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チート戦線、異常あり。  作者: いちてる
11章後編 愛と情と正と義と勝と利の物語
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ウィナーズ・ダイアリー 2

「3億回の死に戻りに3百万のリスタート、そして4千回のリセット。お疲れ」

「ふざんなよ……」


 私はキレていた。

 組の一家が皮をはぎ取られ、最後に手足をばらされたあげく、死体の皮を4重に重ね、マトリョーシカとして標本にされていたのを知った時くらいだ。


「いきなり異世界に飛ばして、説明もなしに! 何だあの世界は! ふざけている。人の心がない!」


 私はこことは違う異世界に飛ばされていた。

 そこはミュータントと呼ばれる異星体が地球に攻めてくるというありきたりな世界なのだが、その世界が構成する要素が理不尽すぎた。


「説明しようか。ただの糞ゲーをそのまま本当の世界にした」


 人の想像や妄想によって本当に新たな世界ができる。

神薙が自ら定義した、自らが存在するために作らざるを得なかった現象。


「この世界の作家は、撫子の二個下の世界出身なんだが、マゾゲーこそが神ゲーという信念を持っていた。周囲の人の反対を押し切り私財をはたいて、『スターダストウォーズ』を販売。結果、賞をもらえるほどの反響を得ることができた」


 騙されんぞ。

 ここで意味する「騙されんぞ」は、嘘をついているなではなく、そのゲームがどういった賞なのかいってないことだ。

 ダーウィン賞みたいな賞だって、立派な賞をもらった扱いだ。


「あの世界は意味のない理不尽にあふれていた。創造主の仕様だ」

「そうだとしても、右折しただけで2割の確率で死ぬのはどういう意図だ」

「運ゲー要素も入れたかったらしいぜ」

「意味のない運ゲーを入れるな。あと、存在する人たち、どれだけ仲良くなっても急に裏切るのは?」

「作者の意図だ。資産はあったけど性格が周りと折り合わなかったため、人間不信だった。それを登場人物に反映させたから、全員どっかで裏切る。というか、それでも途中から裏切らなくなっただろ」


 それは私が頑張って説得した。

 超悦者の先にいった私は、自分と他人の心に関して多分何でもできる。


 人心掌握といえば聞こえが悪いし私もそのつもりはない。

 私は他者を知り他者は私を知り、仲良くなった。だから協力してもらった。


本当は嫌だったのだぞ、あまり熱心に説得すると信者のようなはいとしか言わなくなるから。


「システムを超えた友情、ありきたりだがいいものだ」

「あとゲームと言ったらバランスだっておかしい! 核が一般エネミーとトントンとかどうやって倒す気だったんだ?」

「作者はゲーマーに倒させる気はないぜ? 裏コードでチート武器だして自分だけ無双してスコア稼いだ。というか俺が用意した模範解答はそっちだったんだが、まさかちゃんとクリアするとは思わなかった」


 そんなゲームを現実にして私にリアル体験させるんじゃない。


「で、なぜ私にこんなことさせた」

「いわなくても気づくと思ったんだが、いいだろう。説明しておくか」


 わかっていないわけではないが、結局言われてないのだ。


「早苗。お前は素晴らしい。その心は俺にも勝る」

「……」

「誰よりも強靭で、誰よりも無敵。そして誰よりも清浄。そしてそんなお前が他人を模し、本物以上の本心を持つことで、その人が本来持つだろうシンボルを自分のスケールで使うことができる」


深赫紅蓮獄景 涅槃如安緋想天國

 私がいきついた先の臨界点だろう。


 神薙に認めてもらうための曲芸だ。


「だが1つ。明確な弱点がある。σφを本気で相手取るときこの弱点は致命的だ」

「弱点」

「お前は、他人の悪意を知らん」


 いわれて、まぁそうだろうなと思う。

 そして神薙が何をさせたくてそうしたのか理解した。


「これまで未完成の聖女として、一般的な生活ができるようお前の聖女としてのふるまいを可能な限り抑制するよう調整してきた。だがそれでも完全じゃない。早苗から漏れ出した善良さは、やくざをいいやくざに変えた」


 みんな言っているが、そんなに変なことだろうか。

 話せばみんなわかってくれたぞ。


 ……私と話したからなのか。


「早苗、お前は悪を知らない。純粋な悪。糞のような人間の悪意。それがない。仮にそういった者に関わろうとした際、お前と対面したら大なり小なり相殺される」


 それでいいではないか、だがそれだといけないのだ。


「純粋な悪が持てない早苗は、純粋な悪のシンボルを身に着けられない」

「そうだろうな。うむ」


 少なくとも私が模すとしたら、反省しマイルドになった存在になる。

 これまでで経験したことがない。


「だから見せた。早苗がこれまで関わってこなかった世界、悪意を基準とした世界。そういった煮凝りを集めた糞ゲーの世界を、お前に見せた」


 自分の名誉のため市民1万人を犠牲にした市長も、一時の快楽のため情報を売った二等兵もヤクにラリった皇帝も、私の常識外だった。


「そういった連中も、当然人間であり本来なら早苗の涅槃の範囲内だ。だが早苗はそういった思想がない。だから見せた」


 私とは相いれなくても、そういった思想の人間がいることを知れた。

 だから私はその彼らを知ったうえで、彼らを模すことができる。


「俺以外ならそもそも過剰で、俺相手ならどのみち無意味だ。だからあの時は指摘しなかったが、σφというすべてやあらゆるといった存在の対抗策として存在するシンボルで、明確な例外を出す現状は致命的と言っていい」

「私に悪はない。だが悪を知ることはできる。そういうことか」


 納得はした。二度とやりたいとは思わんが、これで悪意を学ぶことができたということか。


「勘違いするんじゃないぜ。まだこれはインプットの第一段階」

「?」

「あくまでそれを知ることはできただけ。知ることはできても、まだ遠いだろ」


 そういう人がいたのは知ったが理解したとは言えない。そういうことか。


「だが理解するのはまず無理だ。私が衣川早苗である限り、悪党の完全な理解などできんぞ」

「そうだな。劣化するのは仕方ない。それにそもそもとして早苗の記憶力には期待してない」


 会えば思い出すだろうが、何億と人がいて完全に0からその人は何なのかを詳細に言い切れるかといえば、私も難しいだろう。


「そこでだ、この2つの問題を解決する妙案がある」

「……?」

「五感と紐づける。よくあるだろ。集中するために匂いを嗅いだり、音楽を聴いたりするってやつだぜ」


 それなら私も聞いたことがある。

 バニラやラベンダーの香りをかぐ勉強法(未経験)なんて月夜から聞いたことがある。


「聞いて覚える。見て覚える。どちらも有効だが、人によって覚えやすさが違う」


 うむ。ちなみに聞いても見ても覚えられないぞ。

 私に真百合のような頭脳を求められても困る。


「心配するんじゃないぜ。視覚や聴覚ではなく、感覚で紐づける。衣川早苗の感覚で、その他者の紐づけを行う」

「言っている意味が分からん」


 感覚?


「簡単に言うと、青い人、黄色い人といえば?」

「真百合と時雨か」


 なんとなくそうだろうと無意識に答えたが、なるほど。


「青を感じて真百合を想起すればいいのか」

「そうだ。だが白とか黒とかそういったくくりでみてはいけない。概念が枯渇する」


 たしか色はパソコンだと赤青緑の255段階で表現できる。

いや、これはパソコンがそうしているだけで段階を変えればもっと色として深みを出せるということか。


「なら、いろんな色と紐づけるということか?」

「まさか。所詮色の数は数えられる程度の無限。人の数には足りようがない」

「なら」


 どうしてと答える前に、一枚の画像を見せる。

 こいつはたしか、自分が最初に死ぬのは嫌だからとウィルスに感染したら真っ先に避難所に突っ込んで免疫が小さい人との接触を繰り返しでハザードを広めた女(45)。生涯で2回しか万引きしなかったことが自慢。

 名前は下見スズカだったはず。


 そう思ったその瞬間。

 神薙に右奥歯を抜かれた。


「ん゛ん゛ん゛????」


 痛い。混乱しているが、それ以上にどう考えてもすごく痛い。

 何か絶対神経にやばめな薬を塗っただろとツッコミをいれたいのに、口が動かないくらい痛い。

 理解ができないのは私のせいか、はたまたこれからのことが想像ついたからか。


「この痛みで覚えろ」

「ま、まさかとは思うが……」

「まさかも何もないぜ。見た通り、感じた通りだ」


 私に記憶力はない。だが心の痛みなら常に正しく認識できる。

 痛いという感覚は、私の中では無限に保管できる。


「これから俺は早苗に多くの人間と会わせる。特にお前が持ち合わせていない存在だ。そしてその一人一人と対応した痛みを、俺が持っているスキル全てを費やして食らわせる。そうすればお前は人を決して忘れることはない。無限を超える人の記憶を、無限を越える痛みとともに覚えていられる」


 …………


「もう一度言うぜ。これは早苗だからやるプランで、他の奴にはやらせない。俺という人間がこうするのが最適だと判断したからやるわけで、他の奴でやれば2回で廃人になる。だから俺が教えた方法として他人にやらせるなよ」

「すー。ふー」


 退路はなかった。


「俺は人外が嫌いでね。痛みを与えるだけのリミットは経験豊富の自負がある。数少ない他人に誇れる特技の一つといえる」

「手加減は……ないのか?」

手加減それは俺の十八番だ。人生で手加減をしくじったことなど数えるほどしかない。精々万程度だ」

「そ、そう……か? ならよかったぞ?」


 いろいろおかしいやつは家柄として何度か見たことはあるが、こうも純粋に楽しそうに拷問を予告されたのは初めてだった。





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