黒白の悪魔と臙脂の閻魔と 1
絶対に残り3~5話使います。
あと2月までかかります。
誰だよ、1月中に終わるって言った馬鹿は。
結論から言おう。
俺は死んだ。
何が起こったのか分からなかった。
分かる前に死んだ。
痛いとか苦しいとか、そんなことは一切感じなかった。
これは今まで死んだ中で初の出来事である。
死後強制発動の反辿世界が、いきなり発動していたのだ。
「呼ばれてとび出てじゃじゃじゃじゃーん」
……………
「重王無宮」
楢木魔夜を遠くへ弾き飛ばす。
取りあえず距離をとる。
距離にして100メートル超。
遠距離のギフトじゃ無ければ普通は射程外の距離。
「獄落常奴」
それでもそいつはギフトを使う。
そして、今度は見えた。
魔夜ちゃんを中心として、扇状に薄気味悪い亡霊の腕が地面から生えてきた。
それも十本とか百本とか目測で測れる数じゃない。
何万何十万の手。
その手が俺に触れ………
再び反辿世界が発動される。
ああもう。わかったよ。
俺がさっき死んだ原因。
死んでも死なない体。
触れると即死の手を無限に出せる。
うん。どう考えてもラスボス。
作者出す能力間違えてる。
そんな現実逃避を俺がしていても、現実というのは待ってくれるわけじゃなく、
「呼ばれてとび出てじゃじゃじゃじゃーん」
こうなったら
「獲った獣の皮算用」
飛ぶ。
「アイキャンフライ」
これで手の魔の手から(すごい日本語だなこれ)から逃れられた。
「ずりー。魔夜飛べないんだぞ!」
「ざまーみろ!」
「むー。獄落常奴」
今度は目の前に羽の生えた鬼が現れた。
吸血鬼という悪魔じみた奴じゃなく、桃太郎に出てくるタイプの角が生え棍棒を持った鬼。
あ、1体じゃないよ。20体ね。
「少しは自重しろ!!」
「それお兄ちゃんが言っちゃいけないと思うの」
「……」
……
…………
………………
……………………
そんなことよりこいつらを何とかしなければ。
「フンっ」
金棒を振りかざし、取りあえず受け止めてみる。
「あ………」
受け止めきれず地面に一直線。
墜落はしない。する前に手に触れて死ぬから。
「呼ばれてとび出てじゃじゃじゃじゃーん」
本日3回目の死に戻り。
「回廊洞穴」
取りあえず、1分だけ逃げる。
「鬼ごっこ? 魔夜が鬼? 任せて!」
遠くでそんな声が聞こえるが気にしない。
反辿世界はとても便利なギフトだが、一度遡ったら死に戻り以外の能力は使えなくなるという欠点を持つ。
俺は今『世界』を停止することと自発的に遡ることはできない。
今俺が考えている楢木魔夜の対処法は、『まよちゃん状態で殺す』である。
それがだめならあともう一つ試したいことがある。
「あ、それ無理だから」
後ろから聞きなれた聞きたくない声がする。
「メープル!!」
説明無用の糞女神。
ただ少し俺の記憶と異なる所が。
「なんで眼帯してるの?」
左眼を包帯で覆って、痛々しい。
俺の心は清々しいが。
「君覚えてないんだっけ?」
「ああ。父さんの所為で、【全てがシロになる】の記憶全部なくなったんだ」
…………………俺今なんていった?
絶対に言ってはいけない類の台詞を言った気がする。
「上々。やっと君はこっち側に戻ってこれたね」
「…………何でここにいるんだ」
「そりゃ、僕様が居たいと思えばどこにでもいることができるのさ」
「そういうことを聞きたいんじゃないんだが…………まあいいや」
よくよく考えて見るとこいつにまともなことが通じるとは思えない。
しかしな…………
「若干キャラ変わってない?」
こいつの一人称『僕ちん』だった記憶があるのに、今こいつは自分のことを『僕様』といった。
「変わったね。それが?」
「いや………」
「そんなどうでもいい事はおいといてね、業務連絡。まよちゃんの状態で殺すって案、却下」
そんなこと言われてもな。
「つか出来ないから。まよちゃんの状態でも死なない能力は健在だしね」
「証拠は?」
「前回後書きで書いてるでしょ」
後書きなんて知らん。
「そもそも君とまよちゃんがペアになったのは、同時に二人とも『死神』こと君の母親に殺させる予定だったからだからね」
母さんに頼むが、俺が考えたもう一つの策だ。
「それも駄目。確かに能力的には出来るけど今回はちゃんと君が殺して」
「またそれか」
前回といい、こいつはどれだけ俺に人を殺させたいんだ。
「お兄~ちゃん~~!」
魔夜ちゃんが近づいてきた。
「分かってると思うけど、毎度の通り戻れる『世界』の限界を決めといたから。それより先は戻れないからね。じゃ、あんまり干渉しすぎるといろいろ問題があるからまたね」
再び逃げられる。
追っても無駄なのは分かっているので追わない。
俺は強くなったが、まだあの女神に勝てない。
何故かそう確信できた。
「あ! 見つけた!」
そして魔夜ちゃんに見つかる。
「獄落常奴」
無数の手が俺に向かって伸びてきた。
「反辿世界」
十分な時間を稼ぐことができたため、反辿世界を使えるようになる。
幸い【手】は、魔夜ちゃん同様動けなかった。
これで動かれたらどうしようもないが、その考えは杞憂で済みほっとする。
さて、これからどうやって倒すかだが…………新たに手を一つ思いついた。
その為に一つ実験をしないといけない。
止まった『世界』で俺は意図的に【手】にふれる。
死んだ。
「呼ばれてとび出てじゃじゃじゃじゃーん」
やはりな。
死んでしまうか。
でもこれである程度情報が出そろった。
魔夜ちゃんの獄落常奴、この能力のクラスは『世界』だ。
反辿世界の繰り返しが発動している時点で、『法則』や『物語』ではない。
では『時間』や『運命』かと言われれば、それは違う。
もしそうなら【手】に触れても俺は死ぬことは無いからだ。
つまりは反辿世界と同じを意味する。
そして『世界』ならば、『物語』持ちは無視することができる。
つまり俺が、本気で殺そうと思えば殺すことができる。
なんてことはない、いつも通り勝てばいい。
…………とはならないのが、実に厄介。
俺は『世界』を無視することができない。
理由ははっきりしている。
まず経験が足りない。
『世界』の能力を見たのは初めてではないが、戦ったことがあるのは狩生だけである。
しかも狩生は、その能力でただ逃げただけでありシンボル幾許と重ねられた世界で攻撃してこなかった。
だから初めて『世界』と戦うことになる。
そしてこれが一番の出来ない原因なんだが……
俺は『世界』を下として見ることができない。
『運命』の能力と最初に戦ったのはあのタラコ唇バス女であり、俺の評価で分かる通り最初からかなり下で見ていた。
だから素子ちゃんの時は、俺は平然と無視することができた。
だが『世界』は俺にとって真百合の反辿世界である。
彼女は素晴らしい人間であり、下で見る存在ではない。
それに反辿世界だってそうだ。
『世界』を下に見るということはこの能力を下で見るのと同義。
万が一『世界』を無視できたとして、反辿世界そのものを無視することになってしまう。
この能力は俺の命綱だ。
手放すことはできない。
いっそのこと真百合を見下すことができれば、事は簡単に運ぶのだが無理なものは無理とあきらめるしかない。
とはいえこれ以外方法が思いつかないのも事実。
幸い何度もやり直しがきくんだから、そのうち一回でも成功すればいい。
「回廊洞穴」
魔夜ちゃんの首を切断。
「いったあああああああ! 酷い! 仕返し!!」
首が離れた状態で無数の手が襲ってくる。
再び回廊洞穴、ただし今度は切断する為ではなく逃げるために。
「鬼ごっこ? タッチしたらお兄ちゃんも鬼さんやるんだよ!!」
魔夜ちゃんは虱潰しに能力を使う。
手に触れた草木が朽ち果てていく。
このままここに留まったら危険だと判断した俺は森の中を走り抜ける。
ただここは収容所だ。整備された道じゃない、森の中は罠があるだろう。
それでも俺は走り抜ける。
「鬼神化」
多少の傷ならこれで問題ない。
「待ってよ! お兄ちゃん速過ぎ!!」
今俺は魔夜ちゃんに構う気はない。
「回廊洞穴」
人の手がやっと入れるくらいの小さな次元の穴を創る。
そこに手を突っ込む。
切断された。
「やっぱいきなりは無理か」
俺の起てた策は、『世界』を無視するために同じクラスの能力である回廊洞穴を無視できるようになるように頑張る……だ。
この能力が直撃しても精々切断される程度、練習に持ってこいと言えよう。
「いやあああ。痛いょおおお」
魔夜ちゃんが泣き始めた。
罠にかかったか。
それは尚良いな。
経験値が稼げる。
「もう怒った! 獄落常奴」
ここからじゃあの子の姿は見えないが、能力を使用したようだ。
何をしたのかは一瞬で分かった。
彼女を中心点として、灼熱の炎が木々を燃やし尽くした。
その炎は全方位に進行を進める。
回避しても無駄だと悟り、地獄の業火で焼かれ死ぬ。
「呼ばれてとび出てじゃじゃじゃじゃーん」
もう5回目か?
そろそろループ回数に自信が持てなくなる。
「んにゅ? お兄ちゃんその手どうしたの?」
魔夜ちゃんが新しい行動にとった。
不思議に思い掌を見てみると、完全に焦げていた。
あの炎に焼かれたときについた怪我だが……治らないのか?
いや、それは違うか。治らないんだったら全身が火傷してるからな。
つまり、戻りきれなかった?
そうか。なるほど。
同じ『世界』の能力、反辿世界優遇するのはずるいってことか。
父さんはこの能力ランクが一番高いと言っていたが、それでも同じクラスでは影響はあると言っていたことを思い出す。
優先されるのは反辿世界、しかし完全に優遇されるわけじゃない。
そうと分かると、無作為に直撃するのはよろしくないか。
俺が『世界』を無視するのが先か、魔夜ちゃんが『世界』を焼き尽くすのが先か。
長い戦いになりそうだ。
魔夜ちゃんの能力
死んでも生き返る。
触れると即死の手を生やすことができる。
とても強い鬼を召喚、使役する。
全てを焼き尽くす業火を生成する。
etc.
ひっでえ。