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チート戦線、異常あり。 作者:いちてる

6章 黒白の悪魔

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大人達は少年に悪魔と名をつける

第三者視点なう
 6月○×日

 嘉神少年が幽閉され一週間がたとうとした日。

 大人たちは会議を開いていた。

 それは毎週定期的に行われる馬喇田木収容所の重役たちが集まり互いの親睦を深め、囚人達に異常が無かったかを報告し合う会議だ。

 円卓の周りに10人足らずの大人たちが座っている。

 その中に2人だけ起立している人間がいる。

 一人は所長。

 髪の毛は無い分厚化粧で身を固めているが、誰もそのことに不満を漏らす人はいない。

 それはなぜかと言われると、答えは単純で人徳があるからだ。

 この所長、性癖はあれだが性格は良く部下の誰からも慕われている。

「定例会議を始める前に今日はあなた達に報告したいことが2つあるの。1つはこの子」

 紹介したのはここでは場違いの真新しいスーツ服を着た女性。

 ここに来たのはほんの一時間ほどの新人である。

 青苔色の髪質を持ち、その髪を三つ編みにして一本にまとめている。

 おしゃれ等せず自身の機動力に重きを置いた正装と表現するに値しよう。

「は、初めまして。あたしは亀山霞といいます」

 初対面の上司に敬礼をし、丁寧に自己紹介をする。
 この行為は社会では全く持って間違いではない。

 しかしここは社会から切り離された、言うなら辺境、野蛮の地。
 そういう常識は命取りになる。

「ストップ。説明し忘れたアダシが悪かったけどここで名前を教えてはいけない。恨みを持った人間にアダシたちの情報が少しでも伝わったらいけないでしょ?」
「す、すみません」
「いいのいいの。最初に伝えなかった忘れっぽいアダシがいけないんだから」

 小さなミスだが、所長の言う通り致命的なミスとなりうる。

 確認された囚人に自身の血のインクを使い名前を書けば、書かれた人間は死ぬ能力者がいる。

 そういう人間がいる以上、ここでは個人情報すら命取りだ。

「ではあたしは皆さんのこと何とお呼びすれば……?」
「一応コードネームってのがあってね、まずアダシはJウルフ」

 所長が自身のコードネームをあかし、他の部下たちも自身のネームを伝える。

「トキです」
「ターバン。よろしく」
「キタタキ」
「モスキート」
 Etc.

「では、あたしは?」
「そうね……カスピトラなんてどうかしら?」
「いいんですか? そんな中世ヨーロッパの女性みたいなコードネームで?」

 この発言に所長を含む看守全員が苦笑いした。

「あなたが気に入ってくれたなら何を連想しようが構わないわ」
「そ、そうですか」

 亀山……カスピトラは自身が何やら失言したことは分かったが、その失言が何かここで問うことは出来なかった。

「この子はここで二か月ほどSCOの研修するためにわざわざこんなところまで来たそうよ。因みになんで?」
「えっと……」

 カスピトラの本音は、本当のことを言うとこんなところに来たくなかったである。

 SCOとは特別犯罪監視官の略であり、警察官の上位互換にあたる職業だ。

 銃の携帯、状況において現行犯の排除は勿論、私兵を持てる。

 この私兵を持つというのは……囚人を自由に使ってもいいとの意味だ。
 白仮面と似たようなものだが明確に違うのは、囚人を自由に使ってもいいという点だ。

 白仮面は元囚人といえど公務員であり、不穏な動きさえしなければ人並みの権利は保障されている。

 しかしSCOの私兵は完全に奴隷化するという意味で、私兵の人権は監察官に依存する。
例えば監察官が死ねと言えば、死ななければならない。
 拒否すれば内側からボカンと爆破。

かといって監察官が死ねば強制的にドカン。

 その代わりといえばなんだが基本的に自由。

 許可があれば外を自由に出歩ける。

 当然監察官に求められるものも高くなり、現在ほんの数人しかいない。

 合格倍率は0.0○のぶっ壊れ職業。それがSCO。

 で、カスピトラはSCOになるために一定の研修を受ける必要があるわけだが、定員の都合上彼女一人だけが、この世の地獄とよばれる馬喇田木収容所に配属された。

「答えにくい質問だったかしら。なら答えなくていいわ」

 ウルフ所長はすぐに答えないことを察し、話を転換する。

「困ったことがあったら誰にでも聞くと良いわ。で、次が本題」

 ウルフ所長の眼が変わる。
 全員がその空気を感じる。

「囚人番号120822番のことよ」
「120822番?」

 カスピトラ以外は知っている。

 その番号は嘉神少年を示している。

「あなたは知らなかったわね。じゃ、これを見て」

 ウルフ所長はとある資料を手渡す。

「これは?」
「彼の取り調べ記録よ」
「はあ……」

 カスピトラは目を通し

「なんですかこれ! まぎれもない偽装じゃないですか! こんなの小学生の落書レベルですよ!」

 軽くだがカスピトラは取り調べのノウハウを学んでいる。

 そしてそれを本職としている彼らは見た瞬間偽装と分かった。

 彼らは初めから冤罪と知ったうえで嘉神少年をここに閉じ込めている。

「そしてこれが裁判記録」

 目を通したが目を通すまでも無く偽装。
 ほとんど真っ白な記録に書かれているのは真っ赤なウソ。

「冤罪でしょう!? これ!!」
「そうね。間違いなく冤罪ね」

 ウルフ所長は冷ややかな声を出す。

「何でこんなことが……?」
「さあね。それはアダシの管轄外だわ」
「そんな! 酷すぎます」

 誰一人カスピトラに相づちをしない。

「そう、じゃこれを見て」

 スクリーンに映し出されたのは嘉神少年とウルフ所長、それとバディとして仕方なくついてきている顔が腫れた灰色の男。

『ここは?』
『処刑室よ。これを見なさい』

 モニター内でモニターを見せるウルフ所長。

「ここからじゃ良く見えないと思うから説明するわね。あのモニターには首にロープがかけられた死刑囚がいるの」

 カスピトラに説明する。

『本来死刑執行には複数の執行官が同時にそれぞれのボタンを押して、その中の一つが電動して執行されるのだけれど、あなたには一人でそれをやってもらいます』
『………』
『その際絶対にこのモニターから目を離さないで。出来るわね』
『はい』

 何のためらいもなく嘉神少年はボタンを押す。

 カスピトラが見ているのモニターでは見ることは出来ないが、嘉神少年ははっきりと見ている。

 囚人が苦しむ様子を。
 囚人がもがく姿を。
 囚人の生への執着を。

 ズームで嘉神少年の顔がアップされる。

「え……?」

 その表情は苦悶ではく、快楽でもなくただ単に見下していた。

 何も感じていなかった。

 ここで映像が終わる。

「これ見て、あなた達は何を思ったかしら」

 ウルフ所長以外の他の看守たちは嘉神少年の戦いを見たことがある。

 その時出した結論は、こいつは絶対に人を殺したことがある。

 それは正しい。

 だが今の問題はそれではない。

「ウルフ所長」
「なあに? モスキート」
「あなたはあの少年は狂人だと言いたいのですか?」
「……残念。違うわ」

 では何を言いたいか。

「そうそう。もう一個あなた達に見せないといけないのがあったわね」

 出したのは何も入っていない小瓶。

「これは? 見た所空ですけど」
「そうよ。何も入っていないわ」

 何も入っていない瓶に何の価値がある誰かがそういおうとする前に、ウルフ所長が付け加える。

「これね、あの部屋で採取するはずだったあの少年の髪の毛を入れる瓶なの」
「「「!!!!」」」

 今まで一番蚊帳の外にいたカスピトラだったが、この発言の意味を理解できないほど愚かではなかった。

 ギフトが社会に萬栄したこの23世紀でも、犯罪捜査の為DNA鑑定が行われている。

 それはDNAの信ぴょう性……ではなく証拠として残りやすいからだ。

 汗、被害者ともみ合ったときに付着した血。そして何より現場に遺留した毛。

 通常人間はストレスを多く受けると抜け毛がひどくなる。

 そして殺人は特にストレスが多くかかり、ほぼ確実に髪の毛が遺留してしまう。

 それはもう人間として我慢できるというレベルではなく、生理として当たり前の現象。

 しかしそれが、嘉神少年に起きていない。

「どんな殺人鬼でもストレスは受ける。けれどあれはそれすらない。これはもう狂人という人間の括りでは収めてはいけない。あれは悪魔・・黒白の悪魔・・・・・

 誰一人何も言えない。

「明らかにあの少年の幽閉に何者かの力が加わっている。それがたとえ悪意による産物だとしても、あれをここから出してはいけない。悪魔は永遠に地獄に閉じ込めないといけない。それがアダシたち人間の義務」
「ですがウルフ所長。我々にあの少年を閉じ込めておく力はあるのでしょうか」
「どういうことですか? え……トキさん」

 カスピトラは知らない。

「公表される超者ランクは毎月更新だけどね、裏ルートで毎時更新されているの。あの少年現在88位よ」
「はあ!?」

 上司の前での対応ではないが、それも仕方ないことである。

 100番台は国を一つ落とすことができる。
 2桁はこの星を我が物に出来る力がある。
 1桁に至っては神に等しい。

 これがギフトホルダーの共通認識だからだ。

 追記だが裏ルートでの88位は犯罪者も含めたつまり嘉神一芽などを含めた順位であるため、本当の意味での超者といえる。

「しかも恐ろしいことにあれつい最近能力に目覚めたばっかりだそうよ。つまりまだ……いいえほとんど伸びしろの塊」
「あ……あ……」

 カスピトラは少年に対峙したわけでもないのに震えが止まらなかった。

 それでもSCOの見習いとして臆すわけにはいかないと質問をする。

「この施設。2桁幽閉できる能力あるんですか?」
「あるわけないじゃない。200後半が限界よ」

 ウルフ所長はそうでなければ問題にしていないと付け足す。

「でもね、たとえ国一つ落とす力を持っていようと有史一人しかギフトホルダーが国を獲ったことはない。それは他のギフトホルダーが互いを牽制するから。たとえここであれが誰より強かろうと誰とでもより強いわけじゃない。あれは一人でアダシたちは仲間がいる。アダシじゃ勝てなくてもアダシたちは勝てる、殺せる」

 分かっているのだ。

 彼らは多くの犯罪者を見てきた。

 その経験から出た結論は『あいつマジヤバい』

 ネタではない。

 生かしておくべきでないと経験が物語っている。

「それに弱点が無いわけじゃない。能力は既に分かっている。口映しマウストゥマウス、口付けした相手のギフトを使えるようになる能力」
「……!」

 驚きの声を上げようとしたカスピトラだがなんとか自生する。

「幸か不幸か、彼に敵意が無い。しかも割とアダシたちを尊敬している」

 悪以外に滅法甘い。

 例え我が身の破滅だろうが嘉神少年は彼らを傷つけようとしないだろう。

「でもアダシたちはあれを消さないといけない」
「あの……でもどうすれば?」

 どうやって殺すのか。

 毒殺刺殺絞殺圧殺どれでもいい。

 しかしそのどれも出来ない。

 何故なら嘉神少年は

反辿世界リバースワールド、死ねば『世界』が巻き戻る」
「……!」

 殺せない。

 どうあがいても死なない。

「しかも殺すという行為に辿り着けるかすら怪しいのよ。能力聞く? 勝てる気がしないわよ」
「え、ええ」

 ただ一人のギフト説明に5分費やす。

「うわ……」

 ごく普通のあたり前の反応。

 一般的なギフトホルダーだからこそ彼の異常性が分かる。

「……ですが、勝てないにしても対抗は出来ると思います」

 当然ながらここにいる全員ギフトホルダーであり、カスピトラもその一人。

「そう、じゃ頼んでもいいかしら?」
「何をですか?」

 カスピトラは後悔した。

 余計な一言を言ってしまったと。

「見張りよ。怪しい動きが無いかをね」
「え? でも研修は……」
「犯罪人を見張ることがSCOの最たる任務でしょ? 出来ないとなれないわよ」
「わ、分かりました。頑張ります」

 別に面倒だから新人にやらせたわけではない。

 他の職員は他の役割があるし、かといって下っ端すぎると信用できない。

 ウルフ所長が彼女を信じた結果の命令である。

「それとあなたさりげなく2週間後にある行事に参加するよう仕向けてほしいの」
「行事?」
「ええ。見栄を張ったけど実際問題アダシたちじゃ勝てないから死神・・に殺してもらおうって思ってね」
「死神……ですか」
「そう死神。悪魔は神に勝てないから」

 これでこの日の会議は終わる。



 彼らは自らの役目を果たした。

 しかしミスが無かったと言えばそうではない。

 3つここでミスを犯した。

 1つ目は翌日に理解する。
 2つ目は2週間後分かる。
 3つ目は……気づいた時はどうしようもなかった。

一応伏線回
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