表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
チート戦線、異常あり。  作者: いちてる
2章 宝瀬真百合とコロシアイ
20/353

宝瀬真百合 1

「あれ?何で俺生きてるの?」


 なぜか目が覚めた。


「ああそっか。これが死後の世界か」

「違うぞ」


 早苗によく似た女性が突っ込んできた。


「鬼……か。つまり俺は地獄に堕ちたんだな」


 悪い事した記憶無いんだけどな。


 訂正。俺結構覗きとかしてた。


「覗き程度で地獄に堕ちるなんて……こんなのってないよ。あんまりだよ」


 平手打ちされた。


「あれ?物凄く痛い」


 死んだ人間に痛みなんて無いはず。


「一樹。貴様は生きている」


 どういうことなの?


「私の血は治癒能力を持っているといっただろ。痛かったのだぞ」


 早苗の左手は、爪で引っ掻かれたあとがある。


「じゃあ俺は、早苗から助けて貰って……まだ生きてる?」

「そうだと言っておるだろ」


 そうか。また俺は悪運を発動したのか。


「それにしてもまさか一樹に腋フェチがあるとは知らなかったぞ」

「……………」


死にてええええええええええええええええええ。


「ハッハッハ。そんなことあるわけ無いじゃないですか。遂に呆けましたか。衣川さん」


 口調が昔のように戻った。


「『最期に、腋を舐めたかった』だったか。そんなこと言われたら、殺すの惜しくなったではないか」


 間違いなく俺の顔は真っ赤になっているだろう。


「どうした?もっとその顔を見せてみろ」


 早苗ホントに楽しそうだ。


 初めて俺を玩べるチャンスを得たのだ。無理はないだろう。


「それにしても、強いな。早苗の鬼神化オーガニゼーションは」


 まさか三年の先輩方三人を一瞬で倒せるなんて。


 特に音を使うやつは柳動体フローイングが無いと太刀打ちできないと思っていたのにな。


「話を逸らすな。私はまだ腋の話をしたいぞ」

「そうだ早苗。周りに誰かいないか確認しなければ」


 ホントこの話無かったことにして。


「今ここで一樹と腋以外の話をする必要はないだろう」

「そうだ。そんなの嘘です。嘘っぱちですよ。騙されましたね」


 嘘にしてしまおう。


「そうか。嘘なら仕方ないな」


 数回頷いたあとで


「だったら、一樹。今ここで自分は腋に興味がないと言ってみるのだ」

「なっなんでそんなこと……」

「別に言えるはずだろ。何せ腋が好きなのは嘘なのだから」


 そうだ。俺は嘘吐きだ。この程度の嘘、生死をかけた、はったりをしてきた俺には苦痛でもない。


「早苗、俺は別に腋の事なんて好きじゃ……」


 なぜだ。なぜあと二文字が言えない。


「どうした。続きを早く言ってみろ」


 キラキラした目だ。


「俺は腋の事なんて」


 もはや半泣きである。


「大好きだ!俺は腋を愛している」


 俺は大声で愛を叫んだ。


 白い部屋の中心で愛を叫ぶ獣。


 つまり俺だ。


 自分に嘘を付くのはいい。だが、自分の気持ちには嘘をつけない。


「先輩って結構な変態さんだったんですね。まあ予想通りですが」

「あらあら」


 なぜか天谷と四楓院先輩がいた。


 あと天谷。予想通りって何だ。


「お姉さまを追ってきたら、まさかこんなのが聞けるなんて思っても見ませんでした」

「大丈夫ですよ。隠し事の一つや二つ、誰でもありますわ」


 これは俗に言う親にエロ本の隠し場所をばれた感じだ。


「うわああああああん」


 あんまりだあああ。俺のフェチがああああ。HEYYYYY。


 俺はあまりの絶望のためこの場から逃げ出した。






 一人になりたかったので俺は隠れる所を捜すが、サバイバルゲームなのでそんなところはない。


 だから俺は誰かが最初に居たであろう部屋を捜す。


 そしてようやく見つけた部屋の隅で引き籠もることにした。


 だが対角線上に先客がいた。


 俺と同じ格好で体操座りをしている。


「あ。宝瀬先輩じゃないですか」


 生徒会長の宝瀬先輩だった。


 そういや俺は彼女に謝らなければならなかったな。


「あなたは……ごめんなさい。忘れてしまったわ」


 変だな。あれだけ怒っていたのに。


 それとも女心と秋の空みたく怒りも忘れるようなものなのかな?


「二年の嘉神一樹です。つい先日ギフトが目覚めたばかりです」


 確かこれ先輩が確認したよな?


「そう……だったわね」


 取り繕った言い方だ。多分覚えていないな。


「じゃ、お邪魔でしたら俺はこっから出て行きますけど」

「待って!」


 そういうと先輩は、生まれたての子鹿のような足つきでこっちに向かった。


 一回転んでそれでもお構いなしに俺の元に向かう。


 普段気品漂う彼女からは考えられない動作だった。


「嘉神君。私を……助けて」

「いいですよ」


 即答だった。


「元々俺は、皆を助けるために戦っていますし、むしろ助けを求められた方が有り難いです」


 これであと、十人。


「本当に?本当に助けてくれる?」

「当たり前ですよ」

「相手が運命でも、私を助けてくれる?」


 先輩って意外にメルヘンだな。運命って存在しないのに。


「当たり前ですよ。運命程度俺の敵じゃない」


 いない敵相手には無敵である。


「本当によね。本当に助けてくれるのよね。信頼していいのよね。希望をかけていいのよね」


 何か先輩、凄いストレス溜まってるのか?


「もちろんですよ。俺を信じてください」


 宝瀬先輩は泣き出した。


「ちょっ」


 まるで俺が泣かしたみたいな感じになっている。


「私は私の持っている希望を全てあなたに賭けるわ。だから絶対に運命に勝って」


 メルヘン生徒会長は、俺に抱き付きながら言った。


「もし勝ってくれたら、何でも好きな事していいわ」


 つまり、腋を舐めていいと?


「あなたがさっき叫んでいたように、腋を舐めても構わないわ」


 ああ。きっと宝瀬先輩は怖くて頭が真っ白になっているのだろう。そうでなければこんな法外的取引をしようとは思わないに違いない。


 と実はあの叫びは周りに聞かれていたということを棚に上げて妄想にふけっていると


「何をしとるのだ」


 後ろから鬼の声がした。


「早苗……さん」


 追ってきてくれたのだろうな。


「貴様は……真百合!」


 初対面から呼び捨てだったとはいえ、先輩なんだからあんまり呼び捨ては良くないだろう。


「そういえば忘れていたのだが、現在サバイバルゲームの途中だったな」


 怒りマークを付けた早苗は俺達を見る。


 ホント俺は早苗から嫌われている。


鬼人化オーガナイズ……う」


 なぜか早苗は膝を床につけた。


 そうか。さっき俺を助けるときに使った鬼神化オーガニゼーションで、体力の消費が激しすぎたんだ。


「立てるか?」

「どうやら無理のようだ」

「だったら少し休んでろ。俺が見張っておくから。先輩も室内で休んでいてくださいね」


 五分後、天谷と四楓院先輩と合流した。






「作戦を立てましょう。現在自分で自分の身を守ることの出来る人間は、俺と天谷と四楓院先輩だけで、しかも拳銃頼りと」


 何でも今宝瀬先輩ギフトを使えないらしい。


「出来るだけ集団で行動するというのが大原則。これはどんな場合でも守ること」


 多ければ多い程、抑止力になりやすい。そうすれば無益の戦いは起きなくなる。


「一樹。お前今どれくらい体力残っている?」

「大体四分の三は」


 回復の時使用した分だけだ。


「そして最悪、俺のギフトで命を賭ければこっから逃げ出せると。ですが何度も言いますが、成功率は高く見積もっても四割弱でしょう」


 つまりここにいる五人の内三人死ぬ計算になる。


「いえ。それは出来ないわ」


 宝瀬先輩が俺の考えを否定する。


「逃げては駄目よ。だって私たちの体には、毒が回っているもの」


 毒?


「あと一時間半でみんな死ぬわよ」

「………」


 なぜ彼女がそんなことを知っているのかは今は考えないことにして


「解毒薬は?」

「あるわ」

「ある場所は?」

「……私たちの胃の中よ」


 宝瀬先輩の話によると、あと一時間でアナウンスが鳴り毒の存在が知れ渡る。


 そして解毒剤がそれぞれの胃の中にあるというのを教えてコロシアイを強要させる流れらしい。


「その話は本当なのか?」

「ええ。本当よ」


 早苗は信じることができないらしい。


 いや、信じたくないのが正しいのか。


 その話が本当だと仮定するならば一人助かるために最低一人殺す必要がある。


 つまりいくら少なく見積もっても八人の人間が死んでしまう。


「………」


 四楓院先輩あまりの状況に声を出せないでいる。


「あ、あの」


 天谷が手を挙げた。


「それってどのくらいの大きさ何ですか」


 俺と話す時とは打って変わってものすごく丁寧な聞き方だった。


「アメリカンチェリーくらいのカプセルの中に入っているわ」


 半径三センチくらいか。


「そうですか。ならばいけそうです」

「え?」

「ほら先輩。真子の能力って複製じゃないですか」


 あ。


「天谷。お前女神か!アマテラスの化身なのか?」


 やった。これで勝てる。


「だが待て。それでも一つ取り出す必要があるぞ」


 確かに。


「いえ。ですから一人いるではないですか。ここに死んでもいい人が」


 あ。俺のことね。


「おっけ天谷。あとで屋上な」

「いいですよ。ここから出られた後ですが」


 言ってくれるじゃないか。


「じゃ、毒の件はこれでいいですか」

「……ええ」


 気になっているが、宝瀬先輩この中で一番絶望している。


 助けてと言ったくせに、自分は助からないと心のどこかで思っている。


 さっきまでの俺とは真逆だ。


「真百合。言わせてもらうぞ。ウジウジされると迷惑だ」


 言ったのは俺ではない。早苗だ。


「何よ。これだから筋肉バカはいやよ」


 鼻声で罵倒し返した。


「止めろと言いたい所だが、悪いが俺も同感だ。生きようとしないやつが生き残れるかよ」


 さっきまでの俺がそうように。


「嘉神さん。それはちょっと言い過ぎですわ」


 四楓院先輩が俺を非難する。そういやこの人宝瀬先輩と仲良かったな。


 だったら次俺の言いたいことを聞かれると少々面倒なことになりそうだったので、俺は宝瀬先輩にしか聞こえないように耳元で呟いた。


「ちゃんと守りますから。ですがあなたがそうやっていると守れるものも守れなくなる。何もしなくていいですから。いえ、むしろ何もしないでください」






 生徒会長のくせにメンタルくそ弱い宝瀬先輩を落ち着かせるのに大分時間をとった。


 ようやく行動に移そうと思ったのだが


「結局、嘉神さんのギフトは何ですか?」


 四楓院先輩がそんなことを聞いてきた。


結構それ聞かれるな。


「まさかこの緊急時に言いたくないとはおっしゃりませんよね?」


 おっしゃろうとしてました。


「私も聞きたいわ。次元移動の類なのは分かってけど、それだけだと私を守るには力不足よ」


 言ってくれるじゃないですか。


「嘉神のギフトは……」

「ちょ。早苗!」


 何ばらそうとしてるんだ。


「この緊急時だ。四の五の言ってられぬだろう」


 そりゃそうだけどな。


 でも確かにその通りだ。仕方あるまい。互いの信頼関係を得るためにも伝えるしかないか。


「分かったよ。俺が言う。口映しマウストゥマウス。キスした相手の能力を使えるようになるギフト」


 ほら見ろ。みんな絶句したじゃないか。


「それは先輩。つまりどういうことですか?」


 分かってねえのかよ。


「基本的に全ての能力を使えると言うことだ。最も口付けする距離まで近づく必要はあるけどな」


 そういうと、心なしか天谷と伊集院先輩は遠ざかった。


「だからその中で、俺は次元移動を持ち合わせている。天谷に見せたのがそれだ」

「じゃあ、嘉神くんは一体幾つのギフトを持っているの?」

「四つ」

「その能力は?」


 これは本人がいるのであまり公にするわけにはいかないな。


「近接攻撃系が一つ。遠距離攻撃系が一つ。防御形が一つ。そして移動系が一つです」

「よくもまあ綺麗にばらけましたわね」


 確かに能力としての被りがない。


「それと、使えるだけであり本人のように使いこなすことは出来ません。だから次元移動してもまず失敗しますし、持ち主と同じ異能で戦えばまけることは必至です」


 それともう一つ。早苗の鬼神化オーガニゼーションのように進化した能力は使えることが出来ない。


「こんな所です。さて先輩方のギフトも教えてください」

「そうですわね。嘉神さんのあとで見劣りするかも知れませんがわたくしのギフトは感無量ナンセンス。相手に感知できなくするギフトですわ」


 この説明は流石である。


「正確には違いますね。伊集院先輩のギフトは、多分先輩が指定した五感を関知できなくなる能力でしょ?」

「なぜそれを!?」

「感知されないだったら、あの時先輩と会話すること出来ないじゃないですか」


 解除していたら視覚に入っている。


 あの時、音は感知出来て目は感知できなかった。


「……お見それしましたわ。嘉神さんの言うとおりわたくしのギフトは、わたくしが指定した五感の内三つまでを感知させなくすることです」


 厄介なギフトである。五感と言うことは、痛覚すら感知させないと言うことだ。下手をすれば自分が彼女に殺されたことにすら気付かない。


「それで宝瀬先輩のギフトはなんですか?まさか教えたくないとは言わないでしょ?」


 俺も折角教えたんだ。


「教えることは出来ないわ」

「貴様!」


 早苗は胸座を掴んだ。どこの893か。


 893だったなそういや。


「別知っていようと知らなくてもどうでもいいでしょ。あと一時間半まで使えない能力なんて」


 それなら教えて欲しいものだ。


 どうしても教えたくないのなら俺は推理する。


 今できないのは能力の制限と考えるからいいとして、最初に考えたのは予知だが、けれどもしそうだとするならば、なぜ宝瀬先輩はなぜこの狂ったゲームを予知できなかったのかが気になる。


 となるとあれだろうか。あれだったら前に福知が言っていた恐ろしいというのも納得できる。


「だから一体なんだ!はぐらかすのもいい加減にしろ!」

「あなたに言った所で、何の解決にもならないわ」


 早苗がグーで殴ろうとしたので、俺は流れるような動作で早苗と宝瀬先輩にビンタした。


 なぜか四楓院先輩と天谷も驚いているが気にしないで


「まず早苗。これから戦う仲間相手に暴力はよくない」


 そして俺は宝瀬先輩の方を向いて


「そして先輩。もう先輩は何も喋らないでくれますか」

「え?」

「ちゃんと守りますから、足手纏いは大人しくしてくれます?」


 皆が静まりかえる。


「先輩の言っているとおり使えないのなら教えなくても構いません。ですが足手まといになるのだけは本当にやめてください」


 先輩相手に酷いことを言っていると思うが、こっちはみんなの命がかかっている。


 あとで殺されるかもしれないが俺は『今』生きないといけないのだ。






 移動しないとエンカウントする確率が下がるので移動する。


その際の配列は、能力的に先頭が俺。ハッタリとして誰にも自分のギフトを教えたことがない宝瀬先輩も先頭である。そして宝瀬先輩の後ろに四楓院先輩。俺の後ろに体力を殆ど使い切った早苗。後ろを警戒するのは、天谷である。




「「「「………………」」」」


 警戒のためとはいえ、皆静かだ。静かすぎるくらい。


 早苗にやられて、気絶していた三年の先輩方は事情を話したら納得してくれた。とはいえ俺達と行動する気にはなれないらしく三人で行動するつもりらしい。


 あと会っていないのは、時雨と飛鳥部。一年四人か。


 俺はこの時何だかんだで、みんな助かるのだろうと勘違いしていた。




評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ