挿絵表示切替ボタン
▼配色







▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる
チート戦線、異常あり。 作者:いちてる

5章 嘉神一樹の同窓会ならび主人公が知ろうとしなかった物語

しおりの位置情報を変更しました
エラーが発生しました

ブックマークしました。

設定

更新通知 0/400

設定を保存しました
エラーが発生しました

カテゴリ

ブックマークへ

以下のブックマークを解除します。
よろしければ[解除]を押してください。

ブックマークを解除しました。

72/219

二の二 誰も望まない下剋上

「嘉神一樹に勝ちたくはないか?」

 その言葉の意味を考える。

 そりゃ勝ちてえよ。

 だが

「てめえもしかしておれにあいつを殺させるつもりか? 残念だったな。おれは絶対に友を裏切らない」

 こいつには裏がある。

 底知れない闇がある。

 こいつの口車にのっちゃだめだ。

「そんな生死がどうこうな話はしてないぜ。ただ純粋に勝ちたくないかと聞いているんだ。負け犬の時雨驟雨」
「おれが負け犬だと!! 」
「ああそうだぜ。負け犬だ。だってそうだろ。夢も女も力も全てあいつに奪われたんだ。しかもそれを仕方のないことだと思って諦めている。これを負け犬と言わないとなると、一体誰をそう呼べばいい?」

 反論の言葉を思い付かなかった。

 実際自分でも分かっている。

「仕方ねえじゃねえか。あいつ漫画でいう所の主人公ってやつで勝てる気がしねえんだよ」

 おれなんかじゃ絶対に勝てない、辿り着かない領域にあいつはいる。

 その嘆きを神薙信一は鼻で嗤った。

「そうかそうか。ならば仕方ない。

お前が惚れた女も恋愛に興味の無い主人公にハーレム要因にされ
お前が努力して勝ち取った力も大した努力もしない主人公の力のかませにされ
お前が貫き続けた信念も原稿用紙3枚分のわけのわからない言い分に説得され

お前の目標を通過儀礼にされ
お前の悲しみも主人公が癒すおもちゃにされ
お前の夢も愛も希望も友情も努力も勝利も主人公がいないと成り立たず

挙句の果てには読者から忘れ去られモブとして扱われても

あいつが主人公だから仕方ないわけだ。

いいなそういうの。
羨ましい。
その敗北主義が俺には遠く離れた星の残光の様に綺麗に見えるぜ」

「うっせえんだよ!! おれだってなあ、勝てたら勝ちてえよ!! でもよ……勝てねえだろ」

「その通りだ。黒星をつけられるのを恐れ不戦敗となって負け続けているだけの敗残兵が、常勝無敗の軍隊に勝てるわけない。むしろ勝ってはいけない」

「じゃあおれはあいつより強くなれるのか」

「それは無理だ」

 無理なのかよ。

「ただ勝つことはできる。10000回戦って9999回負けることがあっても1回だけなら勝てる」
「それは負けているのと同じじゃないのかよ」
「そうか。お前はそう思うのか。負けているのと同じだから10000回戦わずして負けるか」
「……」
「どちらがいい? 勝つために9999回傷つくか、負けないために10000回腐っていくか」
「あんたは……あんたは一体何が目的なんだ」
「何がいい。主人公の友人キャラが主人公を裏切り、ラスボスに誑かされる言い訳として、どんなのが欲しい? 従うのにどんな言い訳が欲しい?」

 神薙さんは少し笑って

「我が愛しき出来損ないの息子よ。

神に愛された男に勝ちたくはないか?

勝てる可能性なんて那由他の彼方にすら無い。

勝ったところで褒められもしない。

失うものの方が多い。

賭け金は賭けられるものもの全て。

期待値なんて0に等しい。

当たったところで配当は自己満足と主人公に勝ったという称号のみ。

主人公は負けることは許されない?

そんなこと知るか。

そんなの読者が勝手に植えつけた幻想にすぎない。

主人公が負けて読者が悲しむかもしれない?

そんな都合知るか。

最強ごときで負けないで済むと思っている方が悪い。

これから多くの批判を受けるかもしれない。

それでも

それでもあいつに勝ちたくはないか。

俺は明らかにラスボスでお前を利用しようとしている。

否定はしないその通りだ。

ただ利用されると分かっていても

惚れた女を魔の手から守り
才能相手に努力で勝利し
自分の信念を貫き通し

目標を自力で達成し
悲しみも自分で乗り越え
夢も愛も希望も友情も努力も勝利も自らで成り立たせる

そんな当たり前を

守りたくはないか。

そのために

主人公に勝ってみないか? 」





 静寂。

 セミすら鳴くのを止めている。

 本来日常で聞こえるありとあらゆる音が止まっている。

「一分だけ考える時間をやるぜ」
「あんたに着いていけばおれは強くなれるのか」
「約束しよう。超者ランキングのトップ10には入れる」

 それは実に魅力的な提案だ。

「ただその先は約束できない。自分で勝ち取れ」

 一分丸々考えて出した結論。

「あいつに勝ちてえ」

 一度漏らした言葉をひっこめることは出来なかった。

 劣等感だ。敗北感だ。無力感だ。

 例えそれらがおれを突き動かしていたとしてもこの選択に後悔はない。

「正々堂々と真っ向勝負で勝ちてえ!! 魂だって捨ててやる。誇りだって捨ててやる。日常だって捨ててやる。他におれは何を捨てればいい!? 」

 強くなりたい。

 そして何よりあいつに勝ちたい。

「すばらしい。だが一つだけ忠告しておこう。男が捨てていいのはDTだけだ」

 今日この時から俺と神薙さんの秘密の特訓が始まった。


+注意+
特に記載なき場合、掲載されている小説はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている小説の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による小説の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この小説はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この小説はケータイ対応です。ケータイかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。
小説の読了時間は毎分500文字を読むと想定した場合の時間です。目安にして下さい。
↑ページトップへ