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その恋、賭けですよね? ~愛しているので、もう逃がしません~  作者: ぶるどっく


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第十五話



 緑が美しい公園の側。


 レンガ造りが美しい一軒のパティスリー。


「紫苑お兄ちゃん……急にお願いごとをしてごめんなさい。」


「おやおや、可愛い妹である葵の珍しいお願いを、僕が断るはず無いよ」


 フワリと微笑む男、紫苑。


 此処はパティスリー・Violet(ヴァイオレット)


 パティスリーのオーナーであり、葵の兄でもある。


「……ありがとう。

 スポンジケーキまで焼いてもらって、ごめんなさい……」


「可愛い妹のためだからね。

 それに、スポンジケーキは朝一番に焼いておかないと冷めるのに時間がかかるから」


「うん……そこまで考えてなかったの」


 俯き自信がなさそうな葵に、紫苑の顔が曇る。


「……葵、噂の彼氏くんと何か有ったのかい?

 君の性格上、喧嘩するとはあまり思えないんだけど……」


「……喧嘩なんてしてないの。

 ただ……会社で他の人達が、社会人にもなって手作りは……その……嬉しくないって……話してるのを、聞いちゃって……」


「彼氏くんがそう言ったのかい?

 もしそうなら、僕が顔面に激辛クリームパイを叩き付けてあげるよ。」


「お兄ちゃん……彰良くんは、そんなことを言う人じゃないよ。」


 苦笑する葵に、紫苑が微笑む。


「だったら、怖がる必要はないよ。

 他の誰が何を言ったとしても、葵の好きな人の言葉じゃないからね。

 だから、葵は葵の好きになった人を信じれば良いんだよ。」


「……うん…………うん!

 彰良くんなら……喜んでくれると思う……!」


 葵が作った普通の料理でも、ご馳走のように喜んでくれる彰良。


 一心不乱に食べて、空っぽになった食器を指摘されて照れる姿。


「あと……他にも何か、不安なことでも有るのかな?」


「どうして……わかるの?」


「……葵のお兄ちゃんだからね。」


 にっこりと優しい微笑みを浮かべる紫苑に、葵の固くなっていた心が解されていく。


「……会社でね、本社の方が来たんだけど……すごく綺麗で、自信もあって……胸も、おっきくて……」


「おやおや……」


「彰良くんに、たくさん話しかけて……触ったりとか……やだなって……。

 その人がね……イイ男は、イイ女を好きになるって……」


 萎んでいく心。


 クリームを塗る手が震える。


「……ねえ、葵?

 イイ女って、どんな女性だろうね?」


「え……えっと……仕事ができて、綺麗で……自信があって……」


「じゃあ、葵は僕のことをイイ男って思う?」


「よく分からないけど、イイ男だと思う……よ?」


「ありがとう」


 紫苑は微笑みを浮かべ、葵の頭を撫でる。


「じゃあ、イイ男の僕は、イイ女とやらのその人を選ぶかな?」


「選ばないと思う。

 だって、ゆかりさんの方が素敵だもの。」


 正解だよ、と紫苑はくすくす笑う。


「イイ男とか、イイ女の条件は、人によって違うよ。

 例えば、ゆかりは感情を表に出すことが苦手で、無愛想に思われることを気にしてる。

 でも、僕から見たらとても感情表現が豊かで可愛らしい女性だ。

 どんなに美しく、どんなに女性としての魅力とやらが溢れている自称イイ女が横にいても目移りしない。」


 柔らかで、愛しさに溢れた笑顔。


「…………」


「彼氏くんは、違うかな?

 自称イイ女とやらに、目移りしているなら……僕が激辛唐辛子団子をお口に捻り込みに行くけど?」


「っ……もう、お兄ちゃんったら……。」


 少しだけ吹き出してしまう。


「彰良くんは、ずっと嫌がってる。

 すごく冷たい対応をしてるから……大丈夫だと思うの。」


「そっか……素敵な人を好きになったね」


 表情の和らいだ妹に、紫苑はほっと安心する。


「……!

 葵、お客さんみたいだから、ちょっと行ってくるね」


「あ、うん。

 私のことは気にしないで」


 店の来客を知らせるベルが鳴る。


 厨房から、可愛らしいケーキの並ぶショーケースがある店頭へと向かう。


「いらっしゃいませ。」


 幼い女の子を連れた親子。


 ショーケースに目を輝かせている。


「(…………ん?)」


 店内の親子を見守りつつ、視界の端に映った黒い人影。


「(…………)」


 店内を伺うように……いや、紫苑を見た大柄な男。


「……ありがとうございました。

 またのご来店をお待ちしております。」


 ケーキの箱に無邪気にはしゃぐ女の子。


 幸せそうな親子を見送った紫苑。


「(……あのお客さんの知り合いではない、か……まさか……?)」


「お兄ちゃん」


 厨房から、タイミングをうかがっていた葵が顔を出す。


 入り口近くの大きな窓ガラスの向こうにいた男が姿を隠す。


「お兄ちゃん、こんな感じでどうかな?」


「…………とても綺麗にできたね。」


 生クリームでデコレーションされたケーキ。


 誕生日のプレートが可愛らしい。


「葵、折角だからハートの苺をあげるよ。

 生クリームだけだと、真っ白で寂しいしね。」


「おっお兄ちゃん?!

 そ、それは売り物用……」


「今日のケーキを作った時の余りだから気にしないでいいよ」


 ありがとう、と目を輝かせる葵をジッと見詰める。


「……ねえ、葵。

 ちょっと確認だけど、君の彼氏くんって……菖兄さんみたいな体型だったりする?」


「えっ?!

 紫苑お兄ちゃん、何でわかるの?!」


「……んー……兄の感ってヤツかな。」


 クスリと微笑む。


「葵、これを待っていきなさい。」


「……?」


「もしも、怖かったり、何か嫌なことをされそうになった時は、ボタンを押すか、紐を引っ張るんだよ。」


「うん……?

 よくわかんないけど、わかった。」


 コテンと首を傾げる可愛い妹。


 妹を待ち受ける嫉妬の嵐を予測して、心配な兄心だった。


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