#.6
暖かい日差し。寝不足な僕は思わずうとうとしてしまうが・・・
「あ〜ず〜み〜っ!」
やんちゃ坊主が寝かしてくれません。
「どうしたーっ?」
離れたブランコに座る菜月の元へ駆け寄る。
菜月は足をぶらぶらさせながら口を尖らせていた。
「どうした菜月?」
「アイス食べたい。」
「え、アイス?」
「それからチョコとおせんべいとアイスとチョコと―――」
「分かった分かった・・・」
昔からこうだから、ね。
「わぁい♪」
さっきまでの顔はどこへやら、ニッコニコの笑顔を僕に向けてくる。
「早く行こーっ」
「うん。」
服の裾を引っ張られ、公園を出る。
「お金はちゃんと持ってきてるの?」
「うんっ」
道を歩きながらたずねると、菜月はズボンのポケットから小銭入れを取り出し、中身を手のひらにあける。
「はいっ」
ざっと見たところ全然足りない。
「な、何円あるの?」
「えっとー・・・」
一生懸命数える菜月の真剣な顔に思わず見惚れる。
「・・・円」
こんなに小さいのに、どうしてそんなに突然綺麗な顔するのさ・・・
「250円だってば!」
ぼんやりしていると、突然大きな声がした。
僕がビックリして見ると、菜月が小銭ばかり乗った手を僕の方に差し出している。
「あ、あぁそうなの・・・。でも、足りないんじゃないかな?僕が足してあげようか?」
「あ・・・・・・」
菜月が一瞬表情を無くして固まる。僕は首をかしげた。
「ん?なに?」
「・・・ううん、なんでもないっ。足してくれるの?!」
また笑顔に戻り、そう訊いてくる。僕が「いいよ」と答えると、嬉しそうにスキップし始めた。
しばらく歩くと、やがてコンビニが見えてきた。
中に入って、菜月の後を追ってお菓子のコーナーに向かう。
「あれ?吉田?」
声がしたほうを向くと、同じクラスの男子が何人かいた。
「あれ?何、この辺?」
「うん。少し歩いたとこ。」
「あーっ、吉田君だぁ。」
また別方向から声がする。振り返ると、数人の女子がいた。
「たくさんいるんだね。今日何かあるの?」
「なんかここの隣町で祭りあるらしくてよー。」
「へぇー・・・」
そうだ。そういえばお祭りがあることをすっかり忘れていた。
「明純〜?」
お菓子のコーナーから、幾つかお菓子やアイスを抱えた菜月が出てきた。
「よっ。岩田も一緒か。」
「なんだよ岩田、大量だなー。」
「きゃ〜岩田君可愛い〜♪」
「頭撫でる〜っ」
女子が菜月の頭を撫でたりしている。
背が低いのと顔が可愛いためか、女子にはけっこう菜月を小動物みたいに扱う子達がいる。
僕はそれを見て少し・・・いや、けっこうイラっとした。
「吉田もさー、大変だな。」
「岩田のお世話係みたいになってるもんな。」
男子がそんな感じのことを話しかけてくるが、僕はイライラに邪魔されてよく聞こえず、「あぁ」とだけ答え、菜月の腕を引っ張った。
「ほらおいで。じゃあね、みんな。」
「おうっ。じゃあなー。」
「ばいばーい。」
その時僕は、菜月の表情にまったく気が付かなかった。