文化祭 1
今日は文化祭当日。
寝起きが悪い俺だが今日は朝5時に起床。
理由は朝から出し物の準備があるからだ。
もちろん飾りつけなどは終わっている。
最終チェックもばっちりだ。
これからやるのは、衣装や保存していた食材の移動といった本番の為の準備である。
既に母さんも起きていた。めずらしい。
「どうぞ」
今日の母さんが用意した朝ごはんはシリアルと牛乳。
手抜きの定番であり俺の母さんの十八番でもある。
因みに母さんの十八番は手のかからない料理全般だ。
手がかかる程にまずくなる。
どれくらいまずくなるかというと電子レンジでチンは十八番が十五番まで落ちるレベルだ。
俺が黙って食事をとる中
「ねえねえ一樹くん。今日は文化祭だったよね?」
「駄目!断る!!断固拒否!!!」
危ない危ない。地雷回避成功。
なにかと俺の母は、学校行事に参加したがる。
普通ならいい母親もしくはうっとおしい母親のどちらかになる。
ただ俺の場合は違う。
何しろ俺の母、嘉神育美は、身長百四十を満たないロリ顔もといペド顔なのだ。
歩くと毒ダメが入る割合で通報されるだろう。
もしそんな母がいたとクラスにばれたら
『おまえのとーちゃんローリーコン』
といわれのない迫害を受けてしまう。
いわれのないかどうかは分からんがな。
「でもせっかく運よく休み取れたんだしちょこっとだけでもね?」
最初から来る気満々じゃないですか。
「問答無用で駄目」
「分かったよ。じゃあ母さんとばれないようにいくから」
「駄目だ絶対に来るな。絶対だぞ。分かったな」
何やら今年はやたら熱が入ってるな。去年も行きたがっていたはずだがここまで執拗ではなかった。
「むー。そこまで言うなら仕方ないね。母さんも大人だから家でお留守番していますよーだ」
「そんな拗ねるなよ。ガキみたいじゃないか」
「どうせガキみたいな容姿ですよーだ」
プンプン怒る母さんは見た目の上では怖くない。しかし拷問好きという性癖?があるのであまり酷いことを言い過ぎると俺は死んでしまう。
女手一つで俺の生活をみてくれた母さんには悪いがここは我慢して貰うしかあるまい。
博優学園文化祭は土曜日に行われ、午前(10時から14時00分)の部と午後(14時30分から18時30分)の部に分かれて行われる。
俺達二年十組の出し物はお化け喫茶『世にも奇妙なレストラン』(八重崎命名)は午前の部だ。
やることはお化けや妖怪の格好をして食べ物を売ることなんだが、どうしても未だに納得できないことがあった。
「何で俺の格好が魔王なんだ」
ものすごく遺憾だ。
「諦めろよぉ。多数決だったんだからからよ」
吸血鬼姿の時雨。
黄色の髪色の時雨だが、身長がちょびっと足りないので似合っているが迫力が無い。
そして俺は魔王のコスプレ。
具体的には黒いマントを羽織って、白い仮面をしているだけ。
黒いマントは使い古されたカーテンで代用、仮面は演劇部の倉庫から引っ張り出してきた。
このコスプレのイメージはオペラ座の怪人である。
「つうかなんで魔王がいやなんだ?」
「白仮面を思い出すから」
白仮面。
唯一ならず者が社会貢献できる組織。
真百合から聞いたのだが、白仮面というのは死刑囚が半数以上を占めているらしい。
自身の死刑執行を免れる代わりに低月給で働いているとかなんだとか。
さっさと殺しとけばいいのに。
「ただよ、お前の魔王の格好、すげえしっくりきてる」
「失礼な。後学の為に聞くがどこら辺が?」
「人を人と思わない所とかか?」
ホント失礼だ。
ここで二年十組のお化け喫茶の運営の仕方を説明する。
まず客に食事をする場所はこのクラス二年十組のままだ。
必要のない机を文化祭で使わないクラスまで持っていき、カーテンは黒を基調とした暗さをイメージ。
ただあんまり暗くすると事故につながるので明かりはつけている。
その明かりはいつも使っている蛍光灯ではなく、懐中電灯を天井から吊るしそれを照明代わりにしている。
蝋燭を使うという案もあったが、危ないという高峰先生の意見で即刻却下された。
客に座らせる椅子は普通に俺達がいつも使っている学習机を。
それだけだと雰囲気が削がれる為黒の布をかぶせ白いテープで十字架を書いたりして雰囲気を出している。
引き戸式の扉は外して前の扉の横にレジを置き、支払いは食事をする前にやらせる。
何でこの形式にしたかというと時間短縮と料理の運搬のためだ。
教室で料理なんてものは出来ないので必然的に料理場は調理実習室になる。
出来た料理を調理室から二年十組は籠を使って運ぶとして、運搬する際運ぶ人と客がぶつかる可能性があったため、後ろのドアをスタッフ専用とした。
後ろのドア付近に作っておいた料理をストックしておき、レジで注文したのと同時にレジ打ちが合図、別のスタッフが合図を見てその合図に会った料理を運んでくる。
レストランと銘打っているが、実際は作り置きを出すだけなので弁当屋と言った方がより正確だろう。
ストックが減ったら運搬スタッフが調理場から出来上がっている料理を持ってくる。
客に出す料理は三種類。
まずメインのイカ墨風パスタ。
これは女性の髪の毛をイメージしているので出来るだけ細めの麺を使う。
ただ文化祭でイカ墨なんて高い物は使わない。
色は黒ゴマを使い、味は安いイカを使って出す。
デザートに目玉寒天ゼリー。
半円の白いミルク寒天ゼリーを作り、カラメルを乗っけてさらに上から苺ジャムをちょっと垂らす。
綺麗にたらさなくてもいい。
何せ血の涙をイメージしているんだから。
文化祭の決まりで生ものは禁止、絶対に加熱することというルールがあったため(言わずもがなこれは衛生管理のためだ)ジャムの使用は禁止されていたが、前日までに自分で作ったものならばOK(ただし要加熱)と先生方から許可が下りたため昨日早苗たちが作ったのを使っている。
最後に持ち帰り用の白骨フランクフルト。
これは色の薄いソーセージを用意しその両端に紙で作った白い『=3』をつけただけのぶっちゃけ手抜き。
一番手間のかかる目玉寒天ゼリーは昨日のうちに全て作り終えている。
イカ墨風味パスタはパスタを茹でてソースを搦めればいい。
フランクフルトなんて焼いて付属品つけるだけの簡単なお仕事だ。
それぞれ150個、ただし値段はパスタ200、ゼリー300、フランクフルト150とした。
「それじゃみんな持ち場に着く前に一言だけ、安全第一、あとは楽しめ」
俺の係はレジ打ちである。
驚くべきことに俺にはウエイターの才能が一切ない、というより料理を作るどころか運ぶという動作すら出来ない。
ただとある役目がありどうしても教室にいないといけないので、レジ打ちという役になった。
ついでに俺以外の役と格好を伝える。
まず早苗はコスプレをしていない。
なぜならずっと料理しているからだ。
ま、早苗は自力で鬼になれるからコスプレなんて必要ないんだがな。
真百合と月夜さんと八重崎はウエイター、恰好は雪女と魔女と猫又。
真百合は何だかやりたくなさそうだったが、俺がお願いしたらやると言い出した。
仲野はゾンビで呼び込み、福知(他人の能力を知ることが出来るギフトの人)は天狗の格好をして料理の運搬をやってもらってる。
開店前だがすでに多くの人が集まっている。
年齢の層として一番多いのは高校生。
特に小中の知り合いが一番だ。
その次に中学生、保護者の順だろうか?
最初のうちは身内補正があるから客取りには困らないだろう。
問題はある程度の時間がたって客たちがどの店がいいか情報を集め出した時である。
ネットが広まり情報が伝わりやすくなったこの時代、風評は何よりの武器となり敵となる。
出来るだけ最初に客を呼び込むかが鍵と言えよう。
その後しばらくして10時を知らせる特別なチャイムが鳴り放送部がアナウンスを流した。
「博優学園文化祭、午前の部開始いたします」
まず来たのは多分八重崎の知り合いであろう違う学校の中学生、他のクラスの同級生といった世間で言う子供が来る中
「久しぶり一樹」
「…………おい」
父さんが来た。
「おい」
父さんが来た。
「おい」
「しつこい」
止められてしまった。
一応父さんの紹介をしよう。
つい最近まで俺は死んだか蒸発したと思っていた存在であり、身を隠していた理由は職業が殺し屋だかららしい。
ギフトの名前は口留め、キスした相手の能力を奪う『法則』のギフトだ。
『法則』とは何なのかは説明しないとして、高校生の文化祭に来るべき人間ではない。
「オレは客だ。せめて応対するべきだと思うが」
「…………御一人様でしょうか?」
「いや、三人だ」
「え?」
「すぐに来る」
その言葉を待っていたかのように
「すまんすまん。久しぶりに母校で用を足したかったからつい張り切って三ラウンドまでやってしまったぜ」
「我が主よ、自重という言葉を辞書に書き加えてくれ」
か、神薙信一-――――!!??
あとそのハーレムの一人!!
父さんと違って紹介なんていらない存在だがあえてするとして、俺が知っている中でもっとも計り知れずそしてもっとも関わりたくない存在。
あと隣にいる女性は確か巫女さんが女狐と評していた意思だけで殺す殺生意思だっけか?
黄金色の長い髪の毛に深く帽子を被っている。
この神薙信一を知っているのはここにいる中では俺と真百合と月夜さんだけ。
この三人以外はこの人を見てこう思うだろう。
『でかい』と。
身長は間違いなく2メートルを超え、扉の上にある窓の所為で顔が隠れて見えない。
だが俺達の反応は違う。
『やばい』だ。
この人が関わるとろくなことにならないのは、浄化集会の時すでに実証済み。
「へいへい主人公ビビってるっー」
煽りがうざい。
「すまん一樹。我慢してここを乗り切ってくれ。本当にここから辛いのは父さんなんだ」
「…………。三名でご来店ですね。メニューはどれになされますか」
「オレは髪の毛パスタと目玉ゼリーを」
「俺は全種類頼むぜ」
「妾は―――――「アツアツのフランクフルトを三つ頼むのじゃ!」目玉ゼリーをっておい!」
「かしこまりました。髪の毛パスタを二つ。目玉ゼリーを二つ。骨フランクフルトを四つですね」
「待てい!今のはこやつの口真似じゃ!」
分かってるよ。
ただな、関わりたくないんだよ。
ここで突っ込んだらもっと面倒なことになるだろうが。
「合計で1600円になります」
「ここは年長者が払うべきだ。というわけで薊、ゴチになるぜ」
「待て。我が主よ。そなた今朝は俺が払うと言っていなかったか?妾は財布を持って来ていないのだが。というより無理矢理置いてこさせなかったか?」
「言ったがまさか大妖怪である白面金剛九尾の狐が人間様の言葉を信じたのか?」
「………………」
「おいおいマジかよ。そりゃないぜ」
「無いものは払えん」
「払えない物は体で稼ぐしかないよなあ。ぐへへ」
安定と信頼のゲス顔だった。
「そもそも先ほど体で働いただろうが」
「そういえばそうだったぜ。確かその時小学生にその労働を見られたわけだが」
「やめい。どういう顔をすればいいか分からなかったのじゃ」
「アヘ顔ダブルピースをすればいいと思うぜ」
「やったわい」
これ以上続くと色んな意味でアウトなので強引にでも打ち切らせる。
「お客様、会計を」
「仕方ないか。二番目の俺が払うぜ」
十円玉160枚。
地味な嫌がらせだ。
法律上断ることはできるのだがここで断るとまた面倒なのでそのまま受け取る。
「お客様を御席に」
「かしこまりました」
月夜さんが席に案内。その後八重崎が料理を運んでくる。
俺はこの後もレジをやらないといけないのだが、どうしてもあの三人の様子が気になる。
「まずこれを」
父さんが神薙さんに通帳を渡した。
「ほい」
そして神薙さんは朝刊に挟まれている二つ折りにされたチラシを渡す。
「見えねえ」
父さんがぼやいた。
父さんの目が悪いのかと思ったがチラシにびっしりと文字が書き込まれていただけだった。
何でお前ら学校の文化祭で取引してるんだよ。
「なあ嘉神一芽」
運んできた料理を見て神薙さんが父さんの名を呼ぶ。
「なんですか?」
神薙さんはイカ墨パスタを紙皿の下の方に寄せ、その上にフランクフルトを、さらにフランクフルトの両端にパスタに乗っかるように目玉ゼリーを置き
「男性器」
「「「ぶっ」」」
聞き耳してた男性陣一同が噴き出した。
確かに目玉ゼリーを上から見ると○で、男の玉と見えなくもないし、イカ墨パスタは毛をイメージしているんだからどの毛を連想しても仕方ない。
フランクフルトに至っては男ならだれもが想像するネタだった。
しょうもない下ネタなんだが男として反応してしまう。
聞き耳した俺達にも一抹の責任はあるがあんたは何てことをしてくれるだ。
周りにいる女性の目がすごく痛い。
ほとんどが神薙さんに向かっているが、反応した俺たち全員にも連鎖被害が起きている。
「我が主よ。もう一本食わぬか?」
「は?自分で頼んだものを残すとは何様のつもりかよ」
「妾自ら頼んだ記憶はないのだが」
知ってるしその記憶は正確だ。
「仕方ない。嘉神一芽、食うか?」
「いや、あんたオレがソーセージ系無理なこと知ってるでしょ」
「つまらんことは忘れる主義だぜ」
「……オレにとっては重要なことなんですが」
仕方ないと言わんばかりに同時に二本食い始める。
あれ土産用だからここで食う必要ななかったとツッコミを入れたかったがその勇気は俺になかった。
隠れタイトル 神薙信一は自重しない。
めざせ今年中にあと一つ←出来るとは言っていない