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その恋、賭けですよね? ~愛しているので、もう逃がしません~  作者: ぶるどっく


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第二十二話



 美しく真っ直ぐに伸びた背筋。


 怒りも侮蔑もなく、感情を込めることなく淡々と告げられた言葉。


「…………コンプライアンス違反に関しては理解したわ。

 でも、それを貴女に指摘される謂れは無いわ。」


 余裕のある笑みを消し去り、紗夜は無表情で葵を見詰める。


「私も、本社から出向された孔雀主任へ説明することになるとは思いませんでした。」


 紗夜の顔を見返し、葵も美しい微笑みを深くする。


「(……課長! あの二人を止めてくださいよ!)」


「(……無理だろ、佐山くん。

 だって、俺まだ死にたくねぇもん。

 愛する嫁さんと可愛い子供達を残して逝きたくねえもん。)」


「(五十間近のおっさんが"もん"とか言っても気待ち悪いだけっすよ。)」


「(オッサンだって、もんって言いたい時もあるんだよ。

 ……そういや、お前さんは立花さんの同期の桜だったろ?

 同期の好で止めてきてくれないか?)」


「(嫌っす。

 俺、恋人になったばっかりの有馬さんを残して逝きたくないっす。)」


 ブリザードが吹き荒れる総務課。


 女性二人による対立を収めようにも、巻き込まれたくない総務課一同。


 生贄……もとい、スケープゴート役を探して、目線だけで会話する。


「失礼します。」


 張り詰めた空気が漂う総務課へ、一筋の希望の光が差す。


「孔雀主任」


 肩に届かない真っ直ぐな髪。


 銀縁眼鏡を光らせながら、総務課に現れたのは有馬だった。


「……有馬主任?

 何かしら、私は礼儀のなっていない社員に指導を……」


「立花さんの指導の前に、貴女の指導の方が先なのでは?」


「藪から棒に何を……」


「営業部部長と副部長が呼んでいます」


「っ?!」


 行きますよ、と半ば背中を押すように紗夜を変更するのだった。


「…………ふぅ……」


 総務課に静けさが戻る。


 葵が息を吐く。


「…………あ、の……葵先輩……?」


 恐る恐る。


 彰良が葵に声を掛けた。


「……お騒がせして、すみません。

 見苦しい姿を見せてしまって……本当に恥ずかしいです……!」


 すみません、と葵は体を縮こませる。


「(……良かった……いつもの立花さんだ……)」


「(普段は、大人しい人を怒らせると怖いって本当なのね……)」


「(……冷ややかな立花さん……素敵だ……)」


「(……なんか……マジで叱られたい……)」


 普段通りの葵に、総務課一同はホッとする。


「……葵先輩」


「すみません、犬飼くん。

 孔雀主任との会話に割り込んでしまって……」


「いえ……その、割り込んで頂いて助かりました。

 葵先輩、ありがとうございました。」


 普段の葵からは想像も出来ないほどに、堂々とした立ち振る舞い。


 彰良のために怒りを顕にした美しい(かんばせ)


 孔雀 紗夜と真正面から対峙する葵を特等席で見ることになった彰良。


「……犬飼くんを困らせていないならば、安心しました。」


「っ……!」


 力が抜けた柔らかな微笑み。


 安堵を示す瞳。


 羞恥からか微かに頬を染めた赤。


 恥ずかしそうに髪を耳にかける仕草(くせ)


「っ…………すみません!

 備品チェックに行って来ます!」


 ――――耐えられない……!


「へ……えっ、なに……待っ……犬飼くん……?!」


 葵の手を掴む。


 葵の戸惑い、驚いた声。


 半ば連れ去るように歩を進めた。


「…………吉村課長。」


「あー……なんだい、兼子さん」


「……良いんですか、アレ。

 コンプライアンス違反に抵触しませんか?」


 葵を強引に連れ去った彰良の背中。


 嫌が奥にも察してしまった彰良の胸中と展開に、華乃は心底嫌そうな表情を浮かべた。


「………………流石に……職場だから……うん。

 武士の情けで三十分はトイレに行ったと思って大目に見てやろう。」


「……じゃあ、三十分後に強制終了と葵先輩の保護に行きますね。」


「……うむ」


 取り残された総務課一同は、葵に訪れるであろう展開に生温い笑みを浮かべるのだった。


 


 普段と変わりない会社の地下。


「葵先輩……!」


 備品室に入り、扉を閉めたと同時に抱き締められる。


「いっ、犬飼くっ……んぅ……!」


「っ……」


 突然の行動に驚き、成すがままになっていた葵が抗議の声を上げようとした瞬間。


「……ん……ぁ……」


 葵の唇を彰良が塞いだ。


 人気の無い静かな備品室。


 微かな吐息と湿った水音が響く。


 分厚い彰良の胸元を、両手で叩く。


「……はっ……葵、せんぱい……」


「まっ……んぅ……!」


 重なっていた唇を一度離す。


 葵が言いかけた言葉も飲み込むように、再び唇を重ねる。


「……っ……ふ……ぅ……」


 吐息が交わる。


 初めての長く、深い口付け。


 葵から力が抜けていく。


 彰良の胸板を叩いていた手は、縋るように背広を掴む。

 

「…………葵先輩……かわい……」


 名残惜しいが、唇を離す。


 首筋まで赤く染まり、熱に浮かされた葵の顔。


「っ……は……ゃ……」


 誘っているとしか思えない。


 潤んだ瞳から溢れた涙。


 目尻に口付ける。


「……ぁ、きら……く、ん……ひゃんっ」


 耳を甘噛する。


 可愛らしい反応に彰良の心が満たされる。


「……も、やぁ…………ぉ、ねがい……ゆるし……て……」


 赤く染まった目元。


 彰良を直視できず、伏せられた瞳。


 微かに揺れる睫毛。


 初めての刺激に混乱する初心で、可愛らしい恋人。


「……」


 喉が鳴る。


 鼓動が早まる。


 熱が上がる。


「葵先輩……俺とキスするのイヤ……?」


 声が掠れて低くなる。


 熱が籠る。


 自分が……男の顔をしていることを悟る。


「……っ……ぃ、やじゃない……けど、はずかし……」


 羞恥に震えて顔を伏せる葵。


 全てが扇情的で……我慢できない。


「葵先輩……」


「ぁ……ん……っ……」


 もう一度、口付ける。


 彰良は心ゆくまで葵の唇を堪能するのだった。


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