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チート戦線、異常あり。 作者:いちてる

6章 黒白の悪魔

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籠の中の幼子は陽の光を希う

どうでもいいおまけあり。
 あれから1週間近くがたった。

 暦は6月から7月に移り日本特有の蒸し暑さが本格的に顔を出す。

 しかもここは地下であり熱がなかなか外に漏れない。

「あーつーいーのー!」
「うっるぅぅぅぅぅせぇえええ」

 当然ながら牢獄に囚人が自由に設定できる空調は設置されていない。

「お兄ちゃんなんとかして」
氷結の女王フィギュアステイト

 分子の動きを止め温度を下げる。

「へっくし。寒いの!」
「どうしろと」
「ちょうどいい温度にするの」

 無理。

 動くか動かないかしかできないので細かい調整は出来ない。

「じゃあ、他の人にコピーさせてもらったらいいと思うの!」

 この1週間で、まよちゃんに俺のギフトの正体がばれてしまった。

 隠したかったんだが、カスピトラさんが伝えたらしい。

 彼女が伝えたのなら仕方ないと割り切ったので特に気にはしていないがな。

「野郎とキスするの絶対に嫌だ」

 勘違いしてほしくないのだが、好きな異性がいないとはいえ男が好きなわけじゃない。

 恋愛するなら女がいいとちゃんと思っている。

「キモ豚とちゅーしてもまよ死ななかったから、お兄ちゃんもきっと大丈夫っ!!」
「……その稀にえぐいこというの止めてくれない?」

 リアクションに困るから。

「??」

 どうやらこの子幼さゆえの無自覚のようだ。

 もしくはもうそういうのを言ってはいけないという常識がすでに破棄されたか。

 まあ、後者だろう。

「でも暑いのには変わりないの」
「ああもう、これで我慢しろ」

氷を作る。

「ありがとー。お兄ちゃん大好き」
「…………あっそ」

 子供だなあと感じながら、少し考えることがあった。

「どうしたの?」

 その様子を見てまよちゃんは俺のことを心配したように見つめたが

「なんでもない」

 誤魔化す俺。

「うそ。絶対何か隠してるの。まよには分かるの」

 しかしまよちゃんはそれを許さない。

 困ったがしかたない。

 ここは嘉神家一子相伝のあれを使おう。

「そんなことより、まよちゃんってさ昔のこと覚えてる?」

 伝家の宝刀『そんなことより』。これを破ったものはいない。

「え? むかし?」
「そ、昔。親とか友達とかいたのかなって」

 実を言うとこの質問地雷を踏む覚悟でした。

 分かったうえでそこまで大きな被害にはならないと判断した。

「…………覚えてないの」
「覚えてないって?」
「パパの顔もママの名前も。全部覚えていないの。まよが覚えてる一番古い記憶は首輪をつけられてわんわん鳴いていたことなの」
「…………」

 予想通り爆弾発言。

「ねえお兄ちゃん。お日様って見たことある?」
「どうした? いきなり」
「まよね、お日様見たことないの。ううん。ほんとは見たことあるとはあると思うの。でも、まったく覚えていないの」
「そう」

 ロリペドどもの監禁から抜け出した後すぐに監獄に入れられたらしい。

 だからまよちゃんは外に出た記憶が無い。

「お兄ちゃんは見たことある?」
「ああ、あるよ」

 意識してみると目をやられてしまうため、時下で見たことは無いが、日食があったときフィルター越しでみたことがある。

「いいな。まよ見てみたいな」
「…………」
「ねえお兄ちゃん。まよ何か悪い事したの? なんでまよだけこんな目に合わなきゃいけないの?」

 冤罪。

 冤罪。

 冤罪。

「もうむりだよ……まよ、お外でたいよ…………ずっとここにいるのいやだよ」

 まよちゃんがこんなこと言い出すのは初めてだがその兆候が無かったわけじゃない。

 寝言で帰りたいとなんども呟いていたし、何もない時は上を、空の方を見ていた。

 この子なりにずっと頑張ってきてさっき俺が変なとこ踏んだせいで押しとどめていた感情があふれ出した……そんなところか。

 紳士としてここは慰めてあげるところなのだが俺はちょっと別のことを考えていた。

 それは俺と似ているということ。

 まだ子供だという事。
 過去の記憶が無い事。
 無実の罪で捕らえられた事。

 多分この他にも似たようなことはある。

 こういう時、一番してほしいのは同情だ。

 何の意味もなく何にも生まないけれど、共感してくれる仲間が欲しい。

「辛かったね。その辛さちょっとは分かるよ」
「…………」

 自分で抉った傷だ。

 自分で癒すのが道理なはず。

「まよちゃん。きっといつかは出れるよ」

 心無い言葉だがそれくらいしか俺はこの子にかけられる言葉はない。

 泣き疲れて眠ってしまうまで俺はこの子を慰めた。

 全く……ホント嫌になる。





 囚人の一日は規則正しい。

 仕事をする時間もご飯を食べる時間も運動をする時間も風呂に入る時間も寝る時間も全てが定められている。

 この日もいつも通り仕事をし支給されるものを食べている時、それは起こった。

 いや違うな。最初から予定されているものが予定通り起きたのだから起きた、がただしい。

 所長の声がスピーカーを通してアナウンスされる。

「あーテステス。マイクのテスト中。うん、聞こえてるわね。ゴホン。えー。全棟の囚人たちに告ぐ。1週間後、脱獄推奨日となります。参加する囚人たちはパートナーと相談し相互の合意があったうえで本日中に署名を提出しなさい」

 このアナウンスを聞き囚人たちは3種類の反応を見せた。

 まず一番多いのが歓喜。
 次に戸惑い。
 そして一番少ないのが無関心。

 俺は二番目で、アナウンスの内容をよく理解できなかった。

「ねえまよちゃん。脱獄推奨日って何?」
「……ごめんお兄ちゃん。聞いて無かった。もう一回いって」
「脱獄推奨日って何?」
「言葉通りの意味なの。脱獄していいの」

 ますます意味が分からん。

「聞き間違いだろうけどさ、いま看守が囚人に脱獄していいって言わなかった?」
「ううん。聞き間違いじゃないの」
「はあああ?」

 俺は二番目といったが訂正。

 四番目の憤怒。

「わけわかんねえ! 一体どういうことだ!!」

 なんで脱獄を奨励するんだ。

 頭わいてるのか?

「お、お兄ちゃんこわひ……」
「うるせぇ。そんなことは今どうだっていい。おいどういうことだ! 説明しろ!」

 半ギレとブチギレの中間地点でキレている俺。

「説明しましょうか」

 そんなところに現れた大天使カスピトラさん。

「まず脱獄推奨日といっても脱獄してもいいではなく、脱獄してほしいが正しいです。あなたは3倍刑を知っていますか?」
「ええ」

 ギフトを使用しての犯罪は通常の三倍の刑を要求される。

 そういう法律はないが、司法ではそれが当たり前になっている。

「本来なら懲役2年で済むところが6年に、10年が30年に。30年が実質終身刑に。その結果何が問題なのか分かりますか?」
「……足りないんですか?」
「その通りです。独房が不足する。2人一組にしているのもこの独房が足りないのが大きな原因です。ですがそれでもそこまでしても足りない」

 確かに新聞でそういう記事を読んだことがある。

 囚人を幽閉する施設が足りない。

「かといって増やせといわれすぐに建設できる施設じゃないのはわかりますよね?」

 地下100階まで穴を掘るのにすら多額の費用と時間がかかるのは中学生でも理解できよう。

「最初は白仮面やSCOで誤魔化していましたが、もうそれすらも限界になっています。ですので今度は囚人の数を減らそうってことです」
「かといって脱獄させるのは全く話が違うでしょ」
「ですので脱獄推奨日です。許すとは言ってないんですよ」

 カスピトラさんは俺につけられた爆弾を指さし

「まず、その爆弾。その日一日はこちらから手動で爆発出来ないようになります」
「……。次に深夜0時から5分間だけこちらは何も手出しはしません。脱走を見逃します」
「そんなことしたら移動系のギフト持ちは全員逃げること出来るんじゃないですか?」

 5分あれば俺だってできる。

「いえ、こちらが自発的に爆発できないというだけで、あなたに取り付けられている爆弾はちゃんと機能しています。バディと一定距離離れれば爆発しますし、無理矢理外しても、またこの施設から出ても爆発するように出来ています」
「そんなんじゃ誰も参加しないでしょ」

 馬鹿だってしない。

「勿論そのことについても配慮しています。あなたにつけられている5つの爆弾、鍵穴はどれも違いますが他の人間と対応しているんです」
「……つまり俺の右腕につけられている腕輪もまよちゃんにつけられている腕輪も同じ鍵で開けることができるってことですか?」
「そういうことです。そしてその鍵を我々看守がこの日だけ持ち歩いている」
「……カスピトラさんもですか?」
「いいえ、鍵のスペアは合計5つ。研修生に持たせるわけがありません」

 そりゃそうだ。そんな危ない事彼女にやらせるなんてどうかしてる。

「持っている看守は階段のどこかにいます。知っていますよね、天国への階段のこと」

 初めに看守から聞いた。

 ここの出入り口は2種類でエレベーターを使うか階段でそのまま上るかしかない。

「看守からそれらの鍵を奪い爆弾を解除し、用意されたボートで脱獄できる。その日だけはそこまで配慮しています」
「至れり尽くせりじゃないですか」

 その条件なら参加する囚人が多数いてもおかしくはない。

「無論、デメリットもありますよね」
「当然です。手動爆発を解除できるのは本日中に登録した人のみ。そして一度参加すれば降伏はありえません。どんなことがあろうとその場で殺します」

 一応不本意だがただの看守は囚人を個人の判断で殺すことはできない。

 しかし例外があり、特別法3条で公務員は緊急時の場合殺しても良いとある。

 自ら脱獄させ、その後殺す。

 狙いとしては悪くない。

 だがそれより重要なことは

「脱獄成功率は?」
「…………毎年1組いるかいないか」

 …………

「多すぎる」

 1組ですら許されないというのに…………!

「そりゃそうよ。たりめぇだ」

 モヒカンのパッ金が意地悪く横入りしてきた。

「ここだけの話してやろうかぁ?」
「…………なんだ。言ってみろよ。つまんない話だったらぶっ飛ばすがな」

 つまる話をしてもぶっ飛ばす可能性はあるが。

 モヒカンは声を小さくし俺達だけに聞こえるように

「おれはここに10年くらいいるんだけどよ、確かに脱獄できた奴はいた。一人はかつておれのバディだった。そいつがよ、言ってたんだ。白仮面になる取引をしたってなあ。分かるか? この意味が」
「ああ。いい話じゃないか。ほめてやる」

 やらせ、圧倒的やらせ。

 毎年一人も脱獄者がいなければ誰も参加しない。

 しかし一人でもいるとすれば宝くじを買う心理で参加する人間は多くなる。

 実際は誰も脱獄なんて出来ちゃいない。

「…………何勝手な事をいってるんですか。そんなことするわけないでしょ」

 カスピトラさんが取りあえず訂正しておきましたと言わんばかりに、反論するがいくらなんでもこればっかりはこのモヒカンの方が正しいだろ。

「…………参加するかしないかは今日中にサインをして看守の誰かに提出してください。その際バディとの相談は忘れないように。あなた達二人は運命共同体なんですから」



 昼休みはもうこの話題で持ちきりだった。

 参加するかしないかをバディ同士で相談か説得。

 無論俺達もその例外ではなく

「お兄ちゃん!」

 今までになく大きな声。

「……………」
「参加しようよ」
「…………………なんで?」
「だって、まよお外でたい!」
「モヒカンの話聞いて無かったのか? 誰も成功者はいないんだぞ」

 命は投げ捨てるモノじゃないと母に教わった。

 学習しているかはノーコメント。

「じゃあお兄ちゃんは参加したくないの?」
「ああそうだな。参加する気はない」
「そんなぁ!」
「な、なんでですか?」

 一緒にいたカスピトラさんも驚く。

「カスピトラさんの評価に響くだろ」
「え?」
「だって考えて見てくださいよ。カスピトラさんはSCOの研修の為ここに居るんですよね?」
「はい」
「で、俺はあなたの観察対象。そんな俺が脱獄したいなんて思ったらお上はどう思います?」

 まともに調教できない無能監察官に思われてしまうだろう。

「だから俺はたとえどんな理由があっても脱獄する気なんてありませんので安心してください」

 親指をたてサムズアップ。

「べ、別に参加してもいいんですよ」
「そんな、無理ですって」
「そうだよお兄ちゃん。まよずっとここに居るのやだよ! たとえ死ぬことになってもずっとここにいるよりマシだよ」

 どうしてもまよちゃんは出たいらしい。

「安心してください。あたしの評価はその程度では揺らぎません」
「いえいえ、無理しなくてもいいですって。俺も一度あなたの道を志した身、どういう職か俺は分かってます」
「大丈夫です。心配なさらず」
「やろうよー。ねえ。お兄ちゃん」
「まよちゃんもこう言ってますし。ね?」

 二人とも押しが強いな。

 参加したいと言っていたまよちゃんはともかく、カスピトラさんは何か俺に参加してほしい雰囲気が。

 気のせいかな?

「ねえお兄ちゃん! まよお兄ちゃんしか頼れる人いないの。大変なのは分かってるしまよなんかじゃ足手まといになることもちゃんとわかってるの。でもお兄ちゃんじゃないとお願いできないの」
「………………」

 まよちゃんはずっと冤罪で捕まっていたといっている。

 外に出たいという気持ちは人一倍強いのだろう。

「約束したの! まよを困った時は助けてくれるって!!」
「したっけ?」

 覚えてないんだが。

「したの! 絶対にしたの!」
「そう。したんだ」

 やっぱり記憶にないや。

「お兄ちゃんも……まよを裏切るの?」
「裏切るとは失礼な」

 俺は生涯一度も裏切ったことは無いんだぞ。

「お願いお兄ちゃん。まよもうこんなところずっといるのやなの。1度でいいからお日様みたいの、一度も見ていないで生きるなんていやだよぉ……」

 本気で泣き始める。

 嘘をついているようには見えなかった。

「ほら、この子もそういってますし」
「ああもう。本当にいいんですか? 無理してませんか」
「ええ! 心配するようなことありません」
「分かりましたよ。参加してやる。だからまよちゃん。泣くな」
「あ、ありがと。お兄ちゃん。だいすき」

 半ば押し切られる形で俺は署名をし

「ほら、まよちゃんも」
「はい」

 まよちゃんも自分の名前を書きカスピトラさんに渡した。

「はい。確かに受理しました」

 カスピトラさんは責任を果たしたかのように安堵していた。


 ように見えた。

 第一回メープルさんのどうでもいいコーナー!

ぱふぱふぱふ♪

 このコーナーは作中に伝えられずかつどうでもいいことを僕様やお兄ちゃんといったメタ発言できるキャラが、無責任なことを言いながら読者に伝えようというホントどうでもいいコーナーでーす。キャピ

 記念すべき最初のテーマは、反辿世界リバースワールド
 メインヒロインその2のギフトだね。
 その1は知らないけどね。
 この能力初めは任意の時間『世界』を巻き戻す能力でしかなかったんだけど、なんでそこから『世界』を止める能力に発展したかという話。
 ね? ほんとどうでもいいでしょ?
 起きたかどうかが重要であって、どうやるかなんて一切考えないこの小説らしからぬ話題だよね。
 まあ軽く結論から言うと真百合ちゃんは0.01秒巻き戻しその後すぐ0,01秒巻き戻すのをなんども繰り返していたんだ。
 こうすることで止まっている『世界』を偽装したんだ。
 ただ何度も繰り返すうちにコツを覚えていつの間にか止めるという行為に辿り着いたというわけかな。
 ついでだけど、この子持っている才能だけなら主人公より上だからね。
 主人公に目が行くけれどこの子も大概化け物かな。

 次回はお兄ちゃんが口映しマウストゥマウス口盗めリップリードの違いについて説明するよ!
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