表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

1/2

1.

断罪の場で、悪役令嬢アリアは「不具合」を宣言する。

この世界は物語であり、彼女はその進行を管理する“管理者”だった。


しかし断罪イベントは発生条件を満たしておらず、ヒロインの主張はすべて虚偽。アリアはログを開示し、イベントを強制終了させる。


だが直後、もう一人の管理権限保持者が現れる。

ヒロイン――彼女こそが、この世界に混入した“バグ”だった。


物語を守る管理者と、物語を壊す存在。

断罪の舞台は、世界そのものの主導権争いへと変わる。

 断罪の場は、完璧に整っていた。


 高い天井。等間隔に並ぶ貴族。中央に立たされる悪役令嬢。


 ——すべて、仕様通り。


「公爵令嬢アリア・ルーヴェルト。貴様の数々の悪行、もはや看過できぬ」


 王子の声が、よく響く。


 練習された台詞。予定された怒り。計算された視線。


 私は扇の陰で、わずかに息を吐いた。


 退屈だ。


 あまりにも。


「よってここに、婚約を破棄し——」


「不具合を確認しました」


 言葉を、切る。


 空気が凍る。


「……何を言っている?」


 王子の眉が歪む。


 私は静かに一歩前へ出た。


「現在進行中の断罪イベントにおいて、発生条件との齟齬を検知しました」


 理解されないことは、想定内。


 私は右手を上げ、虚空に触れる。


 ——展開。


 淡い光が走り、空中にパネルが浮かび上がる。


『イベントID:E-013

名称:悪役令嬢断罪

発生条件:ヒロインによる被害報告3件以上

現在の報告件数:0』


 ざわめきが広がる。


「報告が……ゼロ?」


 誰かの声が落ちる。


「ご覧の通り、条件未達ですわ」


 私は淡々と告げる。


 視線をヒロインへ向ける。


 彼女は震えていた。


 だがその奥に、焦りが見える。


「う、嘘です! わたし、何度も嫌がらせを——」


「記録は存在しません」


 即答する。


「この世界におけるすべての事象はログとして保存されています。存在しない以上、発生していないと判断されます」


 ヒロインの顔色が崩れる。


 周囲の空気が変わる。


 同情は、疑念へ。


 私は操作を続ける。


「念のため、詳細ログを開示いたします」


 新たな文字列が流れる。


『ヒロイン行動履歴:

・第三王子への接触回数:27(基準値超過)

・意図的衝突:5回

・涙の使用:頻度高』


「……あら」


 扇で口元を隠す。


「被害者はどちらでしたかしら?」


「違うの……これは……!」


 崩れる声。


 向けられる視線。


 王子すら、言葉を失う。


 私はパネルを閉じ、静かに一礼した。


「以上。不具合の確認および修正を完了いたしました。イベントは無効と判断されます」


 静寂。


 誰も動かない。


 ——正常終了。


 そのはずだった。


『警告:想定外挙動を検知

管理権限の競合が発生しています』


 視界の端に、赤い警告が灯る。


 思考が一瞬、止まる。


 競合?


 あり得ない。


 この世界の管理権限は、私に一元化されている。


 例外など——


 ない。


 はずだった。


 ゆっくりと顔を上げる。


 ヒロインが、立っていた。


 涙は消えている。


 代わりに浮かぶのは——笑み。


「やっぱり」


 彼女が言う。


「おかしいと思ったのよ。“修正”なんて都合よすぎるもの」


 私は無言でパネルを再展開する。


 表示が、歪む。


『権限レベル:競合状態

管理者ID:A-001/???』


 未知のID。


 この世界に存在しないはずの識別子。


「ねえ」


 彼女が一歩踏み出す。


「それ、あなただけのものじゃないでしょ?」


 ——理解する。


 彼女は“対象”ではない。


 同じ側だ。


「……あなたは、何者ですの」


 問いに、彼女は楽しげに笑う。


「簡単よ」


 指を弾く。


 ——展開。


 私と同じ、光のパネル。


『ユーザーID:H-002

状態:デバッグモード有効』


「バグを潰すのがあなただとしたら」


 彼女は言う。


「私は、バグを増やす側」


 その瞬間。


 世界が軋む。


 貴族たちのざわめきがノイズに変わる。


 王子の輪郭が、わずかに乱れる。


 干渉。


「やめなさい」


 即座に操作する。


 だが反応が遅い。


 権限が、分断されている。


「無理よ」


 彼女は肩をすくめる。


「もう共有状態だもの」


 私の世界が、私だけのものではなくなる。


 その事実が、静かに侵食してくる。


 ……面倒だ。


 だが。


 致命的ではない。


 私は息を整え、顔を上げる。


「方針を変更いたします」


 笑う。


「バグごと、管理対象に組み込みます」


「……へえ?」


 彼女の目が細まる。


「面白いこと言うじゃない」


 世界はまだ壊れていない。


 ならば、壊れる前に取り込めばいい。


 それだけの話だ。


「デバッグを開始します」


 静かに告げる。


 断罪など、もはや意味はない。


 本番は——ここからだ。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ