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ゆりいろ☆ステップ  作者: アメカワ・リーチ
ゆりいろ☆ステップ①
54/56

EX-5

 ♪


 部屋に来たユリカはパジャマ姿だった。時間的にはおかしくないが、その険しい顔には似合わない格好だ。

 普段の何も考えていないような柔らかい顔。

 氷上で見せる集中しきった真面目な顔。

 ここは氷上ではないけれど、今のユリカの顔は後者だ。

「ほら、あがって」

 私は少しだけの笑顔で彼女を部屋に招きいれた。

「うん」

 ユリカも小さな顔でうなずいて、私についてくる。そこに、いつもの百合色の笑みはなかった。

「この辺、適当に座ってよ」

 私は広めのベッドに腰掛けて、それから彼女を横に導いた。いつもは、まるで恋人のようにくっついて座るけれど、今日はさすがに少し距離を置いた。たぶん、そういう距離感でもって臨む話ではないと直感したから。

 大会終わったし、ちょっと遊びに行きたいね。そんな雑談から入ろうかと思ったけれど、ううん、そんな前置きは不要だと思った。

「どうしたの、ユリカ」

 私の問いかけに、ユリカは私の目を強く見つめ返した。

「今日はね、決意を伝えに来た」

「うん」

「私は全力で裕樹と戦う」

 固い決心。

 そして、そんなこと、最初から分かっていた。

 彼女にとって五輪の頂点は、人生の目標。何よりも大事なもの。それは私たちが出会ったあの日から、変わっていない。それは、一番近くで彼女を見てきた私が誰よりも知っていること。

「ほんとはね、私もわからなかったんだよ。裕樹と全力で戦った後、私たちの関係がどうなるか。

 けど、考えたって仕方ないよ。五輪も大事。裕樹も大事。どっちも変わらないもん。

 だから、気がついたんだ。両方追いかけるしかないって。

 最後にどうなるかは分からない。

 もしかしたらどっちも失うかも。

 でも、どっちかを今選ぶ必要は無い。

 今は全力で、追いかけるしかない」

「うん」

 私はただうなずいた。けれどその小さな動作に、私の万感の思いが込められていた。

「一人分しかないものを追いかけてる私たちだけど、それでも私たち、友達でいられるかな?」

 答えは一つしかない。

「もちろん。

 ずっと、

 ずっと、

 ずっと一緒に歩いていこう」

 私たちは抱擁した。

 お互いちょっと涙目になりながら。

 五輪のメダルは一つしかない。

 頂点に立てるのは一人だけ。

 私たちのどちらかが、頂点に立ったとき。

 あるいはどちらも立てなかったとき。

 三年後のそのとき、無慈悲な氷上の上で、私たちの関係がどうなっているかは分からない。

 けれど、少なくとも、今この瞬間、私たちは百合色の暖かさで包まれていた。

 



(TO BE CONTINUED...)

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