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サン・ドッグ:プリズム☆アイドルと制作陣

もう休日出勤もノルマも疲れました。


前のお話【狂季環に脅された】が加筆途中のまま掲載されていたので、完全体を再掲しております。

約7000字ほど増えておりますので、まだご確認いただいていない方はご覧くださいませ。

 20××年にサン・ドッグ株式会社からリリースされたばかりの【プリズム☆アイドル】には、【Angel*Doll】・【Z:Climax】・【エッジ雑技団の】の3つの√しか用意されていなかった。


 √といっても、所詮はソシャゲなので分岐点もない一本道のお話だ。


 だが、それぞれのアイドルチームが√ごとに学内で開催されるライブや賞レースで優勝していく様は、推しを作りがちなゲーマー達にはかなり好評だった。


 そして──各チームの夏休み編が搭載されてから1ヶ月後、満を持して発表された新アイドルチーム【N=?】。


 元より、搭載されている三つのアイドルチームでも稀に登場していた彼等がメインキャラクターとして実装されるという告知は、ユーザー達をより熱狂させた。


 ミステリアスで、掴みどころのない美青年の狂季環。

 狂季環のお目付け役として奔走し、溜息が常態化している宇津木有栖。

 女装とコスプレを愛し、女の子の話題にも造詣の深い花恋ティア。

 胡散臭い関西弁と見た目で小物感が気になると評判の鏡見新。



 しかし、期待に胸を膨らませたユーザーたちの『青春活劇』への夢は、ストーリー実装と同時に、無残にも打ち砕かれることとなる。


 ・

 ・

 ・




 〇被服室 (放課後 夕方)


 狂季「来たね、マネージャー」

 主人公「お疲れ様です、先輩」

 狂季「今にも叫び出しそうだね。『犯人はお前だ!』って言いたげな顔してる」

 主人公「っ·····!」

 狂季「君の思ってる通りだよ。エンジュが炎上したのも、二年前のゼックラから上級生がいなくなったことも·····全部僕の仕業だよ。エッジは手を伸ばす前に(はた)かれちゃったけどね」

 主人公「どうしてそんな事をしたんですか?/狂季様も世俗に介入するんですね」

 狂季「そういうこと、やりそうに見えない?あれ、意外と見えてないんだ。君は目が可笑しいんだね」

 狂季「君も知っての通り、僕は業界から送られてきた刺客だよ。諜報員の方がそれっぽいかな。汚い大人達から、キラキラしているアイドルを連れ出してこいと言われている」

 主人公「じゃあ、本当に先輩は·····」

 狂季「最初から悪い人だよ。君達にとってはね」


 ・

 ・

 ・



「だーーーーー!誰だよ、学生アイドルゲームにこんなとんでもキャラを起用したやつ!!!」

「はーい、うち〜!」

「うるせーーーーー!!!」


 数十人という従業員が詰めているオフィスビルのワンフロアは、今日も今日とてキーボードの打鍵音と内線電話の着信音によって姦しい。


 日常的な音がしとどに降ってくるワンフロアの奥まった窓際の島にて、誕生日席にいた三十代半ばの男が両手で頭を掻きむしりながら発狂していた。


 その様子を空いていた椅子に腰掛けてニコニコと眺めているのは、長い黒髪を無造作に縛っている三十路過ぎの男だ。


 三十代半ばの年相応の中肉中背ぶりと違って、満足に栄養と睡眠が取れていないのか、蹴れば折れそうな細い体つきと白粉を叩いたような真っ白な顔面をしている。


 しかし、妙にハイライトが入ってないやる気のなさそうな垂れ目の下には、三徹したような濃い隈が鎮座していた。


「【N=?】の√を実装してから、お問い合わせの数は通常の3倍!その内の半数が苦情とかお気持ちとか全年齢であることを忘れるなとかいう真っ当な物だったり、ただお前の地雷なだけやんけ!みたいな感想が含まれた玉石混交っぷり!SNSもずっと延焼してんのか、お祭り騒ぎしてんのか分かんねぇくらい賑わってるし」

「【N=?】の演者達からは、『この子、本当にメインキャラクターなんですか?』『ってか、第三幕でもう完結しません?』『関西弁ってどんだけ種類あるんけ!?』って様々なお声も頂いてますしね」

「そもそも、広島出身の声優を関西弁キャラにあてがったのが間違いじゃないのか·····」


 演者による前者の小言は、渡された台本を読み込んだからこそ、抱いてしまった不安感からきていることだろう。


 ソシャゲの出演は、ワンクールで終わるアニメや2時間でピッタリ終わる映画と違って、メインキャラクター役だと、配信期間が終了するまではー定期的に仕事が貰える。


 それに出演した作品がヒットすれば、ゲーム本編だけの出演のみならず、ゲーム会社が主催するイベントやメディア化した際に役柄を続投できたりと、長くお付き合いできる仕事になる可能性も高いため、契約形態としてはそこそこに好まれたりする。


 だが、動きのある映像作品と違って、ほとんど一人で撮ってもらうことになることも多く、声優としての技量はかなり問われる仕事内容となっている。


 それなのに、生まれの違う方言を喋らされている演者がいるというのだから可哀想なものだ。


 ──あ、演者の起用は俺の役目だから、俺が契約書に捺印してしまったのか。


 責任の所在を確認した瞬間、発狂していた男は我を取り戻したような顔つきになって、若干居住まいを正した。


「白は100色あるっていうのは納得したけど、まさか関西弁が県ごとならともなく、その県のさらに地域ごとに枝分かれしてるとは思わなかったっすわ〜」

「砂川女史って、関西弁フェチだったんだね」

「あの人、実は奈良県出身らしいっすよ。高校は大阪、大学は京都らしくて、全部近鉄で移動してたらしいっす」

「ああ、そう。ところで、近鉄って何?」

「関西を縦断している近畿日本鉄道のことっす。所謂、浅草線みたいなもんすよ。あれも成田線とか京急に直結してるから神奈川とか千葉にいけるっしょ?それと同じ」


 恐らく、東京メトロとしては『一緒にすんな!』と声を上げたいところだろうが、電車をタクシーよりも安い移動手段としてしか認識していない二人にとっては、どうでもいい話である。


「んで、三井サンがオレをデスクに呼び出した御用ってのはなあに?【プリアイ】がこんなにも持て囃されてるよ〜!っていう現状報告?」

「違うわ!お前が仕込んだとんでもねぇギミックについての審問会だ!」

「え〜!どれのお説教〜?」

「そんな数える程、仕込んでんのか!?」


 目の前でテヘペロと言わんばかりに舌を出す部下に、三井はとうとう目を剥いた。


 正直、このまま気絶したいと思ってしまうほどだ。


 だが、ヘラヘラヘケヘケしているこの男の調子に乗せられてしまっては、問いただしたいことも満足に聞けないと、己を鼓舞する。


 脳の片隅では、『今日も午前様か、とほほ』と半泣きの自分がいるが、見て見ぬふりだ。


 三井は元よりデスクトップに向き直り、直ぐに愛用のキーマウスに手を掛けた。


 手馴れた所作でカーソルを動かし、用意していたタブを開く。


 新しく開かれたタブには、真っ黒な背景に隙間なく書かれたスクリプトが羅列されていた。


 三井はブルーライトカットが入った眼鏡越しに目を細めてスクリプトを追っていき、最終的にはここだと示すように円を描く。


「水島。今回のお前の罪状は、『各キャラクターの好感度パラメーターが最高潮になった時、新しいカードが入手できるというギミックを俺の知らぬ間に実装しやがってた』というものだ」


【プリズム☆アイドル】はガチャで引いたキャラカードをデッキに組み込んで、タイミング良く叩いたノーツの得点で競争する音ゲームである。


 だが、顔も声も良い萌えに特化したイケメンを取り揃えていることもあって、キャラクターゲームの一面も持っている。


 そのため、メインキャラクターにはカード育成が出来る他に好感度が設定されており、ゲーム内で一番よく使ったキャラクターの好感度が溜まっていく乙女ゲームチックなシステムも導入されている。


 好感度が一定のポイントに溜まると、専用の経験値カードだったり、ガチャを回すための石を貰えたり──果てにはご褒美ボイスといったそれっぽい豪華特典を入手することが出来る。


 しかし、あくまでもユーザーとキャラクターの距離を近づけるための補助の役割を持ったシステムであるために専用のストーリーイベントは用意されていなかったはずなのだが、それを弄り回した愚か者が目の前にいた。


 鬼気迫る表情で告げてくる三井に、半笑いだった部下は肺から空気を押し出すように「あ〜」とこれまた緩い声を上げる。


「好感度MAXおめでとうカードのことか〜」

「そんなもん、おれはひっっっとつも聞いてねぇぞ!!」

「だって、言ってないも〜ん」


 緩い事後報告──それも上司にバレるまでは全く報告する気もなかった確信犯的な回答に、三井はとうとう目頭を抑えた。


 ちなみに三井は、サン・ドッグ株式会社で【プリズム☆アイドル】の取り纏めを任されているプロデューサーであり、水島は各担当者との調整を担っているディレクターだ。


 ゲームプロデューサーは予算組みや広告宣伝、プロジェクトメンバーの選定などのゲーム全体の総まとめを行うのに対し、ゲームディレクターは選定されたプロジェクトメンバーの橋渡しやスケジュール管理を行う潤滑油のような役割を持っている。


 そのため、プロジェクトメンバーと距離が近い水島が好き勝手に動いていたとしても、外部で取引先や提携業者とやり取りしている三井が気付くのには若干の時差があったりする。


 今回はその時差が思ったよりも開いていそうなことが、新しい悩みの種として三井の脳に植わってしまっていた。


「あのな、水島。お前がずっと乙女ゲームの制作に関わりたかったのは俺だって知っている。というか、その(ため)に引き抜きに応じてくれてることも、俺を含めて上も分かってはいるんだ」

「けど〜、ぜんっぜん乙女ゲーム作らせてくれないよね。オレ、ずーーーーーっと待ってるよ。ヤンデレまみれの乙女ゲームを作れるのをさ〜」

「それはっ、お前から出される企画書の尽くが、マニア受けするもんばっかだからだろうが!」


 ここにハリセンがあれば、ナニワの漫才師も刮目するようなツッコミ芸が披露できたことだろう。


 しかし、お問い合わせメールの一つ一つにメッセージを返すことに一徹をした三十路半ばには、そんな空元気はびた一文も残っておらず、声を張り上げるだけで精一杯だ。


 因みにゲームプロデューサーが、お問い合わせメールに手ずから返信することはあまりない。


 これには、まだ入って一年目の新卒があまりのお問い合わせの数に若干ノイローゼになってしまった場面にたまたま遭遇してしまい、手伝わざるを得なかったという悲しい中間管理職の裏事情があったりする。


「そもそもギャルゲーが嫌になってるのに、なんで乙女ゲームは良いんだよ!?」

「三井サンは何も分かってないよ。ギャルゲーは古来より、皆死ぬか、血みどろ三角関係か、宇宙攻略の3つしかエンディングがないんだ」

「いや!?流石にそんなことはないんじゃないか!?」

「それに攻略対象者の女の子達は嫌悪から始まるか、もう既に攻略されてんのかってくらいデレデレか、姉妹か、話が通じない電波しかいないからね」

「極端なラインナップだなぁ」

「でもっ!乙女ゲームのヤンデレを攻略する主人公は違う!基本的には常識人で、ちょっと詰めが甘くて、包容力がある!下はショタから、上はいい歳をしたイケおじまで、ヤンデレ達が膝の上で眠りたいと思ってしまうほどの素晴らしい女子力!俺はそんなパーフェクト主人公が、面倒くさい男たちにっ、母性を発揮しているシーンが作りたい!!」

「結局、お前の性癖の話じゃねえええかああああ!!!」


 とうとうストレスが天元突破した三井が、咆哮(ほうこう)を上げたまま、頭を抱えてデスクに突っ伏してしまった。


 このとんでも問題児を今すぐにでも解雇したいところだが、古巣から引っ張りたいと提案したのは、他ならぬ三井である。


 本人はあんな風にギャルゲーを扱き下ろしているが、彼が関わったギャルゲーの多くはシリーズ化しており、アニメ化した作品だってあるくらいだ。


 ノベルゲームの新ヒットメーカーとして一時期は持て囃されていたこともある彼を、移籍することを決めた三井が、手土産がてらに引っこ抜こうと思うのも当然だろう。


 しかし、天才ゆえに拘りが強く、プロデューサーの知らぬ間にエンジニアを含む他のスタッフをたらし込んで、勝手にギミックを増やされているのは頂けないが。


「その、『好感度MAXおめでとうカード』ってのは何なんだよ」

「OKっす。ちょっと待っててくださいね」


 奴の罪状を裁くには、ギミック本体を見てからだ。


 キッとデスクから顔を上げた三井の鋭い眼差しに晒された水島は怯む──なんてことはなく、むしろ待ってましたと言わんばかりに嬉々として、膝の上に置いていたあったタブレットを操作し始めた。


 ただでさえ、青白い不気味な顔をニコニコと緩めてタブレットをスワイプしている水島は、目元にでっかい隈を居座らせていることもあってか、正直不気味だ。


 だが、この存在を主張しまくっている隈のことを水島はチャームポイントとして評価しているらしく、本人曰く改善する気は毛頭ないらしい。


 不気味な顔をした部下の顔を眺めるのも程々にして、『好感度MAXおめでとうカード』の見本でも見せてくれようとしているのだろうとゆったり構えた三井は、昨日から戦っている欠伸を噛み締めた。


 既に世に出してしまったものを、反故にすることは出来ない。


 ゲーム容量が知らぬ間に増えていたので、自分の知らない間にパッチでも配られたのかと確認していた時に見つけた身に覚えのない仕掛け。


 慌てて早朝から、この仕掛けに辿り着いたユーザーがいないかを確認したところ、まだ誰もが目にすることが出来る場所では喧伝されていないらしい。


 だが、閲覧できるアカウントを任意設定出来るSNSの仕様上、バレていないと判断してしまえるほど、三井は迂闊ではなかった。


「あ!あったあった!」


 (ようや)く件のカードを見つけたようで、水島がヘラヘラしながらタブレット画面をこちらに向けてくる。


 まぁ、『好感度MAXおめでとうカード』と言うだけあって、それなりにお祝い感のあるデザインや性能になっていることだろう。


 レア度もSSRといった一番上のランクに設定されてしまっているだろうが、各キャラクターの好感度をMAXにするくらい遊んでくれているのなら、これくらいの餞別があってもいい。


 デスクに伏せたことで斜めになっていた眼鏡をかけ直し、どれどれと度の入ったグラス越しに写ったタブレット画面を覗き込む。


 やはり想像通り、視線の先には『SSR』に設定されたカードが表示されていて──。


 刹那、三井はカッと目をかっぴらいた。


 今から目薬でも差すのかと言われるくらい三井が目を見開いてしまったのは、あまりのデザインの豪華さに、どれだけの予算が持っていかれたのかとショックを受けたからではない。


 水島のタブレット画面に映し出されていたのは、【プリアイ】の顔とも言うべきアイドルチームである【Angel*Doll】のリーダー、芹沢真白のカードだった。


 サラサラと肩あたりで切り揃えられた金髪と、深いエメラルドの双眸が印象的な好青年は、三井の知る限り、基本的には慎ましく笑っている印象が強い。


 だが、いま、画面に映し出されている芹沢真白はどうだろうか。


 うっそりと微笑んでいる横顔は蠱惑的で、膝を抱えて丸まっている背中は、キング・オブ・学生アイドルの呼称を与えているには小さすぎる。


 だが、その丸まった背中には天使のような羽が生えているのだが、何故か片翼しかなかった。


 しかも、その片翼も端っこの方から黒へと変色しており、とても【エンジェル】を司るアイドルチームのリーダとは思えないほどに禍々しい。


 極めつけは、カードのタイトルだ。


 大体のカードにはタイトルが入っており、そのカードの光景を一文で表すような言葉が入っている。


 しかし、今回のカードに入っているタイトルは『堕天使 マシロ』とあった。


「お、おい。なんだ、これは·····?」


 戸惑いを浮かべてタブレットの画面を指差す三井に、水島は得意げな顔を披露した。


「どう?すごいっしょ〜。真白は卒業式までに本性を描くのが難しそうだから、こういう所で裏設定を出していこうかなと思って〜」

「うら、設定?」

「そっす! 元々、友達らしい友達が中学までいなかった真白。唯一の友である昂汰を失って悲しいシクシク。もう二度と失いたくな〜いってなったけどぉ、後輩達も、所属している紫水旅団も、ほっぽり出せないからキリキリ舞い。そしたら、いつの間にか自分の本心がわからなくなっちゃって、けど、何かと構ってくれるマネージャーのお陰でちょっとずつ我を取り戻してきて·····気づいた時には、もう手放せなくなっちゃったって感じ〜」

「·····そして、悲願のヤンデレエンドと」

「にしたかったけど、砂川さんでも流石にNGってさ。()()()で気が抜けてそうだからワンチャンいけるかなと思ったけど、全然だめだった。しょうがないから、一夜の過ち未遂で手打ちになったっす」

「だから、このゲームは全年齢だって言ってんだろ!」


 へケッとサムズアップした水島の親指を、逆側に折り曲げそうになった本能を制した理性を褒め讃えたい。


 カードに秘められたとんでもないサイドストーリーに、また三井の気が遠くなってくる。


「いやいや、全年齢っすよ!一夜で真白が自分の過去と思いの丈を主人公に話して、こんな話を人にするんじゃなかったって後悔するサイドストーリーなんすから」

「言い方が紛らわしいわ!!」


 やっぱり、来期からはディレクターを変えよう。

 そうしよう。


 三井の胸中に新たな決意が宿ったところで、「それよりっすね」と水島が再びタブレットをスワイプしながら、声を掛けてくる。


「次はなんだ?」

「実は新しいライターさんとデザイナーさん、それから作曲家さんにも来てもらって新曲の打ち合わせをしている時に、新ボスの草案も一緒に作ってもらったんすよ」

「いや、新ボスはお前の仕事だろ」


 嫌な口火の切り方をする水島に、眉根を顰める。


 一年生編のボスが無事に実装されて、メインキャラクターとしても稼働し始めた今。


 次のフェーズを見据えて、三井は水島に第2のボスの案だしを任命していた。


 本当は色んな事情があって、リリース初日にあわやサ終になりかけそうにもなっていたのだが、なんやかんやあって一周年を迎えることが出来た。


 そのため、来年を見据えてスケジュールを練っている三井は次のイベントに取り組むためにも、新しいボスを誕生させることにしたのだ。


「そうなんすけど〜全然インスピレーションが湧かなくて。これは参ったな〜て時に皆さんがいらっしゃるって事なんで、挨拶程度に案だしを手伝ってもらったんすよ。そしたらまあ、狂季を超えそうな良さげな子が出来ましてねぇ」

「そもそも、一年生編であんな気合いの入ったラスボスみたいなもんを出すからだろ」

「だって、いつサ終するか分かんないですもーん。株式会社ってそういう所怖いよね〜って、はいこれ」


 ジャジャーンと効果音すらつけたそうなぐらいに浮かれた手つきでタブレットを向けてくる水島の、なんて腹立つドヤ顔のことか。


 三井は敢えてそれを見ないように気をつけて、再びタブレットの画面と向き合った。


 今度の画面には、まだ色も付けられていないラフ画が浮かび上がっている。


 腰まで伸びる長い髪に、丸い頬の横にまでかかっている姫カット。


 何処か遠くを見つめている落っこちそうなくらい大きな瞳は、どうしてか憂いているようにも見えた。


 薄い唇がキュッと我慢するように、(つぐ)まれているせいだろうか。


 ゴシックロリータにも似た沢山のフリルのついた衣装を身にまとって、所在無く立っているその美少女ともとれる美少年に三井はあんぐりと口を開いた。


「確か、世に|蔓延(はびこ)る男性アイドルゲームの殆どでショタは出尽くしてくるから、どんだけ要望があったとしても、ウチからは可愛らしい少年は出さないって言ってなかったか?」

「今でもその気持ちはあるっすよ。ただ、問い合わせ窓口のユカリンが『プリアイのショタが見たい!って、またお便りが来てます〜!』って会う度に言ってくるんだもん。段々それ聞くのも鬱陶しくなってきたから、ここいらで需要に答えてやろうかなと思いまして」


 ひねくれ者のイライラとした口ぶりを聞きつつも、三井はとんでもない嫌な予感に襲われていた。


 こんなにもアイドルゲームに相応しそうな見た目をした花盛りの美少年ぶりなのに、どうしてかこのラフ画を見た瞬間、現在のお気持ち表明の筆頭になっている狂季のラフ画を見た時よりも虫の知らせがさざめいている。


 ──此奴は、新しい爆心地になりかねないと。


「まだ名前は決めてないんすよね〜。こんだけ女の子っぽい顔してるんだから、女へんとかが付くような名前にしようかなとは思ってて」

「この子の設定は──」


 よせばいいのに、深堀してしまう。

 否、職業柄というか役職柄、聞かなければいけないのだが、聞きたくない気持ちしかない。


 そんな複雑な三井の心情をノンデリカシーかつ、KYの水島が汲めるはずもなく、彼は既に頭の中にインプットされているらしい情報を淀みなく読み上げた。


「母なき子で〜、ご家族からは死んだお母さんの身代わりにされてて〜、折角入った白蘭高校でも有名な女アイドルに似てるって言われてそれでちょっとバズりかけて〜、誰からも必要とされていないって塞ぎ込んでる子かな」

「マジでお願いだから、もうちょっとキラキラさせてくれない!?またボスキャラを搭載したら、今の二の舞になっちゃうのだけは辞めてくれない?」

「あっ、そうだ!ボスになっちゃったのは、環が手引きしたからってことにしておこ〜と。砂川女史にもしもししなきゃ!」

「おい、待て!また変な設定を追加すんな!帳尻合わせんのが大変だろうが!」


 これ以上、悩みの種をぐんぐんと成長させるのだけはやめてくれと、スマホを取り出した水島に飛びかかるが──あのヒョロガリは見た目通りにすばしっこいのだ。


 飛び掛かってくる中肉中背の三十路半ばの体を水島はヒョイっと避けるや、華麗なる指捌きで脚本家の連絡先を呼び出している。


「いやいやいや、これちょー良い設定でしょ! 環と有栖の演者さん、ソシャゲのメインキャラだけど、そんなに出番無さそうだなって悄気(しょげ)てたから、これくらいはサービスしてあげないとね!」

「やめてくれー!折角のウチの貴重なショタっ子が〜!!」

「ああ、そうそう!もうシングル曲は出来上がったんだよ!」

「どんだけ盛り上がったんだよ」


 元々は別の打ち合わせで来ていたはずなのに、水島が奇襲をかけたせいで、すっかり本題は脇によけられてしまっているように思える。


 一体なんの打ち合わせの時にコイツは邪魔しに行ったんだと、頭の中にある直近のスケジュールを思い起こすが、社内のスケジュールは水島に任せっきりになっている事もあって、全く思い出せそうにない。


 やっぱり、ヒットメーカーだからといって、独自の世界でしか生きられない身勝手な奴を引っ張ってくるんじゃなかったと2週間に1回はする恒例の後悔が三井に降り掛かる。


 そんな三井の心情を知ったものかとばかりに、3m先で砂川に電話を掛けているらしい水島はへけっと悪戯っ子な笑みを浮かべた。


「その曲名はズバリ! 【身代わりドール】!!」



※ちょっと前に出てきたキャラクター復習


『花恋ティア(かれんてぃあ)·····『ゼックラ・エッジ・エヌ:蝶の瞬き 巡る思惑』で初登場。ローツインテールの女装後で、矯正下着をつけて女性の体を再現している拘り屋さん。カラッとした性格と口調が印象的。自分とこのリーダーを狂季様と呼んでいて、妄信的。


鏡見新かがみねお』·····『ストリーマー系アイドルとメンチを切った』が初登場。上記のお話でも花恋と一緒に出ていた。重ためのマッシュヘアに黒マスクといった裏垢男子スタイル。きつめの関西弁を話す。語り手のクラスメイト。語り手にちょっかいをかけてから、より嫌われている。



副タイトルは天界(制作現場)のすったもんだ。

全ての元凶を生み出したのはコイツらです。




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― 新着の感想 ―
更新ありがとうございます! まさか全ての元凶は制作陣だったとは、誠君はこれからも苦労しそうですね。そして、そんなショタの設定を作った制作陣(作者様)に感謝です! 堕天使 マシロ 今も垣間見えていますよ…
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