10.また会いたい。 うん、必ず!
10.また会いたい。 うん、必ず!
チェックアウトを済ませて売店でお土産を物色していると閉伊さんの叫び声が聞こえた。
「日下部君、部屋の鍵を貸してくれ!」
「えっ?もう返しちゃいましたけど、忘れ物でもしたんですか?」
「これを見ろ」
閉伊さんは足を上げて見せた。
「スリッパ?」
「靴履き替えて来るのを忘れた!」
「あっ!」
別のところから雫さんの声。まさか…。
「靴履き替えて来るの忘れちゃったよ」
閉伊さんと雫さんは慌ててフロントへ駆けだした。
「よくやるんですよね」
笑いながら午雲さん。
「りきてっくすさんらしいね」
大橋さんは相変わらずのしゃがれ声。
「今日は二日酔いじゃないんですか?」
「酒はあまり飲んでいないからね。その代りこれだもん。二日酔いよりもある意味辛いかも」
香穂里さんとまゆさんはいつも二人一緒だ。伊豆の民芸品を仲良く見ている。美子さんは干物を大量に買っている。
「家呑み用よ。宅配で送るわ」
なるほど。
律子さんは一人でアクセサリーを物色している。
「誰へのお土産ですか?」
「うわあ!急に現れないでよ!びっくりしたなあ」
「それ、可愛いですね」
律子さんが手にしているみかんのキャラクターのストラップを見てボクは言った。
「そう?鉄人がそう言うならこれにするわ」
「二つ買うんですか?」
「いくつ買おうが私の勝手でしょう!」
あれ、怒らせちゃったかな…。
靴を履きかえた閉伊さんと雫さんが戻ってくると、バスの時間までボクたちはラウンジでお茶でも飲むことにした。
「ここで昨夜は大橋さんが大暴れしたのね」
「河さん、そんな大暴れだなんて」
「おかげで僕は退屈でしたよ。一晩ゆっくりお話しできると思っていたのに」
「午雲さん、次の機会には是非」
「そのしゃがれた声で言われても真実味がありませんね」
顔を引き攣らせしきりに頭をかく大橋さん。
「でも、この旅行は本当に楽しかったですね」
「本当に。皆さんの色んな一面を見せて頂くことが出来ましたし。日下部さんも色んなものを見ちゃいましたものね」
「まゆさん、それって…」
「誰にも言いませんから安心してください」
「まゆゆ、どうしたの?」
「閉伊さん、なんでもありませんって」
「そうよ!りっきさんに裸を見られたのは一生の不覚だわ」
「裸…。本当に見られたんですか?」
「そうよ!」
「うん。キレイだったなあ。まゆゆの全裸。やべっ!思い出したら鼻血が出てきた」
「どうせ、ただの飲み過ぎでしょう?このまま出血多量で死んでしまえばいいのに」
「まゆさん、そんな過激な発言は…」
「あら、イメージが壊れちゃう?」
「ええ、その、何と言うか…」
「日下部さんて、可愛いわね。不倫の達人で、女たらしみたいなイメージがあったけど」
「香穂里さん、それは小説の中のことですから」
「解かってるわよ、そんなこと。ちょっとからかっただけですから。それより、さっきのまゆゆの意味深な言葉が気になるのだけれど」
「あのね、実はさっき…」
「まゆさん、お願いしますから…」
フフッと笑うまゆさんの笑顔を見たら何でも許したくなっちゃうから不思議だ。それにやっぱりメガネが良く似合う。
香穂里さんも意外とやんちゃなんだ。そりゃあそうか。『わる子ちゃ』や『ズレ子ちゃん』を書いてるんだもんな。
雫さんは…。言うと怒られるかも知れないけれど、やっぱり一番大人な感じがした。歳食ってるってことではなくてね。
美子さんは思った通りの人だったなあ。午雲さんや大橋さんもイメージ通り。閉伊さんは意外といい人だったなあ。でも、やっぱりボクは…。
「そろそろバスの時間ですね」
午雲さんがそう告げるとみんな席を立った。
「さあ、帰るべ!」
バスに乗り込むと雫さんが急に吐きそうだと言った。朝から飲んでるし、靴を履きかえるのに部屋まで走ったからなのかもしれない。
修善寺の駅からは伊豆箱根鉄道で三島まで出た。車内で雫さんが律子さんを急き立てる。
「ほら!遠慮しないで」
律子さんは遠慮気味にボクの隣に座った。昨日の律子さんとは全く別人みたいだった。ボクはこっちの方が本当の律子さんなのだと思うし、そんな律子さんが好きだ。
三島からは新幹線で東京まで戻った。そして、ホームで解散した。
「それじゃあ、皆さんお疲れ様でした。また行けるといいですね」
「そうね。日下部さん、今回は無理やり幹事ふっちゃったけど苦労様でした」
「おう!日下部君、楽しかったよ」
「本当にありがとう。こんな声で申し訳ないけど」
「本当にまた行きたいわね。今度はちゃんと見せてあげるからね」
「そうね。言ってくれれば私も見せてあげたのに。まゆゆほどピチピチじゃないけれど」
「私も楽しみが増えたから長生きしなきゃね」
「私もお役にたてたようで来た甲斐があったと言うものですよ」
「それじゃあ、皆さん、お元気で!」
そしてボクらは一斉に散らばった。最後に律子さんと話が出来なかったのは残念だったけど…。
ボクは地下ホームに向かう。エスカレーターの手前で背中を誰かに引っ張られた。振り向くと律子さんだった。
「これ…」
そう言ってホテルの名が印刷された小さな紙袋をボクの手に握らせた。そして、すぐに離れて行った。
「また会いたい」
そう言って手を振った。
「うん、必ず!」
ボクも手を振って応えた。
帰りの地下鉄の中でボクは律子さんに貰った袋を開けてみた。みかんのキャラクターのストラップだった。
はい!偶然だけど、ぴったり16,000文字でした。
誰か、次の幹事をやって頂けますか?




