沈黙の666 一
あらすじ
なんか脅迫されたから、強迫主は殺すっきゃないよな。
↓
卑劣な時間稼ぎをうけた
↓
ギフトの真実が、バランス調整だと言われた
↓
死亡確認
↓
ギフトホルダー殲滅のピンチ。頑張れ時雨君!
支倉罪人with天我(神秘の否定+好きなものを斬れる)超悦者を自由自在
vs
時雨驟雨(シンボル 混沌回路)with天臥(放電)+α 防御、一瞬だけ別の行動が可能。
and
嘉神一芽(シンボル 封剣守偽)超悦者防御のみ
あと、これからは時間制限つき、極限のプレッシャー、嘉神君ではなく時雨君なため、正解じゃない手をバンバン使います。というか他のキャラが正解を選びまくる方が違和感ありありです。
いつきが通った穴を逆戻りするわけだが、これはおれがやんないといけねえ。
なぜなら装置がある150階には、支倉・リンクイナ・アンビの所為で、手をつけていないからだ。
嘉神さんの封剣守偽は封印する能力、破壊することができない。
そして封印しようにも対象が目の前になければ効果が無い。だから結局おれが何とかして装置の場所までいかなきゃならねえ。
つうわけで飛び降りる。そのことをわざわざ説明しなくとも嘉神さんは理解してくれる。
速度は加速度と時間に比例するわけだが、これがかなり遅い。
一瞬の超悦者で、まっすぐ進むことも考えたが、中毒症状がおれにどう影響を与えるのかが未確定ってのが、困る。
一呼吸入れるだけで回復できるってならやる。
だがもし1回きりが限界ってなら、絶対にやっちゃいけねえんだ。
可能性としては少し前者に寄っているとは踏んでいるが、不可逆の怖さがある。
失敗したら死。すなわち、ギフトホルダーの死。
失敗したらいけない。何が何でも成功しないといけない。
おれの人生の中で最大の大一番。
震えが止まらない。
こんなときいつきなら――――ああ。もう。
いつきのことは今考えるな。
いるのはおれだ。おれが何とかしないといけねえ。
いつきの幻想を追いかけるのはセンパイだけでいい。
おれはおれができる精一杯のことをするっきゃねえんだ。
超悦者のせいで、スピードの感覚が狂っているが、たぶん体感としては8秒ほど。
流れる風景が絵から線になりかけた、そのとき。
突如壁が崩壊したと思ったら横っ腹に飛び蹴りが入った。
つねに防御しているからそこまでダメージはないが、驚きという意味で精神的ダメージは大きかった。
「なんで……嘉神さんが殿で守っているはずなのに」
「別に儂は小僧が通ってきた穴を通ってきたわけではない。壁に穴をあけ、そこから超悦者で飛び降りて、貴様を見つけたらその壁を破壊し飛び蹴りを入れただけだ」
Uターンというか、“コ”ターンでここまできたってことか。
やっぱ長い間超悦者であるとそういう考え方も手慣れたものだと、敵ながら感心しちまう。
だが一つ言わせてもらう。
あの人ホント使えねえ。
これの子種からよくいつきが生まれたな。
どうすりゃいいんだって言われたら、おれもなんと答えりゃいいかわかんねえが、それでも何とかしてほしかった。
頼りがいのない大人とはああいう人をいうんだろう。
「すまん時雨くん! 今そっちに支倉が!!」
知ってる。遅いし、伝えるなら来る前に言わないと意味がない。
こうなったらおれが何とかするっきゃねえ。
とりあえず今は嘉神さんが下りてくる時間を稼ぐ。1対1じゃ負けないことはあっても勝ち目はねえ。
天臥を取り出し逆手に持つ。
自信を守りながらの攻撃。だが1太刀いれればいい。
これは武器、スタンガン。
持ち手の尻のスイッチを押せば、高圧の電流が流れ、対象を一瞬で感電できる。
対人兵器ともいっていい。
何よりも神秘を否定する天我と相性がいいってのもある。
「その短刀は、確かに電流を通す物質でできている。しかし切れ味はこちらのほうが遥かに上だぞ」
つまりどちらも切りあいを選択するとするなら、勝負は一瞬でつく。
一発勝負。
そうしてくれるなら、こっちとしても願ったりかなったりだ。
「しかし馬鹿正直に鍔迫り合いに付き合う義理はない」
これはわかっていた。
こっちは1秒でも早くたどり着き、0.1秒でも早く装置を破壊しないといけない。
支倉はそれを知っている。持久戦に挑んだ方が有利であり、そうされた場合不利と分かっていてもつっこまなくてはいけない。
だからおれが取れる手段は本当に限られている。
手持ちの武器で、何とか短期決戦を挑むしかない。
考える時間も本当は惜しい。
故に素の疾走。男子高校生にとっての上の下程度の速度。超悦者にとっては最低値に近いスピード。
防御しながら進むんだから、これしかない。
鍔迫り合いを嫌って、逃げるならばそれでいい。
目標は飛ばされた結果、支倉罪人の背後になってしまった穴からもう一度落ちることだから。
「勇気はある。故に、惜しい。小僧がもしも200年前にいてくれるなら、歴史は大きく変わっていた。だが残念ながらもう必要じゃない」
そう言い残し逆に、自分から穴の中に落ちた。
なぜそんなことをするのか?
その理由は飛び降りようとして下を見たときにはっきりとわかった。
見えないのだ。
支倉罪人がどこにいるか分からない。
今は恐らく165階くらい。
残り15階の穴が通じている。それはいい。
恐らくどこかの階に潜んでいる。
電磁波で探れば居場所はわかるが、いまギフトが使えないおれにそれはできない。
そして居場所が全く分からないまま、飛び降りるのは無謀。
360度から不意打ちされる可能性が、絶え間なく15回も続く。そしてその難易度は1階1階で上昇していく。途中で止まれば難易度は変わらないままだ。だがそれには時間がかかる。
加速度はその運動に従えば従うほど速くなる。
逆に言うなら、最初のうちはちっとも速くない。
一直線で落ちれば10秒ですむっていう計算も、1階1階降りるだけで数秒使用することになる。
「どうなってる?」
やっと降りてきた嘉神さんが状況説明を求めるが、正直そんなことをしている暇はない。勝手に察してほしい。
「2人で180度を守ろう」
今何が起きているかを、すぐに察し、またその案を的確に出す。
頭はおれよりも遥かにいい。
そして主張はまあ、真っ当。
だが不安だ!!
いつきが背後で守ってくれるならいい。全力で信頼する。
けどこの人に守ってもらうってのは、結局不安で意味がない気がする。
むしろ背後が見えなくなって邪魔になるすらあり得るんだよなあ。
この人のほうが格上なのは認めるんだが、まるっきり信用できないのはなんでなんだろう。
ただ時間がなくいい案も思い浮かばないから、乗っかるしかない。
中○産の泥船に乗りこむ気分だ。
そんな不安を抱えつつ飛び降りる。
164、163、162―――――!!
目の前に切りかかってくる老人がすぐそこにいた。
急いで一太刀を入れ…………!?
一瞬老人だと思ったそれは、スクリーンに映された映像。
つまりはフェイク。
普段なら騙されるわけがないが、今は判断力が低下している。
引っかかってしまい、一度停止してしまう。
こんな嫌がらせを、つまらない嫌がらせと一蹴できる精神がおれにはない。
時間がない。あわてるな。急がなくては。落ち着け。
頭の中がぐるぐる回ってまともな思考すらも怪しい。
気が付けばからっからにのどが渇いていた。
水がほしい。そんな余裕は一切ないのに体が欲してやまない。
ヤバいヤバいヤバいヤバいヤバいヤバいヤバいヤバいヤバいヤバいヤバいヤバいヤバいヤバいヤバいヤバいヤバいヤバいヤバいヤバいヤバいヤバいヤバいヤバい
落ち着け。落ち着かないと混沌回路が使えない。
冷静に、まずは一呼吸。しかしその一瞬の隙を疲れてしまう。
「まずい! 爆弾だ!!」
嘉神さんが叫ぶのと同時に爆音が響く。
完全な不意打ち。ただこれは直撃しても大丈夫なタイプ。
なぜなら目的が違うから。おれらを攻撃することじゃなく床を破壊するのが目標だからだ。
崩落する床、重力に従うおれたち。
土煙と共に閃光弾が光り輝き、完全にどこに何があるか見失ってしまう。
落ち着け。騙されるな。スタングレネードに怯む必要はない。
昼は太陽があるためほかの星が見えなくなるが、そこにある事実は変わらない。
目を凝らせ。まぶしいなんて言ってられない。
相手だって必ずしも正着手をとれるわけじゃない。
必ずどこかにミスを犯す。油断だってする。
勝負は一瞬。それは今。
使う。
攻撃の超悦者もシンボル混沌回路も。
どちらかだけ使って失敗したら、後悔がひどいことになりそうだという理由もあるが、多分これくらいしないと倒せない。
勘違いしちゃいけないのが、この中じゃおれが一番格下ってこと。
かっこよく勝つのはいつきの仕事で、おれは泥臭く足掻かなきゃ勝つことなんてできない。
だが何を付与する。
即死? 必中? だが近くにある神秘を否定する天我を持っている。
いつきは『世界』クラスの攻撃を否定されたといった。
『法則』を無効にされるかは分からねえ。
だがあんまりいい結果にならなさそうな予感がする。
だったら武装解除が先か? だが武装解除→倒す→装置破壊をやるのにシンボル2回で足りるのか?
ああくそ。考えるのは得意じゃねえんだ。
考えないつもりだったのにいつきがいてくれたらと考えてしまう。
おれに人類を救えるわけがない。
力不足だ。
「ねえ、時雨くん」
「なんですか嘉神さん」
正直話をしている余裕なんて無いんだが。
「きみのギフトを封印してもいいかな」
どちらかが意図的に消費しない限り、超悦者同士の会話消費時間は実質0秒です。