雲迷路
超展開なう。
何となく分かる。
これはまずいと。
「一樹……あれをみろ!」
久方ぶりで忘れていたが、あの白い仮面を被った集団が俺達を囲んでいた。
「遅かったではないか」
「申し訳ありません。少々手続きに手間取りまして。ですが殺害許可はでました。ですので安心してお楽しみください。これより処刑を開始します」
警察のあほう共。
「全員死ねー。みんな死ねー」
………………
でも待てよ。白仮面だよな?
噛ませで有名なあの白仮面だろ?
ということはだな………
「父さん」
「呼んだか、一樹」
やっぱ来た。
我が父、嘉神一芽。
職業殺し屋。年齢四十後半。
能力、相手の能力を奪う。
絵にかいたようなキャラだが一応俺の父だ。
周りの連中(敵味方含めて)驚いている。
俺もまさか来るとは思わなかった。
「あいつら殺れる?」
「任せろ。だがその前に、スリープ」
父さんは俺と早苗と時雨と宝瀬先輩以外の生徒を眠らせた。
「これからオレがこいつら殺すが、その時の様子をこいつらに見せるわけにはいかない」
おお。意外にアフターケアしっかりしているな。
ん?
「じゃ何で、起きてる奴いるの?」
「一樹たちは依然殺人見ているから問題ない」
なるほど。
確かに俺と早苗はあの時の光景を目撃しているし、宝瀬先輩は何度も死に続けた身だ。
ん?一人おかしなやつがいた気がする。
ま、別にいいか。
父さんがきっと退治してくれるからな!
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「おこだよっ!」
彼女は怒っていた。
同じような展開が二度も続くということに。
仮に、嘉神一芽という人間が『物語』における最強の登場人物だとすれば、彼女も許していただろう。
しかし嘉神一芽はそこそこ強いキャラでしかない。
最強はもちろんいずれチートキャラとすら言われなくなるような男なのだ。
精々役割は嘉神一樹の父親程度でしかない。
「うーん。二章で父親殺すの早い気がするけどここまで邪魔されたら消すしかないかな」
仏の顔も三度撫でれば腹立てる。
神は二度目で怒る。
今がその時なのだ。
「よしっ、あいつ殺そうかな」
思い立ったら即行動である。
彼女は先程まで食べていたポップコーンを一粒掴み
「えい」
天頂から投げ捨てた。
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「ぐはっあ」
いきなり、父さんが口から出血して倒れた。
「「「え?」」」
敵味方含めて驚く。
倒れた父さんはそのまま動かない。
小突いてみる。
動かない。
踏んでみる。
動かない。
ち○こを蹴ってみる。
あ、動いた。
どうやらまだ生きているようだ。
いったい誰がこんなことを?
俺は周りを見渡す。
そしてあった。
「サッカーボール?」
炎に焼かれたようなサッカーボールが転々としていた。
どうやらサッカーボールで倒されたらしい。
納得したよ。サッカーなら仕方ないからな。
………。
「……………」
何だよこの展開。
俺は目まいがして何故か落ちてあったポップコーンを踏んでしまった。
何で落ちてんだこれ?
「よくわからんが幸運が付いてきたようだ。それがお前の能力か」
議員がおじさん(魚の名前)バスガイドを評価したが
「えー。違うんですけどまーいいですー」
確かに、父さんならこんなやつ相手にやられるとは思えない。
ただだとしたら一体誰がやったんだ?
「宝瀬先輩、残り何分?」
「30分よ」
きついな。
この流れだと仮に宝瀬先輩を回廊洞穴で逃がしたとしても失敗してそのまま死にそうだ。
だとしてもここにいる十人の白仮面を相手するのはつらい。
しかも気絶している人間が十人以上、そいつらに攻撃させるわけにもいかない。
早苗に応援を頼みたいのは山々だが、体力が切れている彼女はむしろ足手纏いだろう。
だから、生き残る可能性を考えたら前者の選択肢をとるべきだろう。
「時雨。みんなを一か所に集めてくれ」
「………お前まさか。死ぬ気かよ!」
ああ。そのつもりだ。
「安心しろ時雨。場慣れしてるのはお前らかも知れねえが、修羅場慣れしてるのは俺の方だ。だからこの場は俺に任せろ」
ブレザーを脱ぐ。そして腕を回す。
「まさかこのガキ。これだけの人数一人で相手する気か?」
「バカなのか?バカなのかこいつ」
「そこにいる異能者殺しじゃあるまいしな」
異能者殺し。そういや父さんもこの多勢に無勢を圧倒的な強さで倒してたな。
現在は絶賛気絶中だが。
「異能者殺しね。それはつまり、俺の父さんのことを言っているのか」
この場にいる全員が、俺の方を向いた。
「きさま!名前は!!」
「嘉神一樹。それと父さんの名前は、嘉神一芽」
白仮面は臨戦態勢を取った。
「気をつけろ!こいつは一人でここにいるガキ全員と渡り合えるぞ」
「ご忠告ありがとうございます。どうやらその通りのようだ。みな、油断するなよ」
俺は鬼人化を発動する。
一体十しかもハンデありの無理ゲーだが、
「これが運命なんですよー。この絶望が、この最強が、運命なんですよー」
バカでブスなバスガイドが変なことをほざく。
「嘉神君……運命には勝てないのよ………」
宝瀬先輩の心が折れる。
まあ確かにこの状況はまずいかもな。
だがな先輩、あんたが絶望は見ていて気持ち悪い。
あなたには、笑っていてほしい。
「そこのバスガイド」
「なんですかー」
「お前に二つ名をやるよ」
「どうせブスとかいいだすんですよねー。分かってますよー」
「何勘違いしてるんだ。俺はお前に運命の女神という名をやろうと思っていたんだが」
「もしかして命乞いですかー。無駄ですよ。一度決まったら変えられないのが運命なんですー」
「今そんなことは聞いて無い。とりあえず受け取っておけ」
「そうですねー。いいでしょうー」
「そして宝瀬先輩。よく見ろ。
あんたの敵を。
あんたが敵だと思っている運命を。
こんなにも醜く、醜悪で、そして汚らわしいじゃないか。
見るも無残だが同情する気にもなれ無いただの腐ったごみカスだろうが。
あんたはここでやるべきことは絶望することじゃない。
覚悟を決めることでもない。
あなたがやるべきことは、俺と一緒に笑って生きることだ」
盛大に格好つけてやった。
とはいってもたぶん俺これから死ぬ。
間違いなく死ぬ。
だが死ぬのは俺とゴミだけでいい。
「さあてモブ以下の白仮面の皆さん。お互いの最期に俺がてめえらに一つ教えてやるよ」
深呼吸する。覚悟を決める。
「最期くらい笑って死ねよ」
自分に言い聞かせ、俺は無謀に等しい特攻を開始した。