ある冒険者の結末
初投稿になります!
拙い部分多くあると思いますが読んでいただけるとうれしいです!
探索において最も重要なのは、未知を避けることだ。
それは冒険者であれば誰でも知っている、当たり前の鉄則だ。
情報がないということがどれだけ致命的か――死んでいった連中が証明している。
今も同じ事、情報のない領域に愚かにも足を踏み入れたダリアは、今まさに死に直面していた。
「結局、戻れもせず、何の手掛かりも残せなかった。正しく犬死ってやつだな......」
「せめて、俺がここに居たって事だけでも残しておきたかったな」
形を認識できない「ナニカ」が、すぐそこまで迫っている。
もはや抵抗する気力も力も残っていない。
まばゆく光る川が、崖下で静かに揺れている。
それが何なのか、考える余裕はなかった。
ダリアはそのまま、力を抜いた身体を預けるように――落ちた。
光の中に、飲み込まれていった。
「今日は当たりだな。いつもに比べたら魔物が少ねえ」
「静かすぎるのも気味が悪いけどな」
軽口を叩きながら進むパーティの後ろで、ダリアは足を止めかけた。
――違和感。
ほんのわずかだ。
地形が記憶と一致しないわけでもない。
魔物がいないのも、たまにあることだ。
だが、それでも。
「……なあ、この先――」
言いかけて、やめる。
説明できない違和感は、時折生死すらも分かつ
そのことはダリアも十分に理解していた。
しかし、この日だけは、この小さな違和感を押し殺してでも先へ進みたい。
そう思ってしまったのだ。
「どうした?」
「いや、なんでもない」
そう答えて、ダリアは再び歩き出す。
――運命の歯車は静かに動き出す。そのきっかけは往々にして本人すらも気づかない、ほんの些細なものだったりするのだ。
動き出した歯車はもう、戻らない。
「……完全におかしいな、ここ」
先頭にいた男が足を止めた。
「地図と合わねえ。分岐の数も違うし、さっき通った場所とも繋がらねえ」
「戻るか?」
「戻れるなら、とっくに戻ってる」
短いやり取りの中で、全員が理解する。
――ここは、もう“いつものダンジョン”じゃない。
「未発見領域か、まさかこんな掘りつくされたD級ダンジョンにまだ未探索の場所が残ってたとはな」
「救助要請、出すぞ」
一人が腰のポーチから信号石を取り出した。
淡く光るそれを地面に置くと、静かに脈打ち始める。
「……これで、外には伝わるはずだ」
「来るまでどれくらいかかる?」
「早くて数時間、下手すりゃ半日」
「それまでここで待つのかよ……」
沈黙が落ちる。
静かすぎる空間が、じわじわと不安を膨らませる。
「……ダリア、お前はどう思う」
不意に名前を呼ばれ、ダリアは顔を上げた。
少しだけ考えてから、口を開く。
「ここで待つのは、悪くない」
「ただ――」
視線を通路の奥に向ける。
歪んだ空間が、そこにある。
「このまま何も分からないままってのは、まずい」
「……探索するってのか?」
「深くは行かない。道が繋がってるかだけ確認する」
「すぐ戻る」
「無理はしない」
言葉を重ねるたびに、仲間の表情が少しずつ変わる。
納得と、不安と、迷い。
「……一人で行くつもりか?」
「ああ」
「俺たちは?」
「ここで待っててくれ」
「救助が来たら、そのまま戻れ」
「俺はこの先にボス部屋か、セーフゾーンがないか確認する」
少しの間。
誰も口を開かない。
やがて、ひとりが小さく息を吐いた。
「……それが一番マシか、それに、ここで一番場数踏んでるのはダリアだろ。リーダーとしても文句はない。」
「全員で動いて迷うよりはよっぽど生きて帰れるさ」
「無茶はすんなよ」
「もちろん」
「死ぬなよ」
「死なないさ」
短い会話だった。
だが、それで十分だった。
「じゃあ、頼む」
「ああ、時計の針が一周するまでには戻るさ」
ダリアは軽く手を上げて、振り返る。
――脱出口がないか確認するだけだ。
そう思って、一歩踏み出した。
足を踏み入れた瞬間、視界が歪む。
光が差しているはずなのに、足元は影に沈んでいる。
熱を感じたかと思えば、次の瞬間には冷気が肌を刺す。
息を吸ったはずなのに、肺が満たされない。
遅れて、空気が押し込まれるような感覚だけが残る。
理解が追いつかないまま、感覚だけが塗り替えられていく。
「……なんだ、ここは」
喉が乾く。
無意識に足が止まりかけるのを、無理やり動かした。
――普通じゃない。
「戻ろう、そしてなるべくはやくここから距離をとるんだ」
無意識に自分に言い聞かせるように独り言をつぶやいた後、後ろを振り返って絶句する。
「そんなばかな、道が変わっている……!?」
ありえない。
道が変わるダンジョンは存在する。
だが、あれは事前に分かっているものだ。
地図を何重にも重ねて、ようやく攻略できる類のものだ。
――こんなふうに、突然変わるものじゃない。
帰還用の魔道具もない。
用意できるはずがない。
ここは――
「……B級、いや……」
喉が乾く。
「下手すりゃ、A級だ」
ダリアはC級冒険者だ。
世間一般ではベテランと呼ばれる。
ギルドでも信頼はある。
経験も、実力も、それなりに積んできたつもりだ。
――それでも、B級には届かない。
この状況を前にすれば、それは嫌でも理解できた。
絶望的だった。これから何とかして生き残ることを考えるのはダリアにとって不毛なことだった。
生き残る方法ではない、どうやってダリアが死んだことを外に伝えるか―それだけだった。
もはや戻る選択肢はない。ダリアは存在しない希望をあると信じて先へ進む。
「もしかして、やたら魔物が少なかったのはここのせいなのか……?」
それでも違和感はある。もし、魔物たちがここへ吸い込まれていたのならここに居るはずの彼らはどこへ行ってしまったのか。
「見たこともない地形なのは当然として、あの川はなんだ?」
崖下には光る川が見える。どう考えても普通の存在ではない。
そして、その川辺には似たような光を放つ見たこともない鉱石がせり出している
「あの川を泳いでいった先にボス部屋があります。とかだったらたまったもんじゃないな」
「せめてセーフティエリアだけでも見つからないか」
光る川を眺めながら崖に沿って進む。後ろを振り返れば、さっき歩いた道はすでに存在しない。
突然「ソレ」は現れた。まるで最初からそこにいたかのように。
反射で剣を引き抜き構える。
輪郭が水のように揺らめき、境界が存在しない。今にも散って消えてしまいそうなのにも関わらず、その存在感は圧倒的だ。
人の形のように見える。
だが、そう見えているだけかもしれない。
輪郭が、定まらない。
近づくたびに、形が変わる。
腕の長さが違う。
頭の位置がおかしい。
立っているはずなのに、重さを感じない。
こいつはやばい……
視線を外せなくなる。
周りの風景が消えているように感じる。
一歩、下がる。
距離を取る。
――近づいた。
「……は?」
動いていない。
少なくとも、そう見えた。
それなのに。
距離だけが、縮まっている。
呼吸が浅くなる。
嫌な予感だけが、はっきりと形を持つ。
「来るな」
思わず口に出していた。
その瞬間。
「ソレ」が、止まった。
――理解が、追いつかない。
今のは、なんだ。
「っつ!!」
咄嗟に叩き切る。確かな手ごたえがあった。
――終わった。
そう思った瞬間。
足元で、何かが動いた。
視線を落とす。
そこに、
さっき斬ったものが
あった。
「……は?」
全力で走る。
足音がやけに大きく響く。
――距離が、変わらない。
振り切れていない。
いや。
最初から、動いていないのかもしれない。
瞬きができない。
目を閉じたら、何かが変わる気がする。
呼吸が浅い。
空気がうまく入らない。
それでも走る。
ただ、前に。
――時計の針は、もう回りきっていた。
ポケットから取り出す。
強く握る。
「……っ」
投げた。
後ろへ。
振り返らない。
崖が見える。
そのまま駆ける。
ほんの一瞬躊躇して
――その瞬間。
手の中に、重さがあった。
見る。
時計が、戻っていた。
次の瞬間、足場が消えた。
身体が宙に浮く。
光が、迫る。
そのまま、ダリアは崖から身を投げた。
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