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#.8

どれくらい待っただろうか。

待つ時間というのは実際過ぎた時間よりも長いものだけれど、事実僕は30分近くドアの前に座っていた。

いつしか菜月の嗚咽も消える。

「・・・菜月?」

僕は声をかけてみた。

自分でも驚くほどの弱々しい声に、菜月からの返事はない。

「・・・入っても良いかな?」

泣き疲れて寝ているのかもしれない。

もしそうなら、ドアのところで寝てしまっているのかも・・・

風邪をひいてしまう。

「コンビニで・・・」

立ち上がり、ドアノブに手をかけたとほぼ同時に、菜月の鼻づまりの声。

耳を澄ませる。鼻をすする音と、大きく息を吐き出す音。

「吉田も大変だなって・・・お世話係みたいって言われたときに明純、あぁって答えてた・・・。」

僕は自覚できるほど目を見開いた。鼓動の音が体中に響いた。

あの時、聞こえた言葉の意味を理解せずに曖昧に返事をしてしまったことが、ここまで菜月を・・・

「・・・ごめん菜月、あの時は―――」

「今日だけじゃないよっ」

菜月の叫びに、言葉を失う。

今日だけじゃ・・・ない・・・?

「最近、明純おかしいよ・・・っ。いっつもぼーっとしてて、僕と眼が合うと逸らして・・・前みたいに泊まってくれないし、お風呂も一緒に入ってくれなくて・・・・・・・僕が・・・面倒になったの・・・?」

菜月の声が低くなる。

「僕・・・嫌われたの・・・?・・・もう一緒にいるの・・・嫌なの・・・?」

僕は思い切りドアを開けた。

菜月が慌てて振り返り、びっくりした顔で僕を見上げている。

僕は・・・・・僕は・・・・・・・

「好きなんだ。」

反動でドアが戻ってくる音が、変に大きく聞こえる。

上がった心拍数に邪魔されて、声も微かに震えている。

「・・・明純・・・?」

菜月が泣きはらした顔を、苦くゆがめる。

僕は狂ってしまいたくなるほど、悲しくなった。

傷つくのは自分だけで良いと思っていたのに、菜月を傷つけ、困惑させている。

だけど、想いは・・・言葉は止まってくれない。

「菜月のことが好きなんだ!親友としてじゃなくて、恋愛対象で、菜月を見てるんだ・・・!」

菜月は固まってしまっている。だけど僕は喋り続けた。

「・・・困るかもしれないけど僕・・・いつからか菜月を、1人の人として好きで・・・・・だけど僕男だし、菜月だって・・・そうだし・・・・・・」

目頭が熱くなる。

自分が情けなくなってきた。

「でも・・・好きなんだ・・・・・・菜月・・・・・・」

もう言葉が続かない。

菜月の視線を感じ、僕は顔を見られたくなくて、背けた。

しばらく沈黙が続く。

僕は少し落ち着いて、謝ろうと顔を菜月に向けなおすと、菜月は両手を広げていた。

「・・・手・・・」

菜月は小さく呟いた。

「・・・めいっぱい・・・・広げてください・・・・・」

少し目を伏せ、続けてそう言う。

僕はよく分からずに、そろそろと腕を両側に開いた。

そこに、菜月が飛び込んできた。

僕は驚いて見下ろす。

見慣れた小さな頭があり、菜月はぎゅっと僕に抱きついていた。

「はい・・・閉じてください・・・・・」

僕はゆっくりと腕を閉じる。

小さくて暖かな菜月を、そっと抱きしめた。

少しの間、無言になる。僕は緊張よりも絶望よりも、今はただ菜月の温もりに癒された。

「・・・これが、僕の答えだよ・・・」

顔を横に向けて、菜月はさらにぎゅっと力を入れてから静かに言った。

僕はその言葉に、忘れていたんじゃないかと思った涙を流し、止めていたらしい息を大きく吐き出して、壊さないように力強く菜月を抱きしめた。

やっと・・・僕の腕の中に。

僕の大切な菜月が、大好きな菜月が、想いと一緒に、僕の腕の中に・・・





#.Fin

「明純〜っ、林檎飴買って良い〜っ?」

「ちょっと菜月、そのカキ氷食べ終わってからにしないと・・・」

夕闇がせまる空。縁日らしい賑やかさの中で、僕は改めて菜月のすごさに苦笑いさせられる。

僕たちは祭りに来ている。

けっこう大きなお祭りで、出店もたくさんあるし花火も上がる。

「はいっ」

いつのまにか手に2本林檎飴を持っていた。

「ありがとう・・・」

僕はそれを受け取り、それから菜月の手を握りしめた。

「花火が始まるよ。」

「ホント?!じゃあ、早く行こ!」

菜月もぎゅっと握り返してきて、楽しそうな笑顔を僕に向ける。

僕たちは川原へと走り出した。

繋いだ手には、力を込める。

はぐれないように。

ずっと一緒に、いられるように・・・


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