表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
7/13

第五羽 物書きたるもの窮地を創造力で突破すべし

 山尾さんは退職してしまいました。


 その後、社内で大幅な組織変更がありました。

 【開発1課】と【開発2課】で進めていたいくつかの案件を競合他社に移管。そこで捻出したエンジニア8人が私達の【開発3課】に配属になりました。


 会社の開発リソース全集中です。

 社運を賭けてます。


 でも実際に来てくれたのは3人。

 残り5人は仕事内容を聞いて速攻転職したとか。

 気持ちは分かります。


 だからこそ、残ってくれた人たちには頑張ってもらわないといけません。

 

 新メンバーは内田さん、武井さん、福島さんの3人。

 全員31歳の独身女性です。


 お子さんは居ないので山尾さんと同じことにはならないと思いますが、業界全体が人手不足な今のご時世。油断はできません。


 まずはチームの結束力を固めるのです。


………………

…………

……


 山崎さん曰く、チームの結束力を強めるためには【飲み会】とのことです。

 だから、会社近くの居酒屋で【歓迎会】です。


 私は飲み会が好きです。

 新チーム結成の決起集会なので頑張って盛り上げます。


「チーム【崖っぷち】にカンパーイ」

「カンパーイ……」


 いきなり女性3人のテンションが下がりました。

 なんででしょう。


鳥頭とりあたまさん。そのチーム名は一体何なんだ?」

「崖っぷち年齢が4人も集まったのでチーム名にしました」


 女性3人がどんよりしてしまいました。


 崖っぷちっていうのは、トリにとっては最高の離陸地点です。

 これから飛び立つという意味を込めた縁起のいいチーム名なんですが。


「山崎さん【責任者】でしょ。新メンバー盛り上げてください。あと、焼鳥ください」

「お、おう……」


 居酒屋の座敷席で、私は山崎さんの膝の上に座っています。

 店に入ってからここまで、山崎さんに抱えて運んでもらいました。


挿絵(By みてみん)


 トリ足の爪は鉄板を打ち抜く鋭さがあるので、歩くと床を傷めます。

 カーペットはごまかしが効きますが、畳は傷が目立ちます。

 だから私は畳の上は歩けません。


 そして、トリ脚は正座ができません。

 座敷席に座るには座椅子が必要です。


 でも、大柄な山崎さんの膝が丁度いい高さだったのでここに納まりました。

 焼鳥を食べさせてもらうのにも丁度いいです。


 女性3人が、気まずそうにこちらを見ながらちびちび飲んでます。


 盛り上がりません。

 山崎さんの宴会スキルが低すぎるんですね。

 どうしたものでしょう。


「ゴルァァァァァァァァァ!」

「うわぁぁぁぁぁ!」


 カウンター席の方から男の叫び声です。

 なんかガラス瓶を割ったような音も聞こえました。


「テメェ! 人が失恋で落ち込んでヤケ酒している時に、もっとイイ出会いがあるとか、喧嘩売ってんのか!」

「ゴメンナサイ! 酒に酔ってつい口が滑りました!」


 酔っ払い同士の喧嘩ですか。なんてしょうもない……。


「出会いがないから【喪男もおとこ】なんだよ! 女にも世界にも拒絶され、生きる意味を全否定された【喪男もおとこ】の怨嗟えんさを思い知れ!」

「ぎゃぁぁぁぁぁ! ご勘弁をー!」


 山崎さんが私を抱えて座敷席から出ました。

 止めるつもりでしょうか。


 飲み屋のカウンター席にて。

 怒り狂った若い男が、割れた一升瓶を振り回して暴れてます。

 この流れで警察なんて呼ばれたら【歓迎会】が台無しです。


「山崎さん。何とかしてください」

「任せろ。物書きの心得。【物書きたるもの窮地を創造力で突破すべし】だ」


 私が何とかすると店が吹っ飛ぶので、ここは山崎さんに任せます。


「おい若造! 【喪男もおとこ】の生きる意味は、神ですら否定できんのだぞ!」

「何だオッサン! 女抱えながら説教か?」


 降ろされると爪で床が傷むから仕方ないんです。

 それに、トリだからヒトほど重くないですよ。


「生存に適さないオスが淘汰されることで種の進化を促す。これが有性生殖の優位点だ。【喪男もおとこ】は、女から選ばれないことで未来の人類を洗練する。神に選ばれた誇るべき役割だ」


「なんなんだよその超理論! なんで男に産まれたってだけで、そんな惨めな役割背負わされるんだよ!」


 超理論ではあるけど、間違っては無いですね。


「惨めなものか。女が同じ事したらどうなるか考えてみろ」

「女が? 【喪女もじょ】ってやつか。 どうなるんだ?」


 あっ。なんかとんでもない【創造力】の予感。


「求めるオスの中から残す種を選び命を繋ぐのが女の役割だ。男に求められも守られもせず子を成すことなく命を終えた女は、5億6千万年を超える有性生殖の歴史の中で最底辺の存在になる。ミジンコ以下だぞ」


 ここまでの【暴言】4桁生きてて初めて聞きました。なんてひどい。


「なっ、なんてこと言うんだオッサン! セクハラを超越してるぞ!」

「職場で言ったらセクハラだが、飲み会なら無礼講だ」


 飲み会でも女性が聞いていれば無礼講じゃ済みません。

 女性3人が座敷席で固まってオーラを出しています。


 あのオーラは

【奨学金返済のため無職になれないけど三十路女は転職も厳しくて逃げ場が無いから覚悟決めて炎上デスマーチ現場に残ったのに、イチャイチャ見せられて暴言吐かれて心はズタズタやねん。もう巨大竜巻でなにもかもふっとんでまえと思った時】

 のオーラです。


 イチャイチャは分かりませんが、山崎さんの暴言はひどいです。

 ちゃんとフォローしてくださいね。

●オマケ解説●

 3人独女は心の中で叫んだ。「イチャイチャはオマエラやー!」

 崖っぷちトリオの心をズタボロにしたのは、二人の共犯です。


 30代女性の転職は難しい。【産休】や【育休】のリスクを避けるために採用側としては男が欲しい。

 その不平等を解消するため男性の【育休】取得を推進しているが、男も女も扱いにくくなったら企業は外国人を採用しだすという泥沼。


 女性が権利を主張するほど、社会全体が苦しくなる現代社会のひどいひどい。


 そんなひどい仕打ちを受け続けた3人独女。

 立ち直ることはできるのか?

 そして会社の運命は?

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
>山尾さんは退職してしまいました。 ・・一行目からのインパクトがすごい!?Σ(・□・;)<ダメでしたかw >全員31歳の独身女性です。 ・・このフリ、もしかすると?って思ったら、山崎(敬称略)が【神…
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ