7.カラオケだったらお任せを!
7.カラオケだったらお任せを!
ここの食事処は通常のコースに一人一人の好みに合わせた品をチョイスすることが出来るのだけれど、ここに来るまでに酔っぱらっている人も居るだろうと予測していたボクは全員同じコースでオーダーを入れておいた。
前菜から煮物、焼き物、洋皿など、旬の食材を使った料理はどれもおいしかった。食事とは別にボクはワインの白を1本オーダーしていた。律子さんが部屋に持ち込んでいたのは同じワイナリーのロゼだった。少し甘口で食事前のお戯れにはちょうど良かったけれど、こういう料理の席ではしっかりした味の白ワインというのがボクの好みでもあったから。
「このワイン、美味しいわね」
さすが美子さん。お酒の味に関してはこの人の右に出る者は居ないんじゃないかな。
「うん、僕も好きだな」
ようやく二日酔いの酒が抜けたのか、ここにきて大橋さんが元気を取り戻したようだ。たぶん、温泉に浸かったのも良かったのかも知れない。
「いやー!美味い」
そうは言っても、まるで味わってはいないのではないかという様に一気にグラスを開けているのは閉伊さん。
「さっきのに比べたら辛いけどおいしい」
飲み方は閉伊さんと同じだけれど、律子さんはいくらか味が分かっているようだ。
「日下部さん、私たちはこっちのソフトドリンクを頼んでもいいかしら」
香穂里さんとまゆさんは本当に女の子らしい。それに比べて…。雫さんは一人で生ビールをピッチャーで頼んで一人で抱えている。
「皆さん本当にお酒が好きなんですね」
「そう言う午雲さんこそ好きでしょう?」
「僕はたしなむ程度ですよ」
午雲さんの前には日本酒の二合徳利が置かれている。
ここに来る前、部屋で散々飲んで食べていたのに、料理はみんな全部平らげた。
「私たちもみなさんと同じに思わないでくださいね」
香穂里さんとまゆさんはしっかりしている。ずっと冷静だ。
「私たち、寝る前にアロマサロンへ寄って行きたいのでお先に失礼してもいいかしら」
「うん。お二人の酔った姿も見たかったですけど、どうぞ」
「もう!日下部さんったら」
「本当ですよ。今度は個人的に誘ってください」
まゆさんはそういって、ボクにウインクをしてくれた。
まゆさん!そんなことを言われて、そんな風にウインクまでされたら好きになっちゃうじゃないですか…。
「よし!俺たちはまだまだ盛り上がるぞ!」
「いいぞ!りっき」
この二人はどうしたらこのテンションの高さをキープし続けられるのかが不思議なくらい盛り上がりっ放しだ。当然、酒のせいなのだろうけれど。
「じゃあ、カラオケに行きましょう」
おっ!いよいよ大橋さんの得意分野だな…。
「僕もこの辺にしておきますよ」
午雲さんは辺りを少し散策したいと言って、ここで離脱した。
「おっ!なんだかちょうどいい感じじゃないか」
「何がですか?」
「ほら、見てみろ。ちょうどカップルが三組だ」
「あらいやだ!私のお相手は誰かしら」
恥ずかしそうに美子さんが言う。目が合っちゃったよ。
「どうぞ」
ボクは美子さんに腕を差し出す。美子さんはボクの腕に手を回す。
「ちぇっ!しょうがないから付き合ってあげる」
そう言って雫さんは大橋さんの手を取る。
「しょ、しょうがないって…。雫さんお願いしますよ」
ラウンジに他の客は居なくてボクたちの貸切状態だった。大橋さんは早速カラオケをリクエストした。1曲目は最近のヒット曲で『女々しくて』。続いて『愛が生まれた日』を雫さんとデュエットで。3曲目はサザンの何とかいう曲。後はもう覚えていない。というより覚えきれないくらいの曲を大橋さんは歌っていた。
大橋さんは殆ど席に戻って来るヒマがないほど連チャンで歌いまくっている。雫さんはボクの隣に座ってため息をついた。
「ちょっと疲れたなあ。この週末に休みを取るので先週はほとんど寝てないんだ」
「やっぱり?今日はちょっと元気がないような気がしましたもの」
そこへ香穂里さんとまゆさんがやって来た。アロマサロンの帰りに散策から戻った午雲さんに会ったのだと言う。みんなでカラオケに流れたと聞いて顔を出したのだそうだ。入れ替わりに美子さんが部屋に戻った。もう一度、今度は大浴場に行ってくると言って。
香穂里さんとまゆさんは二人並んで席の端の方に座った。それでもいい香りが漂ってくる。
「大橋さん、上手ですね」
「本当!私、この曲好き」
これはちょっと大橋さん、モテ期の始まりかな…。