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チート戦線、異常あり。  作者: いちてる
7章 前編 サマーバケーション
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衣川家 2

 早苗の勉強を見ながら宿題を1割終わらせたのが午前10時。


 今日は衣川宅で祭りの会議があるらしい。


 その前に一つ衣川さんに確認したいことがある。


「どうしんたんだい? まだ会議には少し時間があるよ」

「先に聞いておきたいことが。手伝いと言っても俺は何をすればいいんですか」


 祭までもう二週間をきっている。


 今更特に改めてやることは無いような気がする。


「そのことなんだけどね、君に新たに厄介事が来たんだけど、聞きたいかい?」

「……取りあえず聞くだけ聞きます」


 とはいえ言い方的にそこまで難しいことではなさそうだ。


「まずこれから開かれる祭の名前を知っているかい?」

「すいません。しりません」

「神陵祭っていうんだ。覚えておいて」

「神陵祭って……この町の名前じゃないですか」

「そう。年に四回開くこの祭がこの町のシンボルになっている」


 シンボルと聞いて一瞬びくりとしたが、関係ないとすぐに察し話を続けてもらう。


「そこで毎回、催し物をやることになってるんだけどね。例年より数が足りない上キャンセルが出てて困ってるんだ」

「それを俺にやれと」

「そう。どうだい?」


 うーん。

 こう言っちゃなんだが俺は万遍なくそれなりに出来るタイプで、一芸を極めるタイプじゃないんだよな。


 だからこういうの苦手といえば苦手。


「ギフトの使用は?」

「当然ありだよ。何を言っているんだい」


 そりゃそうか。


「失礼かもしれないですけど、それって数が少ないままじゃいけないんですか?」

「駄目だ。絶対にこれだけは十全にやらないといけない」

「どうしてです?」

「それはだね……神陵祭町の成り立ちが関わってくるんだけど、知りたいかい?」

「まあ。俺は一年ちょっと前にここに来たんで、ここのことは正直詳しく知らないんです」


 興味あるし、そこまで長くかかる話でもなさそうなので聞いてみることにする。





『郷土伝説 神陵祭町誕生秘話』



 むかし一柱の神がいた。

 その神は災厄の神であり、触れるだけで人に禍をもたらした。


 その神は定期的にこの地に訪れ、満足すると山に還っていった。


 とある日、気まぐれに山を下りると一人の少年と出会った。


 神と少年は恋に落ちた。


 正しくは恋に落ちたのは神だけであり、少年は怖れを恋心だと勘違いした。


 父母は大きくなった子と共に他所の国に旅立ち、親戚に預かっていると少年は身の上を語った。


 神はまた明日この木の下で待っていると約束すると、誰も襲わず山へ還った。


 翌日同じ場所で先日より数刻早く少年を待つ女神に、先日と同じ刻少年がやってきた。


 再びまた明日ここで待っていると約束し、誰も襲わず山へ還った。


 翌日も、また翌日も雨の日も風の日も、少年は神の元に向かった。


 決して触れることが出来ない関係だったが神はそれで幸せだった。


 だが少年は違った。


 なれれば怖れは失われ、恋心も同時に薄れていった。


 初めて会った日から1年後、少年は会いに行く日を2日に1度にしてほしいと頼んだ。


 寺子屋にいくという建前を携えて。


 神はしぶしぶ承諾し、山に還った。


 少年と会えない一日、やることもなく唯々少年のことを想い続けた。


 少年の心とは裏腹に、神の恋慕は日に日に強くなった。


 2年後、勉強が忙しくなったと3日に1度にしてほしいと頼み、さらに3年後5日に1度にしてほしいと少年は頼んだ。


 会いに行く日が月に一度になる時は、もう少年……男はその神と関わりたくはなかった。

 いつ行っても同じ場所に待っている神は怖れではなくただただ気味の悪いものとしてしか見れなくなった。

 皮肉なことに神はもう男のことしか考えられなくなっていた。


 自らが厄神ということすら半ば忘れかけていた。


 とある日、約束の一か月目を迎えても男はやってこなかった。


 約束を破られたことより男に何かあったのではないかと心配した神は夜中町に降りて行った。


 何かに導かれるように歩いた末、見たものは



 男と商人の娘が交わる光景だった。



 神は全てを悟った。


怒り狂った神は娘を無残な姿にし、少年を融かした。


 災厄を振りまき、この大地のほとんどは死に絶えた。


 残ったのは神が還る山だけだった。


 生き物が居なくなったこの地で、神は木の下で想起しながら佇んだ。


 空も海も死に絶えた。


 ある日神の前に男が現れた。


 男は少年の父親だった。


 全身が禍に穢されながらも、父は神を睨みつけ持っていた長刀で神の首を刎ねた。


 父は死に絶えた大地を焼き尽くす程の火力で神の亡骸を火葬した。


 しかしどれほど火をくべても、首だけが燃えずに綺麗なままで残っていた。


 その首は怨念をまき散らし、大地に新たな力を与えるための妨げになった。


 そこで父は大地を復活させると、当時唯一無事だった山に神の首を埋め、誰にも掘り起こされない様に見張る存在になった。


 残った子と母は父を寂しがらせないように年に四回、神陵でお祭りを開いた。


 その祭を活力に人々はぽつぽつとあつまり、神陵祭町として発展し現在も続いている。


 おしまい。


 めでたしめでたし。



……………

…………

………

……


「と、こんなところだ」


 正直いろいろツッコミたいところはあるが、ツッコまない精神を鍛えている最中なのであえて何も言うまい。


「つまり催し物をなくすってことは、雛祭りに人形を飾らないのと同じってことですね」

「そうなるね」


 あられも甘酒も最高級のを用意したところで人形を置かなければ雛祭りとは言えない。


「うーん。何すればいいんでしょ? 基本的に何でもできますから何かしろって言われてもピンとこないんですよね」

「こっちも何でもいいんだけどね。ワイワイ騒ぐことが目的だから盛り上がれば何でもOKっていう祭なんだよ」


 樽ごと酒を飲んだりしたよと昔を懐かしみながら呟く衣川さん。


「で、どうだい? やってくれるかい?」


 当然やるよねと確認をとる言い方。

 尤もこちらとしても異存はないが。


「分かりました。出来るだけ頑張ってみます」

「頼んだよ、期待してる」




 と、期待されたのだがさっぱりいい案が思いつかない。


 さっさと何するか決めないと練習時間が取れないし、運営側も俺をどの順番にするか決めかねない。


「早苗、お前ステージに参加するのか?」

「私は巫女として回るから、無理だ」


 マジ?


「巫女服着るの?」

「うむ。そうだが?」


 まじかー。

 超楽しみ。


「ただステージじゃなく別の形で参加するつもりだ」

「どんな?」

「秘密だ……といいたいが、私が他人に誇れるものなど一つしかあるまい」

「料理でもふるまうの?」

「そうだ」


 これも楽しみだ。


「じゃあさ、早苗。俺は何ができると思う?」

「うーむ……こういう時幸が居ればいいのだが」

「連絡つかないんだよな。全くせめて案ぐらい残していってほしかった」

「自分で考えろということだろう」


 そうなるのか。


「なんかない?」

「手品?」

「今のご時世手品師なんていないだろ」


 ギフト使ったんだろと言われたら、ぐうの音もでなくなる職業だ。


「だったらギフトで何かすればいいだろう。何かめぼしい物はないのか?」

獄落常奴アンダーランドって地獄を支配するギフトが最近手に入ったんだけど」

「却下だ。客に地獄を見せてどうするのだ」

「世界を止めるギフト」

「客が認識できなければ元も子もないだろ」


 むむむ。


 二大強力ギフトが全否定された。


「どうしよう」

「あんまり提案したくはなかったが、真百合に頼むのはどうだろうか」

「なるほど」


 頼りっきりだがこれくらいならいいだろう。


 さっそく電話する。


 ワンコールもしないうちに出た。


 真百合いつもワンコールした途端出てくれるが、出れる丁度いいタイミングが何度も続いているのだろうか。


「どうしたの?」

「今時間ある? 相談したいことがあるんだけど」

「大丈夫よ。何かしら」

「神陵祭で何かやることになったんだけど、何かいい案はないか?」

「ソロ? それとも誰かと一緒にするの?」

「ソロの予定」

「……予定ということは、誰かが一緒に参加してもいいのね」


 そうなるな。


「嘉神君。一人よりも二人よ。一緒に参加しましょう」

「え? いいの?」


 正直こういうの好きじゃなさそうなタイプだと思ってた。


「ええ。あなたとなら平気よ」

「そう。じゃあお願いします」

「では何をしましょう。ポルノショーなんてどうかしら」

「そんなこと出来るわけ無いだろ」

「冗談なのは事実だけど、確か何回かあったはずよ」


 嘘だろと思って早苗に聞いてみたら、確かにあったことはあるらしい。


 顔を赤らめながらもぞもぞとしていてとっても可愛かった。


 その後ぷりぷり怒って超可愛かった。


「このお祭り多少低俗の方が好まれるから、それこそお酒を飲んだ後のテンションみたいなノリが好ましいわ」

「俺飲めないけどな」


 では何にしよう。


「そうね、私はサーカスを提案するわ」

「サーカスか……」


 日本のお祭りにカタカナを加えるのはどうかと思ったが、神陵祭はそういうの関係なくワイワイする祭りだと思い出し、問題ないと思いなおす。


「いいんじゃないか。うん。俺もそれ以上の案が思いつかない」

「決定ね。では何をするか決めましょう」

「ジャグリング?」

「一番分かりやすいのがそれね。今の所普通のボールで何個で出来るのかしら?」

「3個を二回り程度」

「十分ね。あなたなら数日練習すれば5つくらいは簡単にできるようになるでしょう」


 出来るのか?

 無茶ぶりじゃない?


「後は……動物曲芸か?」

「えっと……どうやって用意するの?」

「俺の分身が変身する」


 やったことないけど出来るだろ。

 多分ね。


「―――純愛獣姦?」

「なんでや」


 またこのオチかよ。




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