おちる、そら
たいへんタイヘン大変永らくお待たせしました。
――其は、天より現る。
蒼き空の紋章を背にし
空を一直線に切り裂いて
『ごちゅうもんは――』
この世あらざる輝きをした白銀の薄衣を纏いて、この地に降り立つ。
透き通るような白皙の肌の、背と肩と生足。
きりりときれあがった小ぶりなおしりについたふわふわのうさぎしっぽ。
少女はくいっと上半身だけ見返り、ひとさしゆびを紅唇にあてて一言。
「――バニーですか!?」
どっぱーんっ!(効果音)
背後で、色とりどりの爆発煙とリボンに紙吹雪が吹き荒れる。
――刻は凍/停まった。
硝子化した大地をふきすさぶ風。
吹かれて消えゆく色煙に紙吹雪。
風に揺れる、白銀のうさみみ。
「あれぇ……??」
かくんと小首を傾げてつぶやくうさみみ少女。
「おっかしーなー? これ、いま流行じゃなかったけ?」
心底不思議そうにだれともなくたずねる。
だが、だれもが凍り付いている。(比喩表現)
ふぁさふぁさと草の塊が転がっていく。(演出)
ぽくぽくぽくぽくちーん!(効果音)
「あ、ごめーん、2000年ほどずれてたみたい!」
頭をこつんとたたきなながらてへっと舌をだしてウィンクする白銀のうさみみ少女。
深い爪痕がひろがる大地をふきすさぶ風。
揺れる、白銀のうさみみ。
てへぺろしているうさみみ少女
ごうごうとうずまく大気が抵抗もなく素通りする胸
ふぁさふぁさと草の塊が転がっていく。(演出)
「だ・れ・が・絶・壁・じゃーーーーーーっ!!!!」
少女が絶叫する。
笑顔のままで、うがーとなにかを威嚇しながら。
しかし、だれもが凍り付いている。(比喩表現)
「あーもーノリが悪いよ、キミたち。ここはほら、もっと、こー驚くリアクションするとこでしょっ!! あんたはだれだーとか、"主よ"とかさー!」
彼女たちには意味不明な文句をつけるうさみみ少女。
伝国の秘宝、真なる神器”ヤタノカガミ”へ愛する”勇者”を捧げ、救国を請い願ったというのに、天を切裂いて降り立ったのは、破廉恥極まった格好の少女。
なにがなんだかわからない。
だというのに、その状況に最も早く適応したのはカーラだった。
「ああ、女神様っ! どうか、その御力をもって、”世界の敵”を倒し、この世界をお救いくださいませっ!」
目の前にひざまづき、祈るようにして請い願う。
痴女だが、仮にも神器が召喚したモノ、配下とともにアレにぶつけて時間を稼ぎ、自分の唯一魔法をもって殲滅すれば――カーラはすぐさま思考を切替えていた。
「おおっ、ノリノリだねっ! おっけーおっけー、ミナゴロシにすればいいんだねっ!」
「――え?」
その言葉に困惑するカーラを置き捨て、うさみみ少女はすいっと右腕を掲げ
ぱっちーん
指を音高く鳴らす。
視界すべてがしろくそまる――
音もなく
――気が付けば、白銀と蒼の世界にカーラは居た。
ゆるやかに湾曲した地平線。
とおくとおく、はるかとおくまで。みわたすかぎり。
在るのは、擱座した黒い巨人が一騎のみ。
気高き山々も豊かな森も小高き丘も緑濃き平原もなにもなく、ただ地平線だけが。
「な、に、これは……」
「ん? “世界”を救うんでしょ? だから“世界”に害悪なモノを排除したよー」
いつの間にか、前に立っていたうさみみの少女があっけらかんと応える。
手を後ろでくみ、小首を傾げて、変わらないほほえみのまま。
カーラは意味が解らなかった。
世界から、害悪を排除する? 害悪とは何か? 排除されたものは世界の害悪……
ただ本能は理解した。
この光景を、目の前のモノがつくったものなのだと。何もかもを消し去ったのだと。
「――なんてこと、を」
カーラは絶叫する。
「返せっ!」
詰め寄る。自らが女神と呼んだソレに。
「返せっ!!」
自分のモノが奪われ/消し去られた。
このわたくしが導き統治すべき下等民たち
手足となるべき貴族と騎士たち。
八千八百八十八万にも及ぶ、わたくしの人民を奪ったのだ、コレは。
このわたくしが住まう絢爛美麗なる帝城も
手足となり盾となる騎士たちも
史上もっとも偉大な帝となるわたくしを褒め称え敬う貴族たちも
絢爛華麗なる王錫も宝冠も礼装も宝石も黄金も城も――なにもかもを。
この世全てを統べるべき、このわたくしの許しなく奪うなんて。
それは許されることではない!!
喪失感を赫怒に変えて。
カーラは詰る。
「返せっ!、わたくしの世界を返せっ このわたくしのモノを!!!!」
我を忘れ、ふざけた格好のモノの首を締め上げる。
「本音、本音漏れてるよ、もう少し取り繕おうよ~」
うさみみ少女は、されるがまま、変わらぬ笑みのまま。
醜く歪んだ悪鬼の形相でカーラはぎりぎりと締め上げ叫ぶ。
「わたしのものを返せぇえええーーーーっ!」
「もう、しかたないなぁ、カーラちゃんは。じゃ、戻すよ」
首を絞められているのに変わらぬ笑顔のまま、うさみみ少女は左腕を掲げ、指を音高く鳴らす。
ぱっちーん
なんの脈絡もなく、唐突に景色が変わる。
それはまるで絵画を入れ換えたように。
ちちちち……
鳥たちの鳴き声。
見上げるほど巨大な樹木がいくつも見える豊かな森林が左右に広がり。
開けた街道、その奥に広がる平原と山々。
あの地平線だけの白銀世界が、夢幻のごとく。
なんの脈絡も前兆もなく、豊かな自然の世界がそこに。
世界が塗り換えられた/現われた/戻った。
巨人騎士たちが戦った痕跡も、魔法による破壊の痕も、そして、なによりも無傷な騎士たちの姿がそこに。
さきほどまで、確かに何もなかったのだ。
寒々しいまでに澄んだ蒼い空。
見渡す限り緩やかに湾曲した翠の大地。
どこまでもまっすぐに流れていく、優しく温かな風。
――厳しく冷たい風を憶えている。
その寒さを憶えている。
そう、見渡す限り、何もなくなっていた、白銀の世界を、憶えている。
それは確かにあったと憶えている。
だというのに――この風景もまた、たしかにそこにあると。
整列した絢爛華麗な帝国騎士たちが顔を見合わせてながらざわめいている。
「お、おい。俺たち、なんでこんなにきれいなんだ?鎧だって修復されて――」
「お、おかしいぞ、おれ、腕が吹き飛んだはずなのに」
「あの獣どもはどこにいったんだ?」
失われたはずの忠勇無双の帝国騎士たちが戸惑うのを見据え、無意識にカーラはつぶやいた。
「いったい……なにが……おきて……」
「元に戻したよ。ついでだから地形も」
首を絞められたまま、うさみみの少女がカーラを上から覗き込むようにしてこたえる。
誇るでもなく、苦笑するでもなくただそうしたというように。
元に戻した。
それはすなわち、失われた/殺したものも関係なく、元に戻したのだと本能は認め、理性は認めない。
死者蘇生や完全再生魔法など夢物語、そんなものは存在しない。
ならば、これの正体は――
知らず怖れたカーラは、不意に閃いた。
幻覚、それも五感をだませるほどの精巧な。
ならば、それは現実と同じだということを。
奪取―かつて帝国最強と呼ばれた規格外魔法の使い手がいた。
その規格外魔法――”聖域”は都合の良い世界を構築し、神にも匹敵する力を行使できるという。
概要を伝えられた帝国魔法院でさえも信じず、異例の上級研究員による精査が行われたが、詳細な報告書は提出されると同時に帝国魔法院の最秘奥とされ、関係者はみな口をつぐみ一切を口に出すことすらないと伝えられる。
事実として、その使い手は後に帝国最強の銘が贈られたが、現在はその存在を抹消された。
概要報告を知るカーラはまったく信じておらず、精密幻覚魔法の類だろうと看破していた。
世界そのものを構築する?
使い手に都合の良い法則を創る?
それは天地創造にも匹敵する神の御業。
下等な貴族ごときがそのようなことが出来るはずはなく。
ありうるとするならば太祖神の血族たる皇族にこそ。
愚物に判らぬ程度の頂にあるのだろうと彼女は判断していた。神の頂と人のそれとでは、はるかに違いがあるが、下等な者たちには判らないものだから、それを責める気はない。
彼女の唯一魔法はそれこそ神々の頂にある真の規格外魔法であるからこそ、そう考えたのだ……。
カーラは魔導師としての才能を全開にして思考する。
神器によって召喚されたモノが神のマガイモノであった。ならばもはや手段は一つしかない。
(このわたくしの全力をもって、すべてを消し去りましょう)
己の唯一魔法を全力行使する。命を賭する時は今この時――!
「――わが愛する忠勇無双の騎士たちよっ!!」
手を離し、跳び退いたカーラは号を発する。混乱していた帝国騎士たちは、ただ一声で持ち直す。
偉大なる大魔法超帝国の”輝ける光明”カーラ・ド・グランリア。
その美声を知らぬ帝国騎士など居ない。
「帝国に仇名すこのものを!」
大きく手を振ってそれを指し示す。強大無比なその敵を
「世界の敵を」
悲壮感を漂わせ、髪を振り乱して全身全霊を込めて帝国騎士たちに号令を発する
「総力を持って、討ち滅ぼせぇ!!」
「我らが光明の姫よ、我ら命を賭してご下命果たしまする!!」
騎士たちが咆えるように唱和して一斉に抜剣、”世界の敵”に構える。美しき皇姫が下命を果たさぬものなど帝国騎士に居ない。
「征くぞ、第一列、突撃せよ!」
「突撃!」「突撃!」「突撃!」
どっん!どんっどんっ!
隊列を組み、剣を構えた下級騎士たちの足元から幾多の炸裂したような音。
後方に土煙を残しながら、先駆けの騎士たちが猛突撃。
超速の進撃は、数百メートルをわずか数秒。
帝国騎士以外に反応できる者なし!
すぱぱぱんっ!
「ぐあぁ!」「げぇ」「ぎぃっ!」
小気味よい快音とともに、宙にくるくると回るいくつもの人のカタチをしたもの。
ぼげどしゃぐしゃ!
全裸の騎士たちが地面に墜落、跳ね転げ、周囲にばらばらと鎧の破片がふってくる。
「何をやっておるかっ!! 馬鹿どもがっ!! 我らが姫に恥をかかせるなっ!!」
豪壮華麗な騎士鎧をまとう上級指揮官が怒鳴る。
「は、底辺どもが。まともに攻撃も出来ないとは」
「なさけねぇ奴らめ。しょせん下等な平民どもか」
「仕方あるまい。上級騎士の力を見せてやろう」
優美で美男子な騎士たちがきらきらと輝く髪をかきあげながら華麗に剣を構え、突撃を開始する。
どばんっ!どっどっどっ!!!
衝撃音を残して、一斉に疾る騎士たち。
音をも超えた超音速突撃。幾多の華麗な騎士剣が縦横無尽に薙ぎ払われ――
ぱきゃぽくくどげしげしぽけっ!
結果再現。
見えぬ壁、曲がる腕、取られる脚、跳ね上げられる身体。騎士が宙を舞い、地に堕ちる。
そこは、うさみみ少女の”無手の間合い”。
触れずとも、拳圧にてふっとばすことなど容易い。
三度の突撃が無意味に終わり、ようやく帝国騎士たちは戦術を変える。
「包囲して一斉突撃!! 帝国騎士の誇りにかけて! 我らが姫の御下命を果たせ!!」
「うぉおおおおおっ!!」
取り囲んだ下級騎士たちが一斉に突進し、
剣を叩き込む。全方位同時攻撃。
――ごきゃばきげきどげしっ!!
まとめて吹っ飛ばされる騎士たち。
「なんで、まとめて来るかなぁ? とっても蹴りやすい、よ?」
一足で薙ぎ払ったうさみみ少女が首をかしげる。
ふざけた格好の敵、なのに剣は届かない。
騎士としての自負心が著しく傷つく。だが、それよりも大事なことがあった。
「法撃準備!」
ついに上級指揮官は騎士の誇りたる近接戦闘を捨て、攻撃魔法による殲滅を決意する。
如何なる方法であろうとも勝利する、それが帝国騎士。
つまり帝国騎士とは勝利そのものである!
号令にすぐさま応じ、光撃魔法を得意とする騎士たちが魔法構成を組み上げる。
「一斉法撃、放て!!」
『我が光よ、敵を討て!』
力ある言葉とともに幾十もの輝く光熱線が宙を一直線に切り裂く。
三個小隊による統合光撃魔法。
魔法防御は三倍以上の魔力消費という法則から鑑みれば、防御は事実上不可能、避けるしかない。
その場を動きもしないうさみみ少女に直撃する――寸前、反射、ねじまげられ、法撃が宙に掻き消えていく。
「はい、この程度じゃ花丸はあげられませーん、”もうすこし努力しましょう”」
如何なる方法か、光撃魔法が防がれた。
「な――」
ぱかぱかぱかぱっかーんっ
驚愕するよりもはやく騎士たちは空に、地に、宙にへと跳ばされる。
鎧の破片を振りまきながら華麗にくるくると回って地に墜ちる。
うさみみ少女の無手の間合いはさらに広かったのだ。
無様に蹴散らされていく騎士たちをみてもカーラは動揺しない。
そんなことは予想済み、最初から織り込んでいた。
騎士たちの攻撃で詠唱の時間を稼がせ、極大魔法を発動させる――それが、彼女の目論見。カーラは己の唯一魔法に絶対の自信がある。
この世でただ一人、"偉大なる風"属性最高位をもつカーラだけが使えるそれ。
それは魂に刻まれた魔法を超えた魔法。
その威力、戦略級儀式魔法すらも超え、味方が巻き込まれることを怖れて発動を禁止された、彼女だけが使える、神の頂にある絶対最強無敵の唯一魔法。
彼女は世界一の美貌というだけで皇姫と称えられていたのではない。
並み居る貴族など足元にも及ばぬ超越者である皇族、その中でも超々一流の魔法使いであったからだ。
帝国最強などというお飾りの称号は下々のためにあるのであって、皇族たるカーラにすれば興味すら抱かなかった。
真の強者は、己が至高であると知っていればいいのだ
密かに魔法構成を組み上げるカーラにうさみみ少女は気づいた様子もない。
「ほーら、ほら。君たち、宙ぐらい自在に飛んでみなさいな。昔の騎士ならそれぐらい出来たよー」
ぱっかーん、ぽこぽこっ
軽い効果音(雰囲気)でのされ、跳ね上げられ、宙をくるくるまわされ、地にしずめられ。武器すら持たずに帝国騎士たちを翻弄する。
誰一人傷つけていないというのに、騎士たちは近寄ることすら出来ない。
「舐めるなぁああ!!!!」
跳んだ若い騎士が空中で急加速。光の矢のように突進。
刺突の構え。
宙に水蒸気の尾を引いて、激突!
「うん、五点~」「ぶぎゃっ!!!」みしりっ!
うさみみ少女のヒールブーツが顔面に食い込んでいる。
「真正面から突撃してどうするかねー、おとりにもなってないよ?」
「ぎゃひっ!」「ぶげらっ!」「ばぉーんっ!?」
ぽーんぽーんと、宙を舞わされる騎士たち。
後方から斬りかかったが、見もせずに”真空投げ”で放り投げた。
地に墜ちる寸前にまたぽーんと跳ね上げられる。無手の極み、”真空投げ”によって
「騎士お手玉~、なんちゃってー」
ぽーんぽん、ぽーん。
帝国騎士たちは完全に遊ばれていた。
翻弄される帝国騎士たちにカーラは何も思わない。獲物の注意をそらしてくれるだけでいいのだから。たかが駒のことで悩むことなどない。
カーラは脳髄の奥に奔る激痛を耐える。
莫大な魔法構成が空間を満たすのを知覚する。それは見えない/発光などしない。
そんな無駄なことはしない。そんな余裕などない。
あまりにも膨大な魔法構成を制御するのだ、無駄なことをすることはない。
魔法構成が発光する理由は己の誇示でしかない。自らの緻密で美しく強大な魔法構成を周囲に見せつける、ただそれだけ。
――真の強者は、そんなことをする必要がないのだ。
がりっ
口中からの堅い音。歯が骨が軋む。眉間/胎の奥に針が無数に突き刺し抉り
カーラは、圧される全身の苦痛に耐える。
超級魔法の制御とその反動。
それはきっと産みの苦しみなのだと女であるカーラは確信している。
――彼女は気づいていない/知らない。
構成された魔法がさらなる魔法構成をつくり、幾何級数的に増殖していくことを。
立体的に、多層に積み上がっていく超高密度魔法構成は、とうていヒト一人の魔法器官で組み上げることが出来ない膨大なものであることを。
カーラの魔法器官は、準惑星級機動要塞”第二の月”のセントラルシステムに直接接続を敢行していた。
それは”偉大なる民族”たちが数百年もの時をかけて周到に計画準備した最終手段。
無人運用システムにおける有人緊急制御という致命的な欠陥をついて、自律制御要塞の制御権を奪取し、支配下するという素晴らしき計画。
準惑星級要塞の強固なセキュリティシステムは不正アクセス者とみなすと執拗に追跡し、居場所を発見次第、周囲ごと物理的に殲滅する。防衛が不可能とされた場合は自壊する権限まで付与されていた。星系防衛の最大戦力を敵対勢力に奪われないための処置である。
”偉大なる民族”に犠牲者を出さずに華麗に奪取するべく、絶対安全な案が求められ、二つの壮大で美麗で空前絶後な計画が策定された。
インターフェース生命体製造とシステムウィルスによる奪取である。
アクセスキー情報は奪取したハードウェアと情報コピーに成功しており、アクセスに必要な情報、特に生体登録情報は判明していた。
生命体改造により、それらの条件を満たすことは容易であると考えられた。
しかし純血・血縁主義である彼らは少ない人口もあって自分達を使っての人体実験は忌避した。代わりに人間に近い疑似人類を制作・改造すればよいと考えた。
多種多様な異星生命の建造物である要塞にアクセスするための第一条件は生命体であって、人類である必要はなかった。
だが、コミュニケーション用インターフェースである以上、人間と円滑に意思疎通を図れなければならず、したがって知能と形態は人型である必要があると考えられた。
地球に残っていた動物たちや、”大脱出”以前に密かに集めていた遺伝子試料を利用して多種多様な生命体が計画・製造された。
そのなかでも彼らの自尊心を満足させたのは、隣国の劣等民族の人間にさまざまな動物の因子を掛け合わせた疑似人類である。
様々な実験が行われた。量子制御機関を埋め込む脳改造、動物との直接掛け合わせ、身体的な形態が影響しないかを調べるために肉体改造を施して、ヒトのカタチから立方体に成形するなどといったものもあった。思いつくままに実行された実験はそのほぼすべてが失敗で量子制御機関が発現することも起動することすらなかった。
量子制御機関追加技術は”大脱出”以前の地球人類ではごくありふれた技術だったが、技術者を大量粛清した”偉大なる民族”では遺失技術となっていたのだ。
何千何万と云う失敗を繰り返し、役に立たないモノ、美意識にそぐわないモノが粗製濫造された。
初期段階では、科学者たちが個人的な興味を満たして、適当に殺処分をしていたが、そのうち大陸の離れた場所に持っていって投棄するようになった。いちいち手を掛けて処分するなど、天才科学者/技術者を自負する者たちは嫌悪していた。
肉体労働など下等なモノにやらせておけばいいのだと。
そのための生命体を作って追い立てたりもした。
そうやって投棄された生命体のいくらかは互いに協力し合って増えていき、いつしか現世人類の祖となっていったが、”偉大なる民族”たちは気にも留めなかった。
いつでもどうとでも出来ると考えていたからだ。圧倒的な科学力・武力は、数万年以上の格差があった。
そうして好き勝手に製造や様々な実験をくりかえし、比較的良好に使える生命体が作れるようになっていった。
ただ彼らの技術は得手不得手が極端にあり、外見に関する遺伝子改造は巧みであったが、充分に発達した量子制御器官と高度アクセスに耐えられる情報処理能力の高い生命体を直接作成することがどうしても出来なかった。
ならばと血統操作による因子強化が試みられた。性能の良い個体同士を掛け合わせていく。結果を観ながら計画を修正し、性能を少しでも引き上げていく。
同時に別のアプローチも実行されている。
システムを侵食する自己増殖型ウィルス。原型となる自己改良型ウィルスを設計し、戦闘高速シミュレーションで何十億年分以上もの経験を積ませ強化していく。
システムウィルスとアクセスインターフェース生命体。
どちらか一方でも使い物になればと彼らはリソースをつぎ込んで数百年にわたって改良を続ける。高性能なモノは”皇族”を名乗らせ、より高性能な者同士を掛け合わせていく。
不意に生まれた高性能な者もまた取り込んでいき、数百年、幾多の試行を繰り返し、ついに優れたモノが生まれた。
それが、カーラ・ド・グランリアだった。
最高級の美貌と最高位の量子伝導効率と量子演算制御が可能な”偉大なる民族”の切り札
。
偉大なる大提督は、産まれた最高級インターフェースを憎きユニカを最終的に殲滅するその時にきるべき札と考えていて、反撃の狼煙としてユニカの航宙艦と超光速万能戦闘騎士を自らの手で滅ぼすつもりであったのだ。だが、それは失敗した。
残存した”偉大なる民族”もまたユニカに拘束され、星系外への退去が決定されていた。
。
”偉大なる民族”が消えた今、彼女を制限する者はいない。
システムウィルスは”第二の月”のオペレータたちを乗っ取り、セントラルシステムを操作させ、最終兵器の封印を解除、稼働させ始める。
セーフティ第四レベル解除
主動力炉出力最大、稼働率87%を超過
次元回廊形成演算完了まであと……
波動コンデンサーNo.706まで充填完了 充填誤差最大1.2%
重力子チャンバー圧力 1.2テラG
ブラックホール生成、事象境界制御を開始
ターゲット測的、照準粗点固定
”第二の月”主砲”アルテミスの光輪”
準惑星級要塞の星系防衛用最終兵装
何重もの安全装置が操作者たちの手で解除され、各施設が最高稼働状態へ。
そして発射申請がメインコンピュータに通達。
超量子演算型自律AIシステムがそれぞれの規定に従い判断。
AMATERASU ”永久封印生体”解放を確認。銀河連邦-銀河帝国合同締結条約――銀河連邦憲章特例条項 現地名称”太陽系”監視条項 に従い、発射要請を認む。
TSUKUYOMI 銀河連邦-銀河帝国合同締結――、__銀河帝国憲法 銀河帝国皇帝勅令に現地名称”太陽系”監視特例条項 に従い、発射要請を認む。
SUSANOOH ”指定永久封印体”解放を確認。銀河連邦-銀河帝国合同締結条約―― __原産地名”地球”民族平均判断基準に従い、発射要請を保留
賛成2 保留1 発射要請許可
――銀河連邦-銀河帝国合同締結条約の特例条項により現地名称”太陽系”消去を決定。
主砲”アルテミスの光輪”発射体勢準備完了
全システム良好
側的完了誤差修正完了照準固定完了
撃発タイミングは&%$#に引渡し完了。
★★★
カーラが願うことはただ一つ。
もう後先なんて考えない。なにを犠牲にしてもあれを滅ぼさせねば、世界がなくなる。
わたくしが、世界を救うのだ。
そこになんの遠慮があろうか。
まして、この身は生まれながらにして超魔法を扱える真の強者。
世界のひとつも救えなくて、なにが最強か!!!!
大切な臣民を贄とし、己が矜持を胸に、歯を食いしばり、眦より血を流し、全力全開で魔法を制御する。
皇姫の仮面を脱ぎ捨て、悪鬼羅刹がごとき容貌をさらして。
かつてない、ここよりさきにない、真・魔導師を自負するカーラの総力
――全身があつい。あしから背中をかけのぼるはるかかなたへといざなうしびれるような全知全能感。
遥か、いと高みまで昇りつめ高揚するままに思う。
天に広がる、魔法構成。
――ああ、世界はこんなにも美しい。
その魔法構成はカーラ自身の投影。
ゆえに、彼女にとって最も美しいものであった。
激痛と全能感に満たされる。
――世界の全ては、我が意のままに
そうして、真の帝国最強魔導師は高らかに謳い上げる。
心の底から浮かび上がりし、己が最大最強魔法の名を。
「光よ、闇よ、地よ、水よ、火よ、風よ、全ての聖霊よ、世界よ――
集いて我が意の下に彼の敵を滅せ
発動せよ、天落し”――」
巨大な壁が、そそり立つ。
前触れもなく出現したそれは、数メートルの厚みをもち、戦う帝国騎士たちごとうさみみ少女の周囲を取り囲んだ。
"地"属性の物質構成魔法による物理隔壁。
だが、それで終わりではない、直径百メートルを超える魔法構成陣が、はるか天空の彼方まで壁面に沿って立体的に出現する。
緻密に細密に偏執的なまでに作りこまれた魔法構成陣が煌めきながら幾数多の光輪となって積み上がり、天へと昇る塔を成す。
その先端は天空の遥か先、”第二の月”に。
渦巻く風が取り巻く。それは第二の壁となって光輪の塔を覆いつくす。何人たりとも通さず、中心部の大気を引き抜いて真空状態へとさせ、回廊を作り出す。
渦巻く大気から無数の球雷が生じ、そしてついには白い火焔へと。それが第三の壁となり、周囲の物質がプラズマ化し、突如虚無へと堕ちる。何人たりとも通さぬ、真に黒き壁――事象境界壁となりて、"次元回廊"が形成された。
回廊の根源足る第二の月が、割れる――
表面に無数の亀裂が走り、幾多の銀盆が動いて開いていく。
漆黒より黒く、闇より深き淵が現れる。
「あああぁぁぁああっ!!!!!」
カーラがはしたなく咆え、魔法構成を維持する。
掲げた腕から血汗が滴りおちる。
流す血涙は自ら喪った騎士たちのためか、それとも――
それは光を呑み込む闇。真の深淵にして神を滅ぼす永遠絶対の闇が
堕ちる/墜ちる/落ちる。
遥か遠い過去、神代の御代において。
創世神が遺した、外敵を滅ぼす究極の魔法。
それは、どのような大神とて滅ぼす創造神の力そのもの。
神の血脈たる皇帝一族、その極々一部だけが使い手となる神代魔法。
偉大なる創造神が遺産、真なる月より呼び出されし黒き神焔。
偉大なこの力をもって世界を救う――!!
周囲の空間を切り裂き渦巻き歪み、なにもかもを呑み込みながら漆黒の天が墜ちて大地へ。
光輪の塔もろとも邪神をのみこみ――
そうして世界を救った聖女カーラは、伝説と――
黒き創世の神焔が割れた。
カーラは、その光景をたたただ見る。
光と闇に分かたれた神焔、その境界にあるは、白いうさみみをつけた少女。
「重力子砲じゃボクを一回コロすのにはむずかしいうえに、ちょっと危険だったねぇ。
”おっと地球がピンチだ、わたしが行かねば!”なんちゃってー」
ごうごうとうずまく風と黒焔が頭をたれるかのように少女の前で道と成す。
少女がぱっちんと指を鳴らす。
黒き焔が掻き消えるように雲散霧消。
カーラは凍りついていた。
姫の仮面がくずれ、驚愕の顔のまま。
何も考えれないくらいまで、思考が停止していた。
「せめて、これくらいにしてほしかったなぁ~」
ぱちんっと指を鳴らす。
蒼天に白い星が瞬きはじめる。数百、数千、数万、幾千万、幾千億の煌めく星々
――星々が堕ちてきた。
「ーーーーーー!!!!!!!」
誰かの絶叫。
轟爆雷鳴轢圧衝撃圧壊絶滅
音で視界が埋め尽くされた。
何かを考える暇すらなく。全身の感覚が塗りつぶされ、真の暗闇とも輝く白昼ともつかぬ中で、立っているのか座っているのかわからぬまま。
遥かな時が過ぎたのか一瞬だったのか、だが五感を塗りつぶされた彼女には永劫とさえ思えた間を置いて彼女は自分が在ることを感じた。
いついかなる時でも優美さを崩さない彼女が耳を押さえ、目をきつく閉じてしゃがみこんでいた。
「い、いったいなに、が――」
目を開くと――
白銀の世界再び。
なだらかに広がる地平線。
一瞬でこの光景を作り出した少女はころころと笑う。
「ま、これでコロせるのは生身の人間だけだねぇ。天塔騎士だって倒せやしないよ」
「天塔騎士……!!」
怨敵の名を聞いて、カーラは瞬時に魔法を展開。
うさみみ少女を取り巻いて出現する魔法球雷。
「《穿て》!!」
撃発言葉によって、全方位から数千条の光熱線を連続射出。城壁はおろか魔装騎士すらも貫通する超高熱線がうさみみ少女全身を串刺しにする。
目を瞬けば、その痕跡すらのこさずに修復、いや一瞬まえと同じに。まるで絵を差し換えたかのように。
「その程度のパワーじゃぁぜんぜん足りないね。まだ宇宙戦艦の主砲のほうが効くなー」
にこにことしながら、あれはちょっと痛かったとつぶやく。
「ボクをコロしたいなら、そうだなー、太陽光ぜんぶ収束すれば、なんとかいけるかなー」
かつては太陽に突入してもなお不滅であることを確認したことがあったのを思い出しながらうさみみ少女は親切にアドバイス。
――まだだ。まだ早い……
意味の分からない戯言などカーラには聞く必要もない。
聖弓を起動、立て続けに光の矢を放つ。
手元を離れた瞬間、直撃。
起爆。いくつもの爆炎。
「それ、実はたいした威力じゃないんだよね。あらゆる防御をすり抜けるなんて云うけど、実は空間跳躍してるだけだから。空間跳躍術式にパワーの大半がとられているから、威力がどうしてもなくなっちゃうんだよね」
何事もないように後ろ手のままのんびり歩きながら解説をするうさみみの少女。
それを無視し、組み上げていた魔法構成を展開。
「回廊よっ!!!」
力ある言葉が、"重力術式"を解き放つ。
大地がひび割れ、大気が歪み割れ、現われた虚無の漆黒が何もかも呑み込んでいく。
――まだ足りない。それではまだ届いていない。
うさみみ少女はなにをするでもなくぽけねんとしながら
「それならさっきの方が効かないのに、疑似重力制御なんてボクには意味ないよ? 自分の手品のタネにひっかっかる手品師がいないのと同じ」
空間中のナノマシンを制御して、物理運動とは逆方向に負荷をかける疑似的な重力制御を行う次元回廊は全くの無意味。
ぽけぽけと気楽に歩いてくるうさみみ少女。
そうして、うさみみ少女は、カーラの目の前に立つ。
「もうおわり?」
かわいく小首を傾げて尋ねる。
カーラにはもう打つ手/魔法がなかった――
「ああああああっ!」
絶叫しながら手の中のそれを向け
ぱんぱんぱんっ! 炸裂音。
……かちんっ、かちんっ
鳴る撃鉄と歯の根。
カーラの伸ばした手の先から立ち昇る紫煙。
ぷるぷるとふるえている腕
鋼鉄の塊。
それは皇族に渡されている最後の手段。
「……最後はそれ?」
呆れたように、無傷のうさみみ少女が聞く。
弾丸は明後日の方向に飛び、かすりもしていなかった。
対人弾が装填された自決用の拳銃。
――まだ、そこに至っていない。
「ひぃっ」
弾の切れた拳銃を放り捨て、おしりをつけたまま無様に後ずさる。
「どこにいこうとしてるのかな?」
「ひぃいいいいっ!」
ばたばたと手足を騒がせながらなんとか逃げようとするが
「べつに取って食ったりはしないよー。ボクは感謝してるんだからね」
「な、な、んで?」カーラは射した一縷の希望にすがる。恐怖と涙でぐちゃぐちゃの顔に望みが宿る。
「キミがいなければ、ここまで事態がうまく動かなかった。キミはたしかにキーバーソンだったよ」
「あ、あ、ああ……」
にこにこと笑っているが、それは違うのだとカーラはいまさら気が付いた、気が付いてしまった。
それは顔に貼りついているだけで。それは、カーラのことなど関心がない。いや、もしかしたらこの星さえも。
カーラは知った
心底からの恐怖は、ただ身体が冷たくなるのだと。
「な、なんなの、いったいなんなのよぉおおっ!! あなたは――」
「ボクは、ユウキ・レイ。この星に囚われた、そして後継者を求めるモノ――」
――まだ、その刻ではない。
閃く朱光/すいっと首を傾けるユウキ・レイ
どだんっ!
地蹴音/爆発するように捲りあがる大地
響く衝突音/ガラスが砕けたような甲高い音。
うさみみ少女の指先で止められた闇色のカタナ。
「いい剣筋だね、ボクの後継者」
憎悪にゆがんだ同じ顔の黒い少女――フェテリシア。
ここに、最終最後の決戦が始まる――
★★★★
白銀の世界をみた。
それは、なぜか心象風景なんだと思った。
なにもない白い世界、そこにのこる黒い、ただひとり/一騎の――
がちん
なにかが完全にはまるおと。
突き刺さるつきささるツキササル。フェテリシアというモノを構成する根源に。
フェテリシア/メイフェーリアだったものが、繋がる/がれる。得体のしれない何かに。
そして、一瞬で呑み込まれる――莫大と云う言葉ですら足りぬ、ありとあらゆる情報。
一人の人間や演算人格など、それの前には一毫にも足りない。
情報の激海に呑み込まれ/さらされ。フェテリシア/メイフェーリアだったものの境界が失われ
「ボクは、ユウキ・レイ。この星に囚われた、そして後継者を求めるモノ――」
――そうして、|少女《フェテリシア/メイフェーリア》は全ての真実を知る――
「ーーーーーーーーーーーーーーーーー!!!!!!!!!!」
咆哮
ケモノがただ一足踏
手には、ただ一刀、漆黒の太刀。
光をも置き捨て
距離を虚とし。
時をも無とし。
緋色の残像を残し、白銀のうさみみ少女の前へ
剣聖を超え、神をも斬り捨てる撃剣技――
神速両断
次元空間ごと斬り捨てる――その一撃ですら、それには届かない
首筋二センチまで迫った切っ先を
白銀のうさみみの少女は、ほほ笑みすら変わらぬまま。
刃先を、指で挟んで止めていた。
「いい剣筋だね、ボクの後継者」
双方ともにぴくりとも動かない。
「ひぃいいいいいっ!」魂消た声をあげながら、金髪の少女が逃走する。
そんなものは双方ともに意識の隅にすらいれず、ただ見合う。
白銀のうさみみ少女は、蕩ける様な笑顔で言葉を紡ぐ。
「うん、良い殺気のこもった一撃。こういうのを待っていたんだよ」
フェテリシアは応えず。
憎悪に染まった眼刃が問う――お前が、この醜劇の元凶か、と
緋色の瞳は応える――そうだよと、
極小の時間で問答は終わり、闘争の幕を斬って落とす。
フェテリシア/メイフェーリアはカタナを手放して踏込む。足元で爆裂音/苛烈な踏込。密着してからの零距離打撃。
宙を舞ったのは、黒い少女だった。
「残念、それは知っているんだ」
拳打に抗わずに己の身体を巻き込み、相手の力すらも利用して背にて打撃を食らわす返し技。
黒い少女は宙で蹴りを出し、ぎゅるんと身体を回して二の足による側蹴撃。
「だめだって、そんなのが通用する相手だとみたの? なめてる?」
「がっっ!!!」
蹴り脚を掴まれ、引っこ抜かれるようにぶん回されて地面に叩きつけられた。
ごがんっ!!
大地が割れるように陥没し、あまりの衝撃にフェテリシア/メイフェーリアが呼気を吐き出す。
どごんっ!
重打撃音ととともにフェテリシアの胸を踏みつけるヒールブーツ。
「そういえば、キミ――なんで、盛ってるのかな、かな、かなぁ?」
ちょっとだけ、ほんのちょっとだけ|膨らんでるフェテリシアの胸《Bカップ》をぐりぐりと靴先でふみつける。
いまさらそれなのかい?
「そりゃーさー、バニースーツはー、おっぱいおっきいほうが似合うけどさー、あー、そーいえばー、バニースーツ着てないじゃん、なんで?」めきょりっ!
「がはっ!」
少し体重をかけただけのようにみえて、フェテリシアがさらに深く地面にめり込む。
「ほら、こたえなさいよ、なにうめいてんのよ、獣じゃないんだから、ヒトの言葉でっ、こたえなさいなー」
うさみみ少女は、げしげしと容赦のないスタンピングをする。
蹴りつけられる足を払いのけようとするが、全て予測されたかのように避けられて、どごんっ!どごんっ!と重低音を立て地面に亀裂を増やしながら、さらにめり込んでいく。
「があああああっ!!!」
フェテリシア/メイフェーリアは咆哮をあげ、渾身の力で身体を跳ね上げた。
のっかってスタンピングをしていたうさみみ少女は繰り出された貫手をひょいっと避け
「ほい」どがんっ!!
無造作に蹴った。くの字で地面と水平にぶっとんでいくフェテリシア。
つま先を伸ばし地に足が摺った瞬間、強引に跳ぶ。後方に捲れた地面を残し、ただ一歩で最高速へ。
地を這うような姿勢のまま残像すら残さない踏込。音速突破衝撃波が大地を甞める。
巻き込まれたカーラが悲鳴すら上げずにふっとばされていく。
「ほいさ」ばがんっっ!!!
「がっ!!!」
うさみみ少女はやっぱり無造作に踏みつけて、フェテリシアを地に叩き落とした。
「まったく、ヒトの言葉喋ろうよー。ヒトのコミュニケーションの基本は会話だよ?」
ぼろぼろのフェテリシアを困ったように見ながら諭すが、フェテリシアは身体を起こそうと足掻いている。
「んもー、しょうがないなー、まずは衣食住の衣からいこうか。ほらお着替えお着換え!」
ぱちんっ!
指を鳴らした瞬間、ぶわっと光の帯がフェテリシアを取り巻き、黒いバニーガール衣装に変化した。
ケガ一つなく、そして腰には黒鞘のカタナ。
「んー、これでよし!」
びしっと親指を立てる。
しばらく不思議そうに両手をにぎったりひらいたりしていたフェテリシアが視線を落とす。
すとんと落ちるまったいらな胸
「あ、あ、あ……」
どこか絶望した声。
「もちろん、戻しておいたさ! 偽はいけないよ、偽は!! きちんと原始記録どおりじゃないとね!!」
無拍子で蹴撃。黒いハイヒールのつま先を抉りこむように白うさみみ少女の側頭部に叩き込む/剛脚を側椀で摺り上げ、膝をフェテリシアの腹にぶちかまし/膝頭を掴んで握り潰し/脚を捻って掌を外しながら襲脚/双方が身体を放して、離れた位置に着地。
低く、獣のように低く手足をついたフェテリシア。
無造作に立つレイ
「ほら、来なさいな。挑戦者が挑戦しないでどうするの?」
くぃくぃと手首を返して挑発する白銀のうさみみ少女。
「ぅるあああああああ゛あ゛あ゛あ゛あ゛」
フェテリシアはカタナを抜き逆手に構える。イ・スンシー流にはない構え。
咆えながら地を蹴った。神速を超え、転移がごとき踏込み。地を這う猛獣の襲撃
白バニーが踏み潰しにいく/黒バニーが側面を滑り込むように転回しんがら斬り上げ/白バニーがハーフブーツを峰にひっかけて巻き上げ/黒バニーが跳躍し、下腹へ掌底/白バニーが組んだ拳で後頭部ろ打ち付ける。
ばがっ!
大地を揺るがす轟音。巻き上がる土煙がきのこ雲と化す。
宙を跳んで、しゅたっと着地した白バニー少女が腕を組み、平然と見下ろす。
その視線の先、亀裂が走っている大地から黒バニー少女がゆっくりと起き上がり、カタナを構える。その眼光はいささかの衰えもない。
「いい面構えだね。まぁ、ボクと同じカタチだけど」
フェテリシアの眼光がぎらりと増す。そこには、ただただ憎悪しかない。
フェテリシア/メイフェーリアだったものは、解らされていた。
自分がなにであり、いままでの積み重ね全てが、仕組まれたものであったことを。
「そう、そう、そう。それでいいんだよ、その憎しみは、とてもとてもとても正しい」
ほほえみをたたえ、手を広げてユウキ・レイは云った。
「ボクがキミの原型、そしてこの状況を夢見ていた、仕組んだ、すべての元凶だよっ!」
うれしそうに笑う同じ顔の少女たちの頭上で、うさみみが揺れた。
――待つ。その刻が来るまで
遅れに遅れました。
御待ちの方には申し訳なかったです。私事で忙しいのと内容がどうも気に入らなくて何度も書き直して非常に難産でした。
さらにごめんなさい。
もうちょい気楽にスーパーロボット戦する話を書きたくなって、ちょこちょこと……
なお、このシリーズはバニーガール(≒騎士)同士でぼこすかなぐりあう話が書きたかったのです。
モーター○ッド戦とかぜんぶおまけです、はい。
四年越しにようやくここまで……
カ○ヨム連載の方もよろしく。
だいぶ前の投稿ですが、最神話でこちらとは話が分岐してます。
4/10追記
新作”モーターメイデン”はじめました。いつも通り”五つの星の物語”風味なスーパーロボット戦多めの学園モノで末期戦です。(わかりづらい……)
作者ページからどうぞ。
なお今月の五つ星連載……あの状況でギャグをかます、あれでこそF〇Sや~!




