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その恋、賭けですよね? ~天然で無防備な彼女を、執着系彼氏が全力で囲い込もうとしたら周囲も癖が強すぎました~  作者: ぶるどっく


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第百四話



 風もないのに揺れる烏の濡れ羽色の髪。


 髪の合間から見えるシルバーのイヤーラツプ。


「うふふ……花ちゃん、久しぶり……」


 古びた門の向こうから黒いレースをふんだんに使った着物を纏った美しい女が一人。


「鬼さん、今年もお世話になります。」


「ええ……花ちゃんなら、大歓迎よ……」


「ありがとう!」


 葵と鬼さん、二人が微笑み合う。


「鬼さんはもう知っていると思うけど、紹介させて欲しいの……」


 照れたように微笑み、鬼さんへ向けていた視線を彰良へと向ける。


「あのね、彼が……私が結婚を前提にお付き合いをしている犬飼 彰良くんです」


「…………初めまして、犬飼 彰良と申します……」


「……初めまして?

 ふふ……鬼灯 星乃よ。」


 硬い表情の彰良に対して、怪しげな笑みを浮かべる鬼さん改めて星乃。


「花ちゃん……龍ちゃんはもう来ているわ。」


「そうなの?!

 病院のお礼を伝えたかったの!」


 ニコニコと微笑む葵に、星乃も穏やかな笑みを返す。


「…………そうだわ、花ちゃん」


「ん?」


 屋敷に踏み入る前に。


 一つだけ伝えなきゃ……。


「龍ちゃんの本名を知ってる?」


「……知ってるよ?

 龍崎 理子ちゃんだよ……」


 不思議そうに首を傾げる葵に、星乃は笑みを深くする。


「ふふ、ふふふふ………花ちゃん」


「……?」


「花ちゃんの(つがい)さんの呼び名は、犬さんと番さん……どっちがいい?」


 グルグルと吸い込まれそうな黒い瞳。


「……普通に苗字で呼ぶのは……」


「本名を知られてもいいの?」


「っ……それが、何か問題でも……」


 グルンっと向けられた瞳に、彰良は根性で跳ねそうになった肩を押さえ込んだ。


「屋敷の中で……本名を言わない方が良いの……」


「意味が……」


「命を握られるようなものよ?」


「………………」


「……冗談よ……?」


「……………………」


 何だ、この敗北感は……!


「番さんはちょっとだけ恥ずかしいかな……逆に、犬さんって可愛いと思うの」


「ふふ……じゃあ、犬さんで……龍ちゃんにも伝えておくわ……」


「……結局、犬さん……」


「彰良くんは可愛いからピッタリね」


「………………ありがとうございます」


 喜ぶべきなのか?


 葵が嬉しそうに微笑んでいるから……呼び名程度は構わないが……。


「(…………本当に、今夜一晩……無事に過ごせるのだろうか……)」


 門をくぐり抜け、玄関へと案内される。


 庭を見れば、苔生した岩に、枯れた草花。


「お邪魔します」


「……お邪魔します」


 そんな彰良の心配を他所に、昭和を感じさせる磨りガラス入りの玄関をくぐれば……


「………………ノスタルジック、と言うのでしょうか……」


 大きな古い縦時計。


 何故か視線を感じる複数の日本人形。


 角の金箔が剥がれた屏風。


 和柄の布で作られた鞠。


「不思議よね……知らない内に増えている子もいるから……」


「っ?!」


 クスクスと笑う星乃に、彰良の方がビクリと揺れた。


「増えちゃうの?

 何だか、座敷童みたいね」


 玄関の靴箱の上に並んだ日本人形たちを見て、葵が不思議そうに首を傾げる。


「あ……でも、この子が一番……可愛いというか、強い気がする」


「ふふ……花ちゃんは相変わらずお目が高いわね。

 花ちゃんが座敷童と定義した、その子達の中では一番……強い子よ。」


「(……………一般的に、人形は勝手に増えない。

 しかも、日本人形で強い子って何だ……?)」


 不思議が過ぎる会話に彰良は遠い目をしてしまう。


「ふむ……花やん、鬼やんよ。

 人形が勝手に増えると定義するならば、それぞれの意思を持って来訪したこととなる。

 お菊人形などの和風ホラーにおいて、髪が伸びる呪いの人形などの代表作はある。

 だが、アレは経年劣化に伴い糊付けしていた髪が出て来ているらしいな。

 また、座敷童という存在に関しては、私は否定しない。

 古来より、日本人は石にすら命が宿ると考えていた人種だからな。

 そういった視点で見た時に、ただのお菊人形よりは座敷童という存在定義の方が、私の主観ではあるが可愛らしく感じる。」


「あ、龍さん」


「(………………個性が豊か過ぎるだろうっっ?!)」


 突っ込みが間に合わない。


 葵の明るい声に誘われて、視線を向ければ……


「花やん、クリスマスイブの……あの日よりも、顔色も良さそうで何よりだ。」


 丸いトンボ眼鏡。


 長い髪を一本のおさげに編み込み。


 スレンダーな体にタートルネックとジーンズ。


 龍さん改めて理子。


「早速だが……花やんの番。

 あの華やかな生き物に伝言していたように、麻酔無しで解剖させてもらおうか。」


「……大変申し訳ありませんが、お断りさせて頂きます……!」


 次から次へと……!


 個性豊か過ぎる星乃と理子に、彰良は既に頭痛を覚えてしまうのだった。


 

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