第二十四話
きっかり三十分で葵を保護に動いた華乃。
目元を赤くした状態で戻って来た葵。
何処か不服そうな…………だが、満足そうな彰良。
「あー……立花さん、おかえり。
いろいろ……大変だったろ?
まぁ、なんだ……うん……」
なんとなく……何があったかは分かっている。
分かっているからこそ、吉村は敢えて聞かないし、触れない。
「取り敢えず、今日も残り数時間。
残業無しでみんな頑張ろうな〜。
俺は、ぶっちゃけすでに帰りたいかんな……これ以上の問題は御免被るぞぉ」
頭を掻き、欠伸をしつつ葵達だけでなく総務課全体に声を掛けるのだった。
数時間後の終業時刻。
いつものチャイムがなり、吉村以外の総務課社員達が帰宅の途に付き始める。
「葵せ〜んぱい!
今日こそは、一緒にご飯行きましょうっ!」
「却下だ」
「誰も犬飼さんは誘ってませんし、いりません!」
笑顔で葵の腕に抱き着く華乃。
嫌そうに顔を顰める彰良。
「華乃ちゃんとごはん……」
女子会みたいで楽しそう……と目をキラキラさせる葵。
「さっ! 行きましょう!」
「えっ、え……華乃ちゃっ……走ると危ないよ……!」
葵の手を引いて、悪戯な笑みを浮かべて走り出した華乃。
「っ……待て……!」
葵が持ち損ねたバックを回収し、出遅れた形で速足で追い掛ける彰良。
「か、華乃ちゃん……!
廊下を走ったら駄目よ!」
「はーい!
あっ!乗りまーす!」
エレベーターに滑り込む。
「っ……あんのっ性悪女っ……!」
彰良の数歩前でエレベーターの扉が閉まった。
彰良の額に青筋が浮かぶ。
次のエレベーターを待つことなく、階段へと足を向けた。
「葵先輩!
何が食べたいですか?」
「華乃ちゃん、彰良くんが……」
「大丈夫ですよ。
どうせ、全力で階段を駆け下りて来て、すぐに追い付くでしょうから」
不機嫌そうに鼻を鳴らす華乃に、葵は笑ってしまう。
エレベーターを降り、エントランス降り立つ。
そのまま、玄関ドアをくぐれば……
「華乃、葵」
会社の近くにある街路樹の下。
短く切り揃えられた短髪。
鍛えられた体。
鋭い眼光。
整った硬派な顔立ち。
「桐兄?」
「桐也っ?!」
葵と華乃の声が重なる。
「「え……?」」
お互いに顔を見合わせる。
「葵、僕もいるよ」
「紫苑お兄ちゃん……?」
桐也の後ろからひょっこりと顔を出した甘い顔立ち。
「えっ……え、えっ……なに、意味わかんない……!」
目を白黒させる華乃。
「葵先輩!
この二人、てゆーか桐也と知り合いなんですかっ?!」
「え、うん……桐兄は、私の三番目の兄よ」
「……嘘でしょ……」
華乃は頭を抱えてしまう。
数年単位でセフレの関係だった桐也が…………まさかの葵の兄。
「葵先輩……!」
まさかの事実に打ちのめされる華乃の背後。
葵を追って、全力で階段を駆け下りた彰良が追い付く。
「彰良くん」
振り返った葵。
「(っ……この人は……!)」
葵の先に見えた人影。
二人の内の一人。
甘い顔立ちの男は……
「やあ、一昨日ぶりっていうのも変かな?
初めまして、葵がいつもお世話になってます。
二番目の兄で、立花 紫苑だよ。
……ケーキは美味しかったかい、噂の彼氏くん?」
世の中の女性達が色めき立ちそうな甘い顔。
優しげな笑み……だが、その目は笑っていない。
「……葵の三番目の兄、立花 桐也だ。」
睨むように彰良を捉える視線。
鋭い相貌。
その佇まいは、抜き身の日本刀を思い起こさせる。
「……初めまして。
ご挨拶が遅くなりましたが、自分は犬飼 彰良と申します。」
深々と一礼する。
「葵先輩……いえ、葵さんとは先月よりお付き合いをさせて頂いております。」
紫苑と桐也。
二人の兄達からの彰良を見定めようとする視線。
真っ向から受け止め、視線を逸らすことなく返す。
「彰良くん……」
彰良の自己紹介に恥ずかしそうな……嬉しそうな葵。
「……ふぅん……」
「…………」
少しだけ和らぐ彰良への視線。
「あの……紫苑お兄ちゃん、桐兄……」
「うん?
なんだい、葵?」
「どうして、お兄ちゃん達がいるの?
私、何も連絡は貰ってなかったと思うんだけど……?」
不思議そうな葵。
「うん、連絡していないよ。
今日はね、義妹になる子と義弟になるかもしれない可能性のある彼氏くんに会いたくて来たからね。」
紫苑の茶目っ気のある言い方。
義妹になる華乃と義弟になるかもしれない可能性のある彼氏くん。
……似て異なる表現。
「…………」
そのニュアンスに気が付くが……彰良は、無言を貫く。
「お、お兄ちゃん……その、気が早いというか……彰良くんとは……うん……結婚、出来たら……嬉しいけど……」
紫苑の言葉を素直に受け取り、葵は恥ずかしそうに微笑む。
「っ……葵、先輩……!」
葵の反応に彰良は目を見開く。
……まさか……葵が、兄達を前にはっきりと彰良との未来を考えていると言葉にしてくれるとは……!
「葵先輩……ありがとうございます」
「え……私、何かお礼を言われるようなことを言ったかな……?」
嬉しそうに、はにかむ彰良の感謝の言葉。
葵は、首を傾げてしまう。
「おやおや……」
素直な葵の反応に、紫苑は苦笑いを浮かべる。
「あれ……でも、義妹って……え?」
「…………」
葵と彰良は顔を見合わせる。
「……華乃」
「……は?
え、いや……え?」
「…………行くぞ」
「はっ?! 桐也っ?!
ちょっ……意味不明だって……桐也っ?!」
華乃の手を掴み、桐也が歩き出す。
「おやまぁ……桐也らしいね。」
クスクスと笑う紫苑。
「さて、犬飼くん?
葵も一緒にご飯に行かないかい?」
「……是非」
疑問形なのに有無を言わせぬ力のこもったお誘い。
「彰良くん……」
「……大丈夫ですよ、葵先輩」
何処か案じるような葵の視線。
葵を安心させるように、彰良は微笑むのだった。




