であるかわかっていながら。

 ジンも、本当にそうできればと願っていたから。

 だからこそ。

 ジンは、信じさせて欲しかったからこそ激怒していたのだ。


「ちょっとヤベェからって、簡単に諦めてんじゃねぇよッ!! アンタが抱く絵空事はこれぐれぇで諦めれる程度のもんだったのかぁッ!?」


 ジンの言葉に、ヘルメスは奮い立たされていく。


「……っ」


 そして、再び。

 その瞳に、強い意志が宿っていく。

  

原点回帰リスタートを攻略すんには……アンタの力がまだ必要なんだよッ!!! いつまでそうしてるつもりだッ!! 俺達はまだ生きてる……ッ!! どうにかできる可能性はまだ残ってるはずだろうがッ!!!」


 まだ、ジンは諦めていなかった。

 式崩しを外した今。

 全てを元に戻してしまう原点回帰リスタートを破壊する事は不可能に近い。

 やはり原点回帰リスタートを破壊するには、式崩しの存在はどうしても必要不可欠。

 しかし、それでもジンは諦めていなかった。

 この状況を何とか打破する方法を必死に考えていた。


「だが……、どうすれば……」


「……見かたを変えりゃ、見えてくるもんがあるはずだ」


 見かたを変える。

 それは。

 ジンが黒匣ジンという自分の存在に嫌気が差していた時に、恩人がかけてくれた言葉だった。

 賢者の石を体内に持つが故に、ほぼ不死身な身体を持ち苦しむジンに恩人はこう言ってくれたのだ。


 死ねない身体というだけで何故、そこまで嘆く必要があるんだい?

 見かたを少し変えてみなさい。

 我々、限られた命しか持てない人間を含め。

 どの生物達よりも長く人生を謳歌できるのだよ?

 確かに、我々より悲しい事も沢山経験するだろうがね……。

 だがねぇ?

 それと同じぐらいに、楽しい事や嬉しい事もきっと我々以上に経験できるはずだよ。

 少なくとも、今がそうじゃないのかい?

 フフ、私の可愛い坊や――――ジンはきっと幸せになれるよ。


「……」


 ジンが恩人のその言葉にどれほど救われた事か。

 自分のような境遇でさえ、見かたを変えればまた違った景色が見えてくる。

 ジンはその言葉を信じていた。

 それは、この様な状況でも言える事だと考えていた。


「見かたを……変える……?」


 ヘルメスはその言葉に聞き覚えがあった。

 すっかり忘れていたが、ジンによってその記憶が徐々に蘇っていく。

 ――――ヘルメスは、父からその言葉を受け取っていたのだ。


「ふぅ……仲間割れはもうお終いですか? 中々、面白いものを見せて頂きましたが……そろそろ賢者の石を奪わせてもらいますよ」


 二人の短い言い争いを、愉快そうに傍観していたオプリヌスだったが。

 もう我慢の限界だった。

 賢者の石を求めて、漆黒の鎧、そして原点回帰リスタートを二人へと襲い掛からせる。


「チッ!! 不味いな、どうするッ!? おいッ!! いい加減立てッ!! このままじゃ本当に殺されんぞッ!!!」


 原点回帰リスタートの攻略法が思いつかないまま、身体中から汗を噴出し焦るジン。

 だが、ヘルメスはそれとは対照的に床の上で。

 静かに物思いにふけっていた。

 ジンの言葉、かつて父から授かったその言葉を思い出していたのだ。

 ヘルメスに、遠い記憶が蘇る。





 ◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆





 ――――弟のカルロス以外、父様と母様は不出来な自分に対してとても冷たい。

 でも、……それでも何故か父様は毎晩、不思議な絵本を読んでくれる。

 父様が読んでくれる絵本はいつも決まって同じもの。

 それは、異世界の錬金術師の哀しい物語。

 それしか読んではくれない。


「今日も……上手くいかなかったみたいだね、ヘルメス」


 カルロスと違い、出来の悪い自分に対して父様が見せる落胆の表情はとても心苦しい……。

 父様は母様とは違い、言葉や暴力でその想いを直接表現する事はなかったが……。

 何故、自分はエーテルの血を継いでいながら錬金術がまったく上達しないんだ……。

 何故……。


「申し訳……ございません……」


「……もう夜も遅い。さぁ、これを読んだら明日の訓練に備えてすぐに寝るんだよ」


 自分は毎日毎日、本当に謝ってばかりだな……。


「はい……、申し訳ございません父様」


 何度も繰り返し読まれたその絵本の内容は、いつの日からか自然と覚えてしまっていた。

 でも、それでも父様はこの絵本しか読んでくれない……。

 絵本の内容はこうだ。

 この世界とはまた違う別の世界の話。

 異世界を舞台にした物語。

 その世界にも錬金術師は存在していて、主人公の男の子は錬金術師。

 世界に絶望する可哀想な子だった。


「この男の子……可哀想、ですね」


「可哀想……? ……それは、どうだろうね」


 そして……願いを助けてくれるという不思議な石を手に入れたが為に。

 世界を破壊する程の、錬金術とはまったく違う不思議な力を編み出してしまうんだ。

 でも……その不思議な力を使うには大きな犠牲があって、男の子はどんどん人から離れていったという哀しい最後だった。


「……何故、自分にこの絵本を毎晩読んでくださるのですか?」


「……」


 何度質問してみても父様はこの質問に答えてくれなかった。

 ……自分で考えろという事なのか、結局わからない。

 そしていつも、父様は絵本を読み終えるとこう締めくくる。


「私やヘルメス……解読眼デコードを持つ者には、この世界を構築する全てのコードが視えているだろう?」


「はい……」


 でも、自分には……父様達とは違って視えているだけ。

 視えているだけで理解できていない。

 だから複雑なコードが解けない……だから自分は錬金術がまったく使えない……。


「錬金術とはコードから答えを導くものだ。それぐらいは……理解しているね?」


コードが無ければ全ては存在できない、ですよね……」


「そうだ、それこそがこの世界本来の姿だ」


「本来の姿……」


「だが――――少し見かたを変えれば、また違った世界が見えるのかもしれないね。絵本の男の子が使った不思議な力のように」


「はい……」


「……その為には既存の概念を取り払う事が必要だ。だからと言って錬金術の鍛錬は怠ってはならないよ」


 父様はよく、自分には理解できない事ばかりを言っていた……。

 




 ◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆





「……待て。錬金術師が使った世界を壊す不思議な力?」


 ようやく目を覚ましたように意識をはっきりさせるヘルメスだが。

 既に漆黒の鎧とウロボロスは目の前に迫っていた。


「うおッ!? な、避けるぞジンッ!!」


 激しく動揺しながら、ようやく床から立ち上がるヘルメスにジンは焦りと呆れた表情を浮かべていた。


「当たり前だろうがッ!!」


 漆黒の鎧の数体は刃物を振りかざし、ジンとヘルメスを追い詰めようとしてくる。

 そして。

 膨大な青白いコードを剥きだしにした、大きなウロボロスのような形状をする原点回帰リスタートが、ジンとヘルメスに向かって右往左往と素早くうねりながら突き進んできていた。


「ッ、左に飛べッ!!!」


 ヘルメスの叫びに呼応するように、ジンはヘルメスと共に精一杯の脚力で左側へと飛んでみせた。

 すると先程まで二人が居た床が、原点回帰リスタートによって存在が保てないまでの微量なコードとなり、ぽっかりと大きな穴を空ける。


「いくら式崩しが無くなったとはいえ、やはり解読眼デコードは邪魔ですねぇ……」


 漆黒の鎧と原点回帰リスタートの距離を一旦、二人から離して出方を伺うオプリヌス。


「ぜぇ、くそ、やっぱ原点回帰リスタートは厄介だぞ」


 ヘルメスにしか視えない原点回帰リスタートを回避し続けるのは非情に難しい。

 汗を流して、ジンは強張った表情でヘルメスに視線を向ける。


「あぁ……何とかせねば」


 ヘルメスは改めて考えていた。

 先程、思い出した絵本の主人公が使ったとされる、錬金術以外の世界を破壊する不思議な力について。

 この状況に追い込まれ、すがるようにしてある答えに辿り着いていた。


「まさか……あれは式崩しの事なのか」


 世界の理から外れた存在。

 そして、全てのコードを破壊する式崩し。

 絵本の主人公が使った不思議な力に似ている。

 そして、絵本の主人公が持っていた不思議な石。


「もしそうなら……不思議な石というのは賢者の石、なのか? だとすれば……あの主人公は賢者の石を使って式崩しを構築した事に……」


 オプリヌスと漆黒の鎧から視線を離さず、ジンは警戒心を強めながら一人呟くヘルメスに声をかるが。

 今のヘルメスにはその声が届いていない。

 蘇った絵本の記憶を頼りに、ヘルメスは必死に考えていた。


「おい……さっきから何ぼそぼそ言ってんだアンタ。死にたくなけりゃもっと集中しろよな」


 絵本が指していた不思議な力が式崩しだとすれば、恐らく式崩しの構築に必要なものは賢者の石。

 つまり、原点オリジンコードという事に。


「このままじゃ……俺ら本当にあいつに消されんぞ」


 錬金術とは、コードから答えを導くもの。

 だが式崩しの弾自体は錬金術で構築できるが、魔銃含めて世界の理から外れた存在。

 つまり、錬金術で構築できるが厳密には錬金術ではない何か。


「クク……どうやらもう手は無いようですね」


 錬金術ではない何か。

 ヘルメスの父が言っていた言葉。

 見かたを変える、既存の概念を取り払う――――


「まさ、か。い、いや、もしかすると……ッ!?」


 唯一、父に優しくされたと感じたヘルメスの記憶。

 ジンのあの一言でそれを思い出す事ができた。

 才能に恵まれなかった為に錬金術がほぼ扱えないヘルメスだったが。


「何だ、父様は……、こんな自分に、式崩しの構築方法を教えてくれていたじゃないか……」


「お、おい今度は何だよッ」


 慌てふためくジンを気にせず。

 自然とヘルメスの瞳に、嬉しさで涙が溢れてきていた。

 錬金術の才能に恵まれなかったヘルメスに、父は錬金術以外の何かを教えようとしてくれていた。

 それに気づけただけで、ヘルメスには十分だった。

 涙をコートの裾で拭い、それに気づかせてくれたジンに感謝するヘルメス。


「ありがとう、ジン。おかげで自信が少しついた――――」


 ヘルメスは深い溜息を吐いた後、強い決意を瞳に宿してジンに告げる。


「――――自分が式崩しを構築しよう」


 だが、ヘルメスには肝心の構築方法。

 どうすれば世界の理から外れた存在を錬金術で構築できるのかまだわからない。

 しかし、それでも式崩しの構築は。

 長年、どれだけ鍛錬を重ねようが上達する事のなかった不得意な錬金術ではないと確信していた。


「はぁ!? どういう結論でそうなるんだよ!? 大体アンタ、錬金術の腕なんてからっきしなんだろ!? ……それに式崩しを構築するコードなんて誰も知らないんだろ?」


 当時は理解できなかったヘルメスだが。

 今ならわかる。

 父は解読眼デコードを持ちながらも錬金術の才能に恵まれなかった娘に対して、何故か絵本を通じて式崩しを構築する方法を伝えていたのだ。

 絵本に出てきた願いを助けてくれる不思議な石は、すなわち賢者の石を指している。

 式崩しの元となるのは原点オリジンコード

 そして、錬金術という概念を覆す方法を何とか思いつけば式崩しは構築できるはず。


「確かに自分は錬金術の才能が無い。だが……今から行う錬金術は錬金術ではない、はずだ。ならば自分にも可能性はある。ジンの言葉がきっかけで……あの絵本を思い出す事ができた」


「絵本だと……?」


 静かに二人の争いを不気味な笑顔で見つめていたオプリヌス。

 二人のやり取りをしている間も、ジンの腕は再生する兆しを見せなかった。

 これで原点回帰リスタートでジンの身体を再生させず、消す事ができるとようやく確信できた。

 後は、賢者の石を残してジンとヘルメスを消せば全てが終わる。

 式崩しを失った今の二人を相手に、オプリヌスは余裕の表情を浮かべていた。

 だが、


「クク……何やら馬鹿げた発言が聞こえてきたようですが? どうやら、ついに頭が本当におかしくなったようですね。……錬金術がまともに使えなかったが為に家族を失い――――挙句の果てにエーテルの名を地に貶めた落ちこぼれの貴女が、あろう事か式崩しを構築する!? ……はッ、私を馬鹿にするのも大概にしてもらえますかねぇッ!!!」


 かつて、ヘルメスは自分のせいで家族を失った。

 自分に、錬金術の才能が無かったが為に。

 それはギリスティアの王従士ゴールデンドールだけでなく、国民にも知れ渡っていた。


「……」


 悲惨な過去をオプリヌスに罵倒され、無言のまま後悔と怒りに身を震わすヘルメス。

 だが、そんなヘルメスの肩にジンの手が優しく乗せられる。


「本当に……できんだろうな?」


 それはとても温かいものだった。

 ヘルメスはそれがジンの優しさだと感じ、凛とした表情を取り戻していく。


「フフ……あぁ、自分を信じてくれ。だがまずは構築方法を考える必要がある」


 覚悟に満ちた表情とその声に、ヘルメスが式崩しの構築について何か掴んだとジンは信じ。


「ケッ、さっきまでと全然違うじゃねぇか。いいねぇ、わかったよ。でも、あんまボサっとすんじゃねぇぞ!!!」


 快く了承する。


「任せてくれ! ……そうだ、ジン。いくつか伝えておきたい事があるんだ、耳を貸してくれ」


 絵本の内容を簡単にジンの耳元で囁いた後、ヘルメスは更に今までの戦闘を考察した結果から導き出した原点回帰リスタートを操るオプリヌスの弱点についても吹き込んでいく。


「あん? ――――……なるほどなぁ。まぁ、試してみる価値はありそうだな。よし……んじゃ反撃といこうかい? 王従士ゴールデンドール殿」


 勝機の兆しが見え始めた事で、ジンは口元をニヤリとさせて。

 首に手を当てて、ポキポキと音を立ててオプリヌスに視線を向ける。


「あぁッ!!」


 ジンとヘルメスは全力で飛び出すようにして走り出す。

 原点回帰リスタートを破壊する方法は、やはり式崩し以外に無い。

 だが、止める事は可能かもしれなかった。


「まさか、本気でエーテルに式崩しを構築させようとするとは……何よりも真っ向から飛び込んでくるとは、やはり馬鹿共か」


 オプリヌスの合図と共に、二人を迎撃しようと漆黒の鎧と原点回帰リスタートが動き始める。


「うっせぇッ!!! どうせこのまま駄目なら一か八かやるしかねぇだろッ!!!」


「ジン! 前から原点回帰リスタートがもうすぐ来るぞ!」


「おうッ!!!」


 ジンはヘルメスに原点回帰リスタートの位置を聞かされると。

 何故か避ける素振りを見せず、そのまま漆黒の鎧が持つ剣を強引に奪い取ってオプリヌスへと投げつけた。


「まさか……」


 オプリヌスの側には、漆黒の鎧の姿はない。

 だが。

 剣はあまり勢いが加えられておらず、オプリヌスでも簡単に避ける事が可能だが。


「気づかれてしまったか……」


 しかし、避けない。

 いや、オプリヌスには避けられなかったのだ。

 原点回帰リスタートが素早くジンからオプリヌスの元へと動きを加速させて戻っていき。

 剣を消し去るが。


「どうやらアンタの読みは当たってたみたいだな」


 ジンは口元をニヤリとする。


「あぁ! よし……ッ!! これでまずは時間が作れたな」


 そして漆黒の鎧達は。

 全力を出すジンとヘルメスによって、いつの間にか全滅させられていた。


「アンタの言った通り……原点回帰リスタートを使ってる最中、あいつ本当に動けねぇみたいだな」


 ヘルメスはオプリヌスがこの部屋に訪れるまで、原点回帰リスタートを漆黒の試験瓶に仕舞っている事に気づき、それを確信するようになっていた。


「道理で、んなスゲェもん使っておきながら鎧共をわんさか引き連れてたってわけだ。さて……」


悪魔スレイブナイト災獣キメラも……もう居ないぞ。どうするオプリヌス」


 原点回帰リスタート程のコードを自在に操るには、オプリヌスが原点回帰リスタートを行使している間はその場から動けないというデメリットがあったのだ。

 それに気づかれ、オプリヌスもきっと焦りだすかと二人は思っていたが。


「……だから何だと言うんです。そんな事がバレた所で原点回帰リスタートがある限り私に敗北は有り得ないッ!! 賢者の石が私の物になるのは決定事項なんですよぉッ!!!」


 そう。

 これからオプリヌスを二人で集中的に攻撃した所で、オプリヌスが原点回帰リスタートを身に纏わせたりなどして阻止されてしまうのは明白。

 どうしてもヘルメスが式崩しを構築するしかなかった。

 

「……ジン、原点オリジンコードを自分に預ける事は可能なのか?」


 賢者の石。

 つまりジンに原点オリジンコードを出して貰わない事には、まず構築しようがない。

 だが――――


原点オリジンコードが必要だって言ってたけどよ、それが……無理な話でよ。俺の手から離れた瞬間、原点オリジンコードは消えやがる。かと言ってアンタの側にずっと居るわけにもいかねぇだろ……? そんな事してたらすぐに二人とも消されちまう……」


 あと一歩という所で、二人は壁にぶつかってしまう。

 落胆する二人に、オプリヌスは眉間にシワを寄せながらその怒りを訴える。


「私の賢者の石を使う……だと? ふざけるのも大概にしろッ!! それは私のモ――――」


 その途中で。

 オプリヌスの怒りの言葉は。

 ヘルメス、そしてジンの背後から青白い光と共に壁が崩壊した事で遮られてしまう。


「何だぁッ!?」


 何事かと三者がその位置に急いで視線を移すと――――壁を錬金術でぶち破り、小さな少女が悲鳴と共に飛び出してきた。


「うぎゃぁああああああ、こっち来んな馬鹿あぁあああああああ」 


 その姿に、ジンは口を馬鹿みたいに開けて顔面を蒼白させ。

 ヘルメスは、とても驚いた声をあげる。


「り、リディア!?」


 涙目のリディアを追う災獣キメラ達もその穴を潜ろうとするが、必死にジンが足蹴にしてそれを阻止する。


「お、おい、つか何だよこの大群はッ!!」


「ぜぇ、はぁ、ぜぇ、……へ?」


 すぐさまリディアはヘルメスに気づき、更に号泣しながら全力で抱きつていく。 


「へるめぇええええええええええす」


「ちょ、リディア、何でリディアが此処に居るんだ!?」


 強く抱きしめられ、胸に顔を埋めて泣き続けるリディアにヘルメスは困った表情を浮かべてしまう。


「うわああああああん、これが愛の力なのよおおおおおおお」


 余程恐かったのかヘルメスに抱きついたまま離れようとせず、意味不明な叫びをあげるリディアだった。

 だが、その親友との再会に水を差すようにジンが苛立ちを叫ぶ。


「おいッ!! 早く自分で空けたもん塞げッ!! あと、前ッ!! オプリヌスを足止めしろッ!!!」


 ジンの叫びに気づいたヘルメスは、原点回帰リスタート向かってくる事を確認して息を呑んでリディアを急いで一旦離して銃弾をオプリヌスに撃つ。

 すると、やはりオプリヌスを守る為に原点回帰リスタートは銃弾へと進路を変更してそれを消滅させる。


「すまん、リディア! まずはジンの言う通りそこを塞いでくれ!」 


 そのまま、オプリヌスへの発砲を途切らさないよう、次々と銃弾を魔銃に込めては撃ち続ける。

 銃弾にも限りはあるが。


「リディアが来てくれて、助かった……」


 リディアに錬金術を使ってオプリヌスを攻撃し続けてもらえば、ヘルメスとジンは式崩しの構築に集中できる。

 ヘルメスが自分を必要としている、そう感じ取ったリディアはようやく涙を止めて壁を塞ごうとする。 

「ぐすん、わかったわよ……」


「早くしろ糞チビィイイイイイ」


「ヒィっ、わ、わかったから怒鳴らないでよ」


 素早く壁に両手を当て、青白い光を発生させていく。

 強度は元のものよりも落ちてしまうが、錬金術によって穴を修復して災獣キメラ達を反対の部屋へ押し返す事に成功した。


「ふぅ……」


 ようやく足が解放されたジンは、リディアの頭をとりあえず小突いておく。


「ったぁああ、何すんのよこの空腹馬鹿ッ!!!」


 そこまで痛くないのか、片手で頭を擦りながら背伸びをしてジンを睨みつけてくるリディア。


「何すんのよじゃねぇよ!!! 逃げろって言ったよなぁッ!? それが何で災獣キメラの大群引き連れて戻ってきやがったんだよ!!!」


 ジンが拳を掲げ、もう一度リディアを小突こうとしていると。

 銃声が鳴り止む。  


「まぁ、無事で何よりだリディア。心配したぞ……それに、リディアが来てくれたおかげで構築する時間が何とか稼げそうだ」


「へ、どういう事?」


「あー……なるほどな」


 三人のやり取りに、オプリヌスは狂気と怒りに満ちた表情を浮かべていく。

 青筋を立てながら、不気味な笑みを零していた。


「どいつもこいつも、この私の邪魔ばかり……クヒヒヒ」


 ヘルメスはそんな元部下を前に、冷静な口調で二人に助けを求める。


「二人共……協力してくれ。これから――――自分が式崩しを構築する」


 覚悟を決めたジン、そして目を大きく見開いて驚くリディア。

 ヘルメスは、一人の錬金術師として世界の理から外れた存在の構築を試みる。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ