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チート戦線、異常あり。 作者:いちてる

6章 黒白の悪魔

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少年、淑女、幼子はそれぞれ最後の日々を過ごす

 おまけは基本不定期でやるので今回はありません。
 昼休みが終わり仕事に戻る。

「手、動かせ」
「ごめんなさいなの」

 まよちゃんは心ここにあらずといった感じに今まで見てきた仕事のキレが無い。

「でさ、一つ頼みがあるんだが」
「なんなの? なんでもいいの」
「明日からしばらく図書室によりたいんだ。脱獄にあたってどうしても調べないといけないことがある。だから明日からの昼休み全て、図書室にこもりたいんだ」
「お安い御用なの! お兄ちゃん!!」

 まよちゃんは快く承諾してくれた。



 そして翌日の昼休み。

 図書室で調べもの。

 今までずっと黙って俺を見ていたカスピトラさんだったが、今日から離れるらしい。

 俺が脱獄する意思を伝えた途端にである。

 まあいいや。

 ドイツ語の辞書片手にとある文献を読んでいた。

「なんて書いてるの?」

 まよちゃんはここにある本全て読めない(外国語は当然として難しい漢字が読めない)ので、暇そうにしていた。

「言っても分からんないと思うぞ」
「むー」

 まよちゃんはなんとかして俺が読んでいるモノを読もうとしたが、1秒で諦めた。

「英語はひきょうなの」
「ドイツ語だけどな」

 一文を翻訳するのに3分かかる。

 クソ面倒。

「じゃ、まよおひるねしてるの」
「おお。お休み」



 俺が調べたかったもの全て調べ終わるころは脱獄まで残すところ2日に差し掛かる所だった。



「終わったよ。ありがとな、まよちゃん」
「ふゆ?」

 この昼時間まよちゃんはお昼寝タイムとなっていた。

「あんまり寝すぎるなよ。脱獄するの実質明日なんだからな」

 日付が2日後になる日、俺たちの命運が変わる。

「もちろんなの。明日もお昼寝して夜に備えるの」
「…………そういやさ、まよちゃん。まよちゃん戦える?」
「逆に聞くけどお兄ちゃんは虫さん達でどうやって戦うの?」

 戦う気はないそうです。

「そう、無理なら無理で構わない。変に何かしてこっちの調子が狂うほうがよっぽどまずいからな」
「わかったの。まよ何もしない! おニート様になってやるの」
「おう。期待してる」

 ホント頼むよ。まよちゃん。



 俺が生きても死んでも結局この独房で寝るのは今日が最後。

 まよちゃんに掃除をさせた(何度も言うが俺は掃除が出来ない)。

 その仕事に疲れたらしくお昼寝していたのにもかかわらずまよちゃんはすぐ就寝した。

「120822.起きてますか?」

 スピーカーから小さな、だがはっきりとカスピトラさんが俺を呼んだ。

「はい。起きてます」
「…………少し内緒話をしたいので出来るだけ静かにしてください」

 鏡の前に座る。

「120822いいえ、嘉神一樹さん」
「はい」
「脱獄するの、止めた方が良いです」
「……………………」
「ウルフ所長はあなたを殺す気です」
「そりゃそうです。脱獄するんですから生かして返すわけにはいかないでしょ」

 当たり前だのクラッカーってな。

「違います。本来脱獄推奨日に脱獄できる人間はここに入って3年以上たっていないといけないんです」
「……そうなんですか。知りませんでした」
「あなたを殺すためウルフ所長は今回限りその制限をなくしました。あなたを殺すがためだけにです」

 へえ。

 ここに入って1か月しかいないが何か問題起こしたのだろうか。

「そしてはっきり言います。あなたに脱獄は不可能です」
「どうしてそんなこと言えるんですか? 言っちゃ悪いですがここの警備レベルならわざわざ推奨日なんて設けなくても脱獄できますよ」

 出来ないのはここにまよちゃんがいるから。

 『世界』を止め、俺についている爆弾を外しそこから逃げるのに5秒はかかる。

 まよちゃんを助ける時間が圧倒的に足りない。

「……やはりそうでしたか」
「勿論、まよちゃんが参加したいなんて言わなければ参加する気なんて無かったですし」

 最後の足枷はこの子。

「聞いてください。脱獄をするにあたってあなたは階段を上る必要があります」
「そうですね」
「どの階も階段は五種類あり、1度その階段を選べば5階までその階段で上る必要があるんです」

 5階ごとに1フロア合流するのか。

「まずここの階段どれか選んで95階で一回合流、その後また5つある階段をどれか選び90階に向かう、そう考えていいんですか?」

 そしてその中のどこかに鍵を持った人間がいると。

 結構ハードだ。

「理解が早くて助かります。ですが地下1階から地上に上がる階段だけは1つしかありません。だからどうあがいても絶対に通らないといけない階段がある」
「……………」
「その階段に1人の、いいえ1匹の死神を設置するらしいです」
「死神? 何ですかそれ」

 自称神なら見たことあるが死神は聞いたことないな。

「あたしにもわかりません。ですがあなたの能力を知ってウルフ所長は死神なら勝てる、そう判断をしました」

 俺が現在使える能力全てを所長は知っている。

 その上で、俺では勝てないと判断を下した。

「その死神に首輪のスペアキー全てを持たせるそうです。だから生きて出るためには絶対に、戦闘をしないといけない」
「で、俺が殺されると」

 死神……一体どんな存在なのだろうか。

「あの用心深い所長が、絶対的な信頼を寄せている存在です。ここは一旦逃げるべきだと」
「とはいってもですね、俺もうサインしちゃいましたし」

 参加するって伝えたからにはもう参加しないといけないのだろう。

「明日までならまだ取り消すことができます」
「え? ホントですか!?」

 それはとってもいい情報。

「でもカスピトラさん。そんなこと囚人に伝えていいんですか? ルートの件はともかく死神は伝えてよかったんですか? それ運営のトップシークレットの気がするんですけど?」
「そうですね、本当はいけないと思います」

 おい。

「あたしは2週間ほどあなたを監視してきました。その結果の判断です。あなたはここで死ぬには惜しい」
「へえ」
「あたしがSCOになれるとは限りません。確率的には文字通り万が一です。ですが万が一そうなればまずはあなたを部下にしたい。そうなれば条件付きとはいえあなたは自由です」
「…………そうですか」

 所長は俺を殺しに、カスピトラさんは生かしに来てるわけか。

「明日ここで脱獄が成功する確率は完全なる0です。生き残りたいなら参加するべきではない」

 俺を必要と思ってくれる。

 それはとっても嬉しい事。

 でもきっとそれは出来ない。

「支倉」
「……支倉がどうかしました?」
「俺をこうしたのって支倉らしいです」
「!!」

 正攻法で助けてくれるのなら俺はそっちに賭けたい。

 ただ宝瀬ですら出来ないと言わせた支倉に、一端の人間が勝てるとはどうしても思えなかった。

「カスピトラさん。気持ちは本当に……本当に嬉しいんです。ですがいくらなんでも相手が悪すぎる」
「…………」
「カスピトラさんがSCOになれる一歩手前になった時、俺が原因でなれなかったら死んでも死にきれなくなります」

 俺は彼女の為なら死んでもいい。

 本気でそう思っている。

「そうですか。なんでそんなこと知ってるのかは聞かない方が良いんでしょうね」
「そうしてくれると助かります」

 もし聞かれたら……どうするんだろう俺。
 真百合を売るのか、誤魔化すのか。

 分かんねえや。

「あの……多分これが俺とあなたが会話する最後の機会かもしれません。ですから最後にカスピトラさんに言っておきたいことがあります」
「なんですか」
「ここに入れられた時正直絶望しました。クソみたいなハエと同室にされ、周りは自分の行いを恥じようとしないゴミばかり。焼却しようにも看守たちはそれを許さない」

 命を賭けても勝手に巻き戻る。

「でもそんな中でも貴女と会えたのは本当に良かった。世の中まだまだ捨てたもんじゃないって、綺麗な人もいるんだって思えました。たとえ俺にこれからどんなことがあっても、あなたのことは忘れません。敬愛してます。カスピトラさん」
「…………ばか」

 ん?

「何か言いました?」
「はあ……。ばかって言ったんですよ。あなたは生きてここから出る。あたしは晴れてSCOになる。だからこれが最後の会話じゃないんです。それを余命が宣告された人間が遺書を書くようなセリフを言われても、嬉しくも何ともありません」
「あは、敵いませんね」

 素晴らしい。

 あなたは誰よりも、真百合や月夜さんよりもきれいだ。

「ではそろそろあなたも寝ないといけない頃合いでしょう。失礼しますね」
「ええ。また会いましょう」

 いつが会える日があると信じて

 それがハッピーエンドに繋がると信じて

 俺は眠りについた。





「起きるの!!!」

 布団を吹き飛ばされる。

 眠い。

「……あと1時間」

 寝る。

「だめ! お昼寝するために早く起きるの」
「…………zzz」
「寝るにゃあ!」

 zzz

「zzz」
「お兄ちゃん寝るの早すぎる」

 zzz

「仕方ないの」

 zzzzzz

「zzz――――!!」

 目が覚めた。

「耳に蚊を近づけるの止めろ!!」
「おはよ。今日も頑張るの」

 やめろよホント。

 その能力まよちゃんが思っているよりずっとエグイんだから。




 今日は業務が一切ない休日。

 ここで過ごす最後の日だ。

 そこでまよちゃんと散歩をしてるととある囚人の集団をみつけた。

 何をしているのか隙間から覗き見る。

 金銭のやり取りを目撃。

「何やってんだお前ら」

 後ろから声をかける。

「だ、旦那」

 旦那と呼ぶからに、こいつはかつてボコボコにした男の一人。

 と思う。

 母数が多すぎて把握できない。

「何やってんだと聞いたんだが」
「賭けです」
「賭け?」
「か、勘違いしないでくだせえ。これちゃんと許可とってるんですから」

 男はA4の紙を俺に見せる。

 そこには賭け事を特別に許可すると所長のサインが書かれていた。

「なんだ。許可とってるならそう言えばいいのに。危うく八つ裂きにするところだっただろ」
「「「…………」」」
「お兄ちゃんかっこいいの」
「そりゃどうも。それで賭けの内容は? BJ? ポーカー? 麻雀?」
「強いて言うなら競馬でっせ」

 よく分からなかったので更に奥に入る。

 捨身と番号が書かれた紙をテーブル全体に広げられている。

 その中に俺の写真と番号が。

「何がしたいのか何となく分かった」

 生き残れるかどうかをこいつらは賭けの対象にしているのか。

 いや、ただ生き残るかだけではないな。どこまで上に行けるのかも対象。

 それに東西南北の賭け場を見るにその中で一番上までいけるのは誰かも賭けているな。

 やっぱこいつらクズだなあと思ったが、よくよく考えこういう賭け場があるから参加しようと思う空気があるのだろう。

「因みに旦那が1番人気でっせ」
「へえ。倍率は?」
「脱獄は24.4、最上階が1.6。東棟が1.1まじで期待されてるんすよ」
「お前らに褒められても嬉しくもなんともないな」

 とはいえ脱獄できないがほぼ皆の常識か。

「お兄ちゃん。そろそろよそに行くの」
「邪魔したな。あと」

 俺はここでためたすべての金を俺が脱獄するに賭ける。

「この配当は看守にでも寄付しとけ」




 昼食時、多分この時間が一番東棟の人間が集まるとき

 俺は使ったことないが金で菓子パンとか購入できるので、参加する人に激励としてそういうのを奢っている人がいた。

「まよちゃん。ここでの最後の我が儘、聞いてくれる?」
「? 良いけど何するの?」
「所信表明、みたいなもん」

『頑張れよ』『期待してるから』そんな声が飛び交う間を堂々と横切る。

 靴を脱いでテーブルの上に立つ。

 カスピトラさんにはさよならを言わなかったがこいつらにはちゃんとさよならを言わなくてはいけない。

「あーあー。声量のテスト中」

 棟全体に響き渡るように大小織製マキシマムサイズで音量を調節。

 ゆっくりと息を吸い込み俺はお別れの挨拶をした。

 一番好感度が上がりやすくそして現時点で一番好感度が高いヒロイン、それがカスピトラ。
+注意+
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