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チート戦線、異常あり。  作者: いちてる
7章後編 プロジェクト ノア
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取り残された女

数話たった後に読み返してみましょう。酷い皮肉が待ってます。未来予知

 遂に200階に到着。150階の天井と床に穴を開けることはできなかったが、ビルをほぼ貫通できて満足する。


 この達成感と共に支倉罪人を殺しに行きたいところだが一つやり残したことが目の前に転がっている。


「さささあ、かかかってきなさい」


 天井を破壊した先、最後の扉の前に一人の女が震えながら立っていた。


 白衣を身にまとい分厚いぐるぐる眼鏡をつけた猫背の女。


 ちっとも強そうに見えないが油断は禁物。


「名前は?」

「あ、はは支倉見実はぜくらみみです。ギフトは記録媒体アカシックレコードです」


 そのギフトを俺は一度聞いたことがある。

 データ採集のギフト。


 月夜さんと同じく隠れチートに属している。

 どこからでも採集の機会があれば持ってくる『法則』のギフト。


 だがだからこそおかしい。


「戦闘にどう使うつもりだ?」


 データ戦闘なんて負けフラグそのモノなのは超悦者スタイリストでは常識。


「しし知りません、ちちちぇすっと」


 日本刀を振りかぶって……ええ。


「なあ、これを見てどう思う?」

「いや…………」

「どう見ても素人」


 そう。

 こいつ超悦者スタイリストですらなかった。


「おい、今から殴るから耐えてみろ」


 襲い掛かる……?刀を奪い取り、殴る。


「ぶごぉぉ」


 女が出しちゃいけない声をだし壁に激突。


 死なないようにしたとはいえ、気持ちよく一発を入れてしまったことに不快感がある。


「おい、支倉見実といったか。まさか超悦者スタイリストすらまともに使えないのか」

「そそそそうですけど…………別にいいじゃないですか。わわたしは戦闘員じゃないんですし」


 そりゃそうだ。でもちょっと違うだろ。


「その割にはぴんぴんしている。大方防御だけ7,8割といった所かな」

「ひひぃ、なな何で分かったんですか」


 これは流れを見てたらわかるから、賢さとは無縁。

 だがだからこそわからない。


「何が狙いだと思う?」

「分かんねえ。逆に不自然過ぎて時間稼ぎになるってことか?」

「それはあるかもな。とはいえこいつを無視するわけにはいかない」


 何しろデータ採集のギフトは真百合のトラウマを強引に持ってこさせることが出来る。

 殺害優先順位としては支倉罪人よりも高い、ここまで来た最大の目的と言い換えていい。


 いわばこいつはネガなんだ。脅迫者だけを潰してもネガが残っていては意味がない。


「こいつだけはどんなことがあっても殺さないといけないし、何があっても逃がさない」


 その為に時間を使うのなら俺は仕方ないと割り切る。


 だからここまで来て取り逃がすなんてことはあっちゃいけない。

 考えられる罠は全て考えなくては。


「一樹、こういっちゃ悪いが真偽判定の結果、こいつ自身何か罠を仕込んでいるわけじゃないらしいぞ」

「はあ?」

「何か秘策はあるらしいが……それだけだ」


 じゃあ本当に何の力もないのに殿をやっているのか?


「こう考えたらどうだろうか。支倉もいよいよ余裕がなくなったって」

「余裕が無いにしても、こいつよりもアンビちゃんの方をもう一度使えば良い」


 身を守る手段すら持ち合わせていない癖に前方に出るな。


「さささあ。かかってきなさい。わわたしはいつでも相手します」

「足を震わし、泣きながら言われてもな……」


 ただ、殺すのには変わらない。

 そうだな。結局殺すんだ。ウジウジ時間が得ても仕方ない。


「もう考えるのはいいや。殺す、だが……その方法も凝らせてもらう」

「方法?」

「ああ、今時死んだところで安心できない」


 脱獄の時はまよちゃんを殺したのに復活してしまった。

 俺らにとって死は絶対条件じゃない。


「やはり壊すなら精神」

「また拷問でもやる気か?」

「またとはなんだ。そんな面倒なことしない。もっと手軽で確実に心を壊す方法がある」


 そういってとある物を作り出す。


「あ」

「おい息子。それはちょっとまずくねえか」


 父さんが俺を名前で呼ばず息子と呼ぶのはこれが初めてか。


「あ、ああのあの。つつかぬことをお聞きしますが、そそれなんです?」

「○ロイン」


 一言で事実上の極刑を言い渡す。


「精神的苦痛で拷問とか入れちゃう輩がいるけど馬鹿と嘲笑ってやる。どう考えてもお薬を打ち込んだほうが長く、そして至高の苦痛を与えることができる」


 変に拷問シーンを入れたがるやつは、本質を理解してない。


「ただ安心してほしくないんだけど、この薬は俺が改造して快楽なんて与えないようにしてある。ただただ脳を崩壊して一生分の苦痛を与える」

「ヒィ」

「そうだな。この新薬、チョコとヘロ○ンを合わせてチョロインなんてどうだろう?」

「洒落になってないと思う。いろんな意味で」


 結構いいネーミングセンスだったと思っていたのに不評だとなんだが悲しい気分になる。


「快楽はゼロ倍。苦痛は三十倍。これくらいあれば人は壊れるだろ」


 初めてだからわかんないけど。


 あ、それと嘉神君からの大切なお知らせだ。

 絶対にマネしないように。

 薬は使用するのもさせるのもいかんぞ。いいな?


 よし、これで利用規約には引っかからないだろう。


 ここまで注意したのに薬に手を出す奴がいたら、読者相手に馬鹿と言っても反論の余地はない。


「恨みはない。ただ仲間のためだ。死んでくれ」


 両手に8本の注射器を挟み投擲。

 両腕に2本ずつ。脚に1本ずつ。首と下に1本。


 通常なら、悶えるか発狂するかの違いはあれど数秒後に死ぬ。


 だが――――


「ごほっ、ゴホッ」


 支倉見実は耐えきった。


 こんな女でも麻薬は耐えられると勘違いしちゃいけない。

 この攻撃を耐える術は俺たちがよく知るあれだ。


「なんだ。なれるじゃないか。超悦者スタイリストに。騙していたとは卑怯だ」

「いや……見た感じたった今完成したと思うぞ」


 なんで敵のくせに戦闘中に成長するんだ。


「まあしゃあねえだろぉよ。超悦者スタイリストは、教える側にも影響するって話だろ? おれがいつきと同じように習得できたのは神薙さんの所為だし」


 俺と比べたら才能の無いシュウだが、習得期間はほぼ同じ。

 そういや俺まだ完全にできているとは言えないから、ひょっとしたらシュウの方が早いのか。


 そして教える側も重要で、いかにそいつが常識から外れているかで習得の難易度も変わってくる。


「ん? つまりそれって支倉罪人は俺よりも常識人だってことにならないか?」

「いや、それこそ今更だろ」


 おかしい、こんなことは許されない。


「くっそ、お前の----」


 お前の爺さんほんと迷惑しかかけないな。そう言おうとした。


「ひっぐっぅあ、ぇんぁ」


 なんか泣き始めて戸惑う。


「えっと……ええ?」


 訳が分からない。なぜ超悦者が使えるようになって泣くのか。

 死にたいのなら最初から使ってはいないはず。


 あおり抜きにしてこいつら何したいんだ。


「この馬鹿!」


 ゴスロリ幼女の支倉・リンクイナ・アンビちゃんがやってくる。

 そのまま攻撃してもよかったんだが、何をするかが気になったため泳がすことにした。


「アアンビちゃん」

「防御出来たんだから早く入ってきなさいよ。馬鹿ミミ姉」

「う、うん」

「ほんと酷いけど、ぎりぎりでチケット手に入れたんだから。助かろ、一緒に」

「ででも、わわたしの所為でみんなが……」

「誰もミミ姉を恨んでないから アンビもお爺様も同じ」

「アアアンビちゃん……」


 なんか感動路線に進もうとしているところ悪いんだけど。


「助からないよ。お前は絶対に助からない。どこに逃げても隠れても、俺が殺すといった時点で、お前の死は絶対だ」

「……交渉がしたい。アンビができることなら何でもする」


 何でもすると聞き父さんが反応したが気にしない。


「いいよ。ただ交渉のテーブルに着くのにも料金がかかる。当然チップはそいつの命」


 事実上の拒否。

 アンビちゃんも見実も逃れようのない死の袋小路にどうあらがえばいいか画策しているが、それはもう無駄な足掻き。


 麻薬は退けたが、俺達にとって何の苦にもならない。野球で例えたらうま○棒をバットにした状態で1ストライクを取られたようなもの。

 遊びの中のお遊び。


 進展はもうない。


 そう思われた時だった。


 発砲音と同時に、支倉見実が血を流して倒れる。

 一瞬で物言わぬ肉細工に早変わり。


「すまんの見実。儂の不甲斐なさを呪え」


 いつの間にか扉は開かれ、その奥に一人の老人が車いすの上に座っていた。




 俺達は支倉罪人を知っている。

 小学校中学校高校、すべての教科書でこの男の名前が出た。


 宇宙人が攻めた結果ほぼ死んだ星になった地球を再生した、21世紀最大の英雄。


 しかし目の前にいる男は教科書で学んだ知っている姿とは一致しない。


 髪は全て抜け落ち、瞳孔も色あせ、顔はしわくちゃ。

 なぜ生きているかわからない死にぞこないの老人。


 もしもこいつの写真だけを見せられたのなら、あの支倉罪人だと言われてもそんなわけないと答えていた。


 だが、だがしかしこうして対面すると印象は真逆になる。


 この男にはオーラがある。凄みがある。


 地獄の最前線を生き抜いた、常人とは一線を画いた何かがあった。


 生で見るのは初めてだが、確信をもって言える。


 影武者でもない。間違いなく本物。


 生きていた伝説。死に損なった伝説。

 そんな男を前にして、一瞬であれど言葉を失ってしまった。


 しかしこのままではいけない。

 俺はこの男を殺しにここまでやってきた。



 怯むな。見下せ。そしてなにより嘲笑え。



「なんだ。血も涙もない男だと思っていたが、涙は流すんだ」


 嘘じゃない。なんとこの男、泣いていたのだ。


 こいつ自身は今まで何もアクションを起こさなかったため子供達は捨て駒なんじゃないかと思っていたが何だかんだで家族愛はあるらしい。


「泣いてくれてよかった。もしあんたが傷ついていなければ、あんたの子孫の死は無駄になるところだった」


 意味のある死でよかったな、デブ中華アフロ。あと眼鏡。


「なあいつき、なんで自分で自分の孫を殺したんだ」

「簡単な話だろ。俺が殺せば苦しんで死ぬ。そうなると思って代わりに殺したんだろ。実に合理的だ」

「……………」


 ノーコメントを貫くのな。


 もうちょい煽るか。


「何か言ったらどう? 自分の命令通り、さながら特攻部隊のように命を投げ捨てる子供達を見て、洗脳が成功して嬉しいとか、結局倒せなかったという落胆とかなんかないの?」

「嘉神一樹、貴様は――――貴様に人の心はないのか」


 それが、この老人の第一声であった。

 見た目通りの老いた家屋に吹きあれる木枯らしの様なしゃがれた声。


「あるよ。あるからここにいるんじゃないか」


 仲間を傷つけた恨み、そして報復。


 こんなの人間しかやらない。


「さてと、これで支倉見実は死んだ。あとは、どうしても殺さないといけないのはあんただけだ」

「…………」

「自分の為に死んでいった子供達に報いるために、今度は自分が子供達の為に報いを受けるべきだと思う。そうすれば、二人は生かしておいてやる」


 生かしておくといったが、本人の生存能力が低ければ死んじゃうかもしれないがな。


「ちょっと待つネ そんなの----」

「はい、すぐ決めないから一人死にました。先生悲しいです」


 支倉クーフィスをこの世から消し去る。

 こいつを放っておいたらまた神薙さんが出てくる可能性があるため、余計な憂いは排除しないといけない。


「……ひどい。ほんと、悪魔」

「別にアンビちゃんから何を思われようが俺には関係ない」


 これから死ぬ奴の気持ちを何でおれが組まないといけない。


「――――話をしよう」


 またかよ。

 この一族交渉好きだな。


 しかしそのテーブルに着く気はない。


「時間稼ぎばれてないと思ったか。なんかチャージが必要なギフトでも----」

「無い」

「ん?」


 完全に予想の外のことを言い放った。


「儂はギフトホルダーではない」



「ギフトホルダーじゃない? いや、そりゃ無いだろ」


 これを言ったのは俺じゃなくシュウ。


 だが俺も同じ感想だ。


 支倉罪人はギフトホルダーじゃない? そんなわけあるか。


「本当だ。こいつ本当のことを言っている」


 父さんはそう告げた。

 おそらく真偽判定のギフトを使ったのだろうが信じられない。


「いやいや、待て。 それはおかしい。なんで200年も生きてるんだ」

「不老不死紛いの薬を昔服用した」


 そんなのあるのかといいたいが、ここ支倉だからな。

 さっきテレポート技術を見せられたから、不老不死があっても不思議じゃない。


「だが――――俺が電話越しに使った獄落常奴アンダーランドの打ち消しはなんだ」

「これのおかげだ」


 口の中から長い何かを取り出す。


「テンガシリーズ最上大業物 天我」


 口から出されたものゆえ、ばっちいと思っていたがその刀身を見れば考えを改めなくてはならない。


 刃渡り50㎝ほどの日本刀は完全に完成されていた。

 そして完成されているが故、何をしても傷も汚れもつかない。


 最初に支倉罪人を見た時と、いやそれ以上に圧倒される。


「斬りたいものだけを斬れる。形があるものなら何でも斬ることができる。だが――この天我の真の能力はそこじゃない。特筆すべきは神秘の否定」

「神秘の否定?」

「この刀の近くではギフトなど使えず効果も打ち消される」


 なるほど。その説明なら納得がいく。

 腹の中に入れていたら全身能力完全拒否マンになるってわけだ。


 そしてなぜそれを明かしたか、隠していたら有利になるのではないか。

 理由は明らか。


「1対3では厳しい。もちろん抵抗はするが出来ることなら不戦のままでお互いの矛を鎮めようではないか」


 は、お互い思っても見ないことをいうねえ。


「お爺様。2対3です」

「ふっ、完全に超悦者スタイリストになれないくせによくいうものだ」

「……」


 確かアンビちゃん、防御は完璧にできて移動はちょびっとだっけ。


「気持ち悪い」


 ただ思ったことを口にする。


「ああもういいや。さっさとあの世に送ってやる。感謝しろ」


 能力で死なないのなら体術で殺すのみ。

 防御をしようが3人がかりでボコれば、すぐに肉片になるだろう。


「――――知りたくはないか」


 3人がかりで爺狩りを開始しだ。

 老害死すべし。慈悲は無い。



「“神薙信一”をこの星から追い出す方法があると言ったら----それを知りたくないか」



ちなみにですが、能力者じゃない人間のフルネームはローマ字表記でaを3回使います

仲野孝太 NAKANOKOUTA

八重崎咲 YAEZAKISAKI

林田稟 HAYASHIDARIN

つまりA3です

ぶっちゃけ狩生武の武をたかしを読み間違えて最初はギフトホルダーではないということになっていました。

てへぺろ


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