その1:なりたいものになれなくて、後悔ばかりが募る、それもまた人生……。
完璧美少女になりたかった……。
それが俺の第二の人生の目的だった。
顔の美しさというのはもっとも分かりやすい才能だ。
足が速いとか頭がいいとか度量が広いとか、そういう才能はその力を発揮しない限り傍目には分からないが、顔の良さというのは一目で分かる。
そして、後天的な努力ではどうにもできない部分のある才能でもある。
顔の良さで全てが決まるわけではないが、顔が良ければ恵まれていると言えるのは確かだ。
顔が良ければあとは内面を磨くだけで、人からちやほやしてもらえる。
だからこそ、俺自身が顔のいい美少女として生まれ変わったことに気づいたとき、俺は完璧な美少女を目指そうと思った。
「あれ? もしかしてわたしってけっこうかわいい?」
病気で死んで、別世界の片田舎の貴族に生まれた。
その国の名前はビーティア共和国。
貴族が世襲的に元老院議員を務め、その元老院が国政を取り仕切る共和制の国らしい。
『貴族=元老院議員とその親族』という認識で正しいようだ。
俺が生まれたのはその共和国でもだいぶ田舎の方で、主に住民は農業や畜産業で生計を立てている牧歌的な地域だ。
名前はステラ・マリオン。
領地は田舎ではあるが、マリオン家は百年続く伝統ある名家らしい。
その家の長女として、俺は生まれた。
父親はまだ家督を継いだばかりの二十歳で、子どもとしては男児を期待していたらしいが、俺が娘と知って若干落胆していた。
それでも、初めの子どもはかわいいらしく、散々に甘やかされて育った。
前世のことは覚えていたが、特に気にすることもなく、貴族の娘として育ち、十二歳になった頃、ふと気づいた。
鏡に映る自分の姿を見て、あれ? 俺ってけっこうかわいくね、と。
そして、頭の中に浮かんだのは完璧な美少女になりたいという願望。
その外見の良さを遺憾なく発揮し、内面をも磨くことができれば、新たな人生は順風満帆なのではないかと。
「よし、やろう……いえ、やりますわ」
その日から完璧な美少女としての特訓が始まった。
生まれつきよかった外見のよさを磨くための訓練はもちろん、内面の良さを表現するための言葉遣い、言動、所作、使用人への態度諸々、細部にいきわたる努力を重ねた。
もともとそんなにえらそうな態度で生きていたわけでもなかったが、どちらかというと淡白な態度で生活していたので、それをより柔らかいものにするべく努力した。
両親への感謝を忘れないのから始まり、使用人へも日頃の感謝を口にし、その苦労をいたわり、彼らの日々の仕事ぶりを賞賛した。
街に出れば庶民の生活の不満を聞き取り、父親へ直訴することでその不満の解消に努めた。
父親の方もまだ若く、元老院議員としての活力に満ちていたので、愛娘からの真摯な訴えに耳を貸し、住民生活の改善についても尽力してくれた。
結果、領内でもステラの名は広まり、身も心も高潔で聖女のようだという評判が広まっていく。
まさにそれこそ俺が求めた美少女としての評価だった。
「……どう、して……?」
そこまではよかったのだ。
順風満帆、自他共に認める美少女として育ち、成人した日にはすぐにでもどこぞの良家に嫁ぐことになるだろうと言われるほど、領内だけでなく、共和国の中でも、俺の評判は高まっていた。
正直、この年で結婚するのは少々どころではない抵抗があったのだが、そういう流れになっている以上、従わざるを得ないのかなと思っていた。
ただ、そんな抵抗感が些細なことに思えるほどの重大事件が、俺が十五歳の成人を迎えた日に起こった。
領地が他国の侵略を受けた。
少し前に近くの領地で隣国との小競り合いがあったという話は聞いていたが、それがまさかこの領地にも波及してくるとは想像していなかった。
推測にはなるが、半年前に俺が関税の緩和を父に進言し、それが受け入れられたことで数多くの商人がこの領地を訪れることになった。見慣れない商人を街中で多く見かけることになったのだが、その中に他国の間者が紛れ込んでいたのかもしれない。
そいつらが他国の軍を領地に招き入れる手引きをし、気づいたときには領地の至る所に軍が入り込んでいた。
マリオン家の抱える兵士たちも果敢に戦ったが、力及ばず領地は完全に占領された。
父も母も囚われたが、俺だけは秘密の通路から父が逃がしてくれた。
父母にも逃げないのかと問うと、領主としての義務だという言葉が返ってきた。
そして、俺は命からがら森の中を走っている。
「はあっ……はあ……っ!」
もはや美少女だ何だと言っている場合ではない。
髪は乱れ、服は泥だらけ、息も絶え絶えで、見るに堪えない姿だろう。
背後では至る所で火の手が上がっている。
散々聖女だ何だともてはやされて、最後には逃げる。
自分で自分が情けなかった。
しかも、俺の進言した政策がこの結果を引き起こした可能性すらあるのだ。
今までやってきたことが何もかも否定され、間違いだったと言われているようだった。
「くそ……っ!」
今まで口にしないようにしてきたそんな汚い言葉が自然と口から出てくる。
ただ生きる。
そのためだけに走った。
体型維持のためにそれなりに体は鍛えていたから体力はある。
それでも、着の身着のままでの逃走だったので、服はお世辞にも走りやすいものとは言えない。
動きやすいようにドレスの各所を破り捨ててただ走った。
逃げて逃げて逃げて、逃げ続けた。
追手は多分いなかったのだろう。
いくら体力を付けたとはいえ、少女の足で大人の兵士にかなうはずがない。
そうして俺は何日も森の中を走り続けた。
どこに行けばいいのかも分からず、汚らしい格好をどうすることもできず、森の木の実や湧き水で飢えを凌ぐ日々。
体力も限界に近づき、もういつ倒れるか分からないという状態の時、彼女たちに出会った。
「族長! 逃げ延びた子のようです!」
気付けば俺は森の中の広場で、毛皮を身にまとったほとんど半裸の屈強な女戦士の集団に囲まれていた。
前世でいうところのアマゾネスのような。
「お前、名は?」
その中でも一際大きな体格を持つ長身の女が俺に聞いてきた。
彼女の身に着ける装飾は明らかに集団の長らしい豪華なもので、皆に族長と呼ばれていた。
「ステラ……」
何日も走り続け、体力を消耗した俺の口からは消え入りそうな声が漏れ出た。
「ステラ。私の名はオリエンタ、彼女ら女戦士を束ねる族長だ。お前、この先の戦場から逃げ延びてきたのか?」
「はい……両親がわたしを逃がして……くれました……」
「そうか……」
オリエンタはそれ以上聞かなかった。
両親がどうなったのか、俺がどういった立場の人間なのか。
気遣いでそうしたのか、それとも、単に興味がなかったのかは分からない。
ただ彼女たちにとっては俺が行く当てのない流浪の少女であるということが重要だったらしい。
「私たちの部族には名前がない。単なる女戦士の集まりであり、それ以上の価値は必要ないと思っているからこそ今まで名など付けてこなかった。ただ私たちの目的は一つ。身寄りを失った女子供を保護し、一人でやっていけるよう鍛えることだ」
「……一人で……」
「そうだ。一人で生きていけるようにする。この部族の始まりがどういうものだったのかは分からない。単なる女同士の寄り合いだったのか、明確な目的があったのか。とにかく私たちは各地の戦場や貧民街などを回り、身寄りのない子どもを保護しては一人前の戦士として育て上げている。それが私たちの存在意義であり、生きる理由だ」
「……すごい……ですね」
疲れで回らない頭ではそれくらいのことしか言えなかった。
「お前も私たちと共に来るか? 無論、このまま一人で生きるのも構わない。私たちは強制はしない。救いを拒むものに手を差し伸べることはない。だが、ひとたび私たちの手を取ったのなら、私たちは絶対にお前を見捨てない。お前がどれだけ救いようのないクズであったとしても、その根性を叩き直し、成熟した一人の人間に仕上げてやる。どうだ?」
「……お願い、します」
息も絶え絶えの現状では俺に選択肢はなかった。
彼らに付いていけば、少なくとも両親に望まれたように生きることはできる。
既に大きな失敗をしてしまった俺ではあるが、それでも、生きることぐらいは。
何よりどん底にいる俺にとっては手を差し伸べてくれた彼らの存在が希望の光に思えた。
「よし。ならば、今からお前は私たちの家族だ。ステラ、お前の過去は何も問わない。私たちが求めるのはこれからの未来だけだ。今この瞬間からお前は一人の女戦士だ」
それだけ聞くと、ついに俺は意識を失った。
こうして完璧な美少女を目指していたはずの俺はアマゾネスになった。
ギャグを書くつもりだったのになぜかシリアスになっていた
続きはモチベーションあるときに書きます。
よければ評価とかお願いします。




