黒白の少年は青苔の淑女と臙脂の幼子に出会う
幽閉されて今日で一週間。
明日でバディが変わるため今日がクソバエと最後の一夜となる。
俺達の中は最悪のままだが、形だけは良く見えるようになった。
就寝時刻まで後1時間ほどあるので二人で大富豪をやっている。
トランプの束を3つに分け、シャッフルした方が後に選ぶ。
ダイヤの3があったほうが先攻、なければじゃんけんで順番を決める。
俺はダイヤの3を見せ、5の二枚組を場に出す。
「そういやクソバエ。正義は勝つって言葉あるじゃん」
「勝った方が正義だもんな」
Jの二枚組。
これにより一時的に革命状態となる。
「いいや、そんなこと言うわけないだろ」
3二枚組を場に出しパスの有無を聞かずして流す。
JORKERは1枚しか入れてないから物理的に不可能だからね。
「あれってさ、ニアピンだと思うんだよね。強い方が正義とか、勝った方が正義とかそれも全部。惜しい。正しくは、正義は強い」
9の3枚組を場に出す。
「悪と違って、正義はそのものに力があるから、自分が正しいって明確にできるから、迷いが無いから、正義は強い。もちろん負けることだってあるだろう、だが大体は正しい方が勝つようにできている」
「じゃおまえ正しくないんだなぁ」
Kの3枚。
「聞いて無いのか。大体はと言っただろ」
ハート以外の2、3枚で返す。
ここいらでクソバエがいらいらし始める。
「お前さ、正義の反対は別の正義だぞ。今時中学生ですら知ってるのに」
「……」
うん勝った。
「クソバエはほんとどうしようもない馬鹿だな。今までどうやって生きてきたんだ。パパのすねでもかじっていたのか? お前は殴ってきた奴と殴られた奴それぞれ別の正義があると思っているのか? ムシャクシャしてやったからそれも一種の正義だと?」
10を4枚。
革命。
ローカルルールで革命返しは出来ないと前から決めている。
まあそんなこと関係なく、10捨てにより不要なカード(3、8、8、JORKER)を捨て終了。
特に8とJORKERは最後に出したら負けというデメリット持ちなのでさっさと捨てるに限る。
「弱い奴が強くあろうとするために正義を騙る。少しでも見栄を張れるように。でも本質は変わらない。弱いまま。そもそも正義VS正義なんてSF小説じゃあるまいし、起こり得ないよ。世の中にあるのは正義対悪の痛快なワンマンショーか、正義の皮を被った悪同士の見苦しい寸劇だけ」
カードを集める。
「それとさ、お前正義の反対は別の正義って何を根拠に言ってるんだ? 日常的にそういうことがあったのか? まさかとは思うが……取りあえず誰かから聞いたことを鵜呑みにして言っているだけじゃないんだろうな?」
図星のようです。
「根拠もない。実体験から得た経験論でもない。ただ言葉の響きがいいから使っているだけ。本気で小学校からやり直し……いいや小学生からモノを教わった方が良いな」
このあと10戦したが、一度も負けなかった。
イカサマしてないよ。
翌日、今日はバディが変更される日。
やっとクソバエと離れる時が来た。
この日一定距離離れると爆発するシステムを一時的に解除し、半日かけてバディを変更する。
先に呼ばれたのはクソバエ。
俺達は別れのあいさつ(死ね)を互いに伝えこの後しばらく会うことは無くなる。
俺はしばらく一人で過ごしていた。
目の前に何度も看守と囚人が往復しているが一向に呼ばれる気配も誰かが入ってくるわけでもない。
昼時になろうとした時、ようやく扉の前に気配が。
中に入ってきたのは2人。
一人は所長さん。
もう一人は知らない女性。
女を見たのは1週間ぶりで、しかも最後に見たのはメープルという糞女神なわけだからものすごくうれしい。
「120822番。ちょっといいかしら」
「はい」
正座して聞く。
「まずね、あなたには監察官をつけさせてもらいます」
「監察官?」
「そう。彼女」
なんら変哲のない青苔色の三つ編みをした女性。
「彼女はSCOの見習いとしてここで研修するの」
「SCO……!」
無意識に立ち上がる。
「「……!!」」
所長は身構え、もう一人は多分ギフトを発動した。
そんなことお構いなしに背中を向けてボールペンと紙を持ってくる。
「あ、あの……サインください!」
両膝をつけサインをねだった。
「……え?」
「うわ……あ、あのいきなりで申し訳ないんですけど、実は僕SCOに憧れてたんです。なれないってのはずっと昔から分かってたんですけど分かっている分より憧れてしまって……。すみませんそんなの興味ありませんでしたね。えっと……見習いとはいえ女性でSCOなんて凄過ぎます。例えるなら女性のマイナーリーガーじゃないですか。出来れば握手もしてほしいんですけどそれはさすがに分不相応ですのでせめてサインだけも……この汚らしい雑巾にどうかお恵みを……!」
全力で懇願した。
「え……申し訳ないんですが自分の所在を明かす行為をすることはできません」
「は……! はうわあああ」
頭を抱え号泣。
「SCOの人に謝らせてしまった。うわあああ何て僕は駄目なんだ――――! ゴミじゃないかあああ」
「う……めんどくせえ」
もう終わりだ。
舌噛もう。
「ちょっ落ち着いて」
SCOに言われたので喉にボールペンを突き刺し喋れないようにした。
これで物理的に音を出すことができない。
「…………」
ただ何とも言えないような顔をされたのでにっこりと笑う。
「すみません、ちょっと」
SCOの人は所長と一旦ここから離れる。
どこからか
「やばすぎです。あんなの聞いてません」
「う……うん。アダシもあそこまでとは思ってなかった。どうする? 引き返す? 無理なら無理って言ってくれた方がアダシも助かるから」
「い……いえ。一度任されましたし、SCOを目指すにこういうのには慣れておかないといけないので……」
「そう。偉いわね。アダシたちも精一杯フォローするからきつかったら早めにね」
との会話が。
聞こえたけど盗み聞きは良くないので忘れることにした。
一応この間に突き刺したボールペンを引き抜き鬼人化で治癒。
「ごほん。120822番、まずあなたに2つ伝えないといけないことがあります」
所長さんの話を正座して聞く。
「1つ、まず彼女。伝えた通り彼女はSCOの見習いとしてここで研修することになりました。SCOの説明はいらないようですし、要点だけを伝えます。あなたはここにいる間彼女の部下として接しなさい」
「…………!!」
そんな……
「僕なんかでいいんですか」
何て名誉なことなんだろう。
きっと俺が人畜無害だと所長さんも理解してくれたんだ。
見た感じ初々しさがあり、研修も初期段階といえよう。
どんなことも最初はイージーモードからやるのが鉄則だからな。
「ええ。ただし分かっていると思うけど命令には絶対服従よ」
「はい」
当然。
「でね、それともう一つ伝えたいことがあって」
「なんですか?」
「現在収容されている囚人の数は5012人。そのうち男が3213人、奇数なのよ」
言いたいことが分かった。
「俺、バディ居ないんですね」
そういや小学校の時先生から『二人組作って』っと言われ、ぼっちになったことを思い出す。
いやあ……悲しかったな……
確かあの時複数の女子から組まないかと言われ『女の子同士で組めばいい』と断ってたらいつの間にか俺以外ペアになっていた。
ちゃんと奇数か偶数か把握してほしいよホント。
「いいえ。ちゃんとバディは組ませます」
「じゃあ、3人ですか」
一組だけ3人。
一組だけといったのに二組3人作って結局一人余ったこともあったな。
「それも違うわ。入ってきて」
他の看守に連れてこられた人は一目で分かった。
「え?」
絶対に来るはずの無いタイプの人間。
臙脂色の肩にかかった髪の毛。
その細い四肢は男と呼ぶにはあまりにも違和感。
つい
「女?」
そう口走った。
「あっているわよ。彼女は女の子。そして今日からあなたのバディよ」
「そんな……」
「あら。不服?」
「不服というわけではありませんが、理解できない。この一言に尽きます」
SCOの人は説明を受けたが、なんでバディが女なんだ。
クソバエが俺と組む前は一人だった以上、バディは何としても組まなくてはいけない制度じゃないはず。
「理解ね……例えばあなた男一人で女の子の集団に入るの躊躇う?」
「まあ、ちょっとは」
「じゃあ、二人でなら?」
「……」
何となく分かった。
このSCOは女性で、この東棟は男の刑務所。
もし俺のペアが従来通り男、もしくは単独の場合彼女一人が女性になってしまう。
鎖に繋がれているとはいえ、精神衛生上良くない。
ならば初めから女性同士で研修をやればいいかと思ったが、きっとそれは俺が優秀だからどうしても監視対象になったのだろう。
俺ってばとっても罪作り。
じゃ俺が女の刑務所である北棟に行けばいいかといえば、他の囚人が男である俺に問題を起こすかもしれない。
そういうわけで、仕方なくSCOがこっちに来て、でもどうしても女一人は嫌だから一人囚人を連れてきた、そんなところか。
これなら納得はできるか。
ただ実際の所、俺が納得してもしなくても、囚人の俺に決まったことを覆すことは出来る力はない。
従うしかない。
「着いてきて。新しい独房に連れていくから」
手を後ろに組ませ女の子と一緒に歩く。
連れていかれた独房は俺が最初にいた独房より倍は広かった。
というか俺の住んでいるアパートより広い。
なんかよく分からんが屈辱。
あと目を引くのは大きな鏡。
恐らくこれはマジックミラーになっていてむこうにはSCOの人がいて、俺を監視しているのだろう。
「じゃ、他の囚人にもこの事伝えないといけないから30分以内に食堂ね。それまで自己紹介でもしておいて頂戴」
所長さん達はそういって去って行った。
残されたのは俺と体操座りをして俺の様子をうかがっている女の子。
取りあえず、話しかけないと始まらないので出来るだけ優しく話しかけることにした。