沈黙の666 三
ダンガンロ○パ3みて、そういや昔パロディ好きだったことを、そして今でも好きなことを思い出しました
時間がない。
足掻くのなら最後の最後まで納得のいくよう足掻こう。
取りあえず墜落したときに生じたクレータから、数個投げやすい破片を厳選。その際出来るだけ嘉神さんとは距離を取った
だがこれらはすべて囮。目的はこのナイフ。
このナイフに混沌回路で力を込める。
一度だけ、またあの苦しみを受けないと思うのは辛いものがあるが、死なないと分かっただけで十分な情報。
嫌だし苦しいが、それでも死なない。
これからの覚悟を決めるのは容易かった。
「うぉおおおおおおおお」
叫んだのはこれから来る苦痛を少しでも紛らわすため。
大きく振りかぶって、野球なんてテレビでしか見たことなかったけど、見よう見まねで投げた。
コンクリートの塊はそれぞれまっすぐ支倉罪人がいる150階付近に狂いなく向かっていく。
だがその攻撃は悲しきかな、予想通り支倉によって防がれてしまった。
油断していてくれたのなら、この塊により装置を破壊で来たがそりゃ虫のいい話だったか。
そしてそれを確認した時、もう限界だった。
叫んだことによって分泌されたドーパミンは、一瞬のうちに消え去る。
かわりに中毒症状が襲ってくるのだ。
父さんと母さんが呼んでいる幻覚が見えた。
顔は忘れたことは無いが、声はほとんど忘れていた。そういやこんな声だったなあ。
ああ、やべえ。
分かっていたとはいえ、そう何度も耐えられるようなものではなく、片膝をつけてしまった。
防御に戻したが、苦しかった記憶はそう簡単に忘れられねえ。
トラウマはギフトでも超悦者でも消すことなんて出来ないように。
これでもうおれができることは全部やった。その上でこの結果か。
負けた。やっぱむりだった。
おれじゃ英雄には勝てなかった。
あーあ、いつきにも結局勝てなかったか。
負けて負けて勝てなかった。
主人公には勝てなかった。
「これで小僧の手の内は全て潰した」
いつのまにかビルから飛び降りてきたか。
こうやって苦しんで行動出来ないうちに潰した方が、防衛として正しい。
おれなんかよりもはるかに有能な人だ。
「ギフトも超悦者もシンボルも、もう使えまい」
そうだ。その通りだ。と肯定する気力すら残ってねえ。
「だがなぜだ」
しかしそれでもこの支倉は油断しなかった。
「なぜその眼は死んでいない」
「べつに」
「策は全て潰えた。そして今儂がこうしてここに立っている以上小僧にギフトもシンボルも使えない」
どのみちもう使えないが、強引に使おうとしても使えないのは知っている。
「だがなぜその眼は死んでいない? 小僧の無力により多くのギフトホルダーが死ぬ。その責任が分からない男ではなかったはずだ」
あー。確かに。おれがもっと賢くて強けりゃもっと助かった人がいただろうよ。
「なんだそのやりきった目は!?」
「――――おれはよ、いつきに勝ちたかった。それがおれの目標だった」
「それがどうした」
「仲の良かった友人はちょっと疎遠になったり、義理の親からどこにいっていたんだと世間体を気にされたりしながら、今みたいに強くなった」
「だから何が言いたい」
言いたいことは山ほどある。
「まだその程度だ。おれが本気で何かを頑張ったのは2か月とちょっと。そりゃ夢を諦めるのは辛いが、我慢くらいできる。おれはいつきに勝つことをあきらめた」
「そうだ。嘉神一樹は死に小僧もこれから同じ場所に行く」
実際に死んだらおれはどうなるんだろう。
記憶失って転生が一番可能性高いって言っていた記憶がある。
天国も地獄も無いってことは知っている。
まあ、いま考えても無駄なのは分かっているが。
「それとこれはわざわざ言うべきことじゃないかもだが――――言わせてもらう」
おれは蛇なんかじゃなく、支倉も蛙なんかじゃないけれど、怯ませるように眼力を込めて睨みつける。
「自分より弱い男を目標になんかするかよ」
あいつは強い。ギフトがあったおれですら、ギフトが無かったあいつに勝てなかった。
難しいから頑張れた。
超えるのが容易けりゃ、とっくの昔に超えている。
「ずっと思っていた。おれじゃなくいつきがここで戦っていたら、もっといい方法でもっと簡単に倒していたんだろうって」
「だが嘉神一樹はいない。それは終わった話だ」
それはちげえ。終わってなんかいない、これから始まる。
「神は死なない。おれが最も尊敬している人の言葉だ」
宝瀬センパイは、いつきは死なないって言った。
「あの一族の男絡みは本当に醜いぞ」
「そりゃあんたの話だ。完全には否定しないがおれの常識は違う。あの人は誰よりも優れている美しい人だ」
気高く優秀な、天が万物を与えた天才。
「仮におれがあんたを倒したとしよう。だがそれじゃ意味がないんだ。いつきがいなけりゃあのセンパイは何もしない。むしろ滅ぶ世界を無視して、いつきを生き返らせるためにその才能をすべて費やすだろうよ」
その仮は果たしてどれほどのコンマゼロを増やした可能性なのだろうか。
「そして逆にあの人の手を借りずこの世界が再生できる未来をおれは想像できねえ」
「それは儂が何とかする。だがその想定は――――」
それはあんたの世界だ。能力の無い正しくもつまらない世界。
過去はそれが正しかったかもだが、現在は違う。
荒波すら支配する、欲にまみれた世界が正しき世界なんだ。
それ以外の世界をおれは知らねえ。興味もねえ。
「結局の所、ギフトホルダーの世界を救うためにはいつきの存在が必要なんだ」
「いつまでも死んだ男の幻想を夢想するか。女々しいぞ」
女々しいか。そういわれても仕方ねえかもなあ。
だがどうでもいい。女々しかろうが雄々しかろうが、そんなこと重要じゃない。
「死んだ男? だからどうした」
そう。死んだからどうしたんだって話だった。
「死んだら生き返らない。それはあんたの世界の常識だろ。おれがいる世界は違う。死んだ人間は生き返る。死は絶対じゃない」
死んでも予想以上に慌てなかったあの人を見て思い出した。
そしていつか師匠である神薙さんがいっていたことを。
人はいずれ死すらも克服する。
死を恐れることなかれ。奴らはいずれやってくる人間の成長についてこれない軟弱な雑魚だ。
「生き残るべきはおれじゃない、いつきの方だ」
「…………」
「そう思ったから、おれがするべきは一つだった。あんたを倒すことでも、装置を破壊することでもない。ただいつきを生き返せばいい。これが最優先事項」
気づくまでにずいぶん時間を使ってしまった。
「そんなこと儂が気付いていないと思っていたか?」
「――――!」
「なぜ途中まで小僧を放置していたと思う。何が何でも装置を守るだけならば、途中まで階を降りることも許しはしない」
そういうことかよ。気がつかなかった。
やっぱおれよりかは考えていたんだ。おれなんかじゃ考えが及ばなかった。
「儂は小僧のシンボルを知らん。どういう能力かは分からん。だがある程度形だけの察しがつく。シンボルの使用に武器や他の能力が必要だということだ。そうわかっていればこの天我で対策は可能」
その通りだ。極端な話完全な無の空間でおれのシンボルは使えない。
「儂がどれほど能力を憎んでいるか、知ってほしいとも思わないが…………憎んでいるからこそ知っているモノもある」
アンチ程嫌いなものをよく知っていると聞くが、支倉もそういうことか。
ギフトや能力が嫌いだからこそ、その対策法を熟知している。
厄介な相手だ。嫌らしく強かな、経験を積んだ老兵だ。
タイマンだとギフトが使えたとして勝てなかった。
だが当たり前だが――――おれは一人で戦っているわけじゃねえ。
「待て小僧。――――貴様、なぜナイフを構えない? むしろどこにやった?」
「――ふっ」
やっとナイフに気が付いたか。
もういいので、おれは支倉の足を掴む。
倒れているおれを見下す支倉。その足を掴む構図を第三者が見れば、ただの悪あがきにしか見えない。
「もういい。小僧を殺しあの下種の首を供える。それで全てが終わる」
「そうかよ。地獄で待ってるぞ」
これからは超悦者でもなんともなく、ただの走馬燈。
支倉が振り下ろす短刀に、死の香りを感じ取った命が見せた最期の残り火。
悪いないつき。
おれは先に逝く。
あとは任せ――――
「うぉおおおお」
「んっ? っんむ!?」
幕引きだった短刀は振り下ろされず明後日の方向に流れていく。
月光に煌めく2本の刀を俺は見た。
一本は死を連想させた支倉の天我。
もう一本は宙を舞う量産型の点牙。
刀としての性質は圧倒的に前者の方が上。実際に叩き折られたのは後者――――だがそこに意味はない。
吹き飛んだ刃を素手でつかみ取り、支倉の右肩に突き刺した。
たまらず支倉は大きく距離をとる。
畳みかけるべきだ、それが正着だとは誰もが考えるが、その男にそんな真っ当な常識は無い。
当の本人はただおれに一言伝えるためだけに立ち止まった。
「シュウ、お疲れ。あとは俺に任せとけ」
なんで、なんでだよ。
なんでこっちに来た。
その問答はひとまず目の前の老人がかき消す。
支倉は、血管が浮かび上がり、いまでもはち切れそうなくらいパンパンに膨れ上がっていた。
この夜中でもはっきりと分かる。激昂して顔が真っ赤になっていると。
そりゃそうだ。だって支倉の視点から見れば。
「――っ、嘉神一樹ィぃいい!!!!」
死んだ憎悪が生きかえったんだから。
ぶっちゃけた話ですけど、ここまでの戦闘は二章のセルフパロです。
ただし振り返るときはカクヨ○の方でお願いします。