表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
39/49

けんにたおれる

残酷・残虐・流血・全裸シーンがあります。

苦手な方はご注意ください。



「それ以上は、ただの虐殺だよ――」


空から降ってきた黒い翼をもつ少女は云った。

戸惑う勇者たち。


「なんだ……ちっちゃい女の子……?」

「うさみみゴスロリ……?」

「……?」

「……っ!」


それは戦闘服と云うにはひらひらだった。

ひざ下から袖まで覆う黒いフリル。

袖口や胸元に見える白いフリル。

要所に付けられた紅色のビロードのようなリボン。

さらに頭頂部にはたっぷりのギャザーがついたヘッドドレスが乗せられ、そこからぴょこんと立つ黒いうさみみ。

あまりにもひらひらでリボンで漆黒だった。

とどめに背中から見える漆黒の翼がゆらゆらと揺れている

それは、まさにうさみみ・ゴシックロリータ堕天使な黒髪の少女だった。


「敵なの? あんなちっちゃい子が?」

「油断しないで。あれは、なにか違う……」

マユは首をひねっている。アンリは油断なく杖を構え、いくつかの魔法構成を展開し始めている。

そして勇者ユウキは、剣を下げて問いかける。


「キミはいったい……魔王軍なのか?」


「魔王軍……? それがなんなのか知らないけれど、ボクは敵でも味方でもない。ただこの虐殺を止めるだけ――!!」

黒ゴスロリ少女の腕が霞み――轟音。

突如、少女の両脇に土壁が立ち上がる。膨大な土砂が捲りあがったのだ。

噴きあがる土煙、降り注ぐ土くれ、草小石。

視界がふさがれる。

「防御陣形っ!」

「――《盾よ》!!」「《盾よ》!」「《盾よ》!」

「《大地覆う正義の亀甲紋》発動!」

咄嗟に防御態勢を取る帝国軍兵士や騎士たち。防御魔法を次々と唱えて重ねあわせる。

帝国軍重防御陣形――《大地覆う正義の亀甲紋》

勇者たちや帝国軍は同士討ちを警戒してうかつに動けない。


土煙が薄れ、視界が戻ると、帝国騎士や兵士たちは絶句する。

彼らの目の前に、地表に一直線に刻まれた溝が出来ていた。見通せる限りはるか遠くまで。


黒衣の少女が、ただ拳圧だけでそれを刻んだのだ


腕を揮った姿勢のまま、うさみみゴスロリ堕天使な少女――フェテリシアは無表情に凄んだ。


「その線を越えて殺しにいくというなら……覚悟したとみなすよ」


勇者パーティがどうしようかと視線を合わせているときに、一歩進み出た勇気ある者が居た。

「ふっ、たかが大道芸に我ら帝国騎士が臆するとでも思ったか! なんだこんなもの――」

 中隊長章の羽根飾りをつけた帝国騎士がラインを跳び越えて、剣をフェテリシアの方へ向――少女の姿がなかった。

「云ったはずだよ――覚悟したとみなすって」

中隊長の直近から少女の声。聞こえた瞬間


ばっきゃーん!

「まっするっ!!」


空中を錐揉み回転しながら、天高く何かが吹き飛んでいく。――全裸な男だった

鍛えられた筋肉を持つ中年男が一糸まとわぬ全裸縦回転で宙を飛び、地に堕ちてびたんびったんびたびたと転がっていく。

弾けた剣が、鎧が、服の破片がぱらぱらと地面に降り注いだ。


「中隊長っ!? ――対陣組め、一斉にかかるぞっ!!」

「待つんだっ!」

 勇者が声をかけるが間に合わない。


突撃(チャージ)!」

 帝国騎士たちは魔力を足元に溜めて魔法陣を展開、爆発的な超高速突撃を敢行。

第一陣四人から数瞬の時間差を置いて第二陣、そしてダメ押しの決戦第三陣が準備し


「――ごめん、今のボクは手加減できないよ、その余裕がないから」


 突撃してきた騎士たちを見据えながら、黒衣の少女が重量級の震脚を踏込み――


ぱぱぱぱぱぱっかーん!

「ぱきょっ!」「さたーん!」「ちょべりばっ」「ぶげるぱっ」「せがっ!」「えいどりあーんっ!」


一連なりの肉打音。

帝国騎士たちが服や装備品をまき散らしながら、くるくると天高くふっとばされる。

ひーふーみーよー……

瞬く間に全員がぶっ飛ばされ、きりきりと錐揉みしながらどちゃどちゃとひとまとめに落下する。

帝国騎士たち(全裸)が積み重なって山になった。

白目を剥いて、ひくひくと痙攣している。


「うそ……」「ええ――!? 」

大魔導師アンリとマユはあぜんと見上げ――そして小さく悲鳴をあげながら顔をそむけた。顔が赤らんでいる。。

積まれた美形な帝国騎士たちは脚をフルオープンにしていたのだ。

「帝国騎士を一撃で……っ!」

勇者は険しい顔を崩さずに呻く。

「ここを越えるというなら、覚悟を決めろっ!!」

フェテリシアは大音声で帝国軍に宣言する。

威嚇するかのように漆黒の翼が大きく広がる。

残る帝国騎士は憎々しげに睨みつけるが、動かない。

九人が一瞬で制圧されたのだ、うかつに動けない。

兵士たちも動かない。帝国騎士ですら動かないのに、普通の兵士が動けるはずがない。

戦場の支配権を握っているのは、まぎれもなく黒衣の少女だった。

そのままにらみ合いを続ける。時間を稼ぎたい彼女には好都合だった。

淡々と立ち、だがいつでも動けるように自然体でいる。

誰も動かない。


――動いたのは、やはり勇者だった。


「キミはいったい、何者だ! どうしてこんなことをするっ!!!」


勇者が剣を構えて問いかける。


「ボクは――」

「勇者さま、お気を付け下さいっ!!」

応えるフェテリシアの声が遮られた。

「その者は、その者こそは、魔王軍八大魔将が一人! 『人魔将軍フェテリシア』です!」

「は?」

フェテリシアは、ぽかんとする。

いつの間にか勇者たちの後方に来ていた皇姫カーラは糾弾の声を上げていた。

「魔王軍」の言葉を聞いて、どこか腑抜けていた勇者パーティに緊張が走り、すぐさま隊列(フォーメーション)を組む。

聖剣を構えた勇者ユウキが前方、少し斜め後方に打撃僧侶マユ、そして後方に大魔導師アンリの伝統的な対魔王隊列。もう一人の剣士は、別のところに居る。

カーラは声高く叫ぶ。

「魔王に魂を売った帝国の、人類の裏切り者!! 契約で得た強大な悪魔の力でグランリアを破壊し、国境守護騎士団を壊滅させて魔王軍を招き入れた人類の敵!」

「え、なにそれ――」

 とまどうフェテリシアに構わず、、間髪を入れずにカーラは続ける。

「この者が招き入れた魔王軍により、いくつもの街や村が滅ぼされました! 街道には何人もの女子供の……」 カーラが悲しそうに目を伏せる。

「姫様……」

 油断なくフェテリシアを見据えながらも勇者が、心配そうに声を掛ける。

「いや、ちょ、まっ」

「アンタのせいで人類が滅びかけているのね! 許せないっ!!」

 憤慨するように、マユが糾弾の声を挙げる。

「そんなわけ――」

「その通りです! その者が全ての元凶なのです。最悪の裏切り者フェテリシア!! あなたの犯した大罪は、神とわたしたち帝国民すべてが知っているのです!」

「あの、あれ、ちょっと……」

「そうか、話に聞いた“許されざる大罪人”とは君のことかっ!!」

勇者ユウキは、その威圧感を高めていく。

フェテリシアは会話の内容についていけず、内心首を傾げているが、それがほとんど表情に出てこないために状況をよけいに悪化させる。

「えっと意味が――」

「それだけのことをしていて、とぼけるというのか?」

「そもそも何の話を……」

勇者ユウキが叫ぶが、フェテリシアには何を云っているのか判らない。

「そう、あなたはそうでしたね。なにくわぬ顔をして、裏で暗躍する。人に悟らせないまま……」

「知り合いなの?」

「はい、わたくしの幼なじみ、お友達でしたの。勉強やお茶会を一緒にしていたというのに、おろかにもわたくしは彼女の本性に気付けませんでしたわ……」

「それは難しいと思うよ、隠すことがうまければなおさらだ」

「ええ、そうね。ずーっと隠してきたんなら、むずかしいわよ。なんか、そんな顔してるしぃ」

「難しい」


皇姫カーラを慰める勇者パーティ。

フェテリシアは相変わらず話についていけていない。


「まって、いったいなんの――っ!!」


 不意に振り向きざまに、拳を振り抜いた。


「トンデノレっ!」「あじゃぱっ!」「ニーンっ!」「オーソラーニー!」「ウィー!」「てんどっ!」


いくつも放たれた真空拳打(ソニックフィスト)が、境界線を越えていた帝国騎士たちをまとめて叩き潰した。

砕けた装備をまき散らしながら、また積み上がる帝国騎士。

まだラインを踏み越えていなかった騎士が喚き散らす。

「な、不意打ちするとは、この卑怯者めっ!!」

「こっそりと後ろから斬ろうとするなんて、普通にそっちがずるいでしょっ!?」

「なにを云うか、隙を付いただけだっ!!」

 帝国騎士と云い争いながら、フェテリシアが回転背面蹴りを放つ。

 重々しくも甲高い音をたてて、『おはよう、お星さま(モーニングスター)』がくるくるまわってあさっての方向に飛んでいく。

「ちっ!!」

背後から襲ったマユが舌打ちしながら、身軽にトンボをきって距離を取る。

「背後から襲い掛かってくるとは思わなかったよ……」

「なーにいってんだか。騎士さんたちをいきなり不意打ちしたくせにっ!!」

 びしっと指を突きつけて断言する。

「いや、いきなりなのはそちら――っ!!」

フェテリシアが不意に誰もいない方向に駆けだした。

数歩で巡航速度に。翼が最適形状に開く。


「――地を穿て、流星よデス・レイン・インパクト


天上からフェテリシアめがけて流星雨が降り注ぐ。

大魔導師アンリ・ノーティ=インビンシブルが放つ超戦術級広域魔法。天を覆い尽くす規模の大量有質量弾の一斉投下。

甲高い落下音とともに落ちたこぶし大の岩石が何千と地を穿ち、破片をまき散らす。

フェテリシアは高速で左右に身を振りながら避けるだけ避け、避けきれない岩石弾をはためく翼アクティブ・バインダーが弾いていく。

戦場に大きく弧を描き、フェテリシアは勇者を真正面に捉える。

勇者ユウキが剣を構え、誘う。

乗る様にフェテリシアがトップスピードへ。

激突寸前、フェテリシアが直角に跳び、足先を着いた地を抉りながら強引に停止、さらに跳んだ。

誘導光線魔法を放った大魔導師アンリへ。

ユウキが気づき、焦ったように振り返ろうとする。

高初速の光線攻撃がフェテリシアの腕をかすり血飛沫が上がる。

しかし止まらない、さらに加速する。光線が追跡して直撃するよりも早く

「っ!?」

「ごめん、手加減する余裕ないからっ――」

 驚愕するアンリの眼前に迫ったフェテリシアが小さく謝り――拳がさく裂する。一打六撃。

「ぁっ!」

拳打奥義のひとつ“徹し”の前には対衝撃緩和ローブは意味をなさなかった。

身体正面の急所六ヶ所を同時に打ち抜かれて大魔導師アンリは悲鳴すら上げずにくずおれる。

「うぁ、は、かはっ、くひ……」

 半ば白目を剥きながら、ぴくぴくと痙攣しなががら、喉を抑えて短い呼吸を繰り返す。

「神経系がパニックを起こしているだけだから。しばらくすれば治るから、無理しないでね」


「アンリっ!! よくもっ!!」

激昂したマユが、亜空間倉庫からいくつものモーニングスター(おはようお星さま)を取り出し、突撃する。

分投げられたそれらを紙一重でかわし、さらに振りおろされてきたモーニングスターを宙に跳んでかわした。


「なめんなっ!!」

「どっちがっ!!」

振りおろしよりも速い切返しが宙にあって足場のない、回避する術がないフェテリシアへ。

フェテリシは大きく身を捻り背まで引き絞った拳をそれに叩きつける。

過大な攻撃が激突し、大風の渦が生まれる。


思わず腕で目を覆ってしまい、視界を失くしたマユに、地に堕ちる様に着地したフェテリシアが拳を打ち込む。

鳩尾を打ち抜かれ、呻きながらくの字になったマユの首元に手をかけ、頸動脈に指先を滑らして圧迫する――血流を止められたマユは一瞬で落ちた。

意識を失って力が抜けたマユの身体を支えながら、そっと地面に降ろし――振り下ろされてきた剣を紙一重でかわした。

翼の一部が斬り裂かれ、フェテリシアが目を見張る。同時に地をなめる様な低姿勢で素早く後退した。


「マユっ! アンリっ! 大丈夫かっ!!」


フェテリシアに斬りかかった勇者ユウキが、倒れている少女たちに声を掛け――。


「あ、っと身体ゆすっちゃ駄目だからね、混乱とか脳震盪(・・・)起こしているからっ!!」


焦ったフェテリシアの警告に、伸ばした手を止めた。鋭い眼光でフェテリシアを射抜く。

「どういうことだっ!?」

(なんで、脳震盪なんて言葉を知っているっ! こいつ――)

「魔法使いを無力化するのは大変なの。口を塞いでも意識があれば魔法構成は紡げるし、一番簡単なのは殺してしまうこと。でも、それは嫌だから、激痛と多点打撃で意識を混乱させたの。そちらの子は、血流をちょっと停めただけだから10分もすれば普通に目覚めるよ」

 フェテリシアは早口でまくしたてる。余計な茶々を入れられて説明不足を恐れたのだ。

場合によれば本気で人が死にかねないから。

勇者ユウキがさぐる様に問いかける。

「そこまで敵に思いやりをかけられるのに、どうして、こんなこと(人類を滅ぼそうとする)をするんだっ!!」

「こんなことって……あなたが|引き起こしたんじゃないかっ!!《この惨状を》」

「オレが!? どういう意味だよっ!!」

「いけません、勇者さま!」

 カーラが鋭く声を上げて制止し、哀しそうに顔を伏せる。

「いけません……その者の云うことを聞いてはいけません……」

「なぜ?」

「その者の言葉は毒です。内心を隠しながら、疑念や憎悪を振りまくように静かに誘導していく……それは言葉の毒を操るのです」

「え、え?」 

「その者は昔からそうでした。魔力のないがために劣等感を抱き、周囲からかけられた言葉を信ぜず、誇り高くも優しい両親やその身を案ずる姉妹を憎み、ひいては帝国その物を――」


言葉を止めたカーラは悲しげに顔をふる。


「いえ、わたくしたちも悪かったのかもしれません。魔法が使えないことがそんなに劣等感を抱かせるとは思っても居なかったのです。わたくしたちは良かれと思って声をかけ、励まし、一緒に勉強や練習をしたのです。そうやってわたくしたちは友情や愛情を育んだと思っていました。――それが、その者にますます憎悪を燃え上がらせていたのです。心の奥底に感情を隠し、仮面を張り付けたその者を見抜くことが出来ませんでした」

悔いるようにつぶやく。

「もしかして、顔見知りだった?」

「はい、わたくしの幼なじみでした。彼女はとても活発で明るくふるまっていました。剣が好きで、剣技だけなら現役騎士ですら敗けることもありました。とても、なにかを隠すようなことが出来るとは思っていませんでした……」

「そうなんだ……」

「いまでもそういうの苦手なんだけど……」

「ああ、せめて彼女の劣等感に気付いていれば、また別の道もあったかもしれません……」

「そんなことないよ、それはきっと無理だったんだよ」

「ああ、勇者さま……」

 ユウキは慰める

「いや、なに云ってるのか全然わかんない……」

困惑するフェテリシアの言葉など聞いちゃいない。

「勇者さま、その者の言葉はすべて虚言、戯言なのです。戸惑っているようなしぐさもすべてまやかし! 魔力がないがゆえに心卑しく育ち、周囲から更生のためにかけられた言葉も信ぜず、誇り高くも優しい両親やその身を案ずる姉妹を生贄に捧げて、悪魔の力を得た悪しく哀しき存在なのです!」

「云われたい放題だなぁ……」

 フェテリシアは半分あきらめつつもとりあえずツッコミを入れているが、やっぱり聞いてくれない。

「勇者さまのお手ではなく、わたしたちの手で討つ。それでけじめをつけましょう。かつて友誼を結んだわたくしのせめてもの情けです――」

 カーラは手を組み哀しげに祈る。

その横で、聖剣を構える勇者ユウキ。

いつでも動けるように自然体にしているフェテリシアめがけて――


「メイフェーァアアアアっ!!」


 大音声と共に遥か天空からものすごい速さで何かが落ちて――地面が爆発した。


土砂が大量に巻き上げられて視界不良になる。

その土砂の壁を突き破って女剣士が出現する。


「久しぶりだぁあああ、メイフェーアっ!!」

「――ア、アフィーナ姉――っ!? ちょっと、戦闘なんかして大丈夫――」


横薙ぎの一閃を、フェテリシアは後退歩で避ける。


「このわたしにっ!! 剣を向けたことを思い知れぇえええっ!!!!」

「――っ!?」

 白銀に輝く大剣が豪速でフェテリシアを真っ向から襲う。

とっさにいなそうとした彼女の右腕からぎゃりぎゃりと背筋がおかしくなる奇怪音を立てて、長手袋が裂けていく。

眼を見張りながらもいなしきった瞬間、ずだんっと震脚轟音が響き、剣軌道が変化した。

蛇のように彼女の腕を巻き込みながら剣先が跳ね上がった。

急激な変化に反応が付いていけない。

血飛沫が舞う。

「ちぃ、かすっただけかっ!!」

吐き捨てるアフィーナの視線の先には、右腕がざっくりと裂けてぼたぼたと血が落ちるフェテリシアが居た。

激痛が駆け巡っているが、それ以上にフェテリシアは驚愕していた。

「まさか、それ……いや、アフィーナ姉さま、まさか、まさか――」

「だまれ、口にするもおぞましい下民めがっ!! 誰のせいでこんなことになったと思っているっ!!」

 白銀の剣の鍔元で宝珠が赤黒く輝き、複雑機構がキリキリキリと動き続ける。

 そしてアフィーナの首元にはめられた分厚い金属製首輪から光の帯が手首、足首、腰、股座に埋め込まれた金属環へと伸びて繋がっていた。

フェテリシアはそれの正体を知っている。帝国ではとても有名な刑罰だったからだ。

全身の関節に支点となる魔導楔を打ち込み、圧縮魔力燃料を使用した魔導機関のパワーを伝達させる魔力筋肉を全身に張り巡らせる魔導兵装(パワード・スーツ)

動作阻害になることと万が一の叛逆防止のため、鎧を着ることを許されない。

剣と布服だけの、防御を完全に捨てた攻撃兵装。

装着者の人権を無視したそれは、文字通り戦場の使い捨て兵器として扱われる。

そのため装着者には命令を聞かせるための特殊な魔導具も組み込まれている。

登録された人間の命令に従わなければ、短い呪文(登録ワード)や特定放出魔力パターンひとつで脳が焼かれる、|完全奴隷化魔導具《マスター-スレイブ・ユニット》

その一式を組み込まれて強靭な身体能力を得る代わりに、死ぬまで自由を奪われる。

これらを装着させられるのは、死罪に相当する罪を犯したものか、奴隷かである。

そして帝国民にとって、この刑罰に処されることは最大の恥辱とされ、即座に死を選ぶとまで云われる刑。

帝国民なら幼子でさえも知っている帝国最悪の刑罰。

「いったい、だれがそんな――」

「貴様がそれを云うかぁあああああ!! 貴様さえ、貴様さえいなければぁぁああっ!!」

眼が血走り、筋肉を膨張させたアフィーナが咆える。

大剣の鍔元でガコンッと小さい筒が排出され、新たなものが装填される。

魔導大剣が白銀に激しく輝く。

魔力刃が爆発的に巨大化したのだ。

全身の光帯を激しく発光させてアフィーナが斬りかかる。

真っ向からの振り降ろしを見切って側方に避けると、孤を描いた大剣が逆袈裟へと変化する。

避けても避けても変化して、途切れなく縦横無尽に揮われる剛剣。

白銀の大剣から供給される圧縮魔力燃料によって引き出される強大な膂力が余すこと使っている豪壮無比な剣技。

「アフィーナさんっ! 加勢しますっ!!」

「だめだ、これはわたしの戦いだっ!! 何があっても手を出すなっ!!」

 ユウキが剣を構えて伝えるが、アフィーナは拒絶する。

繰り出す斬撃がさらに加速する。

フェテリシアは剛剣を紙一重でかわす。直撃すれば並みの騎士以下になっている今の彼女では耐えられない。

勝っている速度でさえも、かつて天才剣士と云われたアフィーナの剣技の前では、ろくにアドバンテージにはならない。

攻撃力、防御力、膂力、体力、速さ……ほとんど全機能を封印されている今のフェテリシアには何もかも足りない。

 なんとか持ちこたえているのは、ただただ叩き込まれた膨大な戦闘経験による予測があるからだ。

それとて、半歩の予測を間違えただけで死ぬ。

でも、それが普通。

天塔騎士なんていう規格外(バケモノ)がおかしいのであって、ヒトは剣の一撃で容易く死ねる生き物なのだと、フェテリシアは判っていた。


機能封印されてたことに、後悔はない。

どんなに強大な力があっても、それを使えなければ意味がない。

今のこれを止められるのなら、なんだっていい。

もちろん何が正しいかなんてわかんない。

でも、こんな虐殺は絶対に間違ってる、止めなきゃいけない。

使えない強大な力よりも、少しでもヒトを助けられるならそっちの方がいい。


(今のボクにだって出来ることがあるんだからっ!!)


――そうして、彼女は追い詰められていく。

最初に防御してしまったために攻撃の機会をとれず、次々と傷を負っていく。

背をかがめてすり抜けようとして黒翼が砕かれる。

うさみみヘアバンドが千切られる。見切ったはずの剣の魔力刃が伸びてスカートのフリルを切裂く。

一撃即死の豪剣。

掠めるだけで皮膚が裂け、髪の毛先が斬られる。

避けるたびに致命傷ではないが、装備が破壊されていく。

地表に弧の足跡を描き、アフィーナの側方から襲い掛かろうとも、即座に剣が横薙ぎに揮われ、さらに速く斬り返される剣に、懐に入ることも難しい。

身体の再生もままならないフェテリシアはじりじりと追い詰められていく。

ついに袈裟切りの凶悪な剣圧に負けてフェテリシアの身体が揺らぐ。

身体バランスと関節が伸びきって、反応が半瞬だけ遅れる――次の攻撃は避けれない。

()姉妹は同時に思った。

千載一遇の機会を、アフィーナは違わず掴んだ。

「死、ねぇ――っ!!!!!」

大上段から、豪速の振りおろし。いかなるものとて断ち切らんと気迫の一撃。

反応が遅れるフェテリシアの眉間を正確にとらえ――衝撃波が飛び散る。

剣圧が大地を抉り、土砂を巻き上げる。

その中で――剣身をフェテリシアが両掌で受けていた。

大量の血飛沫が両掌から飛び散っている。


(偽)真剣白羽取り


遥か過去の超剣士ヤーギ・ジュローベが得意としていた無手術の極地。

イ・スンシー流にもあるそれは秘奥義とされ、後継者にだけ口頭で伝えられるという。

むろんアフィーナもフェテリシアもそれを受けたことはない。

フェテリシアはとっさにやっただけだ。

そのまま血まみれの手を捻り、魔導大剣を奪いとる。


――思い込みがあった。


剣士であることに誇りをもつ()姉から、剣を奪えば一端引くだろうと。

そこに追撃をするつもりで、動きやすく重心を変えて――それが、致命的な失敗だった。


「かかった、なっ!!!!」

「――っ!?」


アフィーナの弓のごとく引き絞られた片腕。

彼女は片手で剣を振り下ろしていたのだ。

限界まで引き絞り溜めていた拳を、打ちだす!!

最速にして渾身の直拳打(ストレート)

フェテリシアが完全に予測していなかった一撃。

めきょりっ!と腹部に食い込む拳――まともに食らった。

強化された膂力による一撃は、人体を壊すことなど容易い

ただの一撃で吹っ飛ばされ、地表を削りながら何度も跳ね転がって地面に叩きつけられるフェテリシア。


「っ……!!!」


 声すら出せず、せき込んだ口から血をぼとぼととあふれださせる。

内臓が破壊されたか、肋骨が砕けたか。

立ち上がろうと支えた腕が、がくがくとふるえる。

腹部への攻撃は体力を奪うというが、内臓の大半が致命傷を負ってしまえばもはやそんなレベルではない。

ようやく上半身を起こす。

口元からどす黒い血がこぼれて止まらない。


立て、立たないと――


思考とは裏腹に身体はほとんど動かない。


動け、動かないと――まずい


「さぁ、これで終わりだ――」


元姉の声が聞こえた。

魔導大剣を大上段に構えたアフィーナが見えた。

装填機構が動き、空になった圧縮魔力筒が排出されて、新しいものが装填される。接続音とともに膨大な魔力が回路を駆け巡り、機能を最活性化させる。

剣身に膨大な魔力が流し込まれ、光り輝く分厚い鉄塊のごとき超大型剣へと変貌する。

みしみしとアフィーナの筋肉と骨格が鳴る。

全身の魔力筋力帯に魔力が巡り、余剰魔力が放出されて紫電のごとくまとわりついて踊っている。

鍛え上げた肉体と機構の強大な膂力すべてを、次の一撃に注ぎ込む。


いまだ身動きすらろくにとれないフェテリシアは、避けれないと悟った。


それはつまり――死ぬということ。


死……ボクは……死ぬの……なにも出来なかったまま――

い……や……いや、だ!

まだなにも、まもれ――



「ぉおおおおおおおおっ!」

 アフィーナが獣のごとく咆えて、全身全霊全力で大剣を振り下ろす。

向かう先には、怯えたような目つきの憎き元凶(屑妹)

胸がすく。このわたしの誇りを踏みにじりながら、のうのうと生きているこれをやっと殺せる。


――そのために屈辱に耐えてきたのだ。こいつは、この手で絶対に殺すとっ!!!!



「――地獄に墜ちろ、この出来損ないがっ!!」



剣を見上げる少女の瞳に絶望の色が広がり

























――バシャァッ!



























大量の血飛沫が飛び散り、千切れた黒衣の腕や脚が宙を舞った。




評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ