羽衣会 2
これから3時間ほど車で移動する。
新幹線や飛行機を使う方が安いし速いが、公共機関をやーさんが使うわけには行かないので車で向かうわけだ。
その中で出発する車は3台。
ワゴン車が二台と、長車が一台。
俺達が乗るのは長い方の車だ。
その車は一応防弾加工がされてある(ダイナマイトは流石に対象外だ)
サイドガラスは外から中に見えないよう加工して、いかにもそう言う車だというのが目に見える。
ワゴン車は衝突されないよう一種の弾除けだ。
それぞれの車には無線機を積んでおり、互いに連絡を取り合える。
そしてワゴン車には3人。長い車には2人の運転手。
3時間続けての運転は辛いだろうし、問題ない。
本当は草場も運転手のはずだったが、先のことがあったので俺の複製が見張っている。
正直無駄なんだけどな。
俺一人で十分だというのに。
「…………」
「おーい、一樹?」
「…………」
「聞いているのか~?」
「あ、早苗か。ごめん聞いて無かった。何?」
車の中で揺られながらそんなことを考えていたら、早苗が俺を呼んでいたようだ。
「菓子は食うかと聞いていたんだが…………」
「貰おうか。何があるの?」
出された菓子の中からコンソメ味のポテチをとり、袋を開けた。
「一樹。怒っているか?」
「何の事だ?」
「先の件だ」
「別に怒ってないよ。ただ呆れてただけだ」
口に出したらわかった。
俺は呆れてものが言えない状況だったんだ。
「前から言おうと思っていたが早苗は他人に甘すぎる」
「そうなのか? 私としては一樹が他人に厳しすぎるとおもうが」
「そんなことない。これが正しい」
何を言っているんだろうこのあんぽんたんは。
「早苗、質問していいか」
「別にいいが……あんまり変な質問は答えないぞ」
「クエスチョン1 今全ての国は死刑制度があります。なぜだと思いますか」
「牢獄を作れないからだと習った」
一昨日宿題でこの質問と同じ内容の問題が出ていた。
「その通り。ちゃんと覚えていて意外だ」
先月まで監獄の中にいたが、明らかに予算をかけすぎている。
しかも普通に脱獄できてしまうという悲しい世界だった。
「では宇宙人が攻めてくる200年前はどうだったか知ってるか?」
「知らないがどうだったんだ」
これは必修ではないので知らなくても無理ないか。
「大体3分の2の国で廃止されていたんだ」
「やはりみんな殺すのは良くないと考えていたのだ」
そうだな。きっと当時はそういう考えの方が多かったんだろう。
「その中で所謂先進国と言われた国のほとんどが死刑は廃止されていた。存在したのは3カ国。中国米国そして日本。しかし中国は民主主義の国ではない。米国は州によっては廃止されていたから本当の意味で死刑が存在していたのは日本だけだった」
「そんなに多くの国が否定しているのなら、それはある方が間違いではないのか?」
「多さねえ。中国とインドが存知な点で数の理論なんてあってないものだと思うけど、そこはこの際おいておこう。でも結局この日本という国で死刑が撤廃されることは無かった」
「なぜだ?」
「世論で死刑賛成者が何パーセントだったと思う?」
「分からんが聞くからには多いのだろう。60から70くらいか?」
「外れ。80は越えていたらしい」
早苗の顔は驚愕に変貌する。
「分かったと思うが国民が反対したんだ。この国の民意は死刑を賛成している」
「な……なぜなのだ?」
「それは正直分からん。だが俺なりの意見を言うことならできる。早苗、お前は人殺しを別の言い方で何と呼ぶか?」
早苗は考え一つの答えをだす。
「殺人鬼か?」
やっぱお前聞き手として優秀だ。
俺が言ってほしい答えを100点満点で答えてくれた。
「そう、殺人鬼っていうんだ。殺人鬼。じゃあさ、人殺しを英語で何というか知ってるか?」
二種類あるんだけど俺が欲しいのは…………
「killerか?」
「その通り」
ぺねぺね。
グレートです。
「killにerをつけてkiller 殺すに人と書く。教えたと思うが英語のerは人という意味がある。Teachにerでteacher playにerでplayer 教える人する人、そしてkillにerで殺す人。つまりは向こうで人殺しは人なんだ」
だがこっちは違う。
「殺人者という言葉はある。でも殺人鬼と殺人者どちらをよく聞くかと聞かれたら当然前者だろ?」
「……」
「この国で人殺しは人と認識されないんだよ」
鬼なんだ。
人を殺すという境界線を越えてしまったら、人は人じゃなくなる。
「そ、そんなことないぞ! 償って更生されてほしいと思ている人は存在するはずだ!」
世界がみんな早苗みたいだったらいいのに。
そうしたらきっとこの世に戦争も強いては法も無くなるだろう。
それはきっとなんて美しい世界なんだ。
「そうだろうな。そう思っている人いるだろう。極少数……は言い過ぎか。精々3~4分の1くらいはいるんだろうな」
「そんな----」
「残りの人間はそんなこと思っちゃいない。言ったことはあるだろうが、思ったことなんて一度もありゃしない。犯罪者が償ってほしいんじゃなくて犯罪者が居なくなってほしいんだ」
「それはそうだろうが……」
「早苗が思っているのと意味が違う。俺も含めてそいつらが思っている償いって黒色を別の色で塗りつぶそうとする意味、決して白が欲しいんじゃない。黒を見たくないだけなんだ」
償いなんて目的じゃなく手段でしかない。
黒を白に染めたいんじゃなくて黒色を見たくないからそうしているだけ。
「居なくなってほしいんだよ。それしか考えてない」
だからこの国は世界的に見ても犯罪が少ない。
「そんなこと思っているのは一樹ぐらいと思うが」
「言うのは俺くらいだろう。でも潜在的に感じているのは五万といるはず。異端なのは早苗の方だ」
「それでも私は、そう簡単に人の命を殺めていいものじゃないと思っている。なぜなら――――おっと?」
がたんと車が揺れる。
「どうした?」
「ちょっと運転代わってもらっていいっすか。なんか異様に疲れまして」
「いいと思うよ。丁度サービスエリアがあるからそこで休むか代わるかしたら」
この揺れは運転手の不注意によるものだった。
「しっかりしろよ」
「すいません姐さん」
全く運転手が乗客に気を使われどうするんだ。
「折角だし、休憩しません?」
「そうだね。ただ時間が差し迫っているから10分だけだ」
………………
というわけで10分間休憩をとる。
運転手は変わり再び高速に乗る。
「そういやなんの話してたんだっけ?」
「忘れた」
俺も忘れた。
「そういや、今さらなんですけど麻生組と綿貫組の特徴を聞いてもいいですか?」
「特徴って言ってもね……どうのを聞きたいんだい?」
「例えば薬の密売とか……違法銃の闇市とか」
「正直君が思う悪いヤクザをそのまま連想してくれて構わないよ」
そうなのか。
「違法に売春行為させたり、雇われて汚いことしたりそういうのでいいんですか?」
「そうだね。どちらもそういうことを生業としている。寧ろ家が特殊なだけだ」
言わなくても分かっている。
この衣川組を潰すわけにはいかない。
「うっ!」
「どうしたんだい?」
「急に吐き気がしまして」
「おいおい、大丈夫か?」
前の運転手は疲れたといって、変わった運転手は嘔吐かよ。
取りあえず『世界』のギフトである二次色の人生でビニル袋を作り手渡す。
「どうします? またサービスよりますか?」
「一樹くん。聞きたいんだが…………これは攻撃されているんじゃないのかい?」
「大丈夫です。何の問題もありません」
というか、もう集合場所に着くまで攻撃されない。
「ゆっくり行きましょゆっくり」
「とはいってもね、このままじゃ時間に間に合いそうにない…………何とかできないのかい?」
「無理です。不可能です」
嘘じゃない。
俺は羽衣会が何処であるのか衣川さんに伝えられていない。
よって回廊洞穴で移動するのは不可能。
車で数時間かかる場所をノーヒントで探すのは八目十目では困難極まる。
尤も移動している状態で使うのは危険なためどのみちここでは使えない。
「スピード上げますか?」
「修羅の国じゃないんだから速度制限は守れよ」
あそこに一時期住んでいたことあるけど(稟や素子ちゃんの頃)、本気で制限速度を守らないからな。
むしろ守っている方が危ないという魔境である。
そこの麻生組のことなんだろうけど、道路の上で釣りをしてたのを見た時、本当に同じ国かを疑ったね。
「このままだと遅れる可能性が……」
草場の件で出発が一時間ほど遅れている。
これ以上ゆっくりしすぎたらまずいというのは当然の判断だろう。
乗っているのが俺じゃなくて、待たせるのがヤクザという条件がかからなければの前置きが必要だが。
「いいじゃん別に待たせても、いちゃもんつけられたら俺が押し切るから心配するな。 草場の件でこっちもウダウダ言えばいいんだし。むしろ変に出し過ぎて察とグルって足止めされる方が面倒だろ?」
いちゃもんで止められたらこっちも何とか加勢するが、ガチのスピード違反はこっちから通報する。
「どうします姐さん」
「仕方ないね…………電話するからちょっと静かにしててね」
香苗さんが携帯を取り出し、その画面を弄る。
…………
「あれ? つながらないね」
「どうしたんですか?」
「いやね、電波が悪いのか知らないが通知にならないんだよ」
「それって不味くないですか?」
「ちょっと携帯を借りるよ」
そう言って運転手のポケットから携帯を取り出した。
「こっちもだ。早苗、貸してくれ」
早苗のも同じ。
「一樹くん――――」
「嫌です。俺の携帯にヤクザ関係の通話履歴が入るのを想像しただけで虫唾が走ります。ですから拒否します」
取り付く島もなく言ってやった。
検証の結果俺以外の携帯が通話できない状態に陥ったらしい。
どうしてもとお願いされたが、俺が雇われたのは護衛であるため拒否。
「どうします?」
「まずいね、これじゃ大幅な遅刻だ。確認したいけどこれは攻撃じゃないんだね」
「そうですね、攻撃というわけじゃないでしょ。俺のだけ使えるのを見るあたり喧嘩売るつもりじゃないようですしほっといてもいいんじゃないですか?」
攻撃……というよりイタズラした犯人、俺の携帯には何もしてこない。
これでもしも壊されたりしていたら、とっ捕まえて弁償させるつもりだが別に害があるわけじゃないのでスル―。
しかしこの犯人なかなかのキレ者だ。
俺と敵対せずかついやらしい範囲での妨害。
妨害と分かっているなら止めろよという話だが、残念ながらその手段を俺は持ち合わせていない。
雷電の球を使い電波を歪めればこの現象と全く同じことはできるが…………シュウがここにいるわけじゃないし、この件にシュウは一切関わらない。
「急がば回れと言いますし、これも天啓だと思ってのんびり行きましょ」
「本当に――――大丈夫なんだな?」
「ええ。安心してください。俺を信じていれば全ては上手くいきますから」
「――――分かった。このまま行こうか」
それはありがたい。
とっても。
「さてと――――」
これ以上はいろいろと無理があるのでギフトを使って進行を速めよう。
…………
…………
…………
やっと高速を降りいよいよ本願に向かうわけだが、
「疲れた…………早苗ちょっと横になるから端に詰めてくれ。嫌だったら膝枕で頼む」
結局地味な嫌がらせはあったが、明確な妨害は起きなかった。
何だかんだで警戒してやったので、かなり疲れてしまった。
「ここからが本番なんだけどね」
「そうでもない――――といいんですけどね。こればっかりは祈らないと」
「しかし大分遅れましたね」
結局二時間も遅れてしまった。
「なんていわれるやら」
「大丈夫ですよ。妨害した犯人、俺分かりましたから。その時証言しますから気にしなくても問題ナッシングってやつです」
「本当かい? でそれはどこのどいつだ?」
「秘密です」
ここから更に30分かけ移動するのだが……
「………………一樹くん、確認するんだけどここから先は本当に安全なのかい?」
「問題ないと思いますが、どうしたんですか?」
「そろそろ着くんだけどね、静かすぎる。いつもならもうちょっと暴力的なちょっかいをかけてくるんだけどそれが今日はあまりにも少ない」
・・・・・・
「そうなんですか。それが何か問題でも?」
「不気味なんだ。気持ち悪さすら感じる。お前達、何があってもいいように準備しておけ」
流石だ。
で、到着。
壁が敷地を囲っているため奥は全く見えない。
ただ雰囲気的に衣川家みたいなタイプの日本屋敷だというのは想像に難くない。
「おかしい。なんで門の前に誰もいないんだ」
「失礼ですがここで合ってるんですよね。俺としては場所を間違っている可能性を捨てきれないんですが」
「ここで合っている。去年も一昨年もここだ。だから…………ねえ、一樹くん。中の様子を見に行ってくれないかい?」
「お、俺がですか?」
「一番君が強いだろ?」
「そうですが、護衛はどうするんです?」
「私を守りながら君が門を開けるんだ」
無茶ぶりな気がしないでもないがそれが最前手なんだろう。
・・・・・・
「わーかーりまーした。じゃ開けますね」
そのままの状態で門を開ける。
「な!?」
「うそっだろ!?」
「なんだこれは!!」
三者三様のリアクションをするがそれも無理はない。
俺が開けた門の向こうには
死体 死体 死体
死体 死体 死体死体
死体 死体 死体
それはまさに地獄絵図。
無数の死体の山が積まれていた。
メープル様のお久し振りギフト講座の時間だぜい。
ぶっちゃけ作者が忘れてたこのコーナー。今日紹介するギフトはこれ。
八目十目
地味な能力、2章で使ったりしてたけど名前が出てきたのはもっと後だったけ? 忘れたけどそんなの。
ぶっちゃけこの能力、一番何なのかたぶん作者が分かってない。
範囲指定とかどう見えるのとかめっちゃあやふや、その場のノリで誤魔化してたけど流石にまともに決めないとということで、GPSみたいな感じで物を見ているということにしましたとのこと。
ひっでえ、と言わざるを得ないね、僕が読者だったらブチギレてるよ。
で、何で今さらこんなこと話すかだけど作者がネーミングセンスを自慢したいからわざわざこのコーナーを設けたんだ。
サイトシーク sightとseekでそれっぽいのを組み合わせただけに見えるんだけど、それをカタカナにして、サイトシーク。
ばらしてサイト シーク
サイとシーク
31と49
31+49=80
八目十目
はい、それだけ。
もとの四字熟語は夜目遠目だけど(よめとおめ)と読むのでそこは間違えないように!!
以上、失ったものの方が多そうなギフト講座でした。