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#13 — 黄泉の刻印と黒衣の襲撃者

ズガァァァァン!!


太陽神学園の西門が、原型を留めぬほど無残に吹き飛んだ。

立ち込める硝煙と土煙の中、五つの影が静かに降り立つ。

四人の男と、一人の女。

カゲツ・ライゼン、シオリ・クロバネ、ダイゴ・アラカミ、ミサエ・ヤクモ、ジン・カシキ。

——「イザナミ」より遣わされし、狩人たち。


彼らが一歩踏み出すごとに、足元の舗装は強酸を浴びたかのようにどす黒く変色し、ひび割れていく。


「……始めろ」


リーダーのダイゴ・アラカミが、最前線で指先をスッと跳ね上げた。

詠唱もなく、予備動作すら存在しない。


バリリリッ!!


学園を包囲していた透明な [障壁バリア] が、紙切れのように強制的に引き裂かれた。

飛散するエネルギーの残滓は、熱を帯びたガラスの破片となって降り注ぎ、触れる者の肌を無慈悲に焼き焦がす。

直後、学園中にけたたましいサイレンが鳴り響いた。

白亜の柱を紅い警報灯アラートがなぞり、エリートたちの聖域は一瞬にして戦域へと変貌を遂げた。


[西セクター:メイン通路]


「侵入者だ! 逃がすな、捕らえろッ!」


通路の角から、十名の精鋭守衛が躍り出た。

その手に握られた霊子剣が、鮮烈な蒼い光を放つ。

だが、巨漢のカゲツ・ライゼンが弾丸のごとき速度で肉薄した。


ドォォォン!!


構えをとる暇さえ与えず、前列の五人が紙屑のように吹き飛ぶ。

カゲツの足は止まらない。

這いつくばり、必死に立ち上がろうとした守衛の一人。その頭部を、カゲツは無造作に掌で掴み——そのまま床へと叩き伏せた。


グシャッ……。


嫌な音が響き、周囲の動きが凍り付く。

頭蓋は砕け、鮮血が噴き出した。床には、見るに堪えない「中身」がぶちまけられている。


「化け物が……ッ!」


バルコニーから二人のシニア・インストラクターが飛び出し、雷光を纏う鎖を放った。

鎖はカゲツの首に絡みつき、肉の焦げる嫌な臭いと共に火花を散らす。

だが、カゲツは口角を吊り上げた。

彼はその鎖をあえて素手で掴み取ると、腕に巻き付け、渾身の力で引き寄せた。


「がはっ?!」


空中で激突した二人のインストラクターから、骨が砕ける生々しい音が響き渡る。

彼らが地に落ちるより早く、カゲツは拳を床に叩きつけた。


ゴォォォォン!!


大理石の床が垂直に跳ね上がり、下のコンクリートごと粉砕される。

瓦礫の波が、生き残った守衛たちを無慈悲に飲み込んでいく。

立ち込めるセメントの粉塵と、鼻を突く血生臭い匂い。

カゲツは瓦礫の下で今なお動く「手」を、骨の軋む音を楽しみながら踏み砕き、先へと進んだ。


[東寮:エイジの部屋]


ドガァァァン!!


突如として響いた爆音の衝撃が、エイジをベッドから叩き出した。

身体が学習机の角に強く打ち付けられる。


「痛っ……クソ、何が起きてやがる……」


立ち上がろうとした、その時だった。

胸の奥から、何かが無理やり這い出してくるような激痛が走る。筋肉の繊維が内側から引き千切られる感覚。

パジャマの隙間から覗く肌に、禍々しい紅色の「黄泉の門」の刻印が浮かび上がっていた。

それはただ光るだけでなく、彼の皮膚を炭化させるほどの熱を帯びている。


「あ、が……ああああああああッ!!」


エイジは床に崩れ落ちた。

指先が板張りの床を掻きむしり、血の滲む爪跡を残す。

毛穴からは漆黒の放電がパチパチと弾け、そのたびにシーツを焼き、窓ガラスを細かな粉末へと変えていく。


室内の酸素が消失し、代わりに肺を焼くような熱気が満ちる。

外からは、クラスメイトのヒロが何かを叫ぶ声が聞こえた。


だが、それもすぐに静寂へと消えた。


エイジは拳を強く握りしめる。

何が起きているのかは分からない。なぜ胸が焼けるのか、なぜこの刻印が浮かんだのかも。

だが——今夜ここに来た「何か」を、仲間たちに指一本触れさせるつもりはなかった。


「イザナミ」の女——ミサエ・ヤクモは、散歩でもするかのように悠然と歩を進めていた。

立ちはだかったベテラン教師が、数十本の雷槍を彼女へ向けて放つ。

ミサエは、ただ人差し指を軽く振った。


シュラァッ!!


彼女の影から噴き出した濃密な黒霧が、すべての雷槍を飲み込み、空中で塵へと変えた。

教師が次なる術を紡ぐより早く、その霧は蛇のように男の首に絡みつく。


ミサエが霧を引き寄せると、男の身体は床を滑り、宙に吊り上げられた。

数秒の間に男の肌は枯れ木の如く萎び、眼球は陥没し、髪は一瞬にして白銀へと変わる。

全生気を吸い尽くされた抜け殻を、ミサエはプラスチックのゴミのように放り捨てた。


背後から魔法剣を手に襲いかかる三人の上級生。

ミサエは振り返ることなく右足を一閃させ、大気を切り裂く黒い三日月状の衝撃波を放った。


――ザシュッ!!


剣は折れ、彼らの胸部は骨まで断ち割られる。

断末魔すら上げられず、少年たちは鮮血に染まって崩れ落ちた。


ミサエが辿り着いたのは、一〇三号室の前。

彼女の手のひらから、漆黒のオーラが溢れ出す。


ドォォン!!


扉は木っ端微塵に砕け、その破片が室内の壁に深く突き刺さる。

部屋の中央、瓦礫の中にエイジが立っていた。

毒々しいまでの紫色のオーラが、炎のように彼の身体を包んでいる。その瞳は、どろりとした血の色に染まっていた。


「……見つけたわ」


ミサエは、人骨から削り出された不気味な短剣を抜き放つ。

瞬時に距離を詰めるミサエ。エイジに、思考する暇は与えられない。


ギィィィィンッ!!


反射的に腕を上げたエイジ。激突の衝撃が、彼の身体を背後の壁まで弾き飛ばした。


「いいわね」ミサエは首を傾げた。「私の攻撃に反応できる。……欠片フラグメントの活性化は十分なようね」


エイジは震える脚で、必死に立ち上がろうとする。

ミサエは、余裕の笑みを浮かべて歩み寄る。

「無駄な抵抗はやめて。その方が、お互いのためよ?」


エイジは床に血を吐き捨て、睨みつけた。

「……この、クソ女が」


彼が手をかざすと、制御不能な、凶悪なまでの黒い雷光が爆ぜた。

ミサエの足が、止まる。


[冥府アカデミー:リュウの部屋]


リュウは自室で膝をついていた。

胸の刻印が、かつてないほど激しく明滅している。


「はっ、はあ……っ!」


襟元を掴み、必死に酸素を求める。胸は焼かれ、喉は何者かに絞められているかのようだ。

頭の中に「声」が響く。自分と同じ苦痛に悶える絶叫。そして……どこかで抗い続ける「誰か」の気配。


「クソ……何なんだよ、これは……ッ!」


胸の鼓動に合わせ、刻印の拍動が強まっていく。


[イザナミアカデミー:フドウの部屋]


フドウはバルコニーの縁に立ち、両腕を広げていた。

溢れ出す黒いオーラを、抑えるどころか積極的に解放している。


手の甲にはどす黒い血管が浮き出し、胸の刻印が力強く脈打つ。

フドウは夜空を見上げ、狂気に満ちた笑みを漏らした。


「……ついに、この時が来たか」


その夜、日本中の至る場所で、少年少女たちの悲鳴が響き渡った。

その胸に、忌まわしき光を宿しながら。

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