EX-5
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部屋に来たユリカはパジャマ姿だった。時間的にはおかしくないが、その険しい顔には似合わない格好だ。
普段の何も考えていないような柔らかい顔。
氷上で見せる集中しきった真面目な顔。
ここは氷上ではないけれど、今のユリカの顔は後者だ。
「ほら、あがって」
私は少しだけの笑顔で彼女を部屋に招きいれた。
「うん」
ユリカも小さな顔でうなずいて、私についてくる。そこに、いつもの百合色の笑みはなかった。
「この辺、適当に座ってよ」
私は広めのベッドに腰掛けて、それから彼女を横に導いた。いつもは、まるで恋人のようにくっついて座るけれど、今日はさすがに少し距離を置いた。たぶん、そういう距離感でもって臨む話ではないと直感したから。
大会終わったし、ちょっと遊びに行きたいね。そんな雑談から入ろうかと思ったけれど、ううん、そんな前置きは不要だと思った。
「どうしたの、ユリカ」
私の問いかけに、ユリカは私の目を強く見つめ返した。
「今日はね、決意を伝えに来た」
「うん」
「私は全力で裕樹と戦う」
固い決心。
そして、そんなこと、最初から分かっていた。
彼女にとって五輪の頂点は、人生の目標。何よりも大事なもの。それは私たちが出会ったあの日から、変わっていない。それは、一番近くで彼女を見てきた私が誰よりも知っていること。
「ほんとはね、私もわからなかったんだよ。裕樹と全力で戦った後、私たちの関係がどうなるか。
けど、考えたって仕方ないよ。五輪も大事。裕樹も大事。どっちも変わらないもん。
だから、気がついたんだ。両方追いかけるしかないって。
最後にどうなるかは分からない。
もしかしたらどっちも失うかも。
でも、どっちかを今選ぶ必要は無い。
今は全力で、追いかけるしかない」
「うん」
私はただうなずいた。けれどその小さな動作に、私の万感の思いが込められていた。
「一人分しかないものを追いかけてる私たちだけど、それでも私たち、友達でいられるかな?」
答えは一つしかない。
「もちろん。
ずっと、
ずっと、
ずっと一緒に歩いていこう」
私たちは抱擁した。
お互いちょっと涙目になりながら。
五輪のメダルは一つしかない。
頂点に立てるのは一人だけ。
私たちのどちらかが、頂点に立ったとき。
あるいはどちらも立てなかったとき。
三年後のそのとき、無慈悲な氷上の上で、私たちの関係がどうなっているかは分からない。
けれど、少なくとも、今この瞬間、私たちは百合色の暖かさで包まれていた。
(TO BE CONTINUED...)




