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友情が分からなくなった

 鏡見からバトルライブの挑戦を受け取って貰えたと、肩の荷を下ろして席に戻る。


 鏡見にバトルライブを持ちかけるまでは、昼飯が喉を通る気がしなかったが、これでなんとか食べることができそうだ。


 昨日のうちに買っておいたヨーグルトを食べようと席に腰掛けようとするが、そこには三者三様の表情を浮かべた友人達が待ち構えていた。


 白星は胸の前で両手を組むという乙女ポーズのまま固まっていて、


 桜羽は見たことがないほどに難しい顔で、棒状のスナックパンを結ぼうとしており、


 犀佳に至っては、何故か貼り付けたような笑顔で俺のヨーグルトを掻き混ぜている。


「犀佳。ヨーグルトって、掻き混ぜるもんじゃなくねぇか?」

「そう?多分、こうした方が美味しいと思うよ。アミノ酸とかなんとかの化学物質が結合して、美味しい成分になる的な」

「珍しく、馬鹿っぽいことを言ってんな」


 前回のテストで、学科2位を取った犀佳らしくない発言だ。


 ちなみに普通科も入れた五教科のみの順位だと11位だったようで、北白川からは「お前の進路は悩まなくて済みそうだ」としみじみ言われていた。


 犀佳から、ぐちゃぐちゃに混ぜられたヨーグルトを受け取る。


 タンパク質が豊富で腹持ちがいいと噂のヨーグルトは、下に隠されていた苺ソースと混ざって、ピンク色になってしまっている。


 ポツポツと気泡も混じってしまっているヨーグルトを早めに食べてしまおうと口に含んだ瞬間、桜羽の後ろにいた白星が「いやいやいや!」と大きな声で騒ぎ始めた。


「大変なことを言ったのは、マコちゃんだよ!?マコちゃんって、実はああいうちょっと危険な男がタイプなの!?」


 訳の分からないことを(まく)し立てる白星が、身を乗り出して俺へと迫ってくる。


 目と鼻の先まで近づいてきた彼に、意味がわからないと目を胡乱げにした。


「何言ってんだ?ただ、バトルライブを引き受けてもらっただけだろ」

「そうだけど、そうじゃない!はっ!ってか、これってセリー先輩は了承済み!?流石にこれは、セリー先輩に許可取らなかったらヤバいって!!」

「取ってんぞ。頑張ってくれって」

「ほ、保護者の承認が取れてる·····!」

「芹沢先輩、大丈夫?」

「桜羽まで、なんの心配をしてんだ?あの人がバトルライブくらいで、目くじらを立てるわけがないだろ」

「いや!本当にこの鈍感のオタンコナスのマコちゃんの言が今だけは信じられない!」

「はぁ!?」


 オロオロと忙しくなった2人の言いたいことが、いよいよ本当に分からなくなってくる。


 確かにこの件に関して芹沢先輩は、とてつもなく強情だった。


 クラスメイトの鏡見に仕掛けたいのだと打診したのだが、それだけで俺の目論見を察した芹沢先輩は、『危ないことをしてはいけないよ』の一点張りで、話を聞いてもらうだけでも苦労した。


 それを1日掛けてなんとか説き伏せたのだが──思い出すだけでも、目が遠くなってくる。


 ロケで忙しい芹沢先輩は休憩になる度に俺に電話をかけてきて、俺は鏡見を倒すためのプランをずっとプレゼンし続ける。


 それはロケの収録が終わって、先輩が寮に戻ったあとも続き、最終的にはAngel*Dollの会議室にて日が変わる前まで交渉し続けた。


 それと同時並行で、長篠二葉が投下した爆弾の処理をしている二年生たちのフォローも行っていたので、正直デビューライブが終わってから休めたのは、父親と寿司屋に食べに行ったあの時だけだ。


 なんとか芹沢先輩から許可をもぎ取った俺は、今回は私的な理由のライブのため、Angel*Dollの力を借りずに一人で行うことにも了承を得た。


 これについても、かなり渋られてしまったが、鏡見との取引内容において、奴に差し出す代償は俺の身一つだということを猛アピールし、最終的には虎南先輩とプロデューサーにも援護を頼もうとしたところで、やっとOKを貰った。


『誠君。何度も言っているけど、私が心配しているのはエンジュの面子じゃないよ。君のことを心配しているんだ。君まで失ってしまったら、私はもう──』


 帰り際、目を伏せて悲しげに告げてくる芹沢先輩に、俺までしんみりしそうになった。


 だが、こちらまでナイーブになってどうすんだと思い直し、『俺が同期に負けるわけないじゃないっすか』と虚勢を張ってきた。


 いや、別に虚勢ってわけでもないな。


 宣言通り、負ける気はしねぇし。


 鏡見との取引において、途中で陰りが見えた時はどうしようかと思ったが、なんとか場を整えられたようで何よりだ。


 ──全てが綱渡り過ぎて、そろそろ胃が痛くなりそうだけどな。


 最後の一口を頬張ったところで、斜め後ろに陣取っていた白星が俺の右横へとやってくる。


 机と同じ目線になってしゃがみ込んだ同期は、フサフサの睫毛に縁取られた金色の目で見上げてきた。


 その眼差しは、いつになく真剣だ。


「マコちゃん。多分、このままだとほんっっっとうに大変なことに巻き込まれちゃうから、ちょっと確認だけさせてほしいんだけど」


 わざわざ俺の横にまでやってきた白星の口火が不穏だが、真面目な顔をしている白星を無碍にも出来ない。


 手にしていたスプーンを空になった容器の中に入れて、俺は白星と向き合った。


「いいぞ」

「マコちゃんは、自分がすっごく美少年で、その上めちゃくちゃ誰かの心に入り込むのが得意で、自分の隣にずっと居て欲しいなって思わせるくらいのキュートボーイな自覚はある?」

「·····は?」


 白星の口から放たれたのは、耳に全く馴染まない不可思議な呪文だ。


 俺の事を言っているようだが、最初の方しか理解できない。


 俺が微妙な顔をして固まっているのを見て、白星はビシッと人差し指を差してきた。


 今日は、よく人に指を差される日だな。


「You、スーパースーパー美少年。OK?」

「お、オーケー」

「You、スーパースーパーダーリン。OK?」

「だーりん?」

「スーパーダーリン。妹達の漫画によると、お金持ちの上に性格が良くて、包容力もあって、イケメンのことを言うんだって」

「俺、金持ってねぇし、包容力とかそんなんも無いぞ」


 頭の悪そうな言葉が、思いのほかとんでもない意味を内包していた。


 というか、白星が抱いている俺への印象がめちゃくちゃすぎる。


 どうして、俺と一緒に過ごす時間が長いのに、そこまで実物と掛け離れた印象を抱けるのだと鼻の頭に皺を寄せる。


 すると、俺の不服そうな雰囲気を見てとった白星が、俺から視線を逸らして、残りの2人へと目配せした。


「サイちゃん、アンリーどう思う?」


 この分だと、平行線のままで話が終わってしまうと危惧したらしい白星は新たな援軍を呼んだ。


 だが、その援軍だって俺と一緒にいる時間が長い桜羽と犀佳だ。


 どちらかというと、俺の援軍に近しいだろう彼らに、『白星に現実を見せてやれ』と目を細めた。


 だが、そんな俺のGOサインは直ぐに意味をなさなくなる。


「俺は条件、満たしていると思うな。誠はアイドルとしても大成するだろうから、そのうちいっぱい稼ぐよ」

「うん。俺の面倒を見てくれてる。先輩達も昨日、姫城のことを頼りになるって言ってた」

「お前ら、正気か?」


 てっきり、白星の幻想を打ち砕いてくれるとばかり思っていたのに、犀佳と桜羽は向こうの陣地にいた。


 孤立無援だったらしい俺の、呆気にとられた声が虚しく宙に溶けていく。


 ──いや、俺が諦めたら終わりだ。


 もしかしたら、3人で俺を揶揄っているのとも過ぎったが、コイツらがそんな悪趣味な真似をするはずが無い。


 ってことは、マジで超人の評価をつけられているってことだ。


「皆が褒めてくれるのは嬉しいが、正直そんな出来た人間じゃないぞ。基本的に自分に出来る範囲のことしかやんねぇし、結構短気な性質だし·····」


 俺がそのスーパーダーリンって奴なら、狂季からちょっかいを掛けられても直ぐに対処出来ただろう。


 芹沢先輩にあんな顔をさせなくても済んだだろうし、虎南先輩を芸能界の深淵に立たせることも無かった。


 ──それに、そもそも俺は交代人格っていうあやふやな存在だ。


 意識と記憶以外は全部、『姫城誠』からの借物にも等しい。


「でも、誰かが困っていたら、すぐ助けちゃうでしょう?前の俺みたいにメソメソした子がいたら、声を掛けて励ましたりするよね」


 行儀よく椅子に横座りになっている犀佳が、コテンと首を傾げる。


 俺が否定しないと断定した上での質問に、つい視線を泳がせる。


「それくらいは、人として当たり前のことだろ」

「人として当たり前で言い切って、やっちゃう所が本当に人たらしなんだから」


 奴の予想通りの答えだったのに、犀佳はプイッと顔を逸らした。


 この我儘ド繊細美人がと扱いの難しい犀佳を睨め付けたくなるが、そこへ白星が話を戻すように割り込んでくる。


「マコちゃんは、自分に向けられている気持ちにちょっと鈍感すぎ。俺はマコちゃんのことを同期で頼りになるズッ友って思ってるけど、それは俺に限った話。アンリーや、サイちゃんはまた違う思いを抱いてると思う」

「 要は友達として、大事にしてくれてるってことだよな」


 途端、白星は残念な子を見るような目で俺を見詰めてきた。

 九九を最後まで言えない小学生を見るような目つきになって、溜息まで吐きやがる。


「じゃあ白星は、俺がお前に向けてる友情っていうのが分かんのかよ?」


 なんでこんな小っ恥ずかしい話を男子高校生が団子になって話さなければいけないのかが分からないが、こうも言われっぱなしっていうのも癪だ。


 ここまで言うんだから、俺の気持ちは分かってんだろうなと水を向けると、白星は「マコちゃんが、俺の事をどう思ってくれているかってこと?」と目を瞬いた。


「多分だけど、調子が良くて手が掛かる同期って感じじゃね?でも、マコちゃんは俺の事結構好きだもんね」

「うっせー!自惚れんな」


 一瞬にして顔が赤くなったが、それが言外に奴の言葉を正解だと言ってしまっている気がする。最悪だ。


 現に、俺の反応を見た白星が勝ち誇ったようにニヤニヤしていた。

 くっそ、腹立つな。


 ぐぬぬぬと唸っていると、桜羽がスっと片手を挙げた。


「俺にとっての姫城は、船の上のコンパス。どこに行ったら良いかを示してくれる。だけど、コンパスは磁場に弱くて、壊れやすいから、大切にしなくちゃいけない」


 いつの間に、この恥ずかしい暴露大会は挙手制になったんだ。


 だが、真摯な顔つきで俺への気持ちを打ち明けてくれた桜羽を邪険には出来ず、気を紛らわせるように頬を掻く。


「すげぇ、文学的な例えをしてくるな」

「いつもありがとう。これからもよろしく」

「お、おう。俺も桜羽は、良い友達だと思ってるぞ。最初に起きた時に出会ったのが、桜羽で良かったって」

「俺も、隣の席が姫城で良かった」


 何故か、桜羽からのお礼はカーネーションを差し出されているような気持ちになってくるな。


 確かに俺と桜羽は、白星とはまた別の友情の形をしているだろう。


 母と息子──は嫌だから、兄と手のかかる弟みたいな。


 2人でのほほんとしているのも程々にして、俺はそろりと犀佳へと視線を向ける。


 正直、一番何を言ってくるのかが読めない犀佳は例のふんわり笑顔を浮かべて、俺たちの様子を見守っていた。


 この笑顔を浮かべているってことは、多分言いそうにないな。


 あまり本音を吐露することがない犀佳だ。


 特にこういうパーソナルなことは、俺と2人だけなら兎も角、白星や桜羽といった外野がいるなら余計に言いそうもない。


 だが、そんな俺の予想は呆気なく砕かれた。


「俺の気持ちは簡単だよ。初めて友達になりたいって思った人で、いつまでも傍にいて欲しい人」


 意外なことに、ドストレートに重たい気持ちを犀佳はぶつけてきた。


 心構えが出来ていなかった俺は、少しだけフリーズしてしまったが、なんとか体勢を立て直す。


「ってことは、ズッ友ってことだよな?」

「そうだね。でも、白星君と違うだろうなって所もある」


 刹那、犀佳は俺の机の上に頬杖をついて、ぐっと顔の距離を近付けてくる。


 犀佳の薄墨の瞳に、自分の戸惑いまくっている表情が映り込んでいた。


「俺は誠の中の優先順位の一番にいたい。楽しいことや嫌なことがあったら、直ぐに分かち合いたい。たまに誰かを誑し込むのは良いけど、誠が帰ってくるのは俺の所がいいな」


 上目遣い気味に微笑まれた俺は、目の前で咲き誇る麗しき友人に見蕩れそうになったが、寸での所で椅子を後ろに引く。


 距離を取った俺を咎めることもなく、犀佳は『どうしたの?』と言わんばかりに顔横に掛かった髪を耳にかける。


 一つ一つの動作が俺の意識を縫い留めようとするが、なんとか魅了を振り切った。


 ──アイツ、今回のは間違いなく意図的に視線誘導したな·····!


 まさか、ステージ上だけでなく、私生活でも使ってくるとは思わなかった。


 脳がグズグズになって、全く思考出来なくなる前にと犀佳から告げられた気持ちを脳内でなぞる。


 だが、犀佳が明かした友情の内訳が、全く咀嚼出来ない。


 奴が言うように、この思いの丈は、白星はおろか桜羽とも全く違うだろう。


 でも、じゃあ──この友情の名前は、なんて言うんだ?


 自分の中で正解が出てこない俺は、助けを求めるように白星へと顔を向けた。


「あれ?もしかして、俺が知らないところで2人って付き合ってた感じ?」

「·····俺も一瞬、思った。けど、そんな記憶は全然ねぇ。っつーか、俺は男と付き合う趣向は無い」

「じゃあ、サイちゃんの激重思いの丈は何なの?」

「何なんだろうな」


 人の気持ちに敏い白星でも、犀佳の気持ちは汲めないらしい。


 正解が分からないと白星と顔を見合せている様子を見ているくせに、犀佳は何にも補足をしてこない。


 それが、どうにも不気味で。


 当人が目の前にいるのだから、直接聞けば言いものの、やぶ蛇になるのも怖いからと詳細を聞くことも出来ない。


 そんな俺達の三つ巴の状態を動かしたのは、スナックパンを完食して手隙になった桜羽だ。


「柳村。俺は姫城に良くしてもらってるけど大丈夫?」


 ここで、『自分のことを一番に考えて欲しい』といった犀佳に、何の捻りもなく真っ直ぐに聞けるのが桜羽だ。


 俺と白星は揃って、固唾を飲んだ。


「うん。桜羽君と白星君は良いんだ。2人と喋っている誠を見るのは好き」

「じゃあ、鏡見と姫城が仲良くなるのは?」

「無理」

「姫城。駄目らしい」

「いや、バトルライブをやるだけだからな。そもそも、俺らこの前の一件であんまり仲良くねぇから!」


 近所の池に住んでいる亀を拾ってきた子供が、お母さんに却下を食らったノリで報告してくる桜羽に、即座にツッコミを入れた。


 テスト週間の鏡見とのやり取りや、バトルライブの取引を見ていたくせに、どこをどう見たら友好を深めているように見えるのか。


「ってことで、マコちゃん。自分の影響力をちゃんと理解するように。あんまり皆の思いを蔑ろにしてると、あとですっっっっごい痛い目をみることになるかんね!」


 強引に纏めようとしてくる白星に、俺はコクンと頷いた。


 本当の意味で理解したとは言えないだろうが、主観と周囲の評価が恐ろしく乖離していることが分かっただけでも上々だろう。


 チラリと、犀佳を盗み見する。


 いつの間にか、俺から視線を離していた犀佳は、土砂降りの外をぼんやりと眺めていた。


 憂いを帯びているように見える横顔からは、今、コイツが何を考えているのかを察することはできない。


 ──そのうち、コイツとも1回、ちゃんと話さないとな。


 その時は、人格のことについても打ち明けた方がいいのかもしれない。


 俺と姫城誠の事については、バレてしまった芹沢先輩以外には話すつもりはなかったが、友達として大事に思ってくれている奴等には言っておいた方が良いんだろうな。


 ──それこそ、ずっと傍に居て欲しいと(こいねが)う犀佳には。


 何も言わずに去っていくのは、あまりにも薄情過ぎるだろうから。



 

※前回のテスト発表(北白川・B組担任の通知表参考メモ抜粋)


柳村犀佳·····学科2/50。学年11/272。

理系の応用問題に弱い。基礎は出来てるので、場数を踏みましょう。


姫城誠·····学科3/50。学年18/272。

ケアレスミス多し。簡単な記号問題や計算ミスがあるので見直しをしっかり行いましょう。


白星雪成·····学科17/50。学年225/272。

赤点が1つありますが、その他は高得点です。苦手な暗記科目を頑張りましょう。


桜羽庵璃·····学科23/50。学年237/272。

赤点が2つありますが、入学後テストの時よりも遥かに点数が上がっています。このままの調子で頑張りましょう。


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